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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていない転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第7章 桃色の拳、無敵のおまじない

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第六話

 突然だが聞こう。武器を持つ人間と、持たない人間。果たしてどちらの方が有利であるのか。

 多くの人間はこう答える。それは、武器を持つ人間であると。もちろん、その武器の種類にもよる。鋭利な包丁や割れて鋭く尖ったガラス瓶が相手ならば、もちろん十分に脅威に感じる。だが、もしも相手が靴ベラやとても短い木の枝を武器にしてきたのならばどう思うだろう。当然、そんなものには負けいないし、負けるなんてそんなこと矜持がゆるさないだろう。

 しかし、時に人はそんな弱い物にも負けてしまうのだ。人間の弱い部分、たとえば目とか、喉とか、そんなものをついてしまえば例え武器が木の枝であってもかんたんに人を殺めることができてしまう。人間なんて、そんな柔な生き物であるのだ。

 話が脱線した。武器を持つ人間の方が強いのは明らかだ。だが、武器を持たない人間は本当に弱者であると言えるのか。

 もしも、その武器に有効射程というものがあったのならば、武器を持たない人間もその有効射程内に逃げれば一時の間武器からは逃れることができる。

 もしもその武器を持った人間が臆病で、使い方も熟知していないような人間であったのならば、勝つことができる。

 もしも、その武器を持たない人間が、格闘技の使い手だったのならば、武器などという優位性はすぐに吹き飛んでしまう。

 そう、武器とはその人間の力を上げるための道具などではない。あくまで、人間が自らを強く見せるための道具でしかないのだ。

 本当に強い人間というのは、あるがままの姿で戦って、それでも勝利をもぎ取ることのできる者、であるのかもしれない。


「ハァッ!!」


 相対しそうだった二人の少女。しかし、リュカの刀が彼女に触れる直前、エイミーは地面を大きく蹴った。

 その瞬間、エイミーは地面に小さな陥没をつくり空へと舞い上がる。不意をつかれたリュカは、その陥没の手前で急停止して、彼女が消えた空を見上げた。

 しかし、その行動自体が失敗だった。そもそも、彼女から目を離す必要なんてなかったのだ。地面の陥没は、見るととても小さな物。その程度余所見していても彼女ほどの力を持っていれば避けれるはずだった。

 だから、この場合彼女が取るべき行動とるべき行動は、エイミーから目を離さないことだった。もしも目を離さないでおけば、その次の攻撃なんて軽く避けれたはずなのに。


「ッ!」


 地面が、浮いた。正確にいうと、エイミーがリュカの足元の地面を掬い上げたのだ。その瞬間空中にその身を投げ出したリュカに、間髪を入れずに少女はその地面の向こう側から、空中からリュカめがけて襲い掛かった。


「ハァァァァッ!!」


 みると、その拳に魔力が集まっている。この魔法、見覚えがある。確か、自分も先の戦でヴァーティーに向けて使用した魔法。


【気功拳】


 である。しかし、彼女のソレは自分の魔法の何倍もの力があるそうだ。刀で防ぐ。いや、例え刀が折れなかったとしても押し切られて攻撃を受ける可能性がある。もしそうなれば、自分は地面へと叩き落とされることは想像するに難くない。何か、他に手はないのか。


「ッ!」


 リュカは、とっさにリストバンドから魔力を放出させながら腕を上げた。すると、彼女の拳はそのリストバンドから宝珠すされる質の高い魔力に相殺されその力を失う。

 ヴァーティーの防御魔法を何度も見ていた経験が役に立った。もしも、事前に彼女と戦っていなかったなら、こんな防御手段を思いついていなかったであろう。それは、彼女による彼女なりの防御魔法。ヴァーティー曰く、新しい防御魔法を作り出した瞬間だった。


【リストバンド盾】


 カタカナ語が入って魔法の名称の付け方としては少し語呂が悪いのだが、ある意味そのまますぎて逆に潔い魔法が生まれた瞬間であった。前々から思っていたが、彼女はそのあたりの命名については壊滅的であるようだ。

 ともかく、その魔法を使用したことによってエイミーはわずかな時間であるが無防備になった。今こそ、攻撃する好機だ。


「ハァッ!!」

「ッ!」


 リュカは、地面に片手をついて側転するかのような姿勢で身体を捻り、空中にいる彼女に向けて蹴りを繰り出した。

 この技、確か躰道という名前の武術の技の一つであっただろうか。前世のたくさんの武術に精通した彼女の親友が見せてくれた武術の一つだ。身体を捻ることによって生まれる力を利用する動作。今回は、そこに魔力も込められているためその力も倍増だ。

