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9.光魔法を教えた目的



 遡ること2日前。 

 私は自室で本を読んでいた。読んでいるのは流行りの恋愛小説ではなく魔導書である。やれやれ私もすっかり魔法使い(見習い)っぽくなったものだ。……書いてある内容はちんぷんかんぷんだが。


 ともかくとして、2年間も魔法使いの見習いをしているというのに、師匠が一向に光魔法を教えてくれないため、まじめなリディアちゃんは自習として魔導書を読んでいたのである。


 「あら?魔導書が一つ足りないような…」

 「あ?お前のことだからどうせそこらへんに置きっぱなしにしてんだろ」

 「それはないわ。だって見つからないのあたしの魔導書コレクションの一つだし。置きっぱなしにしておくはずがない…どこにいったのかしら?」


 部屋の外から聞こえる声×2。息をひそめる私。

 ……ちがうからな。光魔法教えてくれないあてつけに、師匠秘蔵の魔導書をこっそり拝借パクったしたというわけではないからな。


 「ていうか師匠、こんな物騒な魔導書をコレクションしてるとか…大丈夫なの?心でも病んでんじゃない?」


 私は言いながらペラペラと魔導書のページをめくる。

 9歳の子供の手にはかなり大きい赤い皮の分厚い魔導書。見た目はかっこいいのだが内容が中々に恐ろしい。この魔導書は禁術についての本らしく、今ちょうど見ているページなんて「使用者の身を亡ぼす7つの装身具」である。身を亡ぼすって怖すぎるだろ。なんでそんなアクセサリーがあるのよ。


 そんなツッコミをしていたら黒光りする石のついたチョーカーの挿絵と目があったので、急いで魔導書を閉じた。だって怖いもん。挿絵が私のツッコミに対して怒って報復をして来たら怖いもん。つーかそもそもの話なぜに挿し絵と目が合うんだー!!!



 …と、そこで7つの装身具の「7」というワードと身に感じる恐怖から、ふいに私は思い出した。


 

 本編に入ったらヒロインと攻略対象は7人の闇の使者と戦うんだったよなぁ、と。ほんと唐突なんだけどね。なにかの強制力でも働いているかの如く思い出した。


 ヒロインは本編で闇の力でパワーアップした悪役(攻略に入ったヒーロー担当の悪役1人)と闇の幹部(3人)と闇に囚われた一般人枠(3人)の、総勢7人+ラスボス(=エリック)と戦うのだ。


 もはや乙女ゲームの域を超えている。日朝アニメと見せかけてのフルバトルである(乙女ゲームよ、どこへ消えた)。

 7人の闇の使者の正体がわからないから手探りで探さないとダメだし、探す中で事件に巻き込まれていく…というか、これがイベントだったりするのだが、乙女ゲームよりもRPG感が強い。

 そして私はなぜか本編についての記憶があいまいだから悪役はともかく他は誰が7人の闇の使者か思い出せないし!まあどうせ本編突入しないからいいんだけど。


 そのときだった。

 コンコンとリズミカルな音を立て、部屋の扉がノックされる。

 この鳴らし方はっ…


 「リディアいるかしら?入っていい?」

 「し、師匠!?ちょ、待って!今服着替えてるから待って!入ってきたらエルに師匠を再起不能にしてもらうからね!?」

 「現実的に考えてあたしが再起不能になる前にエルが死ぬでしょ」

 「いいからちょっと待って!」


 やばい。なにがやばいってこのまま師匠が扉を開ければ、私が師匠の魔導書を勝手に持ち出していることがばれてしまう!見つかったら間違いなく雷を落とされる。

 神父様は精神的な雷だが、うちの師匠は物理的に雷を落としてくるのだ!ひぃぃぃ。

 すると扉の向こうではため息。


 「入らないわよ。あたしをなんだと思ってんのよ。着替え終わったら声かけて頂戴」

 「ありがとう師匠、大好き!」

 「はいはい」


 とは言っても師匠の気が変わることもあるので、私は急いで魔導書をクローゼットの中に隠す。

 もちろん万が一誰かがクローゼットを開けたときに見つからないように、大量の服の隙間に隠した。


 まあよくよく考えれば最悪師匠が問答無用で部屋に入ってきたとしても、いつも懐に常備させている煙玉を投げて視界を奪ってその隙に隠せばいいだけの話なのだが。いや、ダメだな。風魔法で煙をふきとばされて魔導書パクったってばれる。


 「し、師匠ー準備終わったよ!」

 「着替えるの早いのね」

 「ま、ままままあね」


 扉が開かれ現れたのは真っ白なローブを羽織った出かける装いの師匠だ。

 買い出しにでも行くのかな?

