54.無限ループやめて
ミルクの口癖が嘘よ!になってしまったことと、ベッドでぐっすり眠ったことで私は思い出した。
ミルクの悪役さよなら計画まだしてなかったじゃん!
そう。ギルのことで手一杯で、ミルクのことをすっかり忘れていたのだ。
そのせいで今、ミルクは私とギルの関係を誤解している。このままでは悪役街道まっしぐらだ!
それはダメ!絶対ダメ!
そんなわけで、いつもの悪役さよなら計画を実行したいと思う。
作戦内容はいたって簡単だ。
私はギルに姉として懐かれているだけだと理解してもらえばいい!
私は2人の仲を引き裂くつもりはないよ~ってね!
でも現在のミルクの口癖は「嘘よ!」だ。
まず信じてくれないだろう。嘘!って言われること間違いなし。
なのでここは、ゆっくりじっくり誤解を解いていきたいところだ。
だけれども、悲しいことに時間は待ってくれない。
季節は12月の終わりごろ。
ギルの心をヒメが救ったことにより、冬の国の王子編は佳境を越えての終盤だ。
おそらくもうすく幕を閉じるだろう。
ということは、近いうちにギルのラストイベントが引き起こされると予測できる。
今はまだギルにとって私は恋愛対象ではない、ただの同室のおねえさんだ。
だがしかし、このラストイベントが成功した場合、それが覆される可能性があるっ。
ほんのすこーしでもギルから恋愛的感情を向けられる可能性が浮上するのだ。
恋愛感情を抱かれる=10年後迎えに来る=本編開始。いやぁぁぁ。
そしてこの孤児院の内にミルクの誤解を解けなければ、彼女は悪役決定だ。
近い将来、悲惨な目に合うのは確実である。
さらに問題はミルク以外の人間にも及ぶ。
本編が始まってしまえば、今まで仲良くなってきたアルトやソラなどの友達全員が、死ぬもしくは不幸になる可能性が出てくる。
もちろん私も!私、死にたくないし、友達を死なせたくもないからね!?
すべての人のために、ミルクの悪役さよなら計画を成功に収め、なおかつラストイベントを失敗に終わらせなければならないのだ。
さてそれではギルのラストイベントについて説明しよう。
彼のラストイベントは、外で遊んでいるときに蛇が襲ってくることではじまる。
なんで蛇が襲ってくるんだよ。ってツッコミたいのは山々だが、そういうイベントなのだ。
蛇はミルクとヒロインに襲い掛かってきて、ギルがヒロインを無意識のうちに庇うことで、ギルは恋愛感情を自覚。
(好感度が足りない場合、ギルがヒロインを庇わない悲しい現実もある)
ミルクはギルが自分を守ってくれなかったことから、ギルの心が自分に向いていないことに気付き、ショックを受ける。が、ギルのことを諦められるはずもなく。
よりいっそうギルを離すまいとギル大好きに拍車がかかる……というか、ギルに近づく邪魔物排除が加速過激化するというか、うん。
ようするに悪役まっしぐらだ。
絶対に止めないとね!
それじゃあこのラストイベントを開始させないためにはなにをするべきか。
私はもうすでに閃いている!
今後ギルとミルクさよならの日まで、絶対に外に出ないで室内で遊べばいいのだ!
ラストイベントは外で起こるから、室内にいれば大丈夫。蛇は襲ってこない。
それでもって室内で遊んでいる間に、ギルとはなんでもないんだよ~とミルクの誤解をとけばいいのだ。
そう、そのときの私は「私天才!超楽勝!」と、高笑いをしていた。
……のだが、うん、困った。
現状私は困り果てていた。
なぜ困ってるって?
そんなのミルクの悪役さよなら計画が全然進展しないからだよ!
そこ!そんなことだろうと思ったよ、とか言うな!
ラストイベントはね、いまのところ室内でずっと遊んでいるから大丈夫なのだ。
大丈夫なんだけど、ミルクの悪役さよなら計画が大丈夫じゃない。
もう、全く進展しないっ。
原因は、わかってる。
それはひとえに、私の計画を悪気なく無自覚に邪魔をしてしまっている彼のせいだと言える。
そう。
私のかわいいエンジェルブラザーが、原因なのだ。
ため息交じりに頭を抱えてしまう。
どうしてかなぁ。
「ギルとは、ただの友達なの!」と、ミルクの誤解をとこうとするたびに、ギルが私に甘えてくるのだ。
腕にからみついてきたり、抱き付いてきたり、頬ずりしてきたり…はぁ。
それがミルクの怒りの炎に油を注いでしまう。
ギルとはなんでもないと言っておきながら、そう言っている目の前でなんでもないはずのギルとべたべた仲良くしている。
そりゃ「嘘だ!」ってなるわな。
私でもそんなの目の前でやられたら、嘘こけー!ってなるもの。
でさ、原因のギル君なんですけどね、どうして彼はおねえさんの邪魔するのかな?
