お猫様、負傷させる
結局、お猫様に寝ていただこう作戦は、中途半端であったことが判明。
『宅配ネコサービス』は、一切の音と臭い、そして気配を遮断する布でできた袋をキャリーバッグに被せる方法を提案してきた。
「その袋を被せたら、呼吸ができなくなる恐れはないの?」
霧子は、『宅配ネコサービス』を、今一つ信用しきれないのである。
「大丈夫でございます。むしろ、最新式空気清浄機のフィルターにも用いられる材質ですから、お猫様さまの呼吸器にも優しい品でございます。」
新転送装置からの音声は、すかさず、商品の売りであるポイントを説明する。まぁ、これも無料提供・無料配達になるので、利益には繋がらないのであるが。
霧子は届けられた袋をキャリーバッグに被せる前に、袋をキャリーバッグの上から掛けるだけにしてみた。
すると、確かに、お猫様の寝息は聞こえなくなった。
数秒数えてから、袋を外す。
ぅぷぅ~、ぅぷぅ~。
大丈夫であった。
霧子は、キャリーバッグのファスナーを静かに開けて、お猫様の寝顔を見た。
何とも、福々しい顔であった。
あと1つの問題は、ゴミであった。
急にゴミが増えたことに大家や他の住人が、疑惑の目を向けないか?
それが霧子の心配なのであった。
「お客様、それでは、異空間の中にもう1つ異空間を作成するのはどうでしょう? 異空間内異空間にゴミを入れてしまうのです。そして一定の時間が経ったら異空間内異空間を消滅させるよう設定します。そうすれば、中のゴミも消滅します。」
異空間内異空間? 何だそれは? もう霧子の頭では、到底追い付かないのであった。
しかし、ゴミ問題は重大事である。
霧子は、異空間内異空間を作成することに同意した。
一連の作業、というか、『宅配ネコサービス』がすべてを取り仕切ったのであるが、それらが終了した頃には、霧子はすっかり疲れていた。
一方で、お猫様は、キャリーバッグ内の振動が心地よい眠りを提供したようで、すっかり元気になっていた。
お猫様は、霧子がいない時間の相手として提供された縫いぐるみ、伊勢えび1号を抱え込み、その腹部をガブリと噛んだ。
荒ぶるお猫様は、容赦がなかった。
伊勢えび1号は、度重なるお猫様の噛みつき攻撃に耐えかね、腹部を損傷。ついには、中から綿がはみ出てしまったのだった。
かくして、憐れ、伊勢えび1号は、お役御免となったのであった。
その晩、霧子は、眠い目をこすりながら、伊勢えび1号の腹部の縫合処置を行った。
しかし、今後、負傷した伊勢えび1号だけでは、心許なく思え、霧子は、新たに、伊勢えび2号も投入することを決定した。
相手が伊勢えびばかりだと、飽きちゃうかしら?
霧子は、他にお猫様の相手を任せられる縫いぐるみを探さねばならなくなった。




