砂漠の民 2
「面を上げよ
我が不詳の子らよ、我に何を望むか?」
跪き、額を地面に擦り付けていた一団のシルエットの内、一人が動く
頭を少し上げるが、頭は垂れたまま、目を合わせることは無い
若い女だ
腰まで届く銀の髪に、コーヒー色の肌、たわわな胸が成熟した女であることを主張している
砂漠の民らしく全身を布で覆っているがその布は薄く、女のシルエットがくっきりと浮かぶ
引き締まった腰と豊かな臀部がシルエット越しに浮かんでいる
族長が怪我をしているということなのでその娘だろう
「恐れながら、申し上げます」
少しの震えながらも、この場の空気に見合う凛とした声が響く
「我ら部族トゥアレグは、かつてこの地を始祖たる我らが父から賜りました
我らが父は空に浮かぶ神殿にお住まいになり炎を自在に操り、我ら民を、この地にお導きいただきました」
こちらの気配を探るように言葉が止まる。
「続けよ」
促すことで、暗に肯定を与え、更なる言葉を促す
「ベルベルの民の内、我らトゥアレグに我らが父は、ウクバの地をお与えいただきました
我ら子らは、我らが父の思し召しに従い、この地に満ちてまいりました」
娘が頭上げ俺の眼を見る
「我が父よ」
言葉が詰まる
「我が父よ、我らは今、この地を失いつつあります
我ら不肖の子は、思し召しに従い、我が父の威光をもってこの地を治めてまいりました
が、今や力及ばず蛮族に蹂躙されつつあります」
目線が縋る様に俺に纏わりつく
「我が父よ、我ら不肖の子に、再びこの地をお与えください」
女が祈りの姿勢を取る
女にあわせ、ひれ伏していた全ての民も祈りの姿勢を取る
「子らよ、希望は聞いた
我が与えたこの地を不当にも奪おうという蛮族には我が鉄槌を下そう
安心するが良い」
俺の芝居がかった声が砂漠の民に力を与える
「我が父よ
我らは、わが父の物です
わが父の御心のままに従います」
砂漠の民の掌握の第一段階は無事に完了した
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「アマル、その椅子に座れ」
俺は今、部族の長の娘のアマルを部屋に招いたところだ
セレモニーは終わったのでここからは実務的な話を進める事にする
「アマル、お前の父親は怪我をしているようだが具合はどうだ」
「はい、我が父 『アマル、今後は俺の事はシーズと呼べ』 はい、シーズ様、
我が父は、敵部族であるファッターフの一族との戦いで傷を負いました
一命は取り留めましたが、切られた傷口から悪鬼が広がりシャーマンの見立てでは後一週間程の命との事です」
傷口が化膿したようだな
後で手当てをしてやるか
「アルマよ、お前の父親の命は俺が救ってやる
俺のしもべをお前の父親の所まで案内しろ」
「ハッ、オマール、父の所までシーズ様のお供を案内しろ」
アルマがそういうと、オマールの後ろに控えていた若者が立ち上がった
俺は後ろに置いていた汎用型のアンドロイドに指示を与える
「あの若者について行き、怪我人を治療室に運び、適切な治療を行え」
俺のアンドロイドが動き出し、オマールと一緒に部屋から出てゆく
「シーズ様、我が父に救いの手を差し伸べて頂きありがとうございます」
アルマが椅子から離れ、跪く
俺は、椅子に座るように促し話を再開する
「お前の父にはできるだけの治療を行うので心配するな
それより、お前の部族の今後だ
お前達はこれからどうしたいのだ?」
俺の言葉を受け、アルマは俺に縋るように話し始める
「シーズ様、我らトッアレグの民は永きに渡りウクバの地で栄えて参りました
ファッターフに奪われたウクバの地を取り戻すのが宿願です」
『雪、トッアレグと戦っていたファッターフの一族は今どうしている』
『彼らは、ここから約200km離れた場所にいます
人数は千名程度です』
「お前たちと敵対しているファッターフの一族はここから約200km離れた場所にいるようだ
人数は大体千名だな
この一団を掃討すればウクバの地は取り戻せるのか」
「はい、その一団に我々は敗れ、シーズ様にすがるためこの地に参りました
かの者達と一戦を交える雌雄を決したいと思います」
「敵は千名、お前達は精々300。どの様に戦い、その際に俺に何を望むか」
アルマの顔が歪む。自分達ではどうしようもないことが分かっているのだ
「我々の力では彼らに勝つ事は望めません
シーズ様のお力でファッターフの一族を滅ぼして頂きたく存じます」
「俺の手だけで、ファッターフの一族を滅ぼして欲しいのか
それも可能だが、俺の力でファッターフの一族を滅ぼした後、トッアレグの民はどうやってウクバの地を収めるのだ
俺頼みで敵を追い払っても、自分達に力が無ければ、別の民に追い払われるだけだぞ」
「それは… 我らシーズ様にウクバの地を頂ければ、その地に満ち力を蓄えます」
