第六話
「フッ! ハァッ!!」
「ハァァァァ!!!」
「っ! こいつ……」
文字通り、互角の力を持つ二人の戦い。そのぶつかり合いに周囲にいた兵士や騎士団の面々はなかなか近づくことができず、戦場の中では異例のことであるが一対一の様相を見せていた。
だが、どちらかといえば押されているのはリュカの方であった。それも当然なのかもしれない。もともと、リュカは一対一の戦いには不向き。魔力を自由に使うことのできる敵に比べると、魔法を自由に使用できないリュカは、盾を持つ敵に対して防戦一方という矛盾した状況に陥っていった。
「ふぅ……」
少し焦り始めた自分に対して相手はまだまだ一息つく姿も見せるほど余裕の様子。このままでは自分は彼女に負けるかもしれない。
いや、そもそもこんなことになるなんて元から想定していたこと。それも踏まえての鍛錬を続けてきたではないか。大丈夫。自分ならできる。持久力、戦闘継続能力を鍛えた自分であれば。冷静になりさえすれば有利に立ち振る舞えるはずだ。
リュカは、一度鞘に刀を仕舞うと言った。
「変ねぇ、防御専門じゃなかったの? なんでこんなに強いのかな?」
そう。自分が戦っている彼女。確か、ヴァーティーと言ったか。防御を専門とした人間であるからには、多少の剣の心得はあろうとも、普通の兵士よりは劣るだろうとそう思っていたのだ。
しかし、戦ってみるとわかる。彼女は、今周囲で戦いを続けている兵士と同等程度の戦闘能力を持っている。いや、下手をするともっとか。なんでこんな強さを持っていて防御を専門としているのだろうか。
ヴァーティーもまた、まるでリュカに倣うかのように盾の中に剣を仕舞うと言った。
「防御専門になっているのは、単純に私が攻撃魔法よりも防御魔法が得意だったから。ただ、それだけッ!」
そういうと、ヴァーティーは最初にリュカと対峙した時のように盾を前面に押し出して突撃する。もちろん、またもや盾を巨大化して、である。これだけの大きさならば死角が出来放題じゃないかと思うのだが実はそうじゃない。
よく見ると、盾が透けているように見える。なるほど、盾が巨大化しているように見えたのは自分の勘違いだったようだ。おそらく、彼女は盾に膨大な魔力を流し込んで盾を巨大化させているように見せているだけなのだ。
だが、見せているだけと言っても巨大化しているに等しいだろう。盾の周囲の魔力が互いに密集していておそらくアレに触れればただ盾にあたる以上の衝撃に襲われることで間違いなしだ。当たってはならない。
「チィッ!!」
リュカは鞘に戻した刀を持つと、その頭に魔力を込め始める。刀全体に魔力をこめるよりも、こうしてただ一点にだけ魔力を込めた方が威力が上がるというのはすでに実証済み。これならば。
「って、これさっきと同じじゃ……!」
そう。まるっきりやっていることは最初の激突と同じだ。確かに相手が似た行動を取るならば、こちらもさっきと同じ方法で対処すればいいだけの話。しかし、そんな単純でいいのだろうか。何かがおかしい。
これは、それまで戦い続けてきたことによって出る経験とか、そんな理性的な物じゃない。勘という、野生的な考えによるものだ。
それじゃ、と考える。なぜ彼女は同じ行動を取るのか。分からない。わかるはずがない。いや、もし自分だったらどうだ。もしも自分だったら、何故同じ行動を取るのか。
追い詰められたから。いや、彼女は自分よりも比較的冷静に戦っていた。そんなことはあるまい。ならば、他に考えられること。
「ッ!」
上だ。
そう、彼女は自分が先程と同じように力を相殺させるために突撃することを見越して同じ行動をとっていたのだ。もしも一度飛び出して仕舞えばすぐに方向転換することは難しい。その隙を狙って攻撃するとしたら、上しかない。
リュカが見上げると、そこにはやはり盾の背後から飛び上がったヴァーティーの姿があった。なるほど、盾によってできる死角にはこう言った効果があるのかと感心してしまう。
盾を使うことはまずないだろうが、今後の戦いの何かの役に立つのかもしれない。まぁ、今後があればの話であるが。
「こんのぉ!!」
リュカは地面を蹴ると地面を背中にして天を見上げる。そして。
「別に、戦えないわけじゃない」
刀を鞘の中に入れたまま抜くと、その剣を防いだ。力を完全に抑えることができたなかったリュカは、地面に叩きつけられて背中を強打した。瞬間、肺から全ての空気が抜けた感覚がした。
確かに身体を斬られること自体は防げたが、背中の皮を剥がされたかのような痛みに襲われる。だが、その痛みに耐えきれずに刀から手を離してしまったらそれまで。身体の中の全ての精神力を総動員して刀を握り締め続ける。
「聞き、たい、ことが……あるの!」
