男爵令嬢がヒロインちゃんだった場合
この世界は男女比がおかしい。男10に対して女が1という極端な世界なのだ。
男女比が著しく偏っている為、それはもうゆっくりと衰退している。
仕方がないから、多夫一婦制になり、兄弟や従兄弟と妻が同じなんてことはよくある。
貴族ともなると、妻が当主で繋がりが必要な家から選ばれた夫たちという逆ハーが普通だったりする。
というわけで、ヒロインちゃんの逆ハーなんてものは女当主になるはずの悪役令嬢から夫候補を略奪した暴挙となる。
断罪とか騒がれても、そもそも数少ない女性に対する罰は非常に少ない。処刑は勿論、国外追放などないのだ。まだ嫁いでもいないので子どもが産めないともわからないので、娼館送りにも出来ない。
この世界では子どもが産める女性はとことん優遇され、子どもが産めない女性はとことん冷遇されて娼館送りになる。
従って、未婚の悪役令嬢はほぼ無罪放免だ。
何の瑕疵もなければ同世代や少し上と結婚できたところが、後取りのいない老貴族たちと結婚することになっただけ。
加虐趣味などで妻を死なせた男はそれだけで結婚の優先順位から外されるので、刑罰としての結婚にも組み込まれない。まだ子どもを産める可能性のある女性でそんな勿体無い使い方をするくらいなら、病気で妻を亡くした男寡や地位が低くて結婚出来なかった老貴族の後取りを産む腹として利用するほうが合理的なのである。
そして一年後――
悪役令嬢からは爵位が取り上げられたが、ヒロインちゃんの取り巻きになった弟にはその地位は許されず、従姉妹がそれを継いだ。女性が少なくなり、貴族は女系となっているのだから当然の処置である。
悪役令嬢は夫たちに連れられてごく普通に社交界に戻って来ていた。
だが、問題はヒロインちゃんたちのほうにあった。王子たちは男爵令嬢の夫になったことで、持っていた地位を失った。元々、王子や公爵令息などに過ぎず、彼らは爵位を持っていないのだから、そうなるのは当たり前だ。持参金や非公式な称号はあっても、彼らの地位は男爵の夫君という名称だけ。
今までは生家の権力に守られていた彼らに男爵となる令嬢の夫に過ぎない身分は辛過ぎた。トントン拍子に出世していたのは頭打ちになり、元婚約者と結婚した相手に追い抜かれる始末。よく考えれば、彼らの元婚約者は伯爵以上の家の人物ばかりだ。余程の実力差が無ければ、妻の家の地位が高いほうが出世しやすい。
一年前にはキラキラと輝いていたヒロインちゃんの夫たちは、今では仕事や社交で落ち目となった。
逆に後取りの必要だった老貴族たちの妻となった悪役令嬢は爵位のある夫たちの権威を笠に着て生きている。その老貴族たちも社交の上手い美しい妻のおかげで株を上げている。
その老貴族たちが功績で爵位を得た元平民だろうが、今の彼らを見れば関係ないことは一目瞭然だった。