お猫様、霧子の帰りを待つ
さて、時間を少し巻き戻してみる。
霧子が、昼休みの時間を無駄にしていた頃、お猫様はどうしていたのか?
お猫様は、土鍋の中でしばらくふて寝をしていたのだが、昼過ぎになってから、また目を覚ました。
「にゃ~ん。」
やはり、異空間の中で、その声は響いたが、何の反応も返ってこなかった。
お猫様は、土鍋の中から出て、給水器のもとにゆっくりと歩み寄った。
お猫様は給水器の水面に顔を近付け、水を飲んだ。
「にゃ~ん。」
お猫様は、また、鳴いた。
「にゃ~ん。にゃ~ん。にゃ~ん。」
お猫様は、さらに続けざまに鳴いたが、やっぱり何の反応も返ってこなかった。
そして、フードボウルに残ったカリカリを食べ、1回伸びをしてから、土鍋に入り、丸まって寝たのだった。
霧子は、水際女史の忠告通り、定時に会社を出た。
会社近くの大型書店に寄り、水際女史推薦の本を探す。検索用のディスプレイをタッチして文字を入力したところ、店内に在庫有りと表示が出た。
店内の【趣味】の表示の棚を探すと、目当ての本が見つかった。
本を手にし、パラパラと捲る。
初心者にも分かりやすく、猫の飼い方が書かれており、写真やイラストも多い。
会計を済ますと、霧子は、駅に向かって速足で歩いたのだった。
霧子は、部屋の鍵を開けると、灯りを点け、部屋の中をざっと見渡した。
机の上に、買ってきた本を入れた袋を置き、部屋着に着替える。
そして、収納スペースの扉の前に立ち、「にゃんにゃんにゃん」と3回ノックした。
すると、扉の隙間から光が漏れてきて、扉の向こうに異空間が戻ってきた。
扉の外に気配を感じ取ったのか、中から、「にゃ~ん。」と声がした。
扉を開けると、お猫様は、たたん、と土鍋から飛び出した。
そして、異空間の入口に立つ霧子の足元に、滑るように向かってきた。そして座る。
「みゃ~ん。みゃ~ん。みゃ~ん。」
ほったらかしにされていたことを抗議し、霧子の足元に飛びつく。
「ただいま、お猫様。ご飯にしようね。」
霧子の言葉に、お猫様は、「にゃ~ん。」と良い返事をしたのだった。
霧子は、夕食にはウェットなご飯を用意した。そして、給水器の水を新しい水に交換した。
お猫様は、待ってましたとばかりに、フードボウルの前に小走りに寄り、きちんと座って食べた。
新しい水に替えられた給水器から水を飲み、そして、体を横に倒して、毛繕いを始めた。
ぐるる。ぐるる。ぐるる。
お猫様は、満足そうに喉を鳴らしてみせる。
そして、ネコ用ベッドに移動し、置かれた毛布を両方の前足でモミモミしたのだった。