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おまけ1 ハチャメチャ欲望レース(ソラ視点)

孤児院編おわりのおまけその1

ソラをただただ困らせたくてつくった、そんなお話です。



 「さあ!やってきました!夢の中だから何をやっても許される!起きたら何も覚えていない。チーム対抗、ハチャメチャ欲望に忠実になりましょうレース!」


 「今回は、おバカチーム、やばいやつらチーム、ツッコミチームの3チームに分かれて競い合ってもらいます。ルールは簡単、100m先にあるビーチフラグを1番にゲットしたチームの勝ちです。優勝チームにはなんでも、1つ、願いを叶えます」


 「ただし!チームで1つの願いしか叶えられませんので、ご注意ください!チーム全員の願いはかなえられないですからねぇ。チームのみんなでなにを願うか考えておくことをおすすめします」


 「夢の中なので、敵チームを妨害するなり、精神攻撃をするなり、なんでもありです」


 「司会はわたくし、皆の美少女ヒロイン、リディアちゃんと」

 「諸事情から、アリス・クラヴィスでおおくりいたします。みなさん、なにか質問等はありま……はい、そこのあなた」

 

 一通りの説明が終わり、ようやく質問の挙手を許されたおれは、口を開いた。


 

 「いや、これなに?」

 


 目覚めたらよくわからない競技場にいた。

 周囲には兄様やらエミリア、ジーク、アオ兄ちゃんなど知っている顔をもあれば、全く知らない奴らもいる。


 そしてリディア(と、あとそのとなりに見たことない黒髪のやつ)は、司会席と書かれたベンチに座っていた。


 そうして2人はおれたちにさきほどの説明をして、今に至るというわけだ。


 うん、なんだこれ。


 おれこと、ソラ・ヴェルトレイアは頭を抱えた。

 司会席にいる2人はそんなおれを見てキョトンと首を傾げる。


 アリスとかいうやつはともかく、リディアが首を傾げるとイライラする。

 しかもこいつら2人とも、さっきの説明聞いてた?と目で語ってくるので余計に腹が立つ。


 しばらくの間の後で、リディアが口を開いた。

 

 「えー、先ほども説明したように、これは夢の中だからどんなことも許される欲望レースです」

 「いや、なにそれ!?ていうか、ツッコミチームがおれだけなのはどうしてだよ!」

 

 そう。おれは今、ツッコミチームと書かれたプレートの前に立っているのだが、そのプレートの後ろに立つのはおれ以外誰もいないのだ。


 え。まさか、おれだけなのか?ツッコミチーム!?

 するとリディアが少し申し訳なさそうに目を伏せる。


 「ほんとうは私の隣にいるアリスがツッコミチームに入る予定だったんだけど、急遽司会の仕事が入っちゃって…」

 「同じツッコミチームですが、私は特に願い等はありませんので。勝利した場合は、ソラ様の願いを叶えてください。ご武運をお祈りいたします」

 「あ!私、不満があるけどおバカチームなの!ジーク、ミルク、エリック!なんとしてでも勝って、本編をはじめない…えぇと、そう!私ともう二度と会わないって願いを叶えて!」


 リディアはおバカチームと書かれたプレートの後ろに立つ、ジーク、ミルク?、エリック?に言う。

 うん、ジーク以外誰だ!?


 「おい!おれはお前の願いを叶えるつもりはないからな!おれは、エ、エミリアと…」

 「わかったわ、王子様!王子様の願いを叶えてあげる!だから、そ、そのかわりねっ。これが終わったらお花畑で私に花冠をつくってプレゼントしてっ!!」

 「うむ。なんだかよくわからないが、いいだろう!友達の頼みだ。精霊の国の王子であるこのおれがリディアの願いを叶えてやるのだ!」


 赤面したり鼻息を荒くしたり胸を張ったりと、三者三様の濃すぎる返答におれは頭を抱える。

 言いたいことはたくさんある。

 だけど言いたくない。ていうか、関わりたくない。おれは兄様とリディアだけで手一杯なんだよ。


 「ってなんで、リディアまで頭を抱えてんだよ!?」


 司会席を見ればリディアがおれと同じように頭を抱えて唸っていた。


 「ちょっと待って!だって…3人とも自分のチーム名わかってるの!?だれかツッコむと思ってたけど、おバカチームだよ!?いいのそれで!?ソラもぼさっとしてないで、いつもの華麗なツッコミはどうしたの!」

