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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第7章 桃色の拳、無敵のおまじない

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第八話

「うぅ、飲みすぎたかな?」


 リュカは、やっぱり山の上だと裸じゃ寒いかなと思いながらも自分達が臨時の寝床としている場所へと帰っていた。

 あの戦いの後、しばらく話をした両者は、今日のところは山に泊まっていこうという話となり、ミウコの国の方には伝書鳥を飛ばして報告をし、小さな宴会を開いた。ちなみに、発案はエイミーである。

 幸いにも、その山は果物もお肉も豊富に存在してため、リュカとケセラ・セラが少しだけ散策しただけでも十分な量の食糧を集めることができた。そして、調理を開始していたのだが、あいにくその場にいた面子は料理が得意とはいえない者ばかりであったため、肉を簡単にぶつ切りしたり切ったりしただけの、本当に誰にでもできるような調理しかできず、少しだけ味気ない物となってしまった。これは、今後の課題である。

 山の中ということもあって火気厳禁で、生でしか食べることができないという可能性もあったのだが、そこはトネルの防御魔法の応用によって地面に結界を張ることで燃え移らないようにすることができたというのは不幸中の幸いだ。

 また、山にはとても巨大な花があって、そこから花の蜜が取り放題だったので、自然界が創り出した天然のドリンクバーの恩恵もあって夜遅くまで楽しい時間を過ごさせてもらった。が、それがいけなかったのか、はたまた寝る時に裸で寝るという癖が仇になったのか腹を下したリュカ。

 トネルが魔法で作ってくれた天幕から出て、少しだけ離れたところでソレを済ませて来たところだ。この人生は愚か前世でもしたことのなかった裸での野○ー流石に汚いから自重ーに、再び羞恥心が蘇った。ケセラ・セラと出会った森や、それ以外の修行時代にもそれ自体は経験があったが、しかし裸でなんて、まるで猿のようだと自分で自分を嘲笑ってしまう。

 だが、もともとその山の自然から貰ったもの。山に返すのが自然だし、解放感のほか色々と得るものがあって良かったと思うようにして心の平穏を保った。なお、ちゃんと近くの木から葉っぱを拝借して拭いたので安心してほしい。

 それにしても、本当に自然豊かで大きな山。標高はどれくらいあるのだろう。流石に千までは行かないだろうがしかし、とても迫力のある山だ。それに戦っている最中にも見えたのだが、大小様々な種類の木が生えていて、一つの山で何十もの山を駆ける気分になることができた。

 こんな山が本当にうごいているのか、乗っている自分達でも分からないが、果たして真実はいかがなものであるのか。


「あれ?」


 その時、リュカは小高い丘の上にひとりの女の子が寝転んでいるすがたを見た。エイミーである。


『エイミー? ここで何してるの?』

『リュカちゃん、どうしたの?』

『ちょっとお花を摘みに……そしたら、エイミーが見えたから』

『……そうなんだ』

『?』


 なんだろう、なにか悲しげな表情をした気がする。気のせいだろうか。

 因みに、エイミーはわざわざケセラ・セラが拾ってきてくれた鎧や服を脱いで寝ているリュカを先に見ていたため、裸で彼女が歩いてきたことに関しては何の反応もしてくれない。ちょっと残念だと、リュカは思っていた。

 その後、天幕から服を取ってきてから戻ったリュカは、再度何をしていたのかと聞く。すると、彼女はただ一点。目の前を、いやその奥を見ながら言った。


『私は、星を見てたの』

『星?』


 そして、彼女もまた見上げた。すると、そこに待っていたのは、エイミーが見るのも仕方がないというほどに綺麗な光景だった。


『うわぁ、綺麗……』


 まさしく満天の星。塩を散りばめたように白い光が辺り一面を覆っていて、どこを向いてもその光が目の中に映る。

 時折落ちてくる流れ星は、綺麗な軌跡を描いていて、その残りを見ているだけでも引き込まれてしまいそうになる。

 確か、星には人間が勝手につけた星座や名前があったはず。北極星や、ベガ、アルタイル。しし座、オリオン座、夏の大三角。しかし、見る限り自分が知っているそれを見つけることができなかった。当たり前だ。ここは異世界。自分が前まですんでいた地球じゃないのだから。

