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13.男だって恋バナが好き


 深夜も過ぎどちらかと言えば明け方に近い、だけれどもまだ暗い現在。ようやく村人さんたちのぶり返した熱がおさまったので、私は休憩がてら森の中を散歩していた。

 するとじんわりと守り石が熱くなってきたではないか。嫌な予感がする。歩みを進めて行くにつれ、私の進行方向からなにやら声が聞こえてきた。

 

 「あの医師団のやつらマジでむかつくっす」

 「自分もですっ。殿下がまだこの村に滞在するというのに自分たちだけで王都に帰るなどっ」

 「お前たち落ち着け」


 ……。

 声がする方角――前方では、つい先ほど見たポニーテールとパンダの騎士さんが憤慨していた。それを咎めるのは短髪の騎士さん。言わずもがな、この人も見覚えがある。


 「我々と彼らでは課された任務が違う。彼らの任務は病人の治療と拠点を創ることだ。その任務を彼らは果たした。恐れ多くも殿下をこの場に残し帰館したところで、私たちから文句は言えまい」


 ちなみに短髪さん、冷静な言葉とは裏腹に彼の頬では青筋がメキメキと音をたてている。かっこいいー。


 まあそれはともかくとして、嫌な予感的中である。数メートル先には記憶に新しい騎士さん3人がいたのだ。ハハハ、頭を抱えたくなったよ。


 別に騎士さんたち3人だけで話しているのであれば、私だって嫌な予感的中、ハハハまでは思わない。ってことは私がなにを言いたいかわかるよね。

 3人の騎士さんは現在、だ・れ・かに対しひざまずきながら会話をしていたのだ。その誰かっていうのは、ちょうど影になっていて顔が見えない。だけれども想像は容易につく。


 影に隠れたままでいてください。顔を見せないでください。

 見えても見えなくても現実は変わらない。そうはわかっていても私は願う。が、そんなときにかぎって月の光が彼を照らすのだ!ばか!


 「彼らは王の手下だからね。王の命令しかきかない。かえって国に戻ってくれて助かったよ。おれの命令に従わない人間は邪魔でしかないから」


 雲が晴れたことで闇を照らす金色の光が現れる。その光に照らされるのは銀色の髪だ。黒いローブでその身はほぼ闇と同化しているが、美しい銀色だけはキラキラと闇のなかに浮かび上がる。

 そう。私が向かおうとしていた先には、ついさきほど回避したはずのアルト(+騎士3人)がいたのだ。今日の私ついてなさすぎだよ!


 このまま回れ右をしたら確実に物音を立てて、「貴様、なにやつ!」「リディア!大親友のリディアじゃないかぁ!君には僕のかわいいソラについて話したいことがいっぱいあるんだ。だから王都にいっしょに行こう!」「レ、レフェリー!へるぷー!!!」という未来が私を待ち構えている。なのでへたに動かず、彼らがこの場を去るのを待つことにした。ナイスジャッジ私!


 「っていうか、ついつい愚痴っちゃいましたけど。殿下、俺たちをここに呼び出してなんのようっすか?」


 ふいに聞こえたポニーテールさんの言葉に驚く。

 え。あのアルトが人を呼び出した、だと?アルトが騎士さんたちに呼び出されたのではなく?


 私の経験上から言わせてもらうとアルトから呼び出された場合、高確率で意味の分からない相談もしくは質問をされる。ソラが女に狙われてるだの、僕と一緒にいるメリットはなに?だの。つまりなにが言いたいのかというと、騎士さんたち面倒なことに巻き込まれたくなければ逃げたほうがいいですよ~ということだ。

 

 「こんな場所に移動しなくっても拠点で話をすればよかったじゃないっすか?」

 「拠点、ね。その拠点を創った彼らは王の手の者だ。あそこになにがしかけられているかわかったものじゃない。おれはいまからお前たちにする質問を王に聞かれたくはないんだ」


 アルトの意外な言葉に私も騎士さんたちも瞠目する。アルトは自分達の拠点に、前世で言う盗聴器に類する物もしくは魔法がしかけられているのではないかと疑っていたのだ。


 王様…ようはお父さんには聞かれたくない質問。この雰囲気からして年頃の男子的な理由から、王様に話を聞かれたくないというわけではないのだろう。これは今までの私が受けてきた質問とは比べ物にならないくらい重大なものにちがいない。