 

 「じゃあリディア行くわよ」

 「わふっ」


 白いローブを私に投げつけ手を取る師匠。

 え、待って。行くってどこへ!?そんな憐れな美少女ヒロインの混乱を言葉にする間もなく視界が反転し、私たちは森の中にいた。師匠の空間魔法で移動したのだ。


 季節は6月だが薄着では寒い!急いでローブにくるまる。


 「ちょっと師匠!説明もなしにいきなりなんなのよ!?」

 「リディア、あんたに光魔法を教えるわ」

 「と、唐突!?」

 「もうそろそろ教えよっかなーって思って」


 いや理由が軽い!2年間どれだけ教えてくれと頼んでも魔法薬の勉強もしくは魔法の成り立ちとか言う意味のわからない勉強しか教えてくれなかったのに、そんな軽い理由で光魔法を教えるのかい!

 

 そんなとき、ふと視界に黒い蝶が。

 キレイだけどどこか怖い黒い蝶は、ヒラヒラと私たちのほうへと向かってくる。


 「師匠、黒い蝶ってめずらし…」

 「リディア、それは闇の精霊よ」

 「え」

 「ちょうどいいわね。光の魔法であれを祓いなさい。光魔法は闇払うくらいしか用途ないし、よかったじゃない練習台が見つかって」


 唐突of唐突。


 「はあぁぁああ!?どうやって?え、私呪文とか知らないんだけど!?ていうか師匠、これから私に魔法教えてくれるんだよね!?さきにやり方教えてよ!?」

 「はあ?やり方なんてあるわけないでしょ。それに呪文なんてふつうは必要ないし」


 魔法使い見習いとして過ごし早2年。衝撃すぎる新事実である。

 やめて。頭パンクする。


 「ないの!?でもエルとか、師匠もたまに使ってるよね!?」


 とくにエル!彼は長々とした中二病っぽい呪文を言って魔法発動している。呪文が必要ないとなると、うちの兄弟子はただ黒歴史を更新し続ける哀れな生き物に成り下がるのだが。

 すると師匠はため息。ため息つきたいのはこっちだよ!


 「魔法っていうのは想像なの。呪文…というか、言葉にするのはその魔法をうまく具現化するためのサポート。エルはそこらへんが苦手だから言葉で補ってるのよ。リディアも初めて魔法を使うし、なんか呪文考えれば?」

 「えぇええ!?」

 

 いや、即興で呪文を考えろって言うのもなかなかなんですけど。

 でもだからといって、想像とか具現化っていうのもむずかしい。

 

 そうこうしているあいだにも黒い蝶がこちらに近づいてきて……だぁあ!私は腹をくくった。


 『せ、正義のヒロインビーム!』


 黒い蝶を指さしそう唱えれば、指からほんのり金を纏った白い光が直線状に飛び出す。

 光は黒い蝶に命中した。

 蝶から黒い靄が晴れて、水色の蝶へと変わる。


 「成功ね。無事浄化されたわ」

 「おぉぉ~」


 心の中で「呪文だっさ」と顰め面の兄弟子の顔が浮かぶが無視である。それをいうならエルは呪文が中二病臭い。ださい方がまだマシだ。

 ともかくとして初めての魔法に私はパチパチと手を叩くが、待て。

 言われるがままに闇の精霊とやらを浄化したが、そもそも闇の精霊ってなんだ。


 「はいはい、わかってるわよ。解説でしょ?闇の精霊っていうのはふつうの精霊とは違うの」


 定番のリディア顔に出てるよが発動していたらしい。師匠の即興授業が始まった。


 「リディア、きのうの授業覚えてる?」

 「きのう……は、精霊がどうやって誕生するかの授業だよね」

 