 なら、これから作っていこう。自分が、自分達が。点と点をつなげていって線を作ろう。そして後世に伝えていこう。自分達が作った星座の名前を。勝手につけた星の名前を。身勝手に伝えていこう。それが、発見者の特権なのだから。

 

『私この山から見る星が大好きなんだ』

『そうなんだ。でも、こうしてゆっくりと星を見るなんて今まで無かったなぁ……』

『そうなの?』

『うん。生きるのに必死で、それどころじゃなかったもの……』

『そうなんだ……』


 修行中も、森の中も、そしてマハリからミウコにくる道中も、ずっとずっと命の危険を感じていた。昼間も夜も、いつ獣に襲われるのかとヒヤヒヤして過ごしていた。だから、そんな空を見上げるなんて余裕は一切なかった。

 いや、違う。そんなこと考えたことなかった。ゆっくりと空を見上げるなんてそんなこと無駄だとすら思っていた。でも、こうして見上げてみるとわかる。そんな無駄な時間もまた大切なことなのだと。

 宇宙の黒が、まるで自分のこれまでの疲れを吸い込んでくれているようで、雨も降っていないのに心があらわれている気分になる。

 宇宙の下で、解放的になっている自分。自然に帰りかけているようで、もうこのまま山と一体になっても後悔はない。それほどおおらかな気持ちにしてくれる。


『ねぇ、ちょっと聞いていい?』

『何?』


 ついさっきまでの宴会では、みんなでずっと馬鹿騒ぎをしていたからゆっくりと二人きりで話す機会なんてなかった。でも、今こそが好機とばかりに、リュカは聞く。ずっと気になっていたことを。


『貴方のその髪……』


 そう、その桃色の髪だ。一眼見た時から思っていた。それが、異端の髪、厄子の証であるということを。彼女は、そのことを知っているのだろうか。

 しかし、その後の彼女の仕草と表情でわかった。彼女が、自分の髪の意味を知っている事を。


『あぁ、これ……この世界じゃ異端らしいね』

『知ってたんだ……』

『うん。と言うより、この髪のせいで私この山に捨てられたから……』

『……ん?』


 リュカは、その言葉に違和感を覚えた。


『どうしたの?』

『いや、あの……捨てられたのを知ってたってことは、五歳か六歳の頃までこの山に済んでいなかったこと?』


 覚えている。ということは、自分が捨てられた時にはすでに物心がついていたということの裏返し。基本的に人が物心つくのは四歳や五歳くらいの事。だから、その時までは人里で暮らしていうことなのか。だが、よくそこまで厄子であるということがバレなかったものである。そこまで、親の愛情が深かったのか。そう考えたリュカだがしかし、その考えは全くの誤解だったことがわかる。


『ううんそうじゃなくて……信じてもらえるかわからないけど、私……』

『……?』

『赤ん坊としての記憶があるんだ』

『え? つまり、生まれた直後の記憶ってこと?』


 大多数の人間は、物心ついた後の記憶しかないのは知っての通りだ。だが、ごく稀に自分が生まれてきた時の記憶、産道を通って、助産師に抱かれている記憶がある人間というのいる。彼女もまたソレだったのだろう。


『そう。言葉自体はわからなかったけど、皆が私の顔を見て、私のことを産んでくれた母親まで、私の髪を見て泣いてて、恐ろしい顔つきをしてて……中には、鍬とか包丁を持って私を殺そうとしていた人もいたな……』


 当時赤ちゃんだった彼女のその体験は、よほど想像を絶するほどの恐怖と一緒にあったことだろう。

 その行動の意味も、言葉も分からない罵倒も、全てを呑み込んで祝福と共に始まるだったはずの人生が、いきなり罵詈雑言の嵐から始まる。いや、言葉の意味がわからなかったのは、不幸中の幸いであると言ってもいいのかもしれない。そう思いたいほどの辛い経験。


