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42.4人めの攻略対象



 いまにして思う。


 「そういえばエリック王子にはもう会った?」

 「いんやー。まだ会ってないよー」


 なんて会話をしたのがいけなかったのだ。

 きっとこれのせいで、フラグが立ったのだから…。



 いつものごとく、森の中。

 目の前には傷だらけで倒れている右目の泣きぼくろがチャームポイントな、オレンジ色の髪の美少年がおりまして、

 対する私は顔を引きつらせて少年を観察中。


 「か、勘弁してよ~」


 私は頭を抱えた。




 さてみなさんお忘れかもしれないが、「いつ君」は魔法使い見習いと5人の王子様~いつか君を迎えに行くよ~、という題名である。

 4つの国しかないのに、攻略対象の王子様は5人出てくるのだ。

 どういうこっちゃね、と思った人もいると思う。


 実は5人目の王子様は、精霊の国の王子様なのだ。

 もう人間界飛び出しちゃって精霊界の王子様まで現われちゃうわけよ。

 その人物こそが、今私の目の前にいるエリック王子だ。

 

 ええ、はい。今目の前でぼろ雑巾のように倒れている、オレンジ髪の泣きぼくろ美少年がエリック王子なのである。

 つまり、現在ヒロインとエリックの出会いのイベントが発生しているわけだ。何の前触れもなく。吐いていいですか?


 孤児院編において、いつどのタイミングで現れるかわからないのがエリック王子だ。

 だけどまあ根拠はないけど、まだ現れないだろうなぁと私は気を抜いていた。そしたら、これだよ。アリスがエリックのことを話題に出すからフラグが立ったんだ!もうっ!

 

 だがしかし、出会ってしまったからには仕方がない。

 あきらめてエリック王子について説明しよう。

 とはいってもここらへんの内容あんまり覚えてないから、詳しくいことはわからないんだけどね。なんでか思い出せないのだ。


 とりあえず、精霊の国の王子であるエリック王子が人間界にいる理由はなんとなく覚えているから説明するよ。

 実は彼、父である精霊の王様の命令で人間界に来たのだ。護衛もつけず一人だけで。

 なんで来たのか理由は忘れたんだけどね。いや、うん。だって私なんとなくしか覚えてないから!

 でもその後の展開は覚えているよ。


 はじめてきた人間界。

 右も左もわからないエリックは人間たちにひどい目に遭わせられるのだ。


 たしかスラム街に降り立った彼は、身目の良さから売られそうになったり、お金を盗まれたり、食料を売ってくれなかったり、気晴らしに殴られたり、と。なかなかにひどい目にあう。


 そんな環境の中、彼は命からがら逃げだして捕まって、逃げ出して…を繰り返して心がひどく荒んでしまう。そうして彼は自分しか信じられなくなってしまうのだ。

 ひどいことされたら誰だってそうなるよね。


 そうして逃げて逃げて、森で力尽きたところに現われるのがヒロインだ。

 我らがヒロインはほんとうにタイミングよく登場する。


 人を信じられない彼はヒロインのことを威嚇するが、ヒロインはそんな態度気にもせず献身的に彼の手当てをする。そのうちに2人は心を通い合わせるようになり、エリックはヒロインに惚れる。で、ヒロインのことだけは信用するようになるのだ。


 でもその後精霊界から迎え(今更感が半端ない)がきて、帰らなくてはいけなくなる。

 いつか君を迎えに来るからと言い残し、エリックはヒロインの前から姿を消すのだ。

 早ければ1週間で終わる超スピーディーイベントである。


 ちなみにエリックの時の悪役なのだが、彼は攻略対象兼ラスボスのため、対となる悪役はいない。

 今重要なことを言いました。


 エリックはラスボスなのだ!

 ここテストに出るぞぉ。

 なんでエリックがラスボスなのか、そこらへんの理由はぜんっぜん思い出せないけどね!

