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52.責任はとってもらう(ギル視点)

 短いです。おまけみたいな話です。

 時系列は前回の続きで、話数で言うと43話後半のギルがフェロモンを出しまくるあたりです。

 


 ふとおれは思ったんだ。

 もしかしてリディアはおれに気があるのではないかと。



 このような考えに至ったのは、

 そもそもどうしてリディアは変装をしてまでおれに話しかけてきたのか疑問に思ったからだ。

 そうして考えついた答えが、「おれに気があるのでは?」というもの。



 母様が死んでしまったときが、そうだった。

 おれに恋愛感情を伴う好意をよせる人物は、心配するフリをしておれに近寄ってきた。


 母様が死んだときに現れた貴族の子女ども。

 「お辛いですよね」「私が一生あなたのそばにいます」「ギル様の心を癒して差し上げたい」

 なんて口だけの言葉を彼女たちは並べる。


 同情の涙で潤む瞳の奥には、見え透いた下心があった。


 第一ほんとうにおれを心配しているのであれば、傷心の王子の部屋になんの断りも入れずにずかずかと上がり込んだりはしない。


 ふつうは気を遣って見舞いには来ないはずだ。

 見舞いの品もしくは手紙だけにとどめるのが基本だ。


 だというのに、競い合うかのように一日のうちに何人もの女が押しかけてきた。

 冬の国の王子を心配しているという体裁を押し付けるためだけに。


 まあその子女たちは見舞いから1日も経たないうちに父様から城への出禁を言い渡されたため、おれの溜飲も下がったからよかったのだけれど。


 ちなみに父様が彼女たちを出禁にしたのはおれのためではない。

 おれを人と関わらせないためだ。



 まあそんなことがあったわけだから、おれは思ったのだ。

 リディアはおれに気があったから、あの日変装をしておれに話しかけてきたのではないかと。

 

 孤児院に来たばかりの頃のおれは、かなり弱っていた。


 ほんとうは自分のそばにいてくれる人を…自分を愛してくれる人を欲していたのに、自分の呪いに周囲の人間を巻き込みたくなくて、みんなに対して壁をつくって。


 そんなおれを心配する気持ちと、好意が合わさってリディアはおれに話しかけてきたのではないだろうか。

 

 ……なぜ変装をしたのかだけがわからない。が、ずれているリディアのことだ。

 彼女なりに何か考えがあって変装をしたのだろう。


 もしかしたらおれに話しかける勇気がなくって、変装をしたのかもしれない。リディアはかわいいところがあるからあり得る。

 無理やり友達になったのも、恋人になるよりもまずは友人からという考えがあったからかもしれない!




 

 とにかくそのときのおれは、リディアはおれのことが好きだと思い込んでいた(リディアが三度の飯より恋、ならぬ、恋より三度の飯という人間だと忘れていた)。



 だから、わかりきっていることだけどはっきりさせたくて、おれは聞いたのだ。


 「ねえ、どうしておれにこんなによくしてくれるの?」


 きっと彼女は照れながら、「ギルが好きだからっ」と言うのだろう。

 そんな期待に胸を膨らませ、彼女の言葉を待っていると、リディアはとろんとした笑顔でほほえんだ。


 とろけるような笑顔。

 背景描写があるのであれば、今の彼女の背後にはたくさんのハートが飛んでいる。そのくらいかわいい笑顔だ。


 だがしかし、なぜだろう。

 そのリディアの笑顔から滲み出す感情は、おれが彼女に求めている感情と、かなりかけ離れたもののように感じられた。


 なんだか嫌な予感がする。

 そして彼女は答えたのだ。


 「私にとってギルはかわいい弟みたいなものなんだから、どうしてもなにもないのよ!」


 ……はい?

 嫌な予感は見事に的中した。


 内心ショックだった。

 いや、ショックなんて簡単な言葉で言い表せない。

 目の前が真っ暗になるような、崖から突き通されたようなそんな衝撃がおれを襲った。


 え。もしかして、リディアはおれのことをずっと弟みたいだと思っていたの?だから友達になろうって言ってきたの?つきまとってきたの?離れないって言ってくれたの?そばにいるって言ったの?