『だから、私のこの髪がこの世界じゃあっちゃならないものだって、知って……それから、どんな話しがあったのかわからないけど、この山に捨てられたの……』


 おそらく、ケセラ・セラの時と同じだったのだろう。厄子はいるだけで国に不幸を招く存在。だから、殺すか、捨てるかの選択肢を迫られる。彼女の場合幸運だったのはその場で殺される一歩手前で捨てられたことによって生き残ることができたということ。

 だが、その命は風前の灯と言ってもいい。まだ生まれて間も無くで、自衛手段を何一つ持たない子供が、凶暴な獣の住む山の中に捨てられたのだ。その先どうなるのかなんて、誰の目で見ても明らかだった。


『もう正直ダメだっておもった。もう私の人生は終わりなんだって思った。獣がすぐ近くまできて、私のことを食べようとして……食べられるのって痛いのかななんて現実逃避なんてしちゃったりしてさ』


 あっけらかんと話しているが、もしも自分がそんな状態に陥ったらどうしていただろう。生きたい、死にたくないと叫ぶのだろうか。だが、その言葉は言葉にならず、ただただ泣き叫ぶだけになってしまう。まだ世の中のことを何も知らない赤子だからこその悲劇。

 獣たちに取っては、その鳴き声すらも極上の味となったことだ。柔らかい肉、抵抗することのない食糧が目の前にあって、きっと口の中は涎で溢れていたのかもしれない。その時の彼女は、生まれて早々に終わる自分の人生に、せめて一噛みだけで殺してもらいたい。肉片とかの食べ残しや、なんなら骨も残さずに食べてもらいたいと考えていた。

 残したくなかったからだ。この世界に、食べ散らかされた自分の肉片なんておぞましきものを。残したくなかった。自分がいたという痕跡を。最後の抵抗として一切泣こうとしなかったのは、自分にできる最後の抵抗だと思っていたのかもしれない。

 その時だった。


『そんな時、女の人が助けてくれたの』

『女の人?』


 まさしく圧倒的なまでの強さだった。突然現れた女性は、目の前にいた獣たちを一瞬のうちに倒すと、彼女を連れて山の奥、凶暴な獣が出ないような地点にまで連れてってくれた。

 リュカは、どこか既視感のような物を感じた。当然だ。自分も経験あるから。圧倒的な命の危機に、そしてその命の危機から自分≪達≫を助けてくれた女性に。


『その人は、私のことを助けてくれて、五歳になるくらいまで一緒にいてくれて……私が自分で自分の身を守れることを知ったらすぐにいなくなった』


 その時初めて、彼女の顔から笑顔が消失した。よっぽどその人のことを慕っていたのであろう。

 それにしても、わずか五歳にして凶悪な獣たちがひしめくこの山で生き残る術を手に入れるなんて、それもまた厄子という存在故の力であるのだろうか。彼女の戦闘力はリュカも身に染みて体験していたが、五歳の頃からずっと戦い詰めであったのならばその強さも納得できるだろう。


『そのすぐ後だったな。キンがやってきたの。というより、置き去りにされてたの』

『え?』


 ということは、キンもまた厄子なのか。いや、しかし彼女の髪の毛はエリスやグレーテシアと同じ金色。この世界ではよくある髪色だ。厄子の特徴には合致していないはず。

 いや、例え厄子じゃなかったとしても他の理由。例えば経済的な理由や家庭の事情などで置き去りにされる子がいないとも限らない。彼女は、きっとそういった事情で置いていかれたのだろう。


『なんとなく思ったんだ。私がこの子を守らないとって……その日から、私はキンと一緒に生活しているの』

『そうなんだ……』


 彼女は、自分と同じ十七歳。五歳のころから十二年間もの間、一人の女の子を養いながら獣たちと戦うなんて、並大抵の苦労じゃなかったはずだ。彼女の精神力、もしかしたら自分達なんかじゃ歯が立たないくらいに強いのかもしれない。


『ねぇ、この髪ってなんなの? どうして、この髪をみてあんな顔をしたの? しってるなら、教えて』

『うん。実は、この髪はね……』


 リュカは、厄子のことについて説明する。髪色から運命力のことまで全て。そして、自分達が今いるミウコの兵にも、自分が厄子であることを知られてて、いつミウコから追い出されることになるのかわかったものじゃないということまで。

