8.どうしてこうなった!?
かれこれ2年の歳月が過ぎ、私は9歳になっていた。
ハビッドシャツにジャンパスカート。その上からは身を隠すために白いローブを羽織り、師匠の趣味丸出しのコスプレのような服装に身をつつんだ私は現在牢屋の中にいる。
2年の月日というものは成長期の体に顕著に表れるものだ。
身長は6歳のときよりもかなり伸び、短かった髪だっていまや肩まで伸びている。邪魔くさいので最近は2本の三つ編みにしている。
普段はつやつやと健康な髪だが、今は隙間風…というかもろに冷たい風が髪を含めた全身を蝕み、すこしきしんでいる。家に帰ったらきっと師匠に髪の毛のケアをされることになるだろう。めんどくさい。
そうそう、魔法薬づくりも上達したのだ。作れる薬の種類はいまや万を超え、今だって腰かばんに薬が入って…とそこで思い出す。そうだ。腰かばんはこの牢屋で目覚めたときにはもうすでになくなっていたのだ。おそらく私たちを攫ったやつが奪ったにちがいない。今私の手元にある薬は懐にいれておいたものだけである。
…と、まあみなさん感づいているだろうが、私は今牢屋にいる。ええ、捕まっているのだ。
見渡せば辺りは薄暗く、梅雨の季節のせいかじめじめとした空気が肌に張り付いて気持ち悪い。冷たい風が体から体温を奪うのに、どこか暑苦しくて息苦しい。おそらく私の他に十数人の子供たちが牢屋に囚われているからそう感じるのだろう。
私たちと同様人攫いによって攫われ、目を覚ました時にはもうこの牢屋にいた子供たちは、皆不安げに肩を寄せ合っている。
私はすぅと息を吸い込み、それを吐き出す。音も一緒に。
「どうしてこうなったーーーー!」
ついでに目の前にある黒い鉄格子も「ガシャンガシャン」と、揺すってみたところで、三方向から押さえつけられる。
ええ、わかっていましたよ。こうなることはわかっていた!でも叫びたかったんだもん!?鉄格子、ガシャンしたかったんだもん!?
ていうか、なんで?なんで私牢屋にいるの!?なにがどうしてこうなった!?
「てめっ。大きな声出すなアホ!」
「もがっ」
そんな私の心の叫びをフォローすることなく、まず右隣りで私の口をふさぐのはエル。この暴力兄弟子がァ!
「リディアの幻影、静かに」
「ぐふじい!」
次に背後から抱きしめるように私の動きをレフェリー呼ぶ並みの力で封じるのがアルト。ええ、あのブラコンヤンデレ王子のアルト君です。リディアの幻影とか言っているけど気にしないで。今はとりあえず、レフェリー!いろんな意味で助けに来てーーー!
「リディア。お願いですから暴れないでください」
「もごご」
最後に左隣で私の両手を拘束するベージュ色の髪の美少年。丁寧な口調でこのメンバーのなかでは一番まともで紳士のようにも見えてくるが、しかし私の両手を拘束する力はバカ強い。痛い。力加減を学べ、バカ。
私たちは仲良く牢屋の中にいた。
いわゆる奴隷商人とやらに捕まっている。
「もごごごごごーっ(ほんとうにどうしてこうなったーっ)!」




