2つ目の転送装置
霧子が、ここぞとばかりに、立て続けに『宅配ネコサービス』への質問を重ねたため、床の囲みの音声は、立て直しが必要だった。
「お客様、落ち着いてください。順番に説明いたします。まずですね、転送装置に関してですが、本来は、利用者様の登録に合わせて、色や模様の組み合わせが決定され、それに該当する特殊素材のテープを『宅配ネコサービス』側からお届けし、設計図通りに、お客様ご自身で、床に“転送装置”を設置していただくのです。」
特殊素材のテープ?
「特殊素材のテープは経時劣化しにくいという特性がございまして、床から剝がれにくく、テープそのものの強度もあり、退色しにくい、という優れた特徴により採用となりました。」
と、すると、マスキングテープは……。
「こちらとしましても、想定外と申しますか……。マスキングテープを使用して転送装置を造られるお客様がおられるとは……。いえ、まったく対応せず、というわけでは決してございません。」
霧子は、暗に、非常識な客だと言われたことに気が付いたが、霧子だって、まさかの想定外だったのだ。
「では、その特殊素材のテープで造り直すなり、補強するなりしないと、まずいということなのですね?」
「そういうことでございます。特殊素材のテープは、異空間の床面に貼ることも可能ですから、そちらに転送装置を造っていただくこともできます。」
床の囲みの音声が、一旦、言葉を止めると、その囲み自体が光を発し始めた。やがて、まばゆい光がゆっくりと消えると、そこには設計図、そして特殊素材のテープが現れた。
「特殊テープは、既に種類ごとに正しい長さに切断してあります。お客様は、設計図を見ながら、床面に環状に貼り付けていただき、転送装置を設置していただくことになります。」
なるほど、特殊素材のテープの色や模様は、既に霧子の部屋の床に造られた転送装置を構成しているマスキングテープの色や模様と、完全に一致していた。
「ちなみに、2151年では、別料金で、スタッフがお客様の代わりに転送装置を設置するサービスも提供させていただいているのですが、お客様のおられる時代にまでは出張できませんので、ご理解のほど、よろしくお願いします。」
未来には、不器用な利用者に対しての追加サービスもあるらしい。
そこで、霧子は、設計図と特殊素材のテープを抱えて、異空間の方へと移動した。お猫様が、足元に飛んできた。
「にゃ~ん。」
扉を開けっぱなしにしても、大丈夫そうだったので、霧子は、お猫様の顎の下を撫ぜながら、マスキングテープ製の床の囲みの方へ声をかけた。
「今から、異空間側に転送装置を設置しますので、正常に作動するか、テストしてください。」
そして、霧子は、異空間側の床をコロコロで掃除をし、設計図を確認しながら、特殊素材のテープで環状の転送装置を造っていった。
特殊素材のテープの台紙を剥がすと、お猫様は、待ってましたとばかりに、その台紙で遊び始めた。
紐状のものが、お好きなのだ。
「お猫様、楽しい?」
霧子が訊ねると、お猫様は、細長い台紙の端を、その前足でペシンと叩いてみせた。
異空間側に、特殊素材のテープ製の転送装置が完成した。
すると、今度は、異空間側の新転送装置から、音声が聞こえてきた。
「お客様、いかがでしょうか? こちらの声はお聞きいただけていますか?」
突然、床から声がしたため、お猫様はびっくりして後ろ側へ飛び跳ねた。床の方を警戒しながら、後ずさりする。
とりあえず、音声は繋がったのだった。




