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霧子、ピンチに陥る

霧子は、這う這うの体で、経理部の部屋から、自分の部署へと戻った。


大変なことになった。ピンチだ。


異空間に関しては、よく考えたら、収納スペースの扉との接続を切り離しておけば問題なかったのだ。

あの、間抜けな詠唱が必要か不要か、まだ確認できてはいないが、とりあえずは問題ない。


しかし、本来の霧子の部屋の床の上に存在する転送装置、というか、霧子がマスキングテープを貼り付けて造った円形の囲い、が大問題なのだ。


いつも、『宅配ネコサービス』は、霧子の都合に構わず、突然に、音声を発してくる。

向こうの方で、何らかの方法を用いて、問題のないタイミングを図っているのかもしれないが、確かな証拠はない。


もし、万が一にも、水際女史が霧子の部屋を訪問中に、「お客様……。」などと床から声がしたら、とんでもないことになる。

水際女史の追及をかわす術など、霧子にはない。


実は、霧子にも、トラブルを確実に防ぐ方法は分かっていた。

それは、床から、マスキングテープを剝がしてしまうのだ。


ただし、その場合、二度と転送装置が使えなくなってしまうかもしれない、という不安が残る。

それは、それで、避けたい事態なのだ。


そもそも、『宅配ネコサービス』は、都合のいい時、いや、むしろ、『宅配ネコサービス』にとって都合が悪くなった時だけ、あの囲みから音声を仕掛けてくる。

霧子の方が連絡を取りたいと思う時には、使えないのだ。


せめて、こんな時のために、サイレントモードを付けておいて欲しかった。


朝っぱらから、霧子は、もう、疲労困憊である。

とてもではないが、猫派の集会に近付いての情報収集活動など、本日は無理、という状態だった。


霧子は、予定を変更することにした。


「BGMとして流して違和感のないCDを探さなきゃ。でも、お猫様、音楽はどうなんだろう? 好みとかあるのだろうか?」


音声を誤魔化すためには、別の音、である。

しかし、あまりに騒がしいものは、かえって違和感を増大させてしまうに違いない。

何よりも、お猫様のストレスに成りかねない。


「A動物病院の待合室で流れていたような曲なら、大丈夫そうなんだけど……。あれ、なんて曲だっけ?」


それは、聞き覚えがあるのに、曲名は分からない、という曲だった。


「小学校の時に音楽の時間に聞いた曲だよね。どういうわけか、最後に犬の吠える声が入ってる……。」


霧子は、思い出そうとするが、得てしてこういう時には、何も浮かんでこないものである。


「はぁ。」


霧子は、自席のパソコンの前で、深いため息をつき、突っ伏してしまった。


「大丈夫かね?」


声をかけてきたのは、副部長だった。


「いやぁ。具合が悪そうなところ、大変すまないのだが……。これ、経理部に持っていってほしいんだ。忘れていたわけではないんだけどねぇ。どうも、忙しくってねぇ……。」


それは、提出期限ぎりぎりの領収書だった。学ばない男である。


霧子は、副部長の背中に向かって、「自分で持っていけや、ごらぁ!」と呪いの言葉を心の中で呟いたのだった。

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