5.魔法が使えない魔法使いの弟子とは!?
「じゃあさっそくリディアの第一魔法がなんなのか調べましょう!」
「イエッサーぁえっとぉ、第一魔法ってなに?」
さて流れに身を任せようと思ったがそうもいかない。第一魔法ってなに?
問えば師匠もエルも口をぽかーん。
おい。2人してなんだその顔は。
私が魔法を知っているわけがないだろ。
「そうね。まあ、知らないわよね。いいわ。解説しましょう。魔法っていうのは、魔力と知識さえあれば誰でも使える全魔法と、適性が合わなければ使えない個人魔法の2種類があるの。あたしがさっき言った第一魔法っていうのが、個人魔法ってわけ」
「個人魔法は全魔法よりも威力がでかい。そのかわり多くて3つまでしか得ることができない。覚えた個人魔法を順に、第一魔法、第二魔法、第三魔法と言う」
今度は私がぽかーんとする番であった。
寝起きにすごい量の知識を披露するじゃん、この2人。私の脳はショート寸前だ。
「えぇと、つまり魔法使いみんな平等に覚えられるのが全魔法で、人によって覚えられる魔法が違ってくるのが、個人魔法でオッケー?ちなみに2人は、どんな個人魔法が使えるの?」
ヒロインチートでなんとか情報を整理し問えば、師匠がにこりと笑う。
「そのとおり。あたしは第一魔法が古代魔法。第二魔法が空間魔法。第三魔法が炎魔法よ」
「うわー。もうこの時点でチート感が半端ない。エルは?」
「お前に教える義理はない」
「あーはい、わかりました。じゃあ私の個人魔法も教えませんから。師匠、私も測定する!」
エルを無視して師匠に向かって挙手をする。
「わかったわ。はい、どうぞ」
師匠が取り出したのはおにぎりサイズの水晶だった。
それを私の掌の上にのせる。
「……で?」
「それに魔力を込めて」
「魔力を込める!?どうやって!?」
いや、師匠もエルもそんな驚いた顔しないで。
私ガチで魔法の扱い方知らないからね。むしろなんで知ってると思ったの?
「さっき魔力を放出していたじゃない」
「契約のときな。あれと同じ要領で水晶に力を籠めろ」
いやお2人さん。言葉で言うのは簡単だが、実際やるのは別問題だぞ?
リディアちゃんの顔、引き攣ってますからね。
まあヒロインチートに頼ってやってはみるけどさ。
とりあえず言われたとおり、水晶にぐーっと力を籠めてみる。魔力よ入れ~ってね。
とたん体の奥がぐっと熱くなった。
おお。たぶんこれだ。じわじわと掌から熱いものが溢れるのを感じる。この感じが魔力を放出してるってやつなのだろう。
そのまま水晶に魔力を込め始めると、水晶がだんだんと金を纏った白色に光っていき……
パァン
くだけた。
それはもう木端微塵に。
「……。」
「……。」
「……う、うわー。きれいだなぁ」
師匠は頭を抱え、エルはそんな師匠から目をそらし、私はキラキラと宙を舞う、かつて水晶であった輝きに目を細める(顔を引きつらせながら)。
「…なんであんたたちは揃いも揃って魔力測定の水晶を壊すのかしらねぇ」
少しの間の後で押し殺すような声が頭上で聞こえた。
うわ。これ怒ってるよね。
おそるおそる顔を上げれば、師匠の緩くたばねた髪が轟々とゆらめきながら上にあがっていたから、うん。スーパーサイ○ジンみたい。
「ん?ちょっと待って。揃いも揃って…ってことは、エルも水晶ぶっ壊したの!?」
「…お前と一緒にするな。おれは粉々にしてない」
「そうね。あんたは粉々じゃなくて気化させたものね。存在ごと消したからね」
「……。」
「エルのほうが私よりひどいじゃない!」
なにをどうしたら水晶が気化するんだよ。水晶を粉々にした私が言えた義理じゃないけどさ!
いたたまれなくなったのか、エルがぼそりと「とりあえずリディアの魔力測定はできたんだからいいだろ」と言う。
そうだ。私の第一魔法がわかったのだ!
期待を込めて師匠を見れば、あれれー師匠の顔がひきつっているように見えるぞー。
私が水晶を壊したからひきつっているのではなく、やっちまったなー的な顔をしている。嫌な予感しかしない。
「この魔力の色は……はぁ、攫ってくる子間違えたわね」
「ちょおお!?それは本人の前で言う台詞じゃないと思うんですけど!?」
嫌な予感は的中した。
え。なんなのこの人。
攫って来た張本人のくせに、攫ってきた子間違えたとか言ってきたんですけど。
頬を引きつらせる私を見て師匠は半泣きで訴える。泣きたいのはこっちだァ!