 「そんなに言うなら、お前ツッコミチーム来いよっ。十分素質あるだろ!?」

 「嫌よ。ツッコミチームはいったら、ソラ私の願い事絶対に叶えてくれないじゃない。私はなんとしてでも本編を開始させるわけには…みんなと感動の再会を果たすわけにはいかないのよ!」


 力強く意味の分からないことをいい放つリディア。

 おれは青ざめる。

 このアホが!そんなことを言ったら…


 「はーい。やばいやつらチーム、僕たち全員気が合わないけど、とりあえずおバカチームは全力で妨害しようね。リディアの願いは絶対に叶えさせないよ~」


 思った通り、兄様がやばやつらチームをまとめだした。

 おれがみるかぎりこのチームは、リディアが大好きすぎるやつが集められたチームである。


 メンバーは兄様、アオ兄ちゃん、エミリア、桃色頭、水色頭。

 うん。他2人はわかんないけど、兄様とアオ兄ちゃんとエミリアがメンバーにいる時点でやばい。


 普段は不仲を通り越して敵同士とも言えるやつらだが、リディアの願いを叶えさせないという共通の目的を持ったとき、やつらは一致団結する。


 なにをしでかすか見当もつかない。目の前が真っ暗になってきた。


 あーもう、バカリディア。かなりおっかないことになるぞ。死人でるかも。

 リディアをにらむ。が、


 「ぬぅがー!アルトぉ!おバカチームじゃないもん!ちょっと素直過ぎる…そう、私たちは直情的チームなのよ!」

 「おい!つっかかるのはそこでいいのかよ!」

 

 おれの心配をよそに司会席と選手席でリディアと兄様は火花を散らしていた。

 もうリディア、選手になれよ。

 

 そんな紫電を散らす2人の間に突如、割り込むように現れた水色の頭があった。


 その人物を見て、リディアがとたん慌てた顔をする。

 兄様はそんなリディアを見て…うん。気温が下がったって言えばわかるよな。


 「リディアおねえちゃん、どうしてそんなところにいるの?こっちきてよ」

 「えーと、ギル?私司会だから、そっちにはいけないっていうか、ギルまで参加してたの?怪我するから選手は辞退しなさい?」

 「えー?うーん。選手辞退したらリディアおねえちゃんのとこ行ける?それなら辞退する」

 「いや、それはちょっと…」


 水色の髪の男の子が目を潤ませながらリディアを見る。 

 そいつはリディアにかわいらしく甘えていた。首をかしげたりとかして。


 だけれどもおれにはわかる。

 こいつはやばいやつだって。


 だってこいつ兄様と同じくらい濃い桃色をはなってやがるからな!?

 今日が見える日でよかったのやら悪かったのやら。

 っていうか、このガキ誰!?


 兄様もおれと同じことを思ったらしい。

 目の笑っていない笑顔で兄様はリディアを見る。  


 「……リディア、なにこの子供?なんで彼にむかってへらへら笑ってるの?機嫌とってるの?え、なんなの?」

 

 ちがった。

 誰?って思ったのは同じだけど、それ以外は全然同じじゃなかった。


 一方で水色はきょとんと(しているふり)、リディアを見る。


 「…リディアおねえちゃん、誰この人。なんでリディアおねえちゃんになれなれしいの?リディアおねえちゃんはおれのものなのに。おれのお姫様なのに」

 「おいーーーー。やばいぞぉ、こいつ限りなく兄様と同じ匂いがするぞーっ」


 ただのねこかぶりならまだしも、やばいぞー。セリフからしてやばいぞ。

 だからこの水色頭もやばいやつチームなのかよ!


 「……へ~、おれのお姫様。あ、そう。リディア、さっそく浮気したんだ、へー」

 「ちょ、怖い怖い。ソラ、ヘルプ!あんたのお兄ちゃんよくわかんないけど超不機嫌なんだけど!?氷点下並に寒いんですけど!?」

 「お前のせいだろォ!」


 しりぬぐいはじぶんでやれ!!

