お猫様、寝息をたてる
お猫様が、新転送装置の上にて、鉄壁のディフェンスを展開してしまったため、霧子はどうすることもできなくなってしまった。
霧子としては、扉の向こう側、本来の霧子の部屋の床のマスキングテープ製転送装置が気になっていた。
『宅配ネコサービス』は、先ほど、“たった今から補強を行います”と言ったのだ。
扉の向こうで、何か起こっているのだろうか?
霧子は、好奇心を抑える限界へと達していた。
その場で、すっくと立ちあがり、扉の方へと移動、そして、扉を開けた。
見た目は何も変わっていなかった。
結局、何だったのだろうか?
霧子は、床に座り込み、転送装置、床に貼られたマスキングテープに触れてみた。
あれ? 何か違う。
すると、そのマスキングテープ製転送装置から音声が聞こえてきた。
「お客様。転送装置の補強処理、完了いたしました。これで、掃除などで剥がれてしまったり、色が退色したりの心配はございません。異空間への悪影響もございません。」
どうやら、霧子は、補強作業の様子を見逃してしまったらしかった。
「では、次のお問い合わせに関してでございます。お猫様さまと外出する際に、誰にも見つからないようにしたい、というご要望でしたね。」
次期大家内定の水際女史がすぐにでも大家になるのであれば問題ないが、現時点では、大家や他の住人に見つかってしまうと、何かと面倒なのである。
「既にお使いいただいておりますキャリーバッグの睡眠誘導機能で、お猫様さまに眠っていただくのは、いかがでしょうか?」
何と、キャリーバッグにそんな機能が付いていたとは……。
霧子は、異空間側に戻った。キャリーバッグに近付くと、さっきまで新転送装置の上に寝そべっていたお猫様が、たたたっと、ついてきた。
そして、お猫様は、霧子の顔を見上げ、数秒考えたようだったが、キャリーバッグに飛び込んだのだった。
お猫様は、比較的狭いところがお好きであった。
キャリーバッグや土鍋などに入り込むと、なぜか、安心感が得られるようだ。
キャリーバッグは、動物病院の嫌な記憶を思い出させそうではあったが、意外にも、異空間内に置かれたままになっているうちに、お猫様にとっては馴染みのものとなったようで、拒否感を示されることはなかった。
「上側のファスナー閉じ、側部にあるボタンを押してくださいませ。内部に、お猫様さまの眠りを誘う周波数の振動が発生します。」
今度は、異空間側の新転送装置から音声が聞こえてきた。
霧子には、2つの転送装置と音声の繋がりがさっぱり理解できなかったが、とりあえずは、キャリーバッグ、なのだった。
霧子は指示通りにボタンを押した。
すると、しばらくして、キャリーバッグの中から
ぅぷぅ~、ぅぷぅ~。
という音がし始めた。お猫様は眠ってしまった。眠ってしまったのだが……。
ぅぷぅ~、ぅぷぅ~。
「……、結構、響いておりますね。」
新転送装置からの音声が、失敗を認める声明を出したのだった。




