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14.二度あることは三度ある(2)




 村の人たちの容態もアルトがつれてきた騎士3人の容態も安定し、一息つくため私は外に出ていた。今度こそ!今度こそ、一息つくために、完全な休息をとるために、森を散歩していたのだ!


 気持ちよさそうな草原があったので寝転がる。綺麗な水色の空がどこまでも続いている。すっかり朝だ。けれどもまだ空には月も浮かんでいて、ちぐはぐな感じがまた素敵だ。

 なんだかアルトとまだ友達じゃなかったころの夜更かしして話していた日々を思い出した。


 それにしてもアルトは成長した。リディアちゃんしみじみとうなずくよ。


 はじめてあったころのアルトはソラだけしか大切ではなかったのに、私のことも友達として大切に思うようになってくれ、今なんて自分の部下の騎士さんたちのためにあんなに必死になって。自分のことのようにうれしい。やはりアルトが悪役になんてなるわけがない。運命は変えられるんだよ。


 そんなふうに感動していたから気づかなかった。そう言い訳をさせてください。


 「え。リディア……?」

 「……げ」


 背後で聞こえた声に嫌な予感を感じつつ振り向いて、私は泡をふいて倒れた(精神的に)。

 そこには瞠目するアルトが立っていたのだ。


 二度あることは三度ある。この言葉を迷信だと思っていた愚かな自分を殴りたい。



///////☆


 お互いが動きを止めて数分。

 最初に動いたのはアルトだった。

 アルトはじりじりと静かに私に近づいてくる。ひぃぃぃ。虫取少年に追い詰められる虫の気持ちなんて知りたくなかったぁ!


 「夢?リディアの幻覚…なの?」

 「そうです。夢です。幻覚です!」

 「…。」


 アルトが目をぱしぱしと瞬かせながら私の頬をつねる。……と、冷静に解説しているが痛くないわけじゃないからね!?むしろめっちゃ痛いよ!?


 「いだだだっ!急になにすんのよ!?」

 「痛い。てことは、うん。夢か」

 「痛いなら夢じゃないでしょ…じゃなくて、夢です。幻覚です!幻覚ですっ!」

 「そうだよね。リディアがここにいるわけない。そう簡単に見つかるわけがないんだ。2年前どこぞのだれに攫われて、こっちが権力をふりかざして王に借りまでつくって、目を皿にして探しているのに全く見つからないんだから……リディアを攫ったやつ、殺す」


 寒い寒い寒い!わちゃわちゃしてたら辺りの気温が一気に下がったよ!季節は6月。夏が近い=気温としては温かいor暑いはずなのだが!?こいつはやはりアルトで間違いない!バカ!そしてこの様子だとガチで師匠が殺されるよっ。


 「ていうかどうしてここにアルトがいるわけ!?救護室で寝てたはずだよね!?」

 「そうなんだよ。目が覚めたら布団のなかにいたから、お礼を言おうと薬屋を探しに来てこの森まで来たんだ。そしたら森にリディアがいて…うん。僕はまだ夢の中にいるんだね」


 すごい偶然が重なってアルトは確実にこれを夢だと思ってる。天は私に味方したようだ。ありがとう神様!


 「そうか。夢なら僕の思い通りになるのかな」


 天はやっぱり誰の味方でもなかったらしい。

 アルトの笑顔に私は後ずさる。だって(私にとって)不穏な雰囲気がしてきたんだもの。神様裏切ったなぁ!


 そうして気がつけば彼はにこにこ笑顔で私の目と鼻先にまで来ていた。ちなみに私は当然ひきつり笑顔。


 「ねえリディア」

 「は、はい?」

 「ひざまくらして」

 「はい?」


 ひきつり笑顔は痙攣笑顔に進化しました。










 なぜこうなった?

 現在私のひざの上には女子がピンク色の悲鳴を上げること間違いなしのとろけるような笑顔のアルトがおました、はい。

 見ての通り、私はアルトにひざまくらをしていた。


 「ふふ、ふふふ。僕のリディア。2年前よりやわらかいね」

  

 アルトは幸せそうに私のひざに頬擦りをする。つーかやわらかいってなんだ!お前まで私を豚っていじめるつもりか!


