『食堂』にて
~特異鬼制教導機関~
―――――ガヤガヤガヤガヤ
「―――――このあとさ、どう?」
「いえ、予定がありますから。」
「えー、そこをなんとか。」
「本当に、予定があるので―――――」
―――――
「はぁ、まったく。」
お昼時にはまだ早い。
が、『本屋舎』の中にある『食堂』は、菓子パンやおにぎりのような軽食を持ち寄る者たちで溢れかえっていた。
皆、制服ではなく私服を着ているところを見ると、大学院の生徒たちばかりである様子。
少しだけ険しい表情を浮かべてレポート用紙を大きく広げてみたり、メイク道具を貸し借りしてこの場で化粧をしていたりと、そんな景色がより彼らにとっての『朝』といった現実味を増幅させている。
とその空間で二人、逆に制服を着ていることで目立っている裏人と瑚々は前を歩く澪玲に連れられ、普段はあまり利用することのないその施設を訪れていた。
理由は一言だけ、彼女にとっての大切な人を迎えに行くんだとかなんとか。
ただ、そんなことを言って今自分たちを先導してくれている澪玲はというと、先のセリフと共に頭を抱える仕草を見せては、その後すぐにずかずかと大股で歩き出していく様子を展開するのであった。
この空間においての騒がしさの中心、というわけではないが少し遠くから見ていても目立つ女性たちの集まりに目掛け、困ったような声音で返答を返す一人の淑女の声を頼りに。
そして、そんな集まりのもとへ急接近するとすぐさま、誰からともなく喋り声をあげる彼女たちの声も無視して一人、少しだけ低くもだからこそよく通る声音で輪の中心へと呼び声を放つのであった。
「―――――お待たせ。
帰るよ、理紗。」
制服から私服に変わるだけでここまで色気づくようなものなのだろうか、とは裏人の心境。
それほどまでにその場でたむろしていた女性たちからは大人びた印象が色濃く感じられ、今日一度見ただけの同級生とは比べ物にならないほどのきらびやかな装いが見て取れていた。
キリっと目元を大きく見せるアイラインも、男を引き寄せる淡い色めきの唇やチークも、グラデーションやインナーカラーなどの独創性が光る頭髪も、耳や首筋に腕など様々な箇所で存在感をアピールするアクセサリーも一切の手抜きがない。
またそれら髪容と見合うように揃えられた服装は彼女たちのファッショナブルな部分を溢れさせており、香ってくる香料まで整えるといい意味で周囲から一目を置かれる理由へと繋がっているようでもあった。
と、そんな感じに目前へと広がる、出来上がった世界観と容姿を見つめそのような心境に至った裏人をよそに、前を進む澪玲は全く気遣う様子のない歩みを見せながら冷静な怒りを露わにした声音を以て彼女たちを押し黙らせる迫力を放ち、身に纏う雰囲気を改め始めていた。
この角度からは見えないのだが、おそらくとてつもないほどに恐ろしい表情や冷たい目をしているのであろうと後ろ姿だけでも伝わる、身震いしてしまうほどの印象の中で。
そしてそのわかりやすく漂うオーラは控えていた裏人の、彼女たちの空気感に満たされボヤけつつあった思考すらスッキリとクリアに澄み渡らせるほどの威圧感を露わにし、次第に「みていられない。」との同情の思いをも湧き立たせてくるまでに至ってしまうのだった。
彼女を怒らせないようにしようと誓ったのは、もしかしたらこの瞬間だったのかもしれない。
後に思い出すかどうかなど知ったこっちゃなく、だが今心に浮かべるには余計に思えるようなそんな考えが浮かんだ裏人はそれでも変に飛び火しないようにと口を噤むと、そもそもそのような失礼な思考すら浮かべていませんとでも言いた気に自身の内情を制御してみせるのだった。
そうしてそのまま彼女たちの動向を見守るため、黙って煌びやかな一帯の集まりへと意識を向け直していき、その後響いた一つのとある声を受け取るという流れへと身を置くのであった。
良くも悪くも華やかしさの絶えないその場で一人、一際輝いて見える女性の可憐な声を聞き届け...。