 おれのことが、一人の異性として、恋愛的な意味での好きだからじゃなくて?


 真実を知った途端、うぬぼれていた自分が恥ずかしくなった。

 思えばたしかにリディアは、一度もおれに愛をささやいたことはなかった。

 彼女はおれと楽しく遊ぶだけ。


 つまり、おれの片思い。

 悲しいがそれが現実なのだ。




 ……まあ、どんな現実だろうとリディアのことを逃すつもりはないから、別にいんだけど。




 「…いいよ。弟で」

 「へ?」


 リディアにむかって笑みを浮かべれば、とたん彼女は困ったように眉を下げ、その頬は桃色に染まっていく。かわいい。


 たとえあなたがおれに与えてくれた愛が、おれがあなたに向ける…求める愛と別の物だったとしても、かまわないんだ。


 おれはリディアにむけて手を伸ばし、そっと彼女の頬をなでる。


 だっておれがあなたをつかんで離さなければいいだけのことだから。


 やっと見つけたんだ。

 おれを愛してくれる、おれを救ってくれた、導いてくれた、不幸にならないと言ってくれた、おれの愛しい人。

 

 おれはあなたに身も心も奪われた。

 それなら今度は、おれがあなたの心を奪えばいいだけの話だ。


 「かわいいおれだけの、ヒメ。今はまだ弟でいいよ。でもおれは、あなたのかわいい弟のままでいるつもりはないから」


 絶対にあなたを逃がさない。


 リディアがおれに愛を思い出させてしまった、見つけさせてしまったんだ。あなたのせいで、母様を愛した父様の気持ちが理解できてしまったんだ。


 責任はとってもらうよ。


 「ヒメ。わかったの?返事は?」

 「……は、はいぃぃ」





 弟だって思われてるならそれを覆したいよね。

 布団の中でまるくなりながら、ギルはそんなことを思っていた。


 ふっと脳裏に浮かぶのは、頬にキスをしただけで真っ赤になって慌てふためくリディア。頬を桃色に染めるリディア。真っ赤になって震えるリディア。


 とてもかわいいその少女のことを思い出すだけで、自然と顔がほころんでしまう。

 

 またあの顔を見たいな。

 ギルはおそらくリディアが見たら怯えるであろう笑みを浮かべながら、そんなことを思った。


 リディアは…弟だと思っていた相手に、迫られたらどんな反応をするのだろうか。


 またかわいらしく真っ赤になる?

 それとも困ったように目に涙を浮かべる?

 もしかしたら気絶するかも。


 まあどんなリディアもきっとかわいいのだろう。


 そこで彼は決めた。

 今はまだリディアが求めるかわいい弟であり続ける、と。


 ギルは好きなものを最後にとっておくタイプなのである。

 

 いまはまだかわいい弟のまま。

 でもいつの日か、リディアを迎えに行くそのとき、リディアの隣に胸を張って立てるくらいに立派に成長して、おれはかわいい弟ではないことを教えてあげる。

 そうして毎日のように、彼女のそばで愛をささやいてあげるのだ。


 そのときのリディアの反応を想像すると、うん。今からもう楽しみで仕方がない。

 ギルはまくらに顔をうずめ、あふれ出す笑みを押し殺した。



 まあかわいい弟だからといって、リディアへのアプローチを止めるつもりはないけど。鈍感そうなリディアのことだから、きっとおれがむける気持ちには気づかないのだろう。

 でも、それすらも楽しく思える。

 ああ。あなたにおれの想いを伝える日が待ち遠しい。

 

 まだずっとさきのことなのに、未来がとても楽しみだよ。

 




 こうしてギルが、「いつ君」における計算高いあざとかわいいキャラではなく、猫かぶり策略家キャラに変化したことを、リディアは知らない。

 というかきっと十年以上は気づかない。



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