 ごくりと誰かが生唾を飲み込む音がした。アルトに全員(騎士さん3人+私)の視線が集まる。


 アルトは真面目な顔で口を開いた。


 「君たちにとっての幸せとはなんだ?」

 「……。」


 はい。今回もまた意味の分からない質問でしたー。


 はあ?と声に出さなかった私と騎士さんたちをほめてほしい。

 アルト君、10歳だよね。なんでそんな哲学的なこと聞くの?私は思い切り顔に出るが、さすが騎士さんたち3人はプロである。殿下の質問に疑問など抱いてはいけません考えるな感じろの要領で、さっそく各々が回答する。


 「そうっすねー。俺でしたら妻と子供と毎日を平和に生きることですかねぇ」


 語尾の後ろに♪が付きそうな口調で答えるのはポニーテールさんだ。奥さんと子供がいるのか。意外である。

 それに続くのはパンダさん。大柄な体をもじもじとはずかしげにゆらしている。かわいいね!


 「じ、自分は美しい人たちに囲まれることです!」


 まさかのハーレム希望。ポニーテールさんとパンダさん、こう言っては失礼だし私の勝手な偏見なのだが見た目と思考が真逆だ。最後に短髪さんが答える。


 「私は騎士としてこの国の平和を守ることです。これが私の幸せであり生き甲斐です」


 そんな短髪さんの回答を聞いてポニーテールさんとパンダさんが笑う。


 「わー。隊長、まじめっすねぇ」

 「自身の未熟さを恥じて騎士団長という座を捨てた隊長らしい答えですね。自分からしてみれば隊長は未熟なんかじゃないのになぁ」

 「隊長は自分に厳しいんっすよ。当時7歳だったアルト様に負けたくらいで、守るべき対象である殿下に負けるなど言語道断、鍛錬の足りない自分は騎士団長にふさわしくない!って言いだして、実際に団長辞めちゃうし」

 「有言実行すぎますよね~」

 「先程から言おうと思っていたがお前たち、今は公務の最中だ。そのくだけた口調を即刻やめろ」

 「へいへ~い」

 「ハハハ」


 短髪の人は隊長だったらしい。しかも7歳のアルトに負けて騎士団長を辞したらしい。アルトどんだけ強いんだよ。

 一方の激強アルト君は3人の話を聞いて、「なるほど…」とうなずいていた。今までの話のどこになるほど要素があったのやら。そんな彼の様子を見てか、短髪さんもとい隊長さんが挙手をした。


 「殿下。訊いてもよろしいでしょうか?」

 「いいよ」

 「どうして急にこのような質問を?」


 ナイス隊長!私もそれを聞きたかった。

 するとアルトがさみしげに目を伏せる。


 「…僕は3年前、とある人に願いを聞いたことがあるんだ」

 

 ……ん?美少女ヒロインリディアちゃん、目をぱちくりさせてしまいましたよ。

 自意識過剰かもしれない。だけれどもアルトの口から発せられた「3年前」と「願い」という言葉に反応せずにはいられなかったのだ。

 なにせ私、3年前アルトとお別れするときに「君の願いはなに?」と聞かれましたから。ハハハ。ちがうよね?私のことじゃないよね?

 アルトは目を伏せたまま言葉を続ける。


 「彼女のことだ。どうせ世界中のお菓子を食べる!っていうくだらない願いを言うのだろうと思ったら、その人は自分の大切な人たちに幸せになってもらいたいと言ったんだ。みんながにこにこ笑える世界にすることが、願いであり夢なのだと。とんだ夢物語だ」

 

 はい。私でした。夢物語呼ばわりされました願いは、私が別れの日にアルトに行った願いでした。


 言いながら失笑するアルトに若干殺意が芽生える。現在の私、顔がひきつっていることこの上なしである。陰口とまではいかないが、あの野郎私の夢を夢物語と思っていたのか。へ~。ふ~ん。リディアちゃん聞いちゃったからねぇ~。どうにかしていつかソラにチクってやる。


 どす黒い感情に包まれていた私。だがその感情は次の瞬間には、罪悪感とむずむずする恥ずかしさへと変わった。

 アルトの言葉はまだ続いていたのだ。


 「だけど僕はそんな彼女の願いを叶えたいんだ」

 

 やわらかいどこか照れたような声色が耳を撫でる。

 思いもよらない言葉にはじかれるように顔をあげて目を見開いた。それはもちろんアルトの顔を見てしまったからだ。


 彼は頬を桃色に染め幸せそうに笑っていた。先程の言葉はなんだったのだというくらい、慈愛に満ちた笑顔を浮かべていたのだ。ちょ、えぇぇぇ。


 瞬間、ドッと頬に熱が集まる。心臓なんてぎゅんっと音を立ててはねあがった。


 え、待って。アルト君、あなたいつのまにそんなふうに笑えるようになったの?リディアちゃんドキドキが止まらないよ?レ、レフェリー。アルト君から大量にフェロモンが放出されてます~。助けて~。

 ちなみにだが、私だけがドキドキしたわけではない。騎士さんたち3人もぽっとなっていたのを私はしっかりと見ました!