 「どうしたのリディアの幻覚?顔を真っ赤にして…え。もしかして照れてるの?」

 「んなわけあるかァ!これは怒りの赤面だわ!そもそもどこに照れる要素があるのよ!」

 「幻覚なのに本物のリディアみたい。ちょっとは照れてくれない?僕、照れたリディアの顔がみたいんだけど」

 「アルトが見たいのはソラの照れた顔でしょ?」

 「うわ。幻覚のくせにリアルを追求しすぎだよ。やめて。幻覚くらい僕の思い通りに動いて」


 リアルを追求ってなんだよ。リアルなんだから仕方がないだろ。

 だが、うーん。そうか。このまま素の反応をしていたらアルトに怪しまれるらしい。それは困る。


 「いいよ。アルトは何がお望み?リディアちゃんが叶えてあげる」

 「え!ほんとにいいの?」


 私の言葉を聞いてアルトががばっと起き上る。おきあがりこぼしのようだ。腹筋すごいな。

 それにしても眼がキラキラと輝いていて怖い。こいつなにを要求してくるつもりだ。警戒していると、アルトがポソッと言った。


 「あのね…頭、なでて」

 「は?」


 言われた通り頭をなでる。

 するとアルトは頬を桃色に染めながら「ふふ、ふふふ」と乙女のように笑う。ねぇ、この子大丈夫?この2年間で頭おかしくなった?


 「ああ。ダメだ。幻覚だってわかってるのに、やばい。幸せすぎて死にそう。このリディアの幻覚、今までの幻覚の何倍もリアルだし。禁断症状がさらに悪化したみたいだ」

 「ちょ、禁断症状ってなに!?」


 アルトは私に会えなくて禁断症状発症したらしい。私の幻覚も見たことがあるとのこと。

 やばいよ。アルトがブラコンヤンデレなのは知っていたが、ここまで友達大好き人間だったとは。だけれども私はもうこの先、アルトに会うつもりはないし……


 「アルト?他にはなんかない?お願い全部叶えてあげるよ?」

 

 私はアルトが向けてくれる友情を裏切る。生きるために。みんなを生かすために。これはどうしてもゆずれないのだ。だからそのかわり、今だけはアルトの願いをかなえてあげよう。罪悪感を感じた私はアルトに微笑む。

 


 そんな過去の私を殴りたい。



 「え!じゃあ僕のこと愛してるって言って!」

 「は?」

 「ずっと僕と一緒にいるって言って!」

 「はいぃ!?」

 

 頬を上気させながら私に詰め寄るアルト。当然後ずさる私。

 ちょ、待て。少し、いやかなり待って。


 「えーと、アルト?それは、うーんと今の言葉は私じゃなくて、ソラの口からききたい言葉だよね?」

 「……この幻覚リアルすぎてムカツク。殺意すらめばえてきた」

 「痛い痛い!そして寒いぃぃ!」

 

 アルトは目の笑っていない笑顔で私の頬をギリギリとつねりはじめた。痛いよ!?そして気温もみるみると下がる。もう私の吐く息、真っ白だ!冬ですか!?


 「だってアルトはソラのことが大好きでしょ?私よりソラに愛しているとかは言ってほしいよね?」

 「リディアもソラも大好きだけど、種類が違うでしょ!?なんでリディアはそういうところ、バカで鈍感なわけ!?いや違うな。リディアは常にバカだ」

 

 アルトは「はぁ、もうやだ。リディア嫌い。でも好き」とうなだれている。

 言っておくが私だって好きの種類が違うことくらいわかるぞ。ソラに向ける好きが「ラブ」。私に向ける好きが「ライク」でしょ?ほら、私バカじゃない。


 まあ今はそんなことどうでもいいか。

 理由はわからないけれど、ここはアルトの望みどおり「愛してる」って言ってあげようじゃないか。


 寛大なリディアちゃんはやれやれと、形の整った口を開きました。

 「アルト、元気出して。私、アルトのこと愛し……」

 しかし言い終える前に顔面が「ぼふっ」と爆発する。そこ!笑ったやつ!後で覚えとけよ!!