周囲の者たちとは一線を画した、努力した凡人ではなく美しさの才能を持ち合わせているらしき綺麗なお姉様の姿を見届けて。
「あ、ふふ。
待ってたよ、澪玲ちゃん。」
薄いメイクの上からでもわかる元より整った顔立ちと、ふわっとパーマのかかった大人っぽいロングヘア、そして明るい髪色にスラッとした背丈と身に纏う秀麗な雰囲気をそのまま形にしたかのようなファッションセンス。
透き通るほどに白い肌はきめ細かく、起立する姿勢からその一挙一動に至るまでの全てに女性らしさが漂い、同時に『自分の見せ方』を熟知しているらしき佇まいは彼女本来の魅力を余すことなく発揮する手段として機能していて、どことなく近寄りがたい雰囲気も持ち合わせていた。
だが決して、嫌な自信などが感じられることはなく、むしろそれを超えるほどにおっとりとした朗らかな印象が浮かべられており、その純粋無垢に微笑む様子からは先のイメージが相殺され逆にプラスへと振り切っているような印象まで受け取れると、これまた絵に書いたような王女様がその場に姿を現したのであった。
瑚々のお姫様感とは少しだけ違う、もっと大人びた高貴な存在としての佇まいと印象を表現して。
そんな景色にまるで住む世界が違う、高嶺の花、なんてことを思ってしまうのはおそらく、誰も彼も大差ない心情の共有を行っているのであろう。
次いで周囲の目にさらされる彼女を視界内に裏人は、そうやって現状の全てを...注目を浴びている理由とやらを改めて理解させられる羽目になってしまうのだった。
彼女たちが見られているのではなく、彼女だけが見られているのだという事実に。
嫌な顔一つしないのは、もとよりそういう性格だからというわけではないはず。
その証拠に今、自身の名を呼び両腕を開く澪玲の姿を目に理紗と呼ばれた王女様は、これ以上ない熱い視線と堕落しきった情けない表情を浮かべ、先の気を遣っていた状況とは打って変わって解放されたような人間らしい顔をするのであった。
そしてならばと逆に先ほどまで浮かべられていた面持ちが困った際に表されるものであると誰もが気が付いた瞬間、いち早くそれを察していた澪玲が、まじまじと見せつけるように次の光景を披露して見せるのであった。
互いに『二人きりがいい』というわけではなく、『彼女さえいればいい』といった具合に似通った、有無を言わさないほどの純粋で巨大な愛情を嫌というくらい表現してみせながら。
周囲の目など気にしない、とそうやって駆け出しては一目散に澪玲の胸へと飛び込んだ理紗はその場で二人、愛する者同士の幸せな時間を共有していくのだった。
「おいで。」
「うん―――――。
...ちょっと、遅かった。」
「ごめんね。
また今度、埋め合わせするから。」
「うん。
待ってるよ、澪玲ちゃん。」
「んで、なに?
またナンパ?」
「あはは、違うよ!
とりあえず行こッ?」
少しだけ、だが確実に冷やかすつもりだったらしい澪玲から当然のように小言が飛ぶと、それに言葉を返す理紗は逆に更なる愛情が溢れんばかりの破顔し切った顔を見せ、砕けた口調を使い始めた。
これまでとは違う、澪玲がいる空間でだけで見ることができる、緩んだ顔とだらしない言葉。
またそこに浮かべられた表情には、もうすでに完璧な女性像などの面影はなく、完全に堕ちきった女の顔が映し出されていた。
と、案外クールな印象とは真逆だったのか、それを受け取る澪玲までもが愛おしそうにパートナー同士を求めるかのような表情を浮かべて見せるのであった。
両手を可愛らしく身体の前で揃え、澪玲の胸へと近づけるようにしてそのまま全身を預ける理紗に、応える澪玲も両腕でそっと彼女を抱き、ほとんどキスするかのような間合いで目を閉じ静寂を訪れさせる。
そして額をくっつけると先の言葉を耳元でささやき、少しだけ身体を硬直させる理紗のにじみ出るエロさに状況がざわつくように固まっていった。
そんな様子に一番近くで見ていた先程の女性陣はというと、ほとんど今を生きる若者の自信に満ちた佇まいなどは消え失せてしまい、破廉恥なものを恥ずかしそうに...だがうらやましそうに眺めているといったむっつりした心情で溢れかえっているようであった。