 もう知るか。


 おれは一歩離れたところで、事の成り行きを見守ることにした。助けてって言っても、絶対に助けてやらない。おれの意思は固い。


 「ねぇ、水色頭の君?調子にのってると、痛い目見るよ。リディアは僕のだから。手を出したら殺……」

 「おねえちゃあああん。銀髪のこの人、こわぁい」

 「ちょっとアルト!うちのかわいいギルを泣かしてんじゃないわよ!」

 「あ、うん、わかった。殺す」


 すみません。静観したおれが悪かったです。

 兄様の目はマジだ。このままじゃ確実に死人が出るっ。


 「ちょ待って!お願いだから待て!?兄様、抜刀しないで?あと、リディア、その水色頭思いっきり泣いてるフリだから、気づけ!?つーか、なんでおれしか止めないんだよ!?ガチでツッコミ役おれだけか!?」


 「誰か助けろ~っ」と、兄様を羽交い絞めにしながら叫ぶ。

 するとおれのもとに2つの小さな影があらわれた。


 よかった。助けが来た。

 ほっとする……が、


 「ちょっと、リディアおねえちゃんは、私の王子様よ!」

 「ちがいます、おねえさまはジーク様の未来の奥方ですわ!」

 「ミルク!リディアおねえちゃんはおれのお姫様!前も言っただろ!」

 「あー、わかった。この水色頭を殺す前に、ジークを殺そうか」

 「なんでだーっ」


 ほっとしたおれが愚かだったよ!

 援軍が来たと思ったら、来たのはさらなる火種。事態は余計に悪化した。

 そうだった。ここには自分以外頼れる人間はいないということを忘れていた。


 ていうか、もう一人のツッコミ役はどうした?


 司会の仕事が入ったが、本来であればツッコミチームは2人。おれと一緒にこの修羅場をおさめてくれてもいいはずだ。


 おれは助けを求め司会席を見て、ずっこけた。


 「なるほど。ギルはそういうキャラでくるのか。これはこれで、いい……」


 黒髪のおれと同じくツッコミ役であるはずのそいつは、この状況をほくほくと顔を上気させながら見ていた。


 おい、なんでこの状況でそんな顔ができるんだよ?

 え。こいつほんとにツッコミチームにはいるはずだったやつ!?

 もう恐怖しかないんだが。


 「つーか、そもそもお前なに言ってんの?なにを分析してんの?これはこれでいいってなに!?」

 「はっ。見られていた…アリス、一生の不覚です」

 「いや顔を赤らめて照れても、お前の失態は挽回できないからな!?」


 そして…と、おれはずっと黙って作業をしている2人の要危険人物をにらみつける。

 おれが気づいていないとでも思ったか!


 「そこの桃色頭とアオ兄ちゃんんん!なにもせずに黙っていると思わせて、毒物つくるのやめろ!?なにそのでかい鍋?なんで中身の液体が紫色なんだよ!?絶対に毒だよな!?だれ?だれに飲ませるつもりだ!?」

 

 「……。」

 「……。」


 「まず、桃色頭。無表情で乗り切ろうとするな!?アオ兄ちゃんは笑顔で乗り切ろうとするなァ!そして兄様抜刀しないでええええ!」

 「わー。ソラさっすがぁ~。ツッコミがキレッキレだね!」

 「リディア、お前あとで殴らせろ」

 「なんでよーっ!?」


 リディアの叫びは無視して、司会席にいるもう一人の黒髪をにらむ。

 さきほどのように照れた様子はない。いまなら話が通じるだろう。


 「司会!いい加減この場をおさめて競技を始めろ!」

 

 そう叫べば、黒髪は思い出したようにうなずく。


 「あ、そうでしたね」

 「忘れてたのか!?」

 「それでは競技を始めますので、みなさん静粛に。競技開始前に危害を加えれば失格と見なします」

 「待て、スルーするな。今の発言なかったことにするなよ。お前競技のこと忘れてただろ!?」

 「よーい、スタート!」

 「おいーーーーっ」


 かなりぐだぐだだが競技が開始されてしまった今、全員がビーチフラッグに向かって走り出すにちがいない。

 

 おれは願い事なんて興味がないんだ。巻き込まれてたまるか!

 急いで脇にずれ、ビーチフラッグへの直線上からはずれる。


 が、誰一人としてビーチフラッグに向かっていかない。


 はい?

