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弱めのマッサージ店

作者: 阿形 肇

 片野(かたの)小里(こり)は重度の肩こりに悩まされていた。

 整骨、整体、マッサージ。色々と試してみたが駄目だった。

 そんな時、どんな身体のこりも癒してしまういうマッサージ店の噂を聞きつけた。

 そして、今日。その噂の店にやって来たのだが、

「随分と普通の店ね」

 小里は普通と評したが、彼女なりに言葉を取り繕ったのだろう。評判の割には草臥れた印象の拭えない建物がそこにはあった。

「信用して良いものかしら」

 駄目で元々と思い、小里は店へと足を踏み入れた。

 店内は、外観とは裏腹に清潔感があり、小里の不信感を和らげた。

 手続きを済ませ、奥の部屋に案内されると、男性のマッサージ師が待っており、小里は少し驚いてしまう。

 受付が女性だったので、てっきりマッサージ師も女性だと思い込んでいたのだ。

 小里は思わず、

「男性なのですね」

 と言ってしまう。

 口にしてから、気を悪くさせてしまったかしら、と自責する。

 しかし、マッサージ師は、お客の反応になれているようで穏やかに微笑む。

「他人にマッサージされるとなれば、信頼できる相手に任せたいと思うのが人の情と言うものです。お客様の懸念も尤もかと。当店では、お客様の不安を取り除けるよう可能な限り配慮しております」

 ご安心下さいとでも言うように、マッサージ師は再び微笑む。

 監視カメラでも設置しているのだろうか。マッサージ師が客にいかがわしい真似をしたら、他の店員が飛んで来て止めさせる。それはそれで気恥ずかしいものがあるなあ、と小里は思った。

 だが、自らの想像が見当違いだったことを小里は思い知ることとなる。

「では、改めまして。本日担当致します、木尾(きお)と申します。よろしくお願い致します」

「あっ、よろしくお願いします」

 木尾と名乗るマッサージ師に促され、小里はベッドに寝そべる。

 だが、直ぐに起き上がる。

「はあああああぁぁぁぁっ!」と言う木尾の声に驚いたからだ。

「な、何をしているんですか?」

 小里の疑問に対し、木尾は、

「お客様、起き上がらないで下さい。既に、マッサージは始まっていますので」

 と返して来た。

 渋々ながら寝直す小里であったが、やはり気になりもう一度問う。

「マッサージしてるんですか? 何もしていないように思うんですけど」

「当店は弱めのマッサージを売りにしおりますので、最初は中々実感が湧かないかと」

「実感も何も触っていないじゃないですか」

「様々な検討を重ねた結果の配慮、というものでございます」

 確かに、直接触らなければ問題は起こるまい。説明時に言っていた『配慮』とはこのことだったのかと納得しかけるものの、いやいや、触らずにマッサージも何もあったもんじゃない、と小里は思う。

 しかし、木尾の「全身全霊でマッサージさせていただきます」と言う気持ちの籠った言葉に気後れしてしまい、そのまま、触らないマッサージ続行を選んだ。

「気持ち強めにお願いします」

「わかりました。では、はあああああぁぁぁぁっ!」

 再び木尾の気合の籠った声が室内に響く。

 木尾曰く、弱めのマッサージ。もしかして、気でも送っているのだろうか。それなら合点がいくが、マッサージとしては腑に落ちない。

 小里は、幾度のマッサージ経験の中で、「このマッサージちょっと強いんじゃないかな。もっと、弱めでもいいんだけどなあ」と思うことが度々あった。それでも、「私の肩こりをほぐすにはこれくらい強くなくちゃ駄目なのかもしれない」と思い、何も言わずにいた。

 しかし、『弱めのマッサージ』は弱いなんてものじゃない。小里の身体に触ってすらいないのだ。

 気持ちだけ強めにされても意味は無かった。

「あの、触ってもらえませんか?」

 小里は思い切って言ってみた。

 すると木尾は目を見開き、

「お客様っ。当店はその様なサービス行っておりませんっ」

 と語気を強くした。

「弱めが売りと言っても、何も感じられないですし、直接触るコース? みたいなのってないんですか?」

「直接触るっ!?」

 木尾の驚きぶりに、小里も驚いてしまう。

「いえ、珍しいことでもないでしょう?」

「お客様は当店を何だと思っているのですかっ! そのような事をお求めになるだなんてっ!」

「でも、『弱め』って何も感じられなくて……。直接触ってもらった方がいいと思ったんです」

「なんて破廉恥な」と木尾は頭を振った後、小里に向き直り、「お客様の求めるものは此処にはございません。お代は結構ですので、お帰り下さい」と言った。

 盛大な誤解を招いているようだが、小里は訂正するよりもこの場を立ち去った方が良さそうだと思った。

「失礼しました」

 こうして、小里は弱めのマッサージ店を後にした。

 店を出た直後は、悪いことをしてしまったなという思いがあったが、歩いている内に「破廉恥なことに想像を結びつける方がおかしい」と考え直した。

「何が『弱めのマッサージ』よ。ああいうのをぼったくりって言うのね」

 小里は憤った気持ちを吐き出していると、ふと気付く。

「あれ? 肩が軽い」

 随分と悩まされた肩こりが治っている。

 もし、本当に、『弱めのマッサージ』で治ったのだとしたら……。

 次、行く機会があれば、態度は弱めになりそうだ。


 


 

 

 

 

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