お猫様はやってきた
「にゃ~ん。」
お猫様の朝は早い。
今朝も、午前5時には目を覚ました。
そして、朝の運動をする。
異空間の10畳ほどのスペースを走り回り、キャットタワーを駆け上がったり、駆け下りたり。
どすん。ばたん。かしかしかしかし。
とん。だだだだだだだだだ。
今朝の相手は、秋刀魚1号であった。
秋刀魚1号のお腹の部分を、お猫様は噛んだ。
この分であると、秋刀魚1号の緊急入院、緊急手術が必要になるのも、時間の問題と思われる。
霧子は、眠い目を擦りながら、ベッドから起き上がった。
「にゃ~ん。」
お猫様は、朝の運動に飽きると、かわいらしい声で催促をする。
朝食を持って参れ、という催促である。
霧子の動きは、ゆっくりである。
起きたばかりの状態では、致し方ないのであった。
しかし、お猫様は待てない、のであった。
「みゃ~ん。」
お猫様の声は、先に発したものより幾分か小さく、弱弱しさをアピールするものとなった。
お腹が空いて動けない、もう1秒たりとも待てない、のアピールである。
これが、霧子には効果があることを、お猫様は知っている。
霧子は、ゆっくりではあるが、ネコ用フードボウルにカリカリを入れて、異空間への扉から中に運んだ。
ネコ用給水器の水に汚れがないことを確認し、トイレの方もチェックする。
近くには、お腹の辺りに、お猫様の噛み跡が付いた秋刀魚1号が横たわっていた。
お猫様は、ネコ用フードボウルの前に行儀よく座ると、カリカリを食した。
カリカリに集中しているお猫様の様子は、いつも通りだった。
霧子は、満足した。
今日も、お猫様は元気である。
そして、霧子も朝の支度をする。
毎朝、部屋を出るのが辛い。
お猫様が寂しそうに霧子を見つめる姿が、非常に辛い。
お猫様は、霧子をどうにか引き留めようと、おもちゃを運んできたりするのだ。非常に、非常に辛い。
今日も、早く帰ってこよう。
お猫様と何をして遊ぼうか?
お猫様はまだ1歳。まだまだ、お猫様と霧子の生活は続く。
いつか、お猫様が虹を渡ってしまう日が来るまで。
今や、お猫様との時間は、霧子にとってかけがえのないものとなっている。
とてもではないが、写真や動画に収めきれないほどである。
お猫様はやってきた。
130年後の未来から霧子のもとへ、幸せな日常というおまけを持って。
だから、今日も、霧子が出逢うことのない130年後の未来の人たちに、お猫様は幸せに暮らしていると伝えるのだ。
「お猫様は、今日も元気です。新しい動画をアップします。『宅配ネコサービス』を通じて見てくださっている未来の皆さま、お猫様は今日も可愛いです。」
―――― 完 ――――