 エイミーは、なんとか腕でその攻撃を防いだもののその威力を抑えることはできず、森の方へと飛ばされていった。


『逃がさない!』


 リュカは、そんな彼女を追って森の方へと入っていった。しかし、自分から森に入っていったわけでもないのに逃がさないというのはいかがな者であるのか。第一、森の中に飛ばしたのは自分ではないか。なんて、ツッコミを入れれる人間は誰一人として存在せず、森の中に消える二人を見守るしかないケセラ・セラたち。

 あまりにも素早い対決だった。少しでも気を逸らしていたら一つの動作を見逃していたかもしれない。そう彼女たちに思わせるほどに一瞬のうちの激闘。もしもこの場にエリスのような一般人がいたら、彼女たちの動きはいっさいみることがかなわなかっただろう。


「お姉ちゃん!」

『お師匠様!』


 森に飛ばされた二人。その妹分であるケセラ・セラとキンの二人はすぐさま二人を追って森の中に入っていった。


「ケセラ・セラ!」

「私たちも行くわよ!」

「お姉様は、私の魔法の上に」

「ありがとう」


 追って行こうとするクラクたちリュカ分隊一行。しかしヴァーティーはトネルがつくりだした防御魔法の応用魔法、まるで空飛ぶ絨毯のように結界を作り出して移動する魔法【浮遊結界】の上にいた。それは、もはや結界と言っていいのだろうか。防御魔法あまりにも応用が効きすぎではないのだろうか。

 というか、そんな魔法が使えるのならば頂上までそれで来ればよかったのではと誰もが思ったのだがしかしそんなことをいう前に二人はリュカたちのことを追っていった。


「あ、ズルい!」

「早く私たちも追わないと!」

「待った」

「え?」


 早く自分達も彼女たちのことを追わなければならない。そう思い行動に移そうとした少女達だが、しかし一本の巨大な木の下にいたレラがはやる少女たちを呼び止めた。


「どうして、レラ。早く行かないと……」

「聞こえないの? この獣の鳴き声が」

「え……ッ!」


 気がつかなかった。気がつけば、二人の熱気に追いやられてその姿を消していた獣の気配が所狭しと聞こえてくる。鳴き声、そして殺気といったある意味でとても野生みの溢れる気配だ。こんな気配を漂わせている森の中に入るには、相当の実力と覚悟が必要になる。

 知らないからだ。森の中にどんな獣が潜んでいるのか。その獣が今の自分達でかてるような相手であるのかどうか。特に、この中でとびっきりに実力が下のクラク。彼女もまたリストバンドの力で質の高い魔力を生成することができた。しかしその魔力を使いこなせていないから今の時点でようやくマハリの一般兵士並みの力をようやく持てたといったところ。いやそもそも彼女はマハリの一般兵士であったのだが。

 そんな自分が野生の獣の住む森に立ち入っていいのだろうか。いや、無理だ。怖い。いくら勇気を振り絞ろうとも怖い。


「ここには獣がウヨウヨいる。森に慣れてるあの子たち、いざとなったら防御魔法の使えるヴァーティーたちならともかく私たちが言っても危険なだけよ」


 リュカとケセラ・セラは、危険な獣がウヨウヨといる森の中に踏み行って数日間生き残ることができる少女、というよりケセラ・セラはその森で生まれてから十年ロウの助けもあったが生き残ってきた強者だ。

 エイミーという少女ともう一人の少女も言わずもながだし、現在魔法が使えていないヴァーティーではあるがその側にはいつもトネルがいる。もし襲われても便利な防御魔法でなんとかしてくれるだろう。


「なら……」

「待ちましょう、ここで、彼女たちを……」


 仕方がないことだ。それだけ、自分達の実力が劣っているのだ。この時のクラクの絶望感たるや想像するだけでも悲しくなってくる。

 しかし、それはリュカ分隊の全員が考えていたこと。この時点で、リュカ分隊は隊長のリュカ、その義妹のケセラ・セラの二人の実力が抜きん出ているだけで、他の四人だけでいうのならば、騎士団の分隊の中でも最下位に近い力しか持っていなかった。

 強くならなければならない。もっともっと、彼女たちと肩を並べられるくらいに、強くならなければ。

 そんな、時に人を強く動かし、時にその身を滅ぼしてしまう向上心が彼女たちの中に芽生えた瞬間だったのかもしれない。

 けど、私は思う。もしもこのとき《彼女》に向上心なんてものが生まれなかったら、あんな悲しい戦いは、生まれなかったのかもしれないと。

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