「だってぇあんたの個人魔法、光魔法なんだもの。これじゃああたしの跡を継げないじゃなーい」
「跡を継ぐ?」
「こいつは自分の店の跡取りを見つけるためにおれたちを攫ったそうだ。…それがほんとうの理由かは知らないけどな」
エルの言葉に驚く。
ヒロインが魔法使いにさらわれた理由が跡継ぎを探すためだったなんて知らなかった。まあそもそも知る由もないのだが。ちなみに最後のほう、彼がなんて言ったのか聞こえなかった。ぼそぼそしゃべらないでハキハキしゃべってほしい。
「ていうか師匠、お店やってたの!?」
「ええ。だって働かないと生きていけないでしょ?魔道具とか魔法薬とか売ってるわ。あ、ちなみにだけど、あたしが魔法使いの素質のある子を攫ったのは別に店を継がせるためだけじゃないから。魔法使いが減っているこのご時世、魔法を後世に残すために弟子をとるのは義務なの。だからあんたたちを攫ったの」
師匠は胸を張って言うが、義務だからって攫うなよ。攫われたほうはたまったもんじゃないぞ。
「で、なんで私の個人魔法が光魔法だったら師匠の跡を継げないのよ」
「そんなのあんたが光魔法しか使えないからに決まってるでしょ」
「意味が分からないんだけど」
話が全く通じない。
首をかしげれば師匠はため息。おい、いいかげんにしろよ。
「だぁかぁらぁ、リディアは光魔法以外の魔法は使えないの。光魔法の所有者は、第二魔法、第三魔法はもちろん、全魔法すら使えないの。さすがに跡取りが光魔法一つしか使えないってのは困るでしょ?」
淡々と告げられた衝撃真実に開いた口が塞がらない。
エルが「口の中乾くぞ?」とか言ってくるけど、そんなこと気にしてられないから!
「まあ安心しなさい。光魔法は別名浄化魔法。希少価値の高い魔法よ。聖なる力で邪を祓うことしか取り柄のない日常生活じゃあクソ使えない魔法だけど…」
「ちょぉっ!クソ使えないってどいういうことだぁ!」
「話は最後まで聞くこと。一応聖なる力だから、癒し系の魔法薬を創るときに込める魔力としては優れているわ。効果倍増ね。だからあんたには魔法薬の作り方を教えてあげる」
「いやそういう問題じゃなくて~っ」
私はその場に崩れ落ちた。
床に体をぶつける寸前でエルが私の体を支えてくれたから、体を打ち付けることは免れたが…
「おい、急にどうした!?大丈夫か?」
「うぅショックだ。異世界転生ヒロインチートを想像していたのに。こんなのあんまりだぁ」
「……は?」
ヒロインが「いつ君」本編で光の魔法を使って闇を浄化しているのは見ていたが、まさかそのヒロインが光の魔法しか使えなかったなんて。
ひどすぎるっ。私は肩を震わせおいおいと泣く(涙は出ていない)。
「…心配したおれがバカだった」
「いだっ!?」
エルは青筋を浮かべながら私を床へと投げ飛ばした。え?なんなの?私は今魔法を使えないことにショックを受けているのだぞ?手を離すならともかく、投げ飛ばすやつがあるか!?
にらめばエルは「…やっぱ突くだけとか物足りないよな。元の体最高」とか言って満足そうにうなずいてるし、なんなのこいつ!?うちの兄弟子から危険なにおいがした瞬間だった。見なかったことにしよう。
「私は本当の本っ当に、瞬間移動とかパイロキネシスとか、空を飛んだりとかできないの!?」
気を取り直して師匠に訴える。
師匠は穏やかに笑った。
「はいはい、無理なものは無理。そもそも光魔法は、普通の魔法使いが使う魔法とは根本的に仕組みが違うのよ~」
「仕組み?」
しくじった。寝起き早々さらなる授業の予感がする。もう全魔法と個人魔法の段階で脳みそのキャパシティが限界を訴えかけてきているのだが!?