 

 「え、ちょリディア!?」

 「……しい」

 「え?」

 「はず……はずかしいっ!!!」

 「……。」


 両手で頬を隠して「ぎぃああああ」とその場でのたうちまわる。だってはずかしんだもんっ!

 

 というか、熱い。さっきまで寒かったのに、今はものすごっく熱い。特に自分の顔面が熱い!

 だって愛してるってさ、はずかしいじゃん!今更ながら思うけど、なんで愛してるなの!?どうしてその言葉をチョイスした!?大好きじゃだめなの!?


 勘弁してくれない?とすがるような目でアルトを見れば、あれれー。アルト君が満面の笑みじゃないですか。リディアちゃん、嫌な予感しかしません。


 「リディアが照れてる…。あのバカで鈍感でアホのリディアが照れてる。へー、もっと照れた顔が見たいな。けどこれ以上なにをしたら照れるんだろ…あのときみたくキスでもすればいいの?」 


 嫌な予感的中!

 このままだと孤児院での別れの日が再現される。やばい。それはなんとしてでも止めなければ(ていうか、ほんとなんでキス!?たとえ頬にするだけだとしてもキスって大切な人にするものでしょ!?そう簡単にするなよ!)!

 

 「あ、あのさ!私、アルトってかっこいいと思う!」

 

 リディアは話を逸らすの術を繰り出した!

 しかしアルトの目は冷たい。まるで屍のようだ。


 「…かっこいい?僕が?リディアは今まで僕のことをバカだのブラコンだのヤンデレだの言ってきたけど、かっこいいとは言ったことがないよね。でもリディアの幻覚がかっこいいって言ってきた。ってことは、僕はリディアにかっこいいって思われたいってこと?夢でもいいからかっこいいって言ってもらいたかったのかな?ハハ、むなしいね」


 アルトは自虐気味に笑う。

 まさかの過去の自分が現在の自分の首をしめるという。おのれ、自分っ!そしてなんかごめんアルト。


 「でも私がアルトをカッコいいって思ったのはほんとうだよ!」

 「……?」

 

 アルトは疑わし気な目で私を見るが、ほんとうにかっこいいって思ったんだからな!


 「アルトが騎士さんたちをつれて、助けてほしい!ってお願いしにきたとき、とってもかっこよかった!」


 今までソラと私しかアルトは守ろうとしなかった。

 でも今は大切な部下の命を救おうとして必死に頑張っていた。それがものすごくかっこよかったのだ!


 「私、アルトは何年たってもブラコンのヤンデレだって思っていたから。見た目もそうだけど、中身がかっこよくなってて、感動し……」

 

 言いかけた私の言葉が止まる。止まらざるをえなかった。

 

 「ちょっと黙って」

 「へ?」

 「はぁ。ほんとにこの幻覚リアルすぎるよ」

 「へ?へ?」


 だってアルトがじっと熱のこもった眼で私を見るのだ。な、なぜだ。心臓がばくばく暴れはじめた。

 アルトはそのままゆっくりと私に向かって手を伸ばし、その手が私の頬にふれる。つねるのではなく、そっとやさしく触れる。じわっと頬に熱が集まった。ひぇっ。


 やばい。なんか、やばいっ。

 私の中でウォンウォンと警報音が鳴り響く。いますぐ逃げろーっと。だけれども体がその場に縫いついたみたいに動かない。


 「幻覚なんだから…これくらいいいよね」

 「は、はいぃ!?」

 

 そうしている間にも、とろんとしたアルトの顔がどんどん近づいてくる。なんかやばいじゃない。これは確実にやばい!

 だけれども体が動かないぃっ!そして心臓が破裂しそう!


 アルトの真っ白な肌と長い睫、きれいな淡い紫色の瞳がどんどんと近づく。それに伴って私の心臓はもう暴れまくる。体を飛び出さんかのごとく暴れまわるっ。

 そうしてとうとう鼻先が触れそうになった、そのとき。


 「ス~」


 アルトはその場に崩れ落ち、寝息をたてはじめた。


 「は?」


 スヤスヤと寝息を立てながら彼は私の膝の上で眠る。頬をつついても、のばしても、頭をなでくりまわしても起きる気配はない。


 「えーっと、おやすみ?」


 首をかしげながら言ったとき、頭部に激痛が走った。

 

 「痛い!?げんこつ!?痛いよ!?」

 「このアホが!もう少し危機感を持て!」


 頭上で聞こえた声に急いで頭をあげれば、そこには固く握りしめた拳から湯気を出すエルがいた。

 見るからにあんたが私の頭を殴ったよね!?