子を成し、一族を増やし、その力でウクバを維持してつくと言う事だが…
充分な戦力を得るまで何十年掛かるのか
精神論にすぎず現実的では無い
「アルマよ。それはファッターフや他の部族が何十年の間、ウクバの地に侵攻し無いことが前提であまりに楽観的だな」
「シーズ様、それではどうすれば良いのでしょうか?」
「ファッターフの一族は殺さない。殺して仕舞えばその後は使えないからな
彼らを震撼足らしめ、トッアレグに服従させる
ファッターフの一族をお前たちにやろう」
「シーズ様、誠にファッターフの一族を我らに頂けますか」
「俺を疑うのか?」
アルマをひと睨みする
俺の怒りを買う事を恐れてアルマが平伏する
「申し訳ありません。決して、シーズ様を疑ってはおりません」
「それでは、俺の差配を待つ事だ
準備が整い次第、ファッターフの民を従えに行くぞ」
「誠にありがたき幸せです」
平伏したままアルマが俺に礼を述べる
「話はここまでだ
お前達に食事を取らせよう
こいつの後について行け」
もう一台の汎用型アンドロイドが動き出し、アルマはその後に付いて出て行った
『雪、聞いていた通りだ
一千名の部族を無力化する必要が出来た
案はあるか』
『ハイ、一気に無力化するなら催眠か電撃が良いかと思います』
『催眠はガスを使用することになるが条件がハマらないと難しく無いか。』
『催眠ガス弾を叩き込めば良いと思いますが、ご指摘の通り千名が纏まっている必要がありますね
上空から電撃で無力化する方が制約は少ないと思われます』
『では、電撃にて無力化する方向で作戦を建ててくれ
明日の朝に作戦の説明ができるように準備を頼む』
雪は優秀だから、丸投げでも結果を出してくれる
明日の朝までにはしっかりとした計画が出来上がっているだろう
外では食事に向かうトッアレグの民が食堂に移動し始めた様だ
そっちはアンドロイドに任せておけば問題がないので、俺は医務室に向かうことにした
医務室の扉を開けると中は野戦病院の様になっている
思ったよりも怪我人や病人が多い様だ
「シーズ様、わざわざお越しいただきありがとうございます」
アルマが走り寄ってきた
「思ったより、怪我人と病人が多い様だな」
「はい、戦での怪我人に加えて敗走時の過酷な環境に老人や子供が耐えられず病人が増えました
でも、シャーマンから諦める様に言われた怪我人や病人もこちらの信義で傷口が塞がったり、具合が改善したりしております
我が父も切られた切り口の悪鬼が収まりました
誠に、人ならぬお力、有り難く御座います」
そう言ってアルマは跪いた後俺の手を取りキスをする
滅ぶしか無いと覚悟した一族が救われている訳だから感謝も殊更なのだろう
「アルマ、お前の気持ちはよくわかった。お前達の命に加えて土地も取り戻して与えてやるので楽しみに待っている事だ」
「はは、シーズ様、我が一族はシーズ様から受けたご恩を決して忘れません」
感極まったアルマはそう言って俺の脚にしがみつく
俺の人生の中でこんなにも感謝された事は無かった
偽神様の役も捨てたもんじゃ無いな
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俺一人で何時もは静かだったこの基地も今日は大勢の人のざわめきに満ちていた
思えば、母星を出発してから他人と話す事はほとんど無かった
久しぶりの喧騒はこの星の人間に対するシンファシーを感じさせる物だった
自分が生きている事を実感できたな
そんな事を考えながらベットに潜り込み眠りについたんだが
なんでこうなった
横に他人の気配を感じて目が覚めた
俺ひとりのはずのベッドに裸の女がいる
柔らかな女の肌は心地よく、甘い体臭は俺を欲情させる
だが、なんでこの部屋に入れたんだ
『雪、警備はどうなってるんだ」
『侵入者を確認しましたが、マスターに発情しているメスでしたので通しました』
発情したメス…この腐れAIが何を言っているんだ
俺が雪を怒鳴り付けようとしたタイミングで口が塞がれる
甘い吐息が俺の言葉を溶かす
「シーズ様、お情けを頂戴致したく」
そこには雪の言う通りに発情したメス、アルマがいた
アルマの肌は少しひんやりとしてそれが心地よい
豊かな双丘が俺の胸に押し付けられる
アルマが両腕で俺を絡めとる
俺は体を入れ替えてアルマの上になる
「アルマ、俺を欲してどうする」
「シーズ様の御子をこの腹に宿しとうございます
でも、それ以上にシーズ様のお力に触れ、アルマはシーズ様の物となりたくなりました
愚かな私をシーズ様の側女にお加えください」
「俺のものになりたいか
それではお前を堪能してやろう」
俺はアルマの豊かな胸を強く握る
アルマは苦痛に一瞬顔をゆがめた後、自分が俺に征服される喜びに打ち震える
母星を出て以来の女
俺はアルマの胸を一層強く握りしめる
夜は長い
この女を十分に堪能することにしよう