 人型は私たちと同じ赤ちゃん産みますスタイルであるのに対し、フェアリー型は生物の心から誕生するのだそうだ。それは草花や虫、動物たち、人や人型の精霊の感情から生まれる。怒ってるときは赤、悲しい時は水色の精霊などなど。今私がこうして師匠の授業を受けている間にも、私の心から精霊が生まれているのかもしれない。まあ大半は自然(草花や虫たち)から生まれるらしいのだが、おもしろいよね。異世界転生を実感する。


 「闇の精霊は種類でいえば、フェアリー型に属するの。でもその誕生の仕方が少し…いえ根本的に違うのよ」

 「根本的にちがう?」

 「闇の精霊は人の心の闇、負の感情によって生み出されるわ」


 ふむ。さして驚くことではない。大方予想通りだ。二次元設定でよくあるやつだからね。

 そしてその闇を祓えるのが光の力っていうのもあるあるだ。

 

 「闇の精霊が大量にいる場所には強い負の感情を持った人間が複数はいると見たほうがいい。だからあんたはむやみやたらに闇を祓ったりしちゃダメよ」

 「え。むしろ祓うべきなんじゃないの?」

 

 私せっかく光の力を持ってるのに。

 そうしたら師匠に頭を軽く小突かれた。なんなのよいきなり。


 「おバカ。闇の精霊は一匹ならまだしも、集まれば集まる分だけ強大になるのよ。その闇の根源を祓わないと消えないこともある。というか、闇の精霊の近くには大抵闇の精霊を生み出した人間ってのがそばにいるんだから危険でしょ。闇の精霊生み出すくらいの負の感情を持ってんのよ?なにをしでかすかわからないじゃない。もしかしたら殺されるかも」


 話がいきなり物騒になった。

 だがたしかに師匠の言う通りではある。闇の力は負の感情によって生まれる。そんな負の感情を持った人間が他人に危害を加えないという保証はない。

 闇の精霊の近くに負の感情を持つ人間がいるとするならば、危害を加えられる可能性はさらに倍増する。

 

 「でも私は闇を祓う光魔法を持ってるよ!闇を相手にしたら最強ってやつじゃない?」

 「ばか。あんたの光魔法は闇に対しては効くけど生身の人間に効くわけじゃないでしょ」

 「うっ。たしかに」


 失念していたが、私の光魔法はあくまで闇には効果絶大の浄化の魔法であって、生身の人間に効果絶大の攻撃魔法ではないのだ。


 「だから一人では決して闇を祓おうとしないこと。いいわね。闇を祓うとしたら私かエルがそばにいるときにしなさい」

 「は、はいぃ」


 こんなときだが納得。

 本編に入るとヒロインは攻略対象と一緒に戦い、闇の使者を浄化する。安未果時代は、ヒロイン強いくせに攻略対象に守ってもらうとかあざといやつめ…と思っていたが、ふむ。ヒロインは単に自分を守る力も攻撃をする力もなかったから攻略対象に守ってもらっていただけなのだな。

 そうやってふむふむと考え事をしていたから師匠は勘違いをしたらしい。


 「ま、まあ1~5匹くらいなら浄化してもいいんじゃないかしら。浄化された分だけ闇の精霊を生み出した人間の心の闇が晴れるし。ね、だから元気出しなさい?」


 気遣うように私の頭をなでる。

 待って師匠。1~5匹くらいなら浄化してもいいよって、なにそれ。私は別に戦いたいわけじゃないよ?もしかして師匠の中での私のイメージって好戦的な狂戦士?


 「ていうか、師匠の中の私のイメージに驚きすぎてスルーしてたけど、さっきの話どういうこと?私が闇の精霊を浄化したら、心の闇が晴れる人がいるの?」

 「当たり前じゃない。闇の精霊は負の感情から生まれるのよ。つまり逆に、闇の精霊を浄化すればその闇の精霊を生み出した人間の負の感情は浄化されるの」


 師匠曰く、私が闇の精霊を浄化すればその闇の精霊の生みの親である人物の負の感情も浄化され、「あれ。なんかイライラしていた気がするけど、すっきりしてるー」的な感じになるらしい。


 「なんだかすばらしく便利な力なんだね」


 やはりたとえ闇の精霊の数が多いとしても、浄化するべきではないのだろうか。そばに闇の精霊を生み出した人間がいたとしても、そいつが私に危害を加える前に光の力で闇の精霊浄化しちゃえば襲ってこないってことだろう。