しかし予感は的中。「この世界の始まりの話は知ってるわよね?」師匠が笑顔で聞いてきた。
ぐぬぬ。知っている以上、わざと知りませんというのは悔しい。こうなったら腹をくくるしかない。私の脳みそ、もう少し頑張ってと激励しつつ頷く。
ゲームにも出てきたし、孤児院で勉強したところでもあるからね。
「この世界は、神、精霊、人の3種族によってつくられた。神は人と精霊に命を与え、人と精霊は神に祈りを与え、人と精霊は互いに仕事を与えた、これによりこの世界は誕生した…でしょ?」
ドヤ顔で言えば隣でエルが「そんなの常識だろ」と呆れ顔。うるさい。
「そう。その通り。この人と精霊はお互いに仕事を与えたって部分があるでしょ。これがまさに魔法の仕組みなの」
「魔法の仕組み?」
「あたしたち魔法使いは精霊を介して魔法を使うの」
「ほお?」
知る由もなかったこの世界の魔法の仕組みに目が輝くのを自分でも感じた。
師匠は続ける。
「魔法を使うとき、あたしたち魔法使いは体内で魔力を組み立てる。その組み立てた魔力を、精霊が受け取って魔法に変えてくれる。仲介人みたいなものね。そうすることで魔法を発動することができるの。人は精霊がいないと魔法を使うことはできないわ」
ようは買い物みたいなものらしい。
ファストフード店で100円のハンバーガーを買うとする。
このとき、購入者=人間。100円=魔力。ハンバーガー=魔法。店員=精霊。
100円=魔力を渡すのが人間で、その100円=魔力をもらい、ハンバーガー=魔法を渡す店員が精霊。
これが魔法発動の流れらしい。
「ふぅん。そうなると人間は精霊がいないと魔法を使えない。けど、精霊は人間がいなくても魔法を使えるってわけね」
脳裏に浮かぶは精霊の国出身攻略対象者のオレンジ髪の彼だ。
エリックずるいな。精霊なら魔法使い放題じゃん。
すると師匠は首をふる。
「そうでもないわ。精霊が自分の力もしくは同族の力を借りて魔法を使うとコストがかかるのよ。たとえば通常人間が魔法を使うときに必要な魔力を2だとすると、精霊が自分の魔力を使って魔法を発動する場合、20の魔力が必要になる。10倍ね。自分ではない他の精霊に魔力を魔法へと変換してもらうにしても5倍で10の魔力は必要になる。だから精霊は基本魔法を使わないわ。そのかわりに身体能力や気配遮断、感知能力が特化した種族なの。まあ精霊であっても元々保有している魔力量がバカみたいに多かったら、自給自足で魔法を発動できるけどねぇ」
師匠。前触れもなしに長文のむずかしい説明をしないでいただきたい。
頭を抱えていれば師匠は苦笑した。
「実際に見たほうが早いわね。エル。見せてやりなさい」
「…チッ。わかった」
悪態をつきながらエルが私の横から、私の目の前へと移動する。
かわりに私の隣には師匠が立つ。
「そうそう説明し忘れていたけど、あたしたちの魔力を魔法に変換してくれる精霊には2種類あるの。1つはあたしたち人間と同じように知能と文化・歴史を持つ、人型。この人型も精霊だからあたしたちの魔力を魔法に変換してくれるわ。けど人間界にはめったにいないわね。だからあたしたちは主に人型ではない、もう1つのフェアリー型に魔力を変換してもらうの」
師匠が私の肩に手を置く。
黄緑色の光が体にとけこんでじんわりとあたたかくなった。
「エル。さっき教えた炎の魔法よ」
師匠の指示にエルはうなずくと口を開いた。
『我は炎を統べるもの。我が願いを聞き入れ顕現せよ』
彼の紅色の瞳がカッと輝く。
そのときだ。
「わぁ」
エルの周囲に紅色に輝く小さな鳥や花、虫が集まったかと思うと、それらはエルの手の上で一つにまとまり、次の瞬間には炎になったのだ。紅の炎がエルの掌の上で揺らめく。
「いまエルのもとに集まってきて炎に姿を変えたのがフェアリー型よ。その姿は鳥や猫といった動物から虫や花など多岐にわたる。魔力を練ればそれにつられて集まってきて魔法へと変換してくれる。昔に比べればその数は少なくなったけれど、緑豊かな森にはたくさんいる」
「すごい…ファンタジーだ」
「ちなみにあたしがあんたに魔力を与えているから見えるだけで、リディア一人じゃ、フェアリー型の精霊は見ることはできないわよ。これ、魔法使いにしか見えないから」
「は!?」
その言葉のせいで今までの幻想的な空気が一気に崩壊する。
なんで。私師匠の弟子だよね。魔法使い見習いだよね!?
師匠は呆れ顔。
「さっきも言ったでしょ。光魔法はあたしたちの遣う魔法とは根本的に違うって」
「もしかしてその根本って…」
「精霊から力を借りるか否か。ここが光魔法と普通の魔法との違いなのよ。あんたが光魔法以外を扱うことができない由縁。あたしやエルが使う一般的な魔法が精霊を仲介するのに対して、光魔法が仲介をするのは神なの」
「か、神ぃ!?」
おい。いつ君ヒロイン!なんちゅうもんに介入させとるんじゃい!