 怪訝に思い遠く離れたところにある人集りを見れば、おれと司会2人を除く全員がお互いをにらみ合っていた。

 あたりは緊迫した空気に包まれている。

 

 ……この競技ビーチフラッグを一番最初にとったやつが勝ちだよな。

 なんで誰も動かない!?


 今日何度目かもわからない嫌な予感をひしひしと感じた。

 そんな状況の中ではじめに口を開いたのは水色頭だった。


 「競技開始前に危害を加えれば失格って、黒髪の人は言ってた。つまり、競技がはじまってからなら。攻撃をしても許されるってことだよね?…それがたとえ同じチームの人だとしても、さ。ミルク!」

 

 え。なにその理屈。

 水色頭の発言に怯えたときにはもう遅い。

 茶色頭のガキが兄様に向かって突進してきた。


 「いいわ、ギル!チームはちがうけど、とりあえず敵を減らす手伝いはしてあげる!」


 兄様はそんな茶色頭をさらりとかわす。

 いきなり、しかも味方であるはずの同じチームの人間の命令で襲われた。

 普通の人なら動揺する。


 だが普通とは少しかけ離れている兄様の顔は笑顔で…

 なんか嫌な予感がしてきた。

 

 「なるほど。理解したよ。元からチームとか関係なかったんだね。このゲーム、全員を倒してから僕が一人勝ちして願いを叶えればいいんだ。そうしたらチーム全員共通で一つの願い…なんてことは関係ない。リディアは僕のものだ」

 

 ほらやっぱりーっ。

 兄様の言葉を聞いて、他のやつらの目も変わった。


 「アルト君、あなたの願いは叶えさせませんわ!」


 茶色頭に続いて兄様に殴りかかってきたのはエミリアだ。こわっ。なに!?エミリア武闘派だったのか?


 兄様はエミリアのこぶしをなんなくかわし、お返しとでもいうように蹴りを入れる。

 エミリアはギリギリのところで兄様の蹴りをガードした。が、勢いがすさまじかったらしく、蹴られた衝撃で2、3歩後退する。

 

 「悪いけど、この戦い負けられないんだ。女子でも手加減はしないよ」

 「の、のぞむところですわ!」


 そんな紫電が走る2人の間に割って入ったのはジークだ。

 

 「待て!たとえチームが違ったとしても、エミリアはおれが守る!エ、エミリアはおれの…こ、子分だか……ぐはーっ」

 「邪魔だ」

 「ジ、ジーク様っ!?」


 言い終える前にジークは2人の間から姿を消した。否、ジークは誰かに蹴り飛ばされ、せっかく割って入ったのになにもできず、ただ2人の視界に一瞬だけ映りすぐ消えた。


 成仏しますように。とりあえず遠くからだがジークに祈りをささげる。

 ちなみにジークは蹴り飛ばされた勢いのまま顔面からスライディングして転び、そのまま起きない。


 さすがのエミリアも同情のまなざしをジークに向けている。

 リディアの手紙にも書いてあったが…、ジークが不憫すぎる。


 「ふーん。前も思ったけど、君、少しはやれそうだね?」

 「……。」


 一方で兄様はジークを蹴り飛ばした人物――桃色頭に向かって冷笑を向けていた。


 桃色頭はなにも答えず、帯刀していた剣をかまえ(いつのまに帯刀していた!?)、兄様とエミリアの方へ足を踏み出す……

 兄様も剣をかまえる。

 が、そいつは2人の横をすり抜け、その後ろにいたアオ兄ちゃんに向かって剣を振りかざしていた。


 「は!?」

 「……っと、リカ?いきなりひどいじゃないか」

 「アオ。お前が一番厄介だ。だから最初に消す」

 

 ちなみにアオ兄ちゃんは振りかざされた剣を右腕で防いでいた。

 

 峰内だったらしく腕から血は出ていないが、痛そうな音はした。

 にもかかわらず、アオ兄ちゃんはいつもと変わらない笑みを浮かべているのだから、うん怖い。


 「え~。俺は別に願いとかないから、このゲームに興味は全然なくて」

 「興味がないなら、お前の足の下にいるやつはどう説明する?」


 アオ兄ちゃんの足の下には、「ぐへーなのだ」とのびているオレンジ頭のガキがいた。

 つまりアオ兄ちゃん、そいつを踏んずけている感じ。


 「……あー、うん。彼は気づいたら俺の足の下でのびていたんだ。不思議だね」

 