 

 本編に入ると物語は、一気に日朝アニメのようになる。

 ストーリーは、闇の組織によって学園にまかれた闇を、ヒロインが攻略対象と力を合わせて光の力で払うというものだ。


 どうせ本編にはいかないから詳しくは説明しないけど、ていうかあんまり思い出せなくて説明できないんだけど、イベントは全部で7回ある。


 イベントの内容としてはレパートリーありすぎてこれまた説明できないけど、まあみなさんの予想どおり闇の力でパワーアップした悪役やら闇の組織の幹部たちが立ちはだかるのだ。でもって、攻略対象と力を合わせて闇の力を浄化!って感じ。


 そうしてこの7回のイベントをすべてクリアすることで、ラスボスであるエリックが闇の化身――ラスボスと化すのだ。ラストバトル。これはもう決定事項である。


 エリックルートであれば、エリックを光の力で浄化してエリック元に戻ってハッピーエンド。

 他、攻略対象のルートだと、エリックは浄化されて消える。なかなかひどい。他のルートでも救われてほしいよ。


 ちなみにだが、ラスボス戦を終え闇の組織の正体を暴き、ヒロインをおとしめた悪役を断罪して、オールクリアでエンディングというのが「いつ君」の全体の流れとなっている。



 まあ余談はここまでにして、そろそろ現実に戻ろう。

 現段階での問題は、目の前にいるエリックをどうするかだ。


 エリックは傷だらけのボロボロで倒れている。

 そしてなんということでしょうか。偶然にも、私は救急セットを持っていた。

 …ルーが怪我をしたのだ。軽いけがだけど心配だから手当てするために森に来たのだが、まさかエリックと遭遇するとは。

 

 しばらく考えて、私は動いた。

 

 「どうぞ。あとは自力で手当てをしてください」

 

 こういうのは関わらないに限るのだがさすがに見殺しにはできないので、倒れるエリックの前に救急セットを置き、そのまま目の前を通過……しようとしたが、現実は甘くなかった。


 おかしいな足が前に進まないのだ。

 なぜだろう。足首の血が滞りそうなくらいの圧迫感を感じます。ハハハ。嫌な予感しかしない。


 おそるおそる足元を見れば、そこには目を潤ませたかわいい美少年。ちなみに彼のきれいな手は私の美脚というか美足首をしっかり掴んでいた。

 おっかしいなー。君さっきまで倒れてたよね!?

 

 「待つのだ!なぜ、おれを助けない!ひどいではないか!」

 「ごめん。急いでるんだ。さようなら」


 えへっと笑い、足を掴む手を叩き落とし、その場を去る。

 が、

 

 「まてまてまて!ひどいぞ!ひどいのだ!」

 

 今度は叩き落とされていない方の手で足を掴んできやがった!

 しつこいっ。


 「ていうか、あんたキャラちがくない!?」

 「キャラ?」

 

 きょとんとかわいらしく首を傾げるエリックは、うん私の知っている「いつ君」のエリックとは正反対だ!


 おかしい。エリックはもっとこう、触れるものすべてを威嚇してそばに寄せ付けないような子だった気がする。それこそ最初のルーみたいな。

 このエリック、他者を寄せ付けないどころか自分から私の足を掴んでるよね!?

 威嚇よりも人懐っこく笑いかけてくるし!

 年上お姉さんに好かれそうなかわいい系フェロモンを振りまいているし!

 

 「お前がなにを思って混乱しているのか、おれは見当もつかいない。だからおれに対し疑問に思うことがあるのなら答えよう。そのかわりに傷の手当てを手伝ってもらいたい。恥ずかしことだが、おれは手当てをしたことがないのだ」

 「しかも口調丁寧!?超礼儀正しいんだけどっ」


 ついつい私はエリックのペースに飲み込まれて、彼の手当てをしてしまう。

 いやだって、こんなの不可抗力だよ。

 同い年のはずなのに、年下系フェロモンがものすごくて。母性がくすぐられてなにか手伝ってあげたくなっちゃうのだ。



 「ありがとう。お前のおかげで助かったのだ」


 全身ボロボロ傷だらけに見えたエリックだが、ほとんどの傷が擦り傷もしくは切り傷だったので意外にも早く手当は終わった。

 「いつ君」ではもっと深い傷を負っていたと思うんだけど、やっぱりゲームと現実では内容が少し変わってくるってことなのかな?