私はそれが理解できない。
天才美少女ヒロインのリディアちゃんですけど、さっぱりわからないよ?
もしかしてほんとうはリディアおねえさんのこと嫌いなの?嫌がらせ?
いっつも「リディアおねえちゃん大好き」って言ってくれるのに!?泣いていい!?
これでも私はね、どうにかしようと動いたのだ。
やんわりと、ミルクの前ではべたべたしないでとギルに伝えたのである。
するととたんギルは涙目になって、おれのこと嫌い?って聞くの。
嫌いじゃないよ。ただ、みんなが生き長らえるために、いまはベタベタされたら困るんだよ。
まあそうは言えないから、代わりにギルも私との仲を誤解されるのは嫌でしょ?って言ったんだよね。
そしたらギルはうんともすんともいわず、笑顔でさらにべたべたと私に張り付くようになった。
なんでだ!
「見つけた!ミルク、私とギルはなんでもな…」
「リディアおねえちゃーん、ここにいたの?おれを置いていくなんてひどいっ」
「嘘よ!」
はい。私の努力の末が、この現状です。
今日も今日とてミルクの誤解をときに行ったら、撒いたはずのギルに見つかって抱き付かれて、それを見たミルクが怒って図書館を出て行ってしまった。
もう取りつく島もありません。
ぽつんと図書館に残されたのは私とギルの2人。
なんでだーーー!
ほんと、もうっ。私はどこで選択を誤った!?
だれか教えてほしいっ。
しかもギル、なんかこわいしっ。
彼はにこにこ笑顔だが、その瞳からは私から離れないという絶対の意思を感じる!
なにがどうしてこうなった!?
「ミルク行っちゃったね~。残念だけど仕方がないから、リディアおねえちゃん、おれと2人で図書館で遊ぼ?絵本読んで~」
ギルはにこにこ笑顔で私の手をひっぱる(絶対、残念だなんて思ってないよね!?)
でもねギル君、にこにこ笑ってなんていられないから。
どうにかしないと、あなた10年後死ぬ可能性大だからね?!?
だけれども当然そんなこと言えるわけがなく。
私はギルに引っ張られるままに図書館内を歩き続ける。
ほんとうはすぐにでもミルクを追うべきなんだけど、ギルが私の後を追ってくることは明白。
そうすると、またギルと一緒にミルクの前に現れることになりまして、さっきと同じ現象が起こる。
嘘よ!って言われてしまう。
数日前からこの繰り返しだ!無限ループ!いやぁあああ!
心が折れかかっている私はひとまずループしかしない現実から逃れようと館内を見わたしてみた。
ふむ、なるほど。ギルは私を引っ張ってどこへ向かっているのかと思えば、絵本コーナーに向かっているようだ。
この道の先にあるのは、絵本と歴史コーナーだから、その2択だと絵本コーナーになるだろう。
いつのまにやらこの図書館にも詳しくなってしまった。
というのも、ミルクはたいてい図書館にいるのだ。
ミルクと話をしようと彼女の後をつけて…ごほん、追っていて気づいたのだが、ミルクはこの図書館に入り浸っているんだよね。
以前はギルにべったりな彼女だったけど、ギルが私を慕うようになってからは彼に一切近寄らなくなった。
まあギルに近づかなくなったと言うより、ギルのそばには必ず大嫌いなリディアがいるから、離れていったというか離れざるをえなかったのだろうけれど。
それでもって一人で行動するようになった彼女は、この図書館に入り浸っていたというわけだ。
「ミルクはいっつもここでなんの本読んでんだろう…」
ミルクに会いに行けば、彼女は私が図書館の扉を開ける前に臨戦態勢をとっている…つまり、戦いに巻き込まないように本をしまっているので、ミルクがなんの本を読んでいるのか私は知らないのだ。
素朴な疑問は言葉に出ていたらしい。
絵本コーナーで私に読んでもらう絵本を選んでいたギルは、「ああ」と頷く。
「ミルクが読んでるのはきっと王子様が出てくる絵本だよ。あいつ、王子さまの出る絵本が好きなんだ~。はじめて会ったときも絵本を持ってた」
へー。
ギルの言葉に素直に驚く。
ミルクは王子様が出てくる絵本が好きなのか。かわいいね。
私は冒険系の本が好きだけど、今度王子様が出てくる本も読んでみようかな。
じゃなくて!
脱線する頭をポカポカ叩いていれば、ギルが私に絵本を差し出した。
「リディアおねえちゃん、これ読んで」
「え?ヒメと不思議な世界…ギル、これ好きだねぇ」
「おれ絵本の中ではこれが一番好き!ヒメが好き!」
えぇ~。なんか照れるぅ…じゃなくて!
私にはギルにでれでれしている暇なんてないから!
はやくミルクの誤解を解かなければいけないんだよ!