 嘘が苦しすぎる。

 そんなアオ兄ちゃんに向かってさらにもう一振り剣が降ろされた。


 「たしかに。僕、このメンバーの中ではあなたが一番気にくわないんだよね。殺す」


 言わずもがな兄様である。

 だいぶ私情が入っているあたり、兄様しかありえない。

 

 「おかしいなぁ。俺、どうしてみんなからこんなに嫌われちゃっているのかな?」


 いったいどこに隠していたのか。

 短剣で兄様の攻撃を防いだアオ兄ちゃんは苦笑しながら、桃色頭と兄様を腕と足で押し飛ばした。


 「……っ」

 「…チッ」


 体勢を崩す兄様と桃色頭。

 そんな2人に2つの影が突進した。


 「お2人とも、私のことをお忘れになられては困りますわっ」

 「そうよ!あんたたち全員を倒して願いをかなえるのは私よ!」


 兄様、桃色頭、エミリア、茶色頭による攻防戦が始まった。

 一方でマークが消えたかのように思えたアオ兄ちゃんの目の前にもちゃんと一人立っていた。

 

 「ギル。そこをよけてくれるかな?でないと、少し痛い目に合うよ?」


 水色頭をアオ兄ちゃんはやさしく諭す。

 が、水色頭はにっこり笑顔で首を傾げるだけだ。


 「え~。アオ兄ちゃん、痛い目ってなぁに?言っている意味がわからないなー。そうだ!リディアおねえちゃんに聞こう!アオ兄ちゃんがおれに痛い目に合うよって言ってきたんだけど、これどういう意味?って、さ」

 「……。」

 「リディアおねえちゃん、おれのこと心配して棄権しろって言ってきたくらいだから、おれがけがしたら危害を加えた人間を絶対に許さないだろうなぁ……って、あれれ?アオ兄ちゃん、急に黙ってどうしたの?」

 

 アオ兄ちゃんと水色頭の間で紫電が散る。









 さて、みんな戦い始め、傍観しているおれだけが蚊帳の外である。

 だれもおれに戦いを挑みには来ない。

 おれが願い事に興味がないと知っているからなのだろうか。


 そのためおれはなんなく戦っているみんなの横を通り過ぎていくことができる。


 床で伸びているやつ2名の横を通り過ぎ、

 火花を散らし拳やら剣やらを交えている4名の横を通り過ぎ、

 黙ってにらみ合う2名の横を通り過ぎ、



 そうしておれはビーチフラッグの目の前に立っていた。


 

 おそるおそる後ろを見るが、おれの背後では戦いが繰り広げられているのみ。

 ほっと息を吐き、おれは床に刺さっていたフラッグをゲットした。


 とたん、戦いの終わりを告げるかのごとく、


 ピーッ


 笛のような音が司会席から聞こえた。


 リディアと黒髪が喜々とした表情でおれを見る。

 

 「おーっと、ビーチフラッグをとったのはソラだぁ~!さあ、ソラ!あなたの願いは!?」


 辺りを見回せば、全員が唖然とした表情を浮かべておれを見ていた。


 悪いな、みんな。

 特に兄様、ごめん。



 みんな気づかなかったし、おれもさっきまで気が付かなかったが、おれにだって願いの一つくらいはあったのだ。

 


 おれの願い。それはただ一つ。


 

 「一刻も早く、この悪夢から目覚めさせてくれええええ!」


 叫んだとたん、辺りが一体がまぶしい光に包まれた。




//////☆


 「はっ!」

 

 おれは跳び起きた。

 全力疾走したかのごとく全身からは汗が吹き出し、シーツが湿っていた。寝間着もぐっしょりと濡れている。


 咄嗟に辺りを見回し、ほっと息を吐く。

 よかった。そこはいつもと同じおれの部屋だった。


 

 「なんでだろ。夢の内容は思い出せないけどすっごい悪夢を見た気がする……って、なんだこれ?」

 

 

 いつもと同じ部屋。いつもと同じベッド。いつもと同じ寝間着。

 だが、いつもと一つだけ違ったことがあった。



 なぜかおれは、右手にビーチフラッグを握っていた。

 

 

 



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