 すると師匠は失笑(親父ギャグではないぞ)。


 「勘違いしてそうだから言っておくけど、それが効くのは軽い負の感情に囚われている人たちだけよ。むしゃくしゃするーとかその程度のね。でも心に根深く絡みついた闇から生まれた精霊は、たとえ光の魔法で浄化したとしても、本人の心の闇を浄化しない限りは消すことができないわ」

 「なるほど。簡単に払える闇の精霊とそうではない精霊がいるってわけね」


 本人の心の闇を浄化するとか、めっちゃヒロインっぽい。

 うー嫌だ。本編入ったら確実に7人の闇の使者+ラスボスの心の闇を浄化って展開になる。本編に突入する確率は0,000001%くらいだけど、嫌だわぁ。


 「でも大変だね。世界が闇の精霊であふれちゃったら、私一人で浄化するの無理じゃん」

 「もしそんなことになったら、あたしが魔法で闇の精霊を消すわよ」

 「え。消せるの!?私の光魔法の意味ないじゃん!」


 私のアイデンティティが一つ奪われたぞ。

 他の人でも闇の力と対峙できるとか、ヒロインいる意味ないじゃん。

 すると師匠は呆れ顔。


 「おバカね~。あんたの光魔法は浄化の力。あたしは浄化じゃなくて、闇の精霊を消滅させるって言ったのよ」

 「へ?」


 意味が解らん。

 怪訝な顔で首を傾げれば、師匠はやれやれと首を横に振る。


 「闇の力はね、あたしやエルの魔法で消すことはできるわ。でもそれはあくまで消すだけ。跡形もなく消滅させてしまう。救うことはできないわ。一方であんたの光の魔法は浄化の力。闇を消さずに済むのよ」

 「ふーん。師匠は闇を消したくないんだね」


 なにげなく言えば、師匠は少し寂しげに目を伏せた。


 「あたしは別に消し去ってもいいと思うわ。でもあたしの大切な子がね、それはダメだって昔言ったのよ。消滅させるということは、目の前にあるものを見ないということ。目をそらすこと。どんなものでも目の前にに存在している以上見ないふりをすることはできない。向き合う必要があるって」

 「うーむ。なんとなくでしか意味が分からない」


 ようするに私が悪役さよなら計画を実施したのと一緒ってことだよね?

 未来で悪いことになるやつをほっとくのは嫌だって。目の前にいて関わっているんだから、変えてみせるってやつ。

 まあ、あくまで目の前にいる私に関わりのある人物だから助けるだけであって、私の知らないところで困っている人がいたとしても助けるつもりはない。そこまで私は善人じゃない。私が助けたいのはあくまで身近な大切な人たち。……まあ困っている、助けを求める人がいるって知ってて見てみぬふりはしないけど。

 ようするに、困っている人がいたら助けにはいくけどさ!

 

 「っていうかほんとうになんで師匠は急に私に光の魔法を教えたの?」という私の問いかけを遮り、話の輪に入ってきたのは…


 「おれは理解できないけどな」

 「エル!」


 いつからいたのやら。木陰から出てきたのはエルだ。

 いや、ほんといつからいたんだよ。


 「つーかお前、正義のヒロインビームとかネーミングセンスなさすぎだろ。ださい」

 「あんたは絶対にそう言うと思ってたわァ!いいんですぅ。私はエルみたいな中二病なセンスじゃありませんから!……待って。もしかして最初からあの場にいた!?」

 「おい!中二病センスってなんだっ!」

 「いいから私の問いに応えなさいよ!」


 わやわやと頬をつねり合う私たちと止めるのはいつものことながら師匠である。

 私とエルの首ねっこをつかんでひきはがす。


 「はいはい、喧嘩しないの。出発前に怪我したら大変でしょ」

 

 出発?

 その言葉に怪訝に首を傾げる私とエル。

 師匠はすばらしい笑顔で私たちを見る。

 

 「さあリディアも一応は魔法での身を守るすべ(闇にしか効果ないけど)を学んだところだし。あんたたち春の国の辺境の村に行ってきなさい」

 「私に光の魔法教えたのは、それが目的かァ!!!」




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