 

 「で、殿下。恐れながら、今の話がなぜ私たちへの質問につながるのでしょうか?」


 隊長さんがあわてて質問をした。私にはわかる。彼はかなり年下(しかも男)相手にぽっとなってしまった過去の自分を忘れたくて、質問と言う手を使いこの空気の流れを変えたのだろう。隊長。私あなたとは友達になれる気がする。


 「彼女の願いは大切な人たちに幸せになってもらいたいというものだ。だが幸せは人にとって違う。だから彼女の願いを叶えるための参考に、お前たちの幸せを聞いてみた」

 

 アルトの回答は、うん。なるほどというものだった。この際どうしてアルトが私の願いを叶えたいと思ったかについては考えないことにする。めんどくさいことになりそうだからね。

 心臓はどきゃどきゃと暴れたままだが、こうして話は終わるはずだった。質問の回答は無事もらえたし、拠点に帰りましょうとなるはずだった。アルトに見つかるかもしれない恐怖から私は解放されるはずだったのだ!


 だがしかし、ポニーテールさんがにまにま笑いながら恐ろしいことを言いだしたせいで彼らの帰路へ向かう足取りが止まった(ポニーテールぅぅぅ!その髪引っこ抜くぞ!)。


 「ほほぅ、殿下。その顔、恋をしていますねぇ」 

 「…え」

 「トニ!貴様、無礼だぞ!」

 

 恋バナが好きなのは年若い女の子たちだけではなかったようだ。そのポニーテールを引っこ抜いてやるなんて思っていなかったそのときの私はため息をつく。


 ポニーテールさん、短髪さんの言う通りだよ。アルトが好きなのはソラだ。冗談でもそんな見当ちがいなこと言ったらアルトに殺されるよ?とね。

 

 ほら、見てよ。あのアルトの冷たい顔……は?

 しかしアルトの顔を見た私は、まぬけにも口をあんぐりと開けてしまった。効果音をつけるとしたら、ポカーン。美少女ヒロインにはあるまじきまぬけ効果音ではあるが、これは仕方がないっ。不可抗力だ!


 だってアルトの顔は真っ赤になっていたのだ。まるで恋する乙女のように。ポニーテールさんの言葉が図星だとでも言うように真っ赤になっていたのだ。アルト、しっかりしろ。お前がラブなのはソラだろ!空気を読んで顔を赤くしなくてもいいんだよ!?


 なんだこの展開は。騎士さんたちもアルトのりんご顔を見て、つられて真っ赤になっている。ほんとなにこれ!?ポニーテール、責任とれぇ!



 静寂が辺りを包む。

 


 なんだかさらに嫌な予感がしたのと、今なら多少物音立てても4人とも私の存在に気づきそうになかったという2つの理由から、私はそそくさとその場を去りましたとさ、おしまい。

 休憩がてらに散歩しにきたのに、ぜんっぜん休息できなかったーっ!


「殿下、ちなみになぜその彼女の願いを叶えたいのですか?」

「え。だって願いを叶えたら、リディ…彼女は僕のことを尊敬するでしょ?アルト素敵ってなるでしょ?願いを叶える力を持つ僕に惚れるでしょ?あの鈍感にはただアプローチするだけじゃ駄目なんだよ。アプローチと並行して、物でつっていかなきゃダメなんだよ……」

「……殿下っ。うぅっ」

「殿下。自分は殿下を応援しま…ううぅっ」

「待って。君たち、その涙はなに?エミル、やめろ。お前までそんな憐れむ目で僕を見るな。やめろ」


語りながらアルトの目がどんどん死んでいくさまを見て、騎士3人はアルトが片思いをする相手に対し畏れを抱くと同時に彼の恋を応援しようと決めたのであった。




 ちなみに元騎士団長である短髪の隊長エミルは、57話にでてきた騎士団長です。

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