妹がヒロインちゃんだった場合
妹にすべてを奪われた悪役令嬢は断罪という形で、受け継ぐはずだった爵位も無くした。両親や使用人たちからの愛情だけでなく、文字通りすべてを奪われた体であり、悪役令嬢はすべてを奪われたかのように見える。
だが、一つだけ間違っている。
妹は確かに誰もに愛されているだろう。
しかし、無実の姉を断罪したのである。性格が良いとは決して言えない。
断罪する為に姉に罪をなすりつけ、注目を浴びていた妹は姉がいなくなったことで、新たに加害者を作り出す必要があった。
まずは使用人にその矛先が向いた。
愛らしいお嬢様から苛められたと言われ、目を白黒しているうちにクビになった。今まで悪役令嬢による苛めに義憤を駆られていた我が身が今度は標的にあったのである。真実を知ろうとしなかった愚か者には自業自得だった。
使用人たちは次々と罪に問われ、クビになった。
家の中だけではなく、外でも加害者は生まれた。身分の低い令嬢たちである。
みんなのアイドルたちを侍らしたヒロインちゃんに苛められたと言われ、何人もが領地に籠った。悪役令嬢が責められている時に当然だと思っていた彼女たちにも、防波堤となっていた悪役令嬢がいなくなれば、災いは降りかかるのである。
そして、次の対象は身分の高い令嬢たち。身分が低くては言葉や実力行使の嫌がらせをしたと言われたものが、権力を笠に着たものだと言い張られた。彼女らと同じ権力者を取り巻きにしておいて、よくそんなことが起きると思っているものである。
身分の高い令嬢たちは互いに集まり、親戚を必ず傍に居させることで証言者を作って対抗した。彼女らの親戚からしてみれば、美しいだけの頭のおかしな令嬢が難癖をつけてきているとしか思えず、ヒロインちゃんの実家や宰相に苦情を申し立てた。
だからといって、ヒロインちゃんは止まらない。
彼女が愛されるには、誰かが苛めてくることが必要だった。可哀想な彼女でなければ、誰が美しいだけの彼女を気にかけるだろうか?
美しいだけなら、ヒロインちゃん以外もいる。
そう。ヒロインちゃんの姉である悪役令嬢も美人だった。
そんな悪役令嬢を断罪してまで得た幸せをヒロインちゃんは失いたくなかった。
結果、彼女が選んだ道は悪評で自滅する道だった。
誰が好き好んで嫌がらせをしたと言いがかりをつけてくる人物と交流を持ちたいだろうか?
ヒロインちゃんへの招待状は一切、来なくなり、彼女はエスコートをする男たちの連れとしてだけ現れるようになった。
勿論、そのエスコート相手も、身分や権力がなくては招待状が送られなくなった。
誰が好き好んでケチを付けてくる人物を呼んで、自分の開いたパーティーで苛められたと噂を立てられたいだろうか?
ヒロインちゃんの悪評は目が節穴な人物以外に知れ渡り、処罰を受けた令嬢たちが可哀想だ、姉も無罪だったのではないかと言われ、まだ取り巻きをしている者たちは父兄によって強制的にヒロインちゃんと引き離され、ヒロインちゃんは両親に連れられてのみ、社交界に姿を現すようになった。
さて、そんな地雷持ちのヒロインちゃんも婿がいなければ後継ぎ問題があるので、結婚することになった。男女比がおかしいにもかかわらずお相手は一人だけ。
ヒロインちゃんの夫はヒロインちゃんを別邸に閉じ込めて、愛人を引き入れて愛人との子どもを後継ぎにしてしまった。愛人の子どもに妻の実家を継がせるなどあり得ないことなのだが、ヒロインちゃんの復権や次世代でもヒロインちゃんのような娘が現れては困ると特別な許可が下りたそうだ。
こうして、姉から地位を奪ったヒロインちゃんはその地位を夫に奪われ、誰に顧みられることなく生涯を閉じた。
さて、老貴族たちとの結婚も断り、断罪されて家から出て行くことになった悪役令嬢はというと、妻殺しの疑いのかかっている男と結婚した。
妻殺しを疑われていた為に家を継ぐはずだった悪役令嬢では結婚が許されない相手は、断罪されて家を追われた身でもやや大変だった。わざわざ老貴族ではなく、妻殺しを自ら望んだことを多くのものは嘲笑したが、悪役令嬢は優しい夫と子どもに恵まれ、幸せになった。
自分を邪険にして虐げていた両親も招待状が来なくなって現実を見るしかなくなり、手の平を返してきたが、縁はとうに切れていると妻殺しの疑いのある男が追い返したという。




