43.それ流行ってるの?
今回短くて内容があっさりかな?と思うので、後々、内容付け足すかもしれません。
深夜零時。
アルトの愚痴…というよりも自慢話を聞いていたこの時間が、私とアリスの密会の時間だった。
とはいっても、おしゃべりするのは部屋の中だし、寝ているとはいえリカもこの場にはいるから密会とは言えないんだけど。
隣ですやすやと寝息を立てる桃色美少女を見る。いつものことながら、むかつくくらいかわいい。なのに本編に突入したら高身長美青年になるんだから、むぅぅぅ腹立たしい!
「なぜリカ様をにらんでいるのよ?」
アリスは呆れた様子で私を見るが、私にとってこれは大問題だ!
「だって美少女ヒロインの私よりかわいいんだよ!なのに成長したらイケメンなんだよ!ずるくない!?」
「声が大きいわ。リカ様が起きてしまったらどうするの?」
「リカは眠りが深いから、一度寝たら体を揺さぶって起こすまで起きないって言ったのはアリスじゃん!」
「……まあ、そうだけど」
そう。だから私たちはリカが眠りについたあとに、今後のことを相談しようと決めたのだ。
日中に2人だけで会おうとするよりも、こちらのほうが数千倍もいい!
まあ相談とは名ばかりでここ数週間、前世の世界の思い出話をするくらいしかしていないのだが。
でも今日はちゃんと「いつ君」についての話をする!
「エリックのときはだめだったけど、ギルが来たときは助けてね!」
季節はもう11月のはじめ。
私の勘が告げているのだ。もうそろそろ冬の攻略対象と悪役が来ると!
ちなみにギルというのは、冬の国の攻略対象である王子様の名前だ。ギルバート・レヴィア君、5歳。通称ギル。水色の髪に琥珀色の瞳の年下攻略対象だ。
私はぐっと涙にじむ瞳を閉じ、拳を握る。
今までは一人で攻略対象と悪役さよなら計画について考えていた。だけどもう私は、一人じゃない。力強い味方、アリスがいるのだ!
しかしそのアリスだが、なぜだか困った風に眉を下げている。
えー。待って待って、すごく嫌な予感がする。
「あなたの力になりたいし、むしろ力を貸したいのだけれど。彼が現われるときにはもう、私は孤児院にいないと思うの」
申し訳なさそうにアリスは告げたが、私はむしろ安心した。
「なんだそれを心配してたの~?大丈夫、きっと孤児院にいるよ!だって今までず~っとさよならする前に、次の攻略対象がきてたんだよ?」
今回も秋の国チームがいなくなる前に冬の国の2人がくるでしょ…と続けようとして、アリスが苦笑していることに気が付いた。
嫌な予感が再来!
「実は私たち1週間後にこの孤児院出て行くの」
「……はいー!?」
爆弾的発言に私の声も爆発的に大きくなる。
その日の夜、私の声でリカ以外の全員が目覚めたらしい。
///////☆
1週間の猶予の中で、死に物狂いで2人に渡す餞別を完成させた私を誰かほめてくれてもいいと思う。
「今日2人がこの孤児院を去る」
毎度のごとくの神父様の言葉で、リカとアリスが去ることが夢ではないのだと悟る。
私としては夢であってほしかったのだが。
「はい。お守り人形!」
先月ジークとエミリアが去ったばかりだというのに、せっかく仲良くなった2人も孤児院から去ってしまう。毎度同じく、子供たちが泣いたり、ショックを受けたりする中で私はリカとアリスに人形を渡した。
今回のお守り人形はアリスがキツネで、リカがオオカミである。
アリスはいろいろと化けるのが得意なので、キツネさん。いい意味でだぞ!
リカは寡黙ミステリアスで一匹狼っぽいから、オオカミにした。
「ありがとう…ございます」
「……。」
アリスはうれしそうに頬を染め、リカは無言。
おい。リカ、お前なんか言えよ!いつもバカにして笑うくせに、なんで今日みたいな日はキャラ設定に忠実なんだよ。
私の文句がきこえたのか(そんなバカな)、渡したオオカミの人形を手に持つリカがじっと私を見つめる。
やばい。無表情、無言で超怖いんですけど。
「…リディア、お前の願いはなんだ?」
「へ?」
これ私殴られる?とか思っていたら、まさかの以前孤児院を去るときのアルトと同じ質問をリカがしてきた。
なんだ?アルトとリカって思考回路とか似ているのか?犬猿の仲みたいな雰囲気を醸し出してたのに。
疑問に思いながらも答える。
「みんなが笑える…笑顔になれる世界にすることかな?」
「ハッ。笑える世界…」
まじめに答えたのに笑われた。
腹立つんですけど。
今日はキャラ設定に忠実じゃなかったのかよ。
不機嫌な私に気づいていないのか(いや、こいつ絶対気づいている)、リカは笑みを浮かべながら続ける。
「…とんだ夢物語だな」
キレてもいいですか?
「ちょっと夢物語じゃないからね。笑っている人は幸せでしょ?私の願いは、私の周りの人間が幸せであることなの!」
にらみつければ、リカは笑みを消し、いつになく真剣な表情で私を見た。
「な、なによぅ」
「バカリディア。お前はそうやって思い込むから、バカなんだ」
「バッ!?」
「常に笑みを絶やさない人間が幸せとは限らない。それと同じように笑っていなくても、幸せを感じている人間もいる。…そもそも、誰かが幸せを得る、その裏で、違う誰かは泣いている。世の中はそういう風にできている。全員が幸せになれる未来はない」
リカが珍しく長文攻撃をしてきた。が、内容がむずかしすぎてなにを言っているのか、意味がわからない。
…とりあえず、
「べ、別に私だってすべての人間がにこにこ笑顔になればいいって思ってるわけじゃないからね」
私は聖人君子ではない(ちなみにバカでもないからな!根に持つからな!)。
この世に生きるすべての人間が幸せであれ、なんてことは思っていない。
ただ私の周りの人が幸せに笑ってくれればいいのだ。それが願いだ。
「どうしようもならないことはある。けど、私の大切な人たちには、幸せに笑っていてほし…」
「思い込むなと言っただけだ。夢物語に囚われるお前のことは嫌いじゃない」
「え?」
意外な言葉に驚き顔を上げて、私は固まった。なぜか、リカの顔がどんどん近づいてきている。
あ、あれれー?なんて思っていれば、私と彼との距離はゼロとなっていて、私の頬にはやわらかいものが触れていた。
いつの日かアルトにされた箇所とは反対の頬。
ま、まさかこれは…
「キキキ、キス!?おのれらは、どうしてそう簡単にちゅーができるのよ!?」
急いでリカから飛びのけば、なんとやつは無表情!
私は馬鹿みたいに真っ赤なのに!?なんだ、こいつ!
ちなみにアリスを筆頭に他の子たちも私同様赤面している!私だけじゃないからな!
「フッ。かわいい」
「え、かわ?は!?」
「リディア、いつか迎えに行く」
「しかも、え?この流れで、それ言う!?」
「迎えに来てほしくなければ、逃げろ。……じゃあな」
リカは笑みを浮かべると馬車の方へと歩き出してしまった。
でも、なぜだろう。彼の笑顔は、ひどく悲しげに見えた。
リカはやっぱりミステリアスだ。
最後までなにを考えているのか、わからなかった。
だからこんなにも胸がざわつくんだ。
2人が去った、その日の夜の寝る前のリディア。
「っていうか、待って!私攻略対象に、迎えに行くって言われた!?は!?いや、でも逃げろとも言われたし…えぇぇ、本編はじまらないでしょうね!?」