またそれは微かな居心地の悪さへと直結すると、だからこそ見つめないようにしていた裏人の元まで、有無を言わさず運ばれてしまう羽目になるのであった。
綺麗な女性同士の愛情表現が、さらに手の届かない領域で造形美として顕現し、その光景を脳裏に焼き付けてくる。
それも、双方共に浮かべるとろけ切った表情と漏れ出してくる甘ったるいほどの愛情の下で、色っぽく絡み合いながら。
と、そのような事実に「何やってんだこの人ら。」なんて内心を抱く裏人は一人、きょろきょろと怪しげに視線を動かし回っては自分がではなく、他人が果たしてこれを見続けてもいいものなのだろうか、といった気遣いに近い心情を浮かべるまでに至ったのであった。
それは確かあの時の、瑚々が自身の脚から水気を拭っていた木橋での状況とその際に感じた内情に酷似している。
タオルで丁寧に指の一本一本の間までを綺麗に拭き取り、持ち前の素足のサラサラとした肌質を取り戻すと次第にストッキングを履き直すといった、女性のパーソナルな部分を見てしまった罪悪感と言葉にしようもないあのむず痒い心境...と。
「...(チラッ)。」
そこまで考えた裏人は、次の瞬間には無意識に、横目で瑚々の顔を覗き込むまでに至っていた。
それは先程、想像した記憶の艶かしい部分を鮮明に思い出しだことによる、身勝手な視線の誘導を受けて。
少しだけ高揚感を感じてしまっている内情と、見境ないなと自己嫌悪すら沸き始める内心がすぐさま、戒めの思いに染まり始めていく。
それと同時に、取り合っている手に少しだけ力が入ってしまっていることにも気が付き、恥ずかしさの募る彼は慌てて...だが彼女には悟られないようにと、より自然な印象のまま脱力を試みてみるよう行動に移してみせた。
そしてその目に、彼女への申し訳なさで上書きするかのような謝意の念を色濃く宿すのだが、そんな裏人の視線の先にいる例の対象はというと。
「―――――...。」
澪玲と理紗の言動をその気配で感じとったのか、瑚々はいつも通りの笑顔を浮かべてはいるがそれでもどこか頬を赤らめて羨ましそうな内心を抑えている、といった色っぽくも可愛らしい表情と雰囲気を浮かべていた。
また、一方的に力を込めてしまっていると思っていた手も緊張を解いてみると何のその、自分の力量よりもはるかに強い力で握りしめていたのは、なんと彼女の方なのであった。
そんな様子は別にあからさまな表現をしているわけではなく、よく見ればわかるといった程度の変化なのだが。
自分にしか伝わっていない状況、だからこそ共感してしまう羞恥心が表向きに恥ずかしいものとしてではなく心の内に響く、本心からのこそばゆさを感じさせてくるような疾しさとなって襲いかかってくるのだった。
ほんの少しだけ、そんな瑚々の表情にドキッとしてしまったのは、決して下心をくすぐられたなんて変な意味合いがあったわけではない。
そう、気まずさにも似たバツの悪さを感じる裏人は背骨を抜けていくように芽生えた照れ臭さを咳払いでどうにか消し去るため、わざとらしく不自然な仕草を見せるまでに至った。
幸いにも、彼女の心もここにあらずといった具合に、ことの顛末を見守っている意識は裏人の方ではなく目前のカップルへと向けられている様子。
ならば今がチャンスと、僅かにできた隙へここぞとばかりに深呼吸にて内情を落ち着かせるよう心掛ける裏人は、何とか瞬時に冷静な感情を取り返すまでに立ち戻ることができるのだった。
そして、残念なことに周囲の反応などつゆ知らずと自分たちの世界に浸る例のカップルへ向けて、「いつまでやってるんだ。」と逆に呆れかえるほどに平静な内心を浮かべて見せるまでに至るのであった。
何をそんなに引っ付く必要があるのか。
何をそんなに語ることがあるのか。
何をそんなに、幸せそうな顔を保つ必要があるのかと、バカみたいに甘ったるい愛情で互いを求める仕草をとる、二人の美女へ目掛けて。