「それってつまり、私が魔法を発動させるには、体内で練った魔力を神様に魔法に変換してもらわなくちゃいけないってこと?」
「そいういうことね」
「んなーっ!?」
驚きすぎて口を開け閉めすることしかできない。
怖い。怖い。私日頃の行い悪いし(主に孤児院でのいたずらとか)、この世界の運命に従うっていう信仰も信じてないし、今後光魔法を使うときに神様が力を貸してくれるとは考えられないんですけど。
青ざめる私を安心させるように師匠は私の頭をなでた。
「まああたしもよくは知らないけど、聞いた話では光魔法は神を意識しなくても普通に使えるみたいよ。魔力を練って魔法を使おうと思ったら勝手に魔法に変換してくれるみたい」
「え!ほんとうに!」
「ほんとほんと」
師匠は私の頭をぽんぽんとやさしく撫でる。
師匠が言うのであれば間違いないだろう。ほっと一安心する。
「あたしたちは魔力を魔法に変換してくれる精霊がいないことには魔法を使えないけれど、その点で言えば光の魔法って便利よね。用途が全然ないけど」
「あの、師匠。毎回最後に光魔法のことディスるのやめてくれない?いいかもって思った後で、やっぱ光魔法使えないじゃん!って思っちゃうんだけど」
「だって真実じゃな……ごほん。大丈夫よ、リディア。薬よ。あんたは光魔法を生かして薬を創りなさい」
師匠は冷や汗をだらだら流しながらもうまく話をごまかしたつもりなのだろうがそれはちがう。
光魔法を生かして薬を創れ。その言葉を聞いて私は思い出してしまったではないか!
「師匠!薬づくりはっ、魔法じゃ、なーいっ!私はさっきのエルみたいに火を出したり、空を飛んだりしたいの!」
そうだ。私は自分が光魔法以外使えないと知ってショックを受けていた。
それを師匠の突然レクチャーでショックを受けるどころじゃなくされていただけなのだ!
「ぐっ。魔法を見せたことが裏目に出たか…。ま、まあまあリディアいったん落ち着きましょう?光魔法はかっこいいわよ~。邪を滅する聖なる光。闇を祓う神の力なのよ?あんたこういう言い回し好きでしょ?ね?」
「…でも用途が全然ないクソ魔法なんだよね」
「……。」
「うぅぅぅ。孤児院帰るぅぅ!」
「ハッ。クラウス。ざまーないな」
「……エル。お前に魔導書の書き取り5冊を追加する。明日までに終わらせなさいよ」
「んなっ!?」
隠ぺいの魔法とか使えないんじゃ意味ないもん。攻略対象迎えに来たら見つかっちゃうもん。
師匠は笑顔を引きつらせながら私の肩に手ををおいた。ちなみにエルはそんな師匠の隣で震えている(怒りで)。
「リディア、いいこと?光魔法だって使い道はあるのよ。闇魔法に対抗できるのは光魔法しかないんだから」
「闇魔法?」
怪訝に顔をゆがめれば師匠は真剣な目で頷く。
「闇の魔法はあらゆる生き物の負の感情から作り出される恐ろしい魔法よ。わずかな闇ではなんてことないけれど、それがあつまれば脅威になる。それに対抗できるのは光魔法だけなの」
うぅぅ。めっちゃゲームの主人公っぽい魔法。そりゃそうですよね。ヒロインですものね。
本編ではその闇の力を使う闇の組織と戦うわけだし。
「でもやだぁ。私も瞬間移動とか炎だしたいっ」
「うっ。そうだ、リディア。薬にもいろいろ種類があって、姿を隠すものから相手を眠らせる薬だってあるのよ?薬づくりも魔法使いの立派な仕事なんだから」
「なんだって!」
「食いついたわね」
師匠もエルも若干呆れ顔だが、食いつくに決まっているじゃないか。
たしかに魔法薬では炎を出したり、瞬間移動はできないだろう。だがしかし、姿を隠す薬や相手を眠らせる薬がある。これが一番重要なのだ!
だってこれさえあれば本編が万が一始まったとしても、迎えに来た攻略対象から逃げることができるから!
「師匠。私、世界一の魔法薬師になる!」
「ええ、ええ!その意気よリディア!うちの店で売っているのは大抵魔法の薬だし、なんだったら特別にあんたにこの店を継がせてもいいわ!だから頑張って世界一の魔法薬専門の魔法使いになりなさい!」
「うん!」
「でも魔法は使えないにしても基礎的な魔術の公式とかは教えるからね。明日までにこの魔導書を書き写して。大丈夫。リディアはいろいろかわいそうだから特別に3冊で許してあげるわ」
「いや、3冊でも多いよ!?狂ってるの!?」
「リディア。あきらめろ。こいつにはなにを言っても通じない。むしろ文句を言えば言うほどおれみたいに増やされるぞ」
「やっぱり孤児院に帰るぅぅぅ!」
「ホームシックね。わかったわ。さみしい気持ちを忘れるためにも勉強に打ち込みなさい。はい、1冊追加。エルも連帯責任で1冊追加~」
「ぎゃあああああ!」
「叫びたいのはおれのほうだァ!!!」