 「ま、いっか。じゃあ私はこれで…」

 「そういえば名乗っていなかったな。おれの名はエリック。お前はなんという名だ?」

 

 わざとなのか?わざとなのかこいつっ。

 エリックはにこにこ笑顔で私の名前を聞いてきた。

 私めっちゃ帰りたいというか早くルーの傷の手当てに行きたいっていうオーラを全身から放っているのに、エリックはことごとくそれをスルーしてきた。


 話をきかないタイプなのか、それとも空気が読めないのか。

 いや無害だからいいんだけど。

 

 「…リディアだけど」


 名乗れば彼の顔がパッと輝く。

 

 「リディアか!お前6歳だろ?うん。同い年の友人はこれで2人めだ!」

 

 しかも勝手に友達認定されている。

 まあ別にかわいいからいいんだけどさっ。


 「では手当てをしてくれたお礼をしなければならぬな。さあ、おれに質問していいぞ?」

 「質問?」


 どんな質問でも答えるぞ!と胸を張るエリックはとてもかわいいのだが、私としては質問よりもさっさとこの場を去りたい。

 ていうか質問ってなに?

 そんな私の怪訝な様子に気づいたのか、エリックが目を瞬く。


 「お前、忘れっぽいのだな。さきほど言ったではないか。リディアがなにに驚いているかはわからぬが、おれに対して疑問があれば答えると」

 「あー、たしかに言ってたわね」


 目の前にいるエリックがあまりにも「いつ君」のエリックと真逆の性格だったから驚いて「キャラが違う」とか言っちゃったんだった。

 でも、質問ねぇ。

 「いつ君」とあきらかに設定が違うんですけど、なぜですか?とか聞いて相手に伝わるわけがないし。


 「じゃあエリックはどうしてここで倒れていたの?」

 「いいだろう!」


 とりあえず、性格が違うのは「いつ君」の背景とは違う経緯でこの森にやってきたから、という仮説を立てたうえで質問をしてみた。

 彼は快くうなずいてくれた。


 「この説明をするには、そうだなおれの身の上を語ろう。おれはこの国とは遠く離れた場所からやってきたのだ」

 「へー」


 現段階では「いつ君」での設定との差異はない。

 私はさも驚いてます風にエリックの話に頷く。


 「おれには尊敬してやまない父がいるのだが、その父が言ったのだ。世界を見て己を知れ、と。ようするに身近な世界ではなく、自国とは文化が異なる国々を見て、己の見聞を広めろということなのだ」

 「それでエリックはこの国に来たってこと?」

 「そうだ。実に有意義な時間を過ごした。4つの国すべてを見てきたが、民衆たちは皆親切であった。戦時中らしいが皆手を取り合い助け合って生きていた。今日生きるだけでも大変だろうに、見ず知らずのおれに手を差し伸べてくれたのだ」


 そっかー、よかったねぇ。

 そう頷きかけるが、


 「……ん?待って。え?助けてくれたの?」

 「うむ。助けてくれたぞ」

 「…お金を取られたり、ごはんもらえなかったり、ムカつくからって殴られなかった?」

 「い、一度もされたことがないぞ!?そんなことをする輩がいるのか?お前、されたことがあるのか!?」

 

 エリックは心配そうに私の肩を掴む。

 うん、なにやら心配させてしまったようだ。

 でもおかしいなぁ。


 大丈夫だから、そんなことされたことないから。言いながら肩をつかむエリックを離すが、脳内の私は首を傾げたままだ。


 精神的に傷ついてないならそれにこしたことはないんだけど、「いつ君」と設定が違いすぎて違和感。


 「あれ?じゃあさ、なんであんたそんなに傷だらけだったわけ?」

 「む。ケガをした理由か?」

 「そうよ」


 この全身の切り傷やら擦り傷は、周囲の人間から痛めつけられてできた傷だと思っていたのだが、エリックの話を聞く分には彼に危害を加えた人間はいないと見える。

 じゃあどうして彼は傷だらけで倒れていた?