「...まだ足りないけど、今は十分かな。」
「ふふ、物好き。
―――――んんッ...それでは、皆さん。
今日も澪玲ちゃんと約束があるので、私はこれで。
また今度、誘ってください。」
「...えッ。
―――――あッ、ちょっと...」
その場にいるときは当り障りのないように取り繕い、断るときは変に期待をさせないよう優しさも込めてスパッと断る。
何ともわかりやすく何とも世渡り上手な姿勢...見習うべきなのだろうか。
と、数分後にしてようやく別世界から戻ってきた二人の内、言葉を放った理紗の言動を見てなんてことを考える裏人は微かに頷く様子を露わにした。
心なしか大袈裟に感心して見せているのは、瑚々と繋いだ手のひらにどちらのものかもわからない汗の感触が走り、それを本当の意味で感知しないようにと意識を制御しているからである。
もじもじしている様子で、少しだけ浮ついたようにも忙しないようにも雰囲気を浮かべる彼女の、首筋に一滴の雫が伝っていくのが目に入った。
同時にそれを辿る視界には一本一本艶めかしくおでこに張り付いた彼女の髪の毛が鮮明に映り、いつかの光景がフラッシュバックすると、その存在を自身へ訴えるかのように背筋を這う生々しさを認知してしまう裏人はモヤモヤした心地を抱くまでに至った。
視界に入る、瑚々のそんな様子が何とも...男心というか下心を―――――「(って...あーもう、何考えてんだッ。)」
色っぽい景色に色っぽい同級生の顔。
またそんな二か所にそれぞれで存在する張本人たちが、作られたかのように可愛らしい外見、綺麗な出で立ち、美しいオーラを纏っている者であるからして、数倍にも膨れ上がった感動や含羞に心を乱される裏人は何とも情けないセリフを心の中で口走しるまでに至った。
どうやら先のフラッシュバックとの言葉通り、自身の頭に渦巻く過去の祭りの光景とその際より身近に感じられたあの娘の影が、これまでは抑えられていた自制心自体を攻撃し、機能させないようにしているらしい。
小難しいことを言ったが、結局は想像させられてしまったのである。
あの時と同じようにサラサラとした美しい髪に惹かれる自身の心と、それが張り付くほどに湿気、水気を帯びた状況とは一体何を意味しているのか、そう特に理由もないはず現状へ妄想という名の想像力を働かせて。
そしてこんな感情に苛まれるなんてと、自分でも驚くほどにダサく恥ずかしい立ち振る舞いをした内情を俯瞰し、裏人はまた一段と憐れな感情を抱いてしまうのであった―――――
「恋したら、裏人さんもあんな感じになるんでしょうか。」
「ん、何か言った?。」
「―――――はぁ...体が熱いです。
なるべく早く立ち去りましょう。」
「え、うん。
...なんか、大丈夫?」
とそこへ、突如として不思議と珍しいものを目にしたという感情が沸くほど意外に思える、瑚々からの弱々しくか細い声が運ばれてきた。
まっこと正直に覇気がなく先ほどまでの、この空間と彼女たちの愛情に中てられ恥ずかしそうにしていた面持ちすら消え去ってしまったと、そんなぼやけた雰囲気を浮かべたままで。
そのため、下に落ちる言葉を聞き逃した裏人は改めて真意を尋ねるよう試みてみるのだが、結果は特になんでもないとスルーする彼女の様子が映し出され、止むを得ず口を噤むまでに至ってしまう。
して、そのまま二人の間には少しばかりの気まずい沈黙が流れていくのであった。
よりはっきり感じられる手の感触と、ここから見える彼女の長いまつ毛に整った鼻筋、淡い色めきを放つ唇が鮮明に脳裏へと焼き付き、次第に裏人の内情を染め上げていく。
また変に間が開いてしまった状況ゆえの気持ち悪さが自身を包んでいくと、声を掛け損なった、動き損なったと後悔する胸の内が動かせるはずの足をドンドンと重たく感じさせてきていた。
そういった状況下でも瑚々は特に心情の変化を見せるわけでもなく、なぜかボーっとした様子のまま顔や身体の一部すら身動きさせずに呆然と立ち尽くしている。
とそんな光景がどれくらい続いているのだろうか、なんて考え始めた次の瞬間―――――