 それをきいたエイミーは、リュカやケセラ・セラもまた厄子だったということに驚いていた。確かに、ミゾカエの実で髪色を変えている自分達が厄子だなんて、誰も思わないことだろう。


『でも、幸運だって思わないとね!』

『え?』


 厄子のことをきいたエイミーが開口一番に笑顔でそう言った。幸運、何がだ。

 彼女はその厄子のおかげでこんな山に捨てられて命の危険にさらされた。おまけに言葉も知らないから獣語を使うことができない自分とケセラ・セラ以外とは存分に話すことができない。そんな不自由な生活を強いられているというのに、どうして幸運であるといえるのか。


『だって私が厄子だから、この山でキンに出会うことができた。リュカやケセラ・セラ、分隊のみんなとお友達になることができたんだもの。それを考えると、幸運だって思うしかないよ』


 人の出会いは一期一会。それを大事にできる人間は強い人間である。例えどれだけの不幸があったとしても、その先に出会いがあったからこうしてなかよくなることができた。それは、自分の生まれながらの悲しみを凌駕するほどの嬉しさを彼女に与えてくれたのだ。


『すごいな、エイミーは……そんないいことばかりに考えることができて……』


 リュカは、そんな彼女のことが羨ましくも思った。きっと自分だったらこんなに強くはなれない。そんなじまんじゃないような自信があった。

 でも、なぜだろうか。そんな彼女と一緒にいるとまるでこっちも元気を貰えるようで、笑顔になることができそうで、とても心強い。


『それに、この髪……なんだかまるで……』

『まるで?』

『ううん……あ、そうだ。ねぇリュカちゃん』

『何?』

『この世界の言葉を私に教えて』

『え?』

『だってクラクちゃんやタリンちゃんたちとも話したいもの。お願い!』


 リュカに手をあわせて願いでるエイミー。ここまでされてダメとは言えないだろう。


『うん。いいよ』

『やったあ!』


 エイミーは飛び跳ねて喜んでいる。だが、一つ釘を刺しておかなければならない。


『でも、結構厳しいと思うよ。この世界の言葉を一から覚えるのは……』


 そう。自分だって言葉を覚えるのに五年かかった。そんな《この世界》の言葉を覚えるのは一朝一夕のようにはーーー。


『この、世界?』


 それは、とてつもなく唐突に飛来した違和感だった。この世界という言葉に。普通だったら言葉を教えて、だけで済むはずなのに、どうしてこの世界という限定した言葉を付け加える必要があるのか。それではまるで、この世界以外の世界の言葉を知っているかのようではないか。それに、よくよく考えると彼女との会話の中に不自然なものがいくつかあった。例えば、自分が勝手に変換してたあの言葉。

 まさか、まさか、まさか。

 だがアリえないことじゃない。もしも自分の考えが正しいのであれば、彼女が赤ちゃんの時の記憶を持っていたことが上手いこと説明できてしまう。

 それに、今日1日中ずっと感じていた既視感のようなもの。それに、たった五年で身をまもれるほどに強くなったこと。確定じゃない。どこかに希望的観測も含まれている。でも、それでも聞かずには終えない。


『ね、ねぇエイミー……あなた、もしかして』

『え?』


 リュカが、大切なことを聞こうとした。

 まさにその時である。


『っ!?』


 険しい顔つきで山のしたの方を見たエイミー。


『どうしたの!?』


 リュカは、地面に放置している刀を取るとすぐに鞘から抜ける体勢を取った。この表情、獣が近くにいるのか。

 いや、しかし気配は感じない。一体、彼女は何に気がついたのだろう。


『何かが……来る!』

『え?』

『それも、リュカたちと違う……邪悪な気配……』


 自分達とは違うとはどういう意味なのか。それを問いただす間も無く、エイミーは仲間たちに合流するべく走り出した。

 それに一瞬だけ遅れたリュカもまた、地面に畳まれておいていた服を着ながら追いかけるのであった。

 夜はまだまだ続く。例え、星が消えゆこうとも、永遠に。

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