 エリックは照れ臭そうに笑っている。


 「はずかしくてほんとは言いたくないのだが、この全身のケガは自業自得のものなのだ」

 「自業自得?」

 「おれはまだ見ぬ自分の知らぬ土地を探し、この森に入ったのだ。そうしたら草木が美しく輝きとてもきれいではないか?おれは下を見て歩かず、上ばかりを見て歩いていた」


 なんとなく展開がよめてきた。

 私が気づいたのを悟ったのか、エリックがはずかしそうに頬をかく。


 「それでだな、上ばかりをみていたからな。まあリディアの予想通り、下が崖だと気づかずにおれは転落してしまったのだ。それで全身が痛くて地面に倒れていた。そうしたらお前が通りかかったというわけだ」

 「言いたいことはけっこうあるけど、とりあえず、よくその程度のケガで済んだねとだけは言っておく」

 「うむ。それはおれも思った。どうやらおれは運がいいらしい」

 「私もそう思うよ」


 しみじみと頷き合っていたときだ。

 ハッとエリックが辺りを見回し始めた。そしてある一点を見て、ふんわりと笑いうなずく。

 待って、待って待って、あんたなにを見てるの!?

 

 「怖いんだけどっ。普通の人には見えないものを見てますとか言ったら怒るよ!」

 「む?お前、なぜに震えている?」

 「震えてないっ」


 おばけが見えている。あ、お前の隣にいるぞ?とか言ったら殴るからね!

 全身の毛を逆立てる(これじゃあ私が威嚇してるみたい)私を見て、エリックはくすくすと笑う。笑い事じゃないんですけど!?


 「安心するのだ。迎えがきただけだ」

 「え?どこに?」

 

 迎えが来たと言うので辺りを見回してみたが、おい待て。だれもいないじゃないか。

 まさか目には見えないお迎えが来たとかじゃないでしょうね!?

 すがるようにエリックを見れば、彼はにんまりと笑っていた。

 

 「リディアには特別に教えてやろう。おれは精霊の王子なのだ」

 「ちょ、それ言っちゃっていいの!?」


 ただの精霊ならともかく、王子って言っちゃったよ。

 「いつ君」でも、孤児院時代ではエリックは自分の身分を明かしていなかったはずだが?


 だけれどもエリックは「お前はおれの友人だからいいのだ」と、のんきに笑う。あとでお父さんに怒られても知らないからな。


 「人間であるお前は知らないだろうから説明してやろう。精霊は気配遮断能力というものを持っているのだ。そこにいるのに認識できない。影が薄いというやつだな。だからリディアには近くにおれを迎えに来た精霊がいてもわからない」

 「でもあんたはわかるじゃない」


 反発するように言えば、エリックはうなずく。


 「精霊は感知能力も持っている。気配遮断を見抜く能力だな。おれは人一倍この能力が強い。だから、気配を遮断している精霊の存在にも気付ける」

 「へー」


 「いつ君」をプレイしていても知りえなかった精霊の知識を学んだ。

 うん。なかなかおもしろいね。奥が深いね精霊。

 しみじみとうなずいているとエリックが立ち上がっていた。


 「ありがとうリディア。短い時間であったが楽しかった。手当てをしてくれてありがとう。また会える日を願っているぞ」

 「あー、うん。ばいばい私も楽しかったよ」

 

 その後はエリックの姿が見えなくなるまで手を振り、彼の姿が見えなくなったところで私はルーの元へ向かった。


 ちなみにエリックのことは嫌いじゃないけどもう会いたくありません。

 だってもう一回会ったときは本編が始まってるってことでしょ?そんなのごめんだよ。


 というか最短1週間のイベントが1日で終わったんだけど、そこらへんはいいのかな?

 疑問は山ほどあるけどとりあえず、エリックは私のことを友達だと言っていたから、絶対に私に惚れてない…つまり本編開始時に迎えに来ないであろうことはわかった。

 深くは考えず、これでよしとするかー。




 

 「ルー!お待たせ~」

 『ルー!!!』

 「いだだだ!」



 「ってなわけで、私は今日エリックに会いましたとさ。もぅアリスのせいでフラグたったんだから、おわびとして今日のおやつのクッキーを所望します!」

 「いや、人のせいにしないでもらいたいんだけど。クッキーもあげないから」



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