第2章 序章
森、それは多種多様の生き物の住む、命の宝庫である。木は人間の身長など優に超え、その枝には我先にと言わんばかりに葉が生い茂っている。そのため、日光はあまり地面に当たらず、昼間であっても暗いという印象を醸し出していた。
そこに一陣の風が当たると葉っぱ通しがこすれあう音が幾重にも重なって、まるで森全体が歌っているかのように響き合う。まるで、自然という生き物が歌っているかのようだった。
ふと見れば、大木から川魚を狙っている鳥がいる。飛び立ったソレは、一直線に川に向かって滑空し、ハンティングしようとその体制を整える。今まさに川魚を咥えようとしたその鳥はしかし、魚の下から出てきた大きな口の中に飲み込まれてしまった。
先ほどまで自分が見ていた魚は実はこの魚の舌で、自分は疑似餌に引っかかってしまったなどと、食べられてしまった鳥には考えることができなかった。
このように、森の中では毎日命のやりとりがが行われている。それをある人間はこういった。≪食物連鎖≫と。
今まさに、その食物連鎖に巻き込まれようとしている一人の少女がいる。その少女は森の中をスラスラとかけ入り、行く手を阻む木に当たらないように用心しながら走っていた。
ふと、その足が止まっていき少女は後ろを見る。何かに追われていたであるはずなのだが、そのなにかはすでに自分の目からは消え失せてしまっていた。どれだけ走っていたのか分からないが、その息遣いに乱れはなく、むしろ落ち着き、深呼吸をしていた。
「!」
その時、ソレは彼女の目線の右側からやってきた。大蛇というのだろうか。その全貌は計り知れないが、少女の3倍はあろうかという大きな口はその巨体の一端をのぞかせる。
しかし、その大口が少女を飲み込もうとしても、少女はいたって冷静に何事もないように立っている。少女は自分の腰にある刀の柄を鞘から引き抜くと上から引き上げられているかのように跳んだ。
大蛇は自分の獲物が急にいなくなってしまったことに動揺、混乱する。そしてその大蛇が最期に見たもの、それはその少女、リュカが上から己に向かって刀を突きたてる姿であった。
これもまた、≪食物連鎖≫である。




