お猫様、新転送装置に絡む
「お客様。お待たせいたしました。補強に使っていただくシートをお届けいたします。と、言いますか、たった今から補強を行います。」
どれくらい待ったであろうか? 霧子が、ひょっとして、音声はとっくに切られているのではないかと疑い出したころ、異空間側の転送装置の音声が再び聞こえてきた。
しかし、“シート”など現れなかったし、いつも、何かが転送されてくる際に発せられる光もなかった。
あれ? 異空間側の新しい転送装置、ひょっとして失敗?
新転送装置からは音声すらも聞こえない……。
「にゃ~ん。」
霧子の関心が、自分ではなく、どうも、その床の環状の囲みにあるらしいと気付いたお猫様は、いきなり、それをバリバリとひっかき始めたのだった。
ばりばりばりばりばりばり。
「い、いやぁ~。お猫様、お猫様、いけません。それは爪研ぎではございませんっ!」
霧子は慌てて、お猫様を抱き上げようとした。しかし、お猫様の体はぬるりとすり抜けた。
そして、お猫様は、そのまま、したたたたたっ、と駆けていき、勢いに任せて、キャットタワーのてっぺんまで登ってみせたのだった。
「にゃ、な~う。」
お猫様は、霧子の頭上から見下ろすように、キャットタワーの一番上で香箱を組んだのだった。
霧子は、お猫様がキャットタワーの上で安定した姿勢を保っているのを見て、少し安心しつつ、異空間側の転送装置を確認した。
あれほど、お猫様がばりばりと爪を立てていたのにも関わらず、特殊素材のテープは無傷だった。
『宅配ネコサービス』が推奨するだけあって、特殊素材のテープは、床から剝がれにくく、テープそのものの強度もあったのだ。
「はぁ、良かった。」
霧子は、異空間の床にぺたりと座り、新転送装置を眺め続けた。
音声は聞こえてこない。
なおも、新転送装置を眺めていると、
た~ん。ったたっ。したたたたたたたたっ。
気が付くと、お猫様は、キャットタワーから降りてきていた。そして、どっかりと、新転送装置の上に横たわり、びょ~んと長く伸びてみせた。
お猫様の体は、実は、結構、長いのだった。
「お猫様、そこは危ないと思います。お退きくださいませ。」
霧子は、未だに、その仕組みがまったく分からない新転送装置を警戒し、お猫様を退けようと試みたが、無駄であった。
お猫様は、霧子がかまってくれるのを、完全に楽しんでいる。
要するに、霧子の試みは逆効果なのである。
霧子は、断念した。こうなってしまえば、お猫様が自主的に退いてくれるまで、どうにもならないのだ。




