第三惑星への降下
雪は本船を無事、第三惑星の周回軌道に乗せてくれた
窓の外一杯に第三惑星が広がっている
出撃前のブリーフィングでの説明の通り、地球型惑星だ
青い海の中に、緑の大陸が浮かんでいる
「雪、俺が低温スリープに入る前に指示した宿題の答を教えてくれ」
「はいマスター、不確定要素が多く十分にマスターの要望には添えませんが回答します
まず、宇宙空間にて本船に留まる事はお勧めしません
酸素は六か月分しかありません
低温スリープも1年が限度です
それを越した場合、脳を中心とした身体に重大な障害が発生する可能性があります」
「それは、第三惑星に降りろということか」
「その通りです
元々、本船は第三惑星への降下を予定していました
一部貨物は失われていますが、降下場所の選択を誤らなければ、残された貨物で小規模なコロニーであれば持続可能です」
持続可能.......
この船は、惑星への降下したのち、プラントの中核となる設計だ
よって、一旦惑星に降下してしまえば、宇宙船としてはお仕舞だ
「雪、それは余命を20年として惑星で暮せということか」
「はいマスター、マスターの現年齢からして後20年生きれば、宇宙艦隊の勤務者の平均寿命には達するはずです」
たしかにな!
反人類同盟との抗争が続く中、宇宙艦隊の勤務者の残存年数は下がり続けているからな
しかし、20年後に確実に死ぬことを受け入れるには俺は若すぎる
「雪、その20年を使い、この惑星から脱出する船を作ることは可能か」
「マスター、一人では難しいと推定いたします
宇宙船を一から構築する必要があり
その為には、第三惑星の現地民を徴用し、本船の教育システムで人材の格上げを行い各種プラントを構築する必要があります
産業革命にも達していない原住民を使役してですので、現時点での成功確率は6%程度と推察されます
また、その場合、マスターの本惑星での20年間はその取り組みに捧げることが必要です
とても孤独で厳しい20年になると推定されます
一方で、マスターが保有するこの船と資材を消費に使用すれば、王として現地人に君臨することも可能です
20年間をこの惑星で王として不自由なく生きることができます」
「王として君臨する
それはそんなに簡単なことか」
「報告されているこの惑星の状況ですが、中心に城を備えた城郭都市がいくつも存在しているのが確認されています
この船の戦力を使えば、城にいると思われる都市の支配者を制圧し、新しい支配者になることは可能です
上空から降下し、この船や作業用ロボット等で制圧した場合、神の使いとなり、王ではなく、神の代理人としての支配も可能かと思われます」
「確かにな、だが、神の代理人として支配するまでには、現地人の多くの命を代価にする必要があるな」
「どうせ、20年後には全員死んでしまいます」
雪は合理的だ
死する定めにある命を自分が取り上げることを躊躇する必要はない
だが、できれば命での代価は低く抑えたい
情報が足りないな
「雪、情報が足りない
大陸、都市、住民について判っていることをもっと教えろ」
「第三惑星には、大陸は5つあります
その内、赤道部を跨る、最大の大陸に原住民が生息しています
以降は、中央大陸と呼称します
残りの4つの大陸には原住民に加え陸生の生物の存在は確認できません
これらは、周辺大陸郡と呼称することとします」
「周辺大陸は、生物の生存に適さないとでもいうのか?」
「いえ、周辺大陸郡の緯度、日照量から考えて充分に生存に適します
事実、植物や鳥類の生息は確認できています
周辺大陸郡の興味深い点として、化石燃料や鉱物資源等がほとんど見つからないことがあげられます
ただし、周辺大陸郡には複数の鉱物資源が混ざり合ったスポットが存在します
鉱物資源の混ざり方は、生成済み資材に対して非常に高温、高圧にさらされた場合の形状に近いもとです」
「雪、それは破壊により滅びた古代文明の残滓があると言うことか?」
「肯定します。42%の確率で、大規模な破壊活動により滅びた都市群が存在します」
「42%か、ずいぶん低い確率だな」
「周辺大陸郡の内、北大陸では半径100Kに及ぶスキャンをリジェクトする領域が存在します
この領域を調査しませんと、古代文明が滅んだことが特定できません」
目の前の3Dフォロとして浮かぶ第三惑星で赤い点が点滅する
「それはまた興味深い話だ
だが、まずは、中央大陸だな
現地人を理解することが必要だ
それにリジェクト領域からは、スキャンに対し反応はなかったんだろう」
「リジェクト領域からは、スキャンに対し反応はありませんでした
現時点では脅威はほぼないと推定されます
中央大陸ですが、中核都市と思しき、城郭都市は5つ確認できています
いづれも、中央に大掛かりな城を構えています
中核都市を中心に非常に初歩的な道を介在し周辺都市とのネットワークが構築されています
この各ネットワーク郡を繋ぐ道が非常に限られていることからこの大陸は大きく5つの国家からなることが想定されます」
5つの国家か。
国家間の関係はどうなっているんだろう。
「雪、5つの国家に関して特記すべきことはあるか」
第三惑星のフォログラフが回転し、中央大陸がズーミングされ新たな赤い点が現れる。
「この光点ですが、ここで国家間の紛争が発生している可能性があります
この光点を囲む都市群に対して大量の人員、物資の移動が確認されます」
中央大陸の光点が移動する
「こちらでは、国家内で紛争が発生しているようです
国家内にも関わらず、この光点を挟み存在する都市群へ各後方から人員や物資の活発な移動が確認されます」
内戦ね!
面積的にはずいぶんと見劣りする国家のくせに、余裕だな
「雪、当初計画通り、コロニーを構築するとしたら最適候補地はどこになる」
中央大陸に7つの光点が新たに現れる
「コロニーに必要な化石燃料、鉱物資源が豊富な場所はこの七つです」
七つの光点を見る
ある一つ以外は、全て都市に隣接している。
原住民に荒らされていない場所がひとつあるようだな
山脈と砂漠が功を奏したか
砂漠の先は海
国家は山脈の先か
手つかずの地帯というわけだな
「雪、決めたぞ
まずは資源を抑える
といっても、いきなり本船を降下させるのはリスクが大きい
実験プラントのモジュールを降下させるぞ
俺も一緒に降下するからな」
「実験プラントの降下&展開であれば自動化されておりマスターの介在は不要です
マスターが一緒に降下する必要はありません
それに、実験プラントのモジュールは一旦、降下してしまえば、本船に帰還することは叶いません
マスターが同乗する必要はありませんし危険です」
「雪、おれは、実験プラントのために降下するわけじゃないぞ
実験プラントを拠点にこの国に潜入する」
俺が指差したのは、内戦が勃発していると思われる国だ
「内戦状態なら潜入には都合がいい
人の動きが激しいからな
それに混乱している国なら収奪を仕掛けることも可能だ
実験プラントに加えて、E型装備を積み込んでくれ」
俺は、大陸への降下を決断した
でも、20年間で自分がなすべきことに思いが至らない
自分はこの先、どうすべきなんだろうか
物思いに伏せり見上げた窓の外には第三惑星が広がっている
20年後には、全てが無に帰してしまう星だ
全て失われることを前提に好き勝手をしても、きっと心は痛まないだろう
だが全てを無にするには余りに美しい星でもある
なんとか救いたい
そんな無謀な気持ちにまでなる美しさだ