このままじゃ敵の鎧の重さで押し潰される。リュカは、地面と並行になっている形の刀を斜めに倒す。こうすることにより、敵の剣は鞘を滑っていく。結果、ヴァーティーの力を中心から少し外させた。これならば、すこし自分が動いても力に負けることはないはずだ。
リュカは、一気に刀を垂直にすると、刀の頭をヴァーティーめがけて突き出した。ヴァーティーは、左手に魔力をこめて簡単な防御魔法を作りソレを受け止める。
「ッ!」
ヴァーティーの表情が歪んだ。流石に、瞬間的に魔法を発動させるには準備する時間が短すぎたのだ。ヴァーティーの手は、赤く腫れたようになり、このままだと手が再起不能となる可能性も考え、リュカの頭こすぐ横に降り立った剣先を支柱として前方に一回転する。
リュカの方に振り返りながら立ち上がるヴァーティー。しかし、その間にリュカはたちあがり臨戦体制を整えていた。まさか、自分の個性でもある盾を囮に使うなんて予想外だったが、しかしこれでひとまずの危機は回避できたとしておこう。それに、彼女の盾は今自分のすぐ横にある。彼女に盾を使わせなければ、まだ勝機はあるかもしれない。
「何?」
そんな彼女に対して、ヴァーティーは手の感触を確かめるために握ったり開いたりしながらそう聞いた。おそらく、その言葉はリュカが彼女に対して聞きたいことがあると言ったことに対しての疑問だったのだろう。
「トオガの国は、昔から攻めを重視してきた。というか、攻め一辺倒だった国だったよね」
「その通りよ」
「なら、なんでいきなり貴方みたいな防御専門部隊を作ろうと思ったの?」
素朴な疑問だった。どうしてトオガの国はいきなり自国の部隊の舵を急に方向転換させることになったのか。
いや、考えてみるとそもそも攻撃一筋で何国も滅ぼしていたということ自体が驚きなのだ。守りを捨て、攻撃にだけ集中することによる問題なんて山ほど出てくる。それなのに、その強すぎる上に強すぎるという国の状態が、守りというものを捨ててしまっていたのだろう。
それなのに、どうしていきなりそんな部隊を作ろうと思ったのか。
「どうしてだと思う?」
「考えられるのは、二つ。一つは、攻めだけじゃいけないことに気がついたトオガの国の王様が、組織したから」
例えば以前の戦で攻撃に集中しいる最中に敵からの攻撃を受けて大打撃を負ってしまったという可能性。だが、もしもトオガの国の王様が自分が思っている通りの仲間を仲間とは思っていないような冷酷な人間であるのならばそんなことするのだろうか。
「もう一つは……」
そう、ということはもう一つの可能性が浮かび上がる。自分自身こんなことあるのかなと思うようなそんな条件が。
「たまたま滅ぼした国にいた人間が、防御魔法に長けていたから……とか?」
「……」
その顔つき。どうやら図星であるようだ。だが、それならばなぜ愛国心も何もない国に従っているのかが分からない。まぁ、自分には知らない何かがあるのだろう。今は戦いの中。そう言ったことを考えるのはまた後にしよう。
「ご名答。私は、元々トオガとは縁もゆかりもない国の生まれ、その土地でいき、その土地で死んでいくのが人生だと、そう信じていた……けど、あの日……」
「ふっ!」
と、リュカは鞘から刀を抜いてヴァーティーに斬りかかった。自分自身かなりずるい方法だとは思う。しかし、自分と彼女の力の差は一目瞭然。こうしていちいち隙をついていかなければ決して勝てる相手ではないのだ。
「なんて油断したところを攻撃……ね」
だが、それも少女には効果がないらしい。遠くにある盾の代わりに、手に持った剣で斬撃を防いできた。彼女は、盾を持っていなくても防御力に関しては秀逸のようだ。盾のあるなしなんて関係がなかったか。
「卑怯だと思う?」
「いえ、戦士にはもってこいの性格だわ!」
「っ!」
再びふたりは戦いを再開する。
そう、これは命をかけた戦い。勝つか負けるかなんてものは二の次、三の次。相手を殺すか、殺されるかが重要となってくる。だから、多少強引で卑怯なたたかいであったとしても相手を殺さなければ自分が生き残れないのだ。だから、戦場で生き残るのはいつも姑息な人間。これは、どちらが一番姑息であるのかを決める戦いでもあるのだ。
攻撃をいなしていく中で、リュカは考える。亡国の人間という意味では、彼女はヴァルキリー騎士団と同じ存在ということ。ならば、彼女は自分達とマハリの国との関係と同じようにトオガの国に愛国心の欠片もないのかもしれない。で、あるのならばそれは戦いの行方を左右する重要な情報になりうる。
まだ、彼女の弱点にもなりうる物を持っている。それが、有利にはたらくかどうかは、これからの自分の戦いにかかってくるのだろう。




