11話 非力な元勇者
「……もう……辞めて……」
「……ふひひっ……嘆きは通用しませんぜ」
経験者は語る。元々逃げ回って体力が無かったからか魔剣の姿に戻ってしまった。
何処から衣服が湧いて出てくるのか疑問でしかない。
「……ふうっ。二人とも良かったよ!」
男の娘になんてならなければ良かったとつくづく思う。
腹は減ったし、脚は痛いし、こっちとしてはつまらないし。トイレは辛うじて行かせて貰えたが同伴。本当に辛かった。
「そう言えばアレスト様は何故この様な姿に?」
「女神に頼んだんだよ……可愛い女の子にしてくれって。結果的には男の娘だった訳だが。それよりだ、あの魔人とやらは一体なんなんだ」
本題に移る前にかなり時間がかかってしまったが、やっと本題に入れる。
「あれは魔王の手下です」
「復活したのか!?」
「いえ、違います。アレスト様が自爆で倒した魔王の娘。それが今の魔王として君臨しているのですよ」
まさか娘が居たとは。あんなモンを手下にするぐらいだ。前の魔王よりも相当厄介な事だろう。
そもそも魔王討伐だって自爆というゴリ押し技で何とかしたぐらいだからな。厄介なんて物じゃない。
「じゃあ、レイヴンについてだが……」
「私の知っていることなら全て言います。なんでもどうぞ」
「偉大なる大賢者様……だもんな?」
「そ、それは昔の話では無いですか!」
頬を赤らめて俺の肩を揺らす。
「お前の昔は何処から何処までが昔なのかわかんねぇよ……とまあこれは置いといてだ」
揺らす手が止まる。
「単刀直入に聞くが、あの魔導剣士って何者だ?」
「レイヴンを操っている人の事ですね? 彼女は魔王軍の幹部、魔導剣士のリィギ。魔導剣術の他にも、洗脳魔法、記憶鑑賞が使える模様」
なるほど。非常に厄介な相手だ。
「だが俺と話していた時はいつも通りだった気がするが」
「私達が知る彼自身、自分が洗脳されているとは思っていないんですよ。第二の人格を無理やり作らされ、それが操作されている。そんなイメージでした」
ただの洗脳魔法では無い。という事か。
「しかも第二の人格の方が身体の支配権が強いという特徴もあります」
やはり大賢者を名乗っていただけあってか色々情報を持っているな。
物凄く頼もしい。
「レイヴンやトリも魔王サイド……と考えた方がいいな」
「そうなりますね。今回の魔王らの戦力は最早測りしれませんので。もし全面戦争になれば確実に人間側が負けます。私も魔導師団を育てては居ますが、魔人一人にあれだけの戦力を削いでいたら埒が明きません……」
あんな強力な魔法を使える軍団でも対応は難しいのか。
「全盛期のリーダーさえいれば……でももう居ないので……」
「分からんぞ? もしかしたら俺のように既に転生しているやもしれんからな」
「崇める神が居ない……と言っていましたが……」
「そう言えばそんなのがリーダーの口癖だったな」
これは転生してるかも怪しいぞ。
俺の場合は担当女神が居たから良かったものの、リーダーは……。
「そう言えばですけど、ケーク教って知っていますか?」
「あっ……」
「トリの第二本部がある街に新たに出来た宗教なのですが、勢いを増し続けているんですよ。なんでも、慈愛の心に満ちた神の使いを信仰しているようで。亜人の身分を良くしようと働きかけているらしいですよ」
……やけに頑張っているんだなぁ。
教祖はお着替えさせられているって言うのに。
「アレスト様がもしかしてケーク教の教祖……とか。まさかそんなことはないですよね」
「いや……俺がケークで、ケーク教の教祖。というふうになっているんだ」
「なんと!?」
まあ隠す必要も無いだろう。
「純粋な人々を騙してお金稼ぎをする気ですか!?」
「しねぇし勝手に作られたんだよ! こっちは迷惑しているって!」
「あっ……そうなんですか。すいません」
まあ……そうなるのも仕方が無いというか、なんというか。
ツッコミも少々キツかったな……。
「……獣人の女の子を助けたら勝手に作られたんだ」
「ほー! やっぱり根は変わりませんね」
「要らない事をしたせいでこうなってしまった訳だ」
「少なくとも獣人の少女にとっては要らなかったこと……では無いと思いますよ?」
そう、穏やかな口調で返してきた。
確かにそうだ。要らない事では無かったはずだ。
「だがなんかその……救われた異世界をもう一度、今度は戦わずに楽しむという目的できているんだよ。勝手にできたファンクラブみたいな宗教に縛られたくはないというか」
つまり自由に生きたい。使命とか、そう言うのを全て投げ捨てて。
「ん〜確かに今のアレスト様のステータスは赤ちゃんよりも酷いですからね」
「そこまで酷いの!?」
「私が男の娘アレスト様可愛いな〜襲いたいな〜って思ったら抵抗する間さえ与えられずにイチャイチャされますね。間違いない」
「……う、うそだろ」
非力な女性に負けるほど弱いってなんだか嫌なんだけど……。
「私でも子指一本で押し倒せますよ」
そう言って右の小指を立てる。
「やってみて」
すると額に小指を合わせて――
「えい」
「うわあっ!?」
それほど力を入れていない様だが、いとも簡単に押し倒される。
これは流石にショック過ぎた。