何と無しに視線を繋いでいる手元に落とした裏人の視界に、彼女の腕から手首へと一筋の汗が伝っていく景色が捉えられることになった。
そしてそれは間もなく誰にも止めることなく彼の手の付け根へと渡ると、その感触に思い出したかのようにハッとする瑚々が急に腕を引くといった様子を展開するのだった
想像以上に強い力で互いの手を上下に振り、感情を取り戻したような面持ちを浮かべ、同時に驚きと恥ずかしさを誤魔化すかのような雰囲気を纏いながら焦りに焦った様子で。
「さ、さぁ行きましょう裏人さん!」
また元気に戻ったのはいいことなのだが、こういったところは落ち着きがないというか慣れていないというか。
ほんの数時間の関係ながらなんとなくで瑚々の性格をつかんだ裏人は、今の彼女の様子をそんな言葉でまとめた。
踵を返す先導者の、ふわりと舞った髪の毛から香る甘い印象を受け取り、そのまま引かれる手にも抵抗することなくついていく様子をみせ。
そして、汗の一つでそこまで取り乱すことなのか、とも思ってみたものの想像以上に焦っている瑚々の様子が何とも可愛らしく、結果クスクスと声にもならない笑い声を漏らすまでに至るのだった。
そんな自身の様子を気配で感じ取ったらしい瑚々からお叱りの声がかかるも、全くもって微笑ましさ以外の何も感じられないとただただおかしそうに口元を緩ませる光景を展開して。
「どうして笑っているのですか。」
「いや、何でもないよ。
行こうか。」
その言葉の後、瑚々の目のことを思い出した裏人は、歩みを進めていた立ち位置を逆転させるように前へ出て、彼女を後ろに隠すような形で『食堂』を後にする様子を見せた。
当然、隠すとは他の生徒とぶつからない様に一列になることを意味していて、そんな自身の仕草をこれまた気配で感じ取ったらしい彼女からすぐさま「ありがとうございます。」と感謝の言葉が述べられる。
ほんの数秒すらも経過していないうちの出来事、ならば彼女の育ちの良さ、そして元の性格の丁寧さがどれほどのものなのか、咄嗟の判断とこの光景を見れば想像に容易いことであろう。
と彼女への返答に際し「どういたしまして。」と後ろを振り返りながら関心する裏人は、ついでに後方からついてくるであろう二人の様子にも意識を向けていった。
「―――――。」
「―――――。」
交差する互いの視線。
勝ち誇ったような顔で堂々と歩いていた澪玲は、申し訳なさそうに幸せそうな顔をしている理紗の手を引く姿を見せ、目が合った裏人へ「ついて行ってるよ。」との返答をアイコンタクトにて伝えてくれた。
さらに首をクイッと前に出し「少し急ぎ気味で。」との合図まで送ってくると、僅かにだけ身体をずらした後ろの光景...先の女性陣が驚きと困惑で動けなくなっている景色も自身へと見せてくれた。
これまでの一連の流れを知っていれば、それがいったい何を意味しているのかなんて容易く理解できるであろう。
だからこそ、こちらとしても面倒事はごめんだと、瑚々の耳元で「ちょっと急ぐよ。」との言葉を放った裏人はその口語通り歩幅を広げ、間もなく『食堂』の出入口を抜けていくのだった
向かうは玄藤重教員から説明された元々の目的地。
『屋内プール』と『道場』を抜けた先の『屋外競技場』、そこに併設された駐車場へ停めてある澪玲の車である。
今後の流れとしてはそれに乗り、自身のこれからの帰る家となる場所へ連れて行ってくれるのだとか。
そんな事実に内心、ドキドキとワクワクが止まらない裏人はさらに加えて面倒事はごめんだとの思いを胸に、足取り軽く歩む姿を披露するのであった。
「澪玲ちゃん、やりすぎ。」
「さぁ、なんのこと?」
ここまでくればどうせ聞こえやしないとクスクス笑いながら似通った笑みを浮かべコミュニケーションを交わす二人と、彼女らが巻き起こした嵐の後の静けさを見せる背後の光景を最後にチラッと横目にして―――――。
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