第3話
……やってしまった……
僕ともあろうものが筆箱を忘れるなんて....
席替えをしてしばらくたった日のこと。僕は筆箱を忘れていた。
(昨日宿題やったときにかばんから出してしまうのを忘れたな……)
こうなると圭吾に借りるしかないな……
あいつに借りをつくるのは非常に不本意だが背に腹はかえられない。僕は圭吾へ話しかけにいった。
「圭吾」
「ん? ああ、碧斗か。珍しいな、お前から話しかけてくるなんて」
「ちょっと頼みたいことがあって……」
そういうと、圭吾は嬉しそうな顔をした。だからいやだったんだ。
「おう! お前の頼みなら何でもきくぜ!」
今何でもっていった?何でもって言ったよね??
……まあそんなことはおいといて、本題に入ろう。
「実は、筆箱忘れちゃって…… 鉛筆と消しゴム余ってたら貸して欲しいんだ」
「あ、ああ……なるほど……ね?」
なんだ?なんだか焦っているように見える。
「どうかした?」
「いや、なんていうか……俺も今日筆箱忘れちゃってて……」
お前もかよ!!!
「そ、そうか……」
「悪い! 今回はお前の力になれそうにない」
圭吾はパンっと両手を合わせ、申しわけなさそうな顔をつくった。
「なんだったら、俺の友達からお前の分も借りてこようか?」
「いや、いい。俺の分はこっちでなんとかするよ」
そういって、僕は自分の席に帰る。友達でもない人から鉛筆を借りるほどぼくの肝は据わっていない。
……しかし本当に困った。圭吾がダメだった場合のことを考えていないかった。
どうしよう……と悩んでいると、ひとりの女子の顔が頭に浮かんだ。
いや待て、それは一番ないだろう。僕があいつに借りでもつくってみろ、いつかとんでもない要求をされるぞ。
しかしいつまで考えてもいい案が思いつかない。すると、隣のアイツが話しかけてきた。
「ねぇ、伊吹くん。筆箱忘れたの?」
僕が隣をみると、面白いものを見つけたかのような顔でこちらを見ている春野鈴香がいた。
「春野には関係ないだろ」
春野は少しムッとしてからいじわるそうな笑顔を浮かべてまた言ってきた。
「ふ~ん、私鉛筆と消しゴム多めにもってるから、貸してあげようかと思ったけど伊吹くんはいらないんだね~」
こいつ……人が困ってるのを嬉しそうにしやがって
「どうせ貸す変わりに何か要求してくるんだろ?」
「そんなことないよ~ほんとにただの善意」
僕はそんなことを言う春野をジッと見つめる。確かに腹の立つ笑みを浮かべてはいるが嘘はいってなさそうだ。
「じゃあ、貸してくれ」
ちょっと悔しい気持ちになり、せめてもの反発ってことでぶっきらぼうにお願いする。しかし、当然春野はこんなお願いでは満足しない。
「それが人に物を頼む態度かな~?」
……腹立つ!
「貸してください、お願いします。」
「よくできました~」
春野は勝ち誇った顔でそう言い、鉛筆と消しゴムを貸してくれた。
なんかすごい負けた気分だ。もう絶対こんなミスはしない。
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睡魔と戦いながら、なんとか午後の授業を乗り切った。眠かったからさっさと家に帰って寝たいところだったが、春野にまだ鉛筆と消しゴムを返していない。
返そうと思い、隣の席を見たが、春野はもうそこにはいなかった。どこいったんだろう、と思い教室を見渡すと春野はちょうどかばんを持って教室からでるところだった。
僕は明日返すのもめんどくさいと思い、春野を追いかけた。しかし、春野は下駄箱とは反対方向に歩いていった。あっちには体育館くらいしかないけど、どこに行くんだろう。
僕は春野にバレないよう後をつけることにした。春野はそのまま体育館にむかい、人気のない裏の方へ歩いていった。
(あんなところに何の用だろう?)
僕はそんな疑問を持ったが、すぐに理由がわかった。
「えっと、春野さん。まず、きてくれてありがとう」
「全然大丈夫だよ!それで、話ってなにかな?」
「一目惚れでした!僕と付き合ってください!」
どうやら僕は告白の現場に遭遇しているようだ。告白してる男子の声は聞いたことがある。
おそらく僕のクラスの人だろう。
僕は人の告白をのぞくのは悪いと思い、静かにその場を離れた。
僕はそのまま学校をでて、家に帰った。
そしていつも通りお風呂に入り、晩御飯を食べて、ベッドに入る。
それにしても、あいつが告白ねぇ……
そりゃモテるんだろうなとは思っていたけど実際に告白されている場面をみると思うところがある。
しかも体育館裏に呼び出されていることを僕に悟らせなかった。
僕は察しがいい方だと自負している。
そんな僕も気づかないくらい自然に振る舞えていたってことはこんなことが何回もあったんだろうな。
春野のクセに……
僕はなんだかモヤモヤしながら眠りについた。
……あ、鉛筆と消しゴム返すのわすれた。
明日でいっか。