 「ちょっとなにすんのよ!?頭絶対たんこぶできた!ていうかどうしてここに?」

 「どうしたもこうしたもあるか!このアホ!ブス!まぬけ!豚!」

 「なんなのよ!?」


 いきなりあらわれて、げんこつされて、アホ、ブス、まぬけ、豚って、ほんとうになんなの!?

 

 「それになんで怒ってるの?」

 「お前がアホすぎるからに決まってるだろうがッ!」

 「はあ?」


 意味が分からない。意味が分からないのでとりあえずアルトの頭をなでる。こんなに周りがさわがしいのに、アルトが目覚めないなんてめずらしい。ん?

 

 「もしかしてアルトが急に眠ったのってエルがなにかしたから?」

 「眠り魔法でこいつを眠らせた」

 「ナイス!アルトってば疲れに鈍感みたいで、昔っからあんまり眠ろうとしないのよ。そうだ魔法で無理やり眠らせればいいんだ!」

 「……ツッコむのはそこでいいのかよ。いや、いい。考えるな。お前はそのままアホの鈍感のままでいろ」

 「はあ?」


 怪訝に顔を歪める私の手をエルは掴み立ち上がらせる。

 そのため当然私の膝の上で寝ていたアルトはずるりと落ちる。突然やわらかかった枕が固くなって不快に思ったらしい。眠るアルトの眉間にはしわが寄る。

 それでもって手を伸ばして私の腕を掴むのだ。なんだよ。そんなにリディアちゃんのことが好きか。照れるなぁ。アルト、友情大切にする派だもんね。

 

 「……無意識でこれかよ。こいつ独占欲強すぎるだろ」

 「ん?エル、なんか言った?」

 「なんも言ってねー」


 エルはむすっとしながら私を掴むアルトの手を叩き落とす。

 あんた一国の王子にけっこう無礼な態度とりまくってるよね。妹弟子は、兄弟子が不敬罪で死なないか本当に心配ですよ。


 「さっさと帰るぞ。あいつらの容態も心配だ」

 「うん、そうだね。って、待って。アルトは放置!?」

 「こいつなら大丈夫だろ」

 「まあアルトなら大丈夫か」

 

 そうして私たちは眠るアルトを森に置き去りにして、救護室へと向かったのであった。

 だってアルトならたとえ寝ていたとしても野生動物撃退しそうでしょ?




解説。


アルトがリディアを夢や幻覚だと思ったのは、アルトがポンコツだからではありません。

師匠が念のための保険としてリディアに隠蔽の魔法をかけていたからです(リディアには内緒で)。


隠蔽の魔法は言葉の通り、対象の存在を隠します。今回のリディアのように人に対して魔法をかけた場合、確信がない限りはリディア本人だと気づけません(初対面の人とかは、確信もくそもないので隠蔽の魔法は効かない)。なのでアルトは本来、リディアを見たとしてもモブ1くらいにしか認識しないはずです。でもリディアの幻覚として認識したのですからすごいですね。リディア愛が強すぎる(笑)リディアがごまかさなければもしかしたら魔法を打ち破って、リディア本人だって気づいたかもしれません。


隠蔽の魔法は確信を持っている人であれば打ち破ることが可能です。確信を持てる人の例は以下の通りです。

・ リディアに隠蔽の魔法がかけられていると知っている人

・ リディアと記憶を共有している人(乙女ゲームとか)

・ 記憶操作系の魔法が使える人(相手の記憶を見ることができる人とか)

・ 感知能力が優れている人(精霊とか)

・ 人物を特定できるなにかを持っている人(人の色が見える等)

これ!という決定打がなければ隠蔽の魔法はやぶれないのですが、こうして見てみると、リディアの正体に気づことが可能である人間は割といますね。

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