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34.私は天才ヒロイン、リディアちゃん


 「え…は、えぇぇ…もがが」

 「静かにしてくださいっ」


 我に返った私は想像通り驚き暴れているのだが、アリスに急いで口をふさがれ、その場に押さえつけられていた。

 静かにしなくちゃいけないのはわかるけど、荒くない!?


 「でも…えぇ!?アリスも転生者だったの!?びっくり!」


 言いながら私は自分の顔が満面の笑みに変わっていくのを感じていた。そんな私の顔を見たからか、彼女も照れたように頬を染めながら頷く。


 「私も驚きました」


 ぐはっ。いつも冷静沈着、顔色一つ変えない宝塚の男役子供バージョンみたいな子が、はにかむというギャップ。私は撃沈した。


 「大丈夫ですか!?」

 「…だ、大丈夫」

 

 アリスはよろよろと起き上った私を見てほっと肩を下げた。


 「その…前々から、あなたも私と同じ転生者ではないかと思っていたんです」

 「ま、前々から!?」


 リディアちゃんびっくり仰天。

 私は一度もアリスのことを「もしかしてこの子、転生者!?」とか思わなかったのに!アリス、すごい!

 洞察力のある子なんだなぁ。しみじみと頷いて、ふと今までのアリスの不可解な行動を思い出す。


 「もしかしてこの5日間、ずっと私を観察していたのは…」

 「……リディア様が、その…あまりにもヒロインらしくなかったので、もしや私と同じなのではと思い、観察をしていました。ごめんなさい」

 「ぐふっ、そ、そうだったのか」

 

 ヒロインらしくないという言葉に、心なしかダメージを受ける。

 攻略対象とのハッピーエンドを目指さず、みんなが生きる未来のために動いている私としては、この言葉は褒め言葉だし、全く傷つかないんだけどさ。

 でもヒロインらしくないって、絶対に悪い意味だから…ぐすん。


 でもそこまで思って、やっぱりっと私は首をふった。

 うん、ヒロインらしくないって言葉にショックは受けた。が、ダメージは受けていない!

 だって今、ダメージを上回るくらいに…


 「私、すごくうれしいよっ。私以外にも転生者がいて、ほっとしたっ」

 「わ、私も…です」


 アリスは照れたように頬を染め笑った。その瞳は少し潤んで見えた。

 きっと彼女は今、私と同じ気持ちなのだ。

 前世の記憶があって、しかも死亡フラグを抱えて生きていく。

 ずっと見ないようにして頑張ってきたが、実を言うとほんとうは少し心細かった。

 この世界で、私は一人で頑張らなくちゃいけないと思っていた。だからアリスに出会えてほんとうにうれしい。


 「ねぇ!アリスは向こうでは何歳だったの?」

 「21です。大学生をしていました」

 「私は20だよ!同じく大学生!なるほど、1歳上だったのね。頼りがいを感じるわけだ」

 「1歳しか変わらないので、それにここでは同い年なので、頼りというのはちょっと…」


 アハハ~と笑いあったところで、ほのぼの雰囲気を一刀両断したのはアリスの焦った声だった。


 「って今は和気あいあいと話し合っている時間はありません!」

 

 私たちはリカ様のイベントのせいで、マフィアに攫われているのですよ!と、アリスは力をこめる。

 「いつ君」を知っている転生者は説明がなくても勝手に状況を理解してくれるから助かる。

 のほほんとそんなことを思いながら、私はトラックの荷台の隅にある砂利の山で遊ぶ。

 

 「そうだね~。あ、敬語じゃなくていいから」

 「う…うん。わかったわ。ってまた話が脱線した!これからどうするか、考えましょうっ!」

 「わ~、アリスもツッコミ気質だね。ソラと似た匂いがするよ」

 「は?ソラって攻略対象の…どういうこと?って、もぅ!今、その話はあとです…あ、あとよ!」

 「んー。やっぱ水がないと城は作れないか…」

 「砂遊びも後にして!……あなたやればできるけど、自分が頑張らなくても問題なさそうだなと思ったら、他の人に任せるタイプでしょ!?」

 「あ、ばれた?」

 「そこは否定してほしかったわ…」


 アリスは疲れ切ったように項垂れる。

 すごい。ソラを見ている気分だ。

 ジーク!せっかくツッコミを覚えたのに(覚えたくて覚えたんじゃねぇ!byジーク)、ライバルが出現したぞ。


 「ちょっと、なに微笑んでるの!?これからどうするか、考えるわよ」

 

 にやにや笑っていたらアリスに注意された。

 私がアリスをツッコミ認定しているとき、同時に彼女は私のことをどうしようもない人間として認識してしまったようだ。まあ否定はしないよ。


 「でもねぇ、アリス。私がなにも策を考えていない、なーんて思ったら大間違いだよ?」

 「え?」


 私の言葉に、アリスは瞠目した。

 その表情を見ることができ、だいぶ満足な私は調子にのって胸を張る。


 「私ってば、今まで数多くの修羅を乗り越えてきた天才ヒロインリディアちゃんだよ?このピンチを乗り切る作戦だってしっかり考えてるんだから!」

 「リディア、あなた……」

 「大丈夫、アリスは絶対に私が孤児院に返してあげる」

 「っ!」


 驚きか、感動か、目を輝かせるアリスを、どうどうと私は落ち着かせる。

 作戦はまだ成功してない。涙はこの作戦が成功し、孤児院に無事帰れたときに見せてほしい。

 それにこの作戦、私一人では成功しないし実行することもできない。アリスの力が必要なのだ。

 

 「そのために~。まずはその服ぬごっか?」

 「は?」


 にやりと笑った私を見て、後のアリスは語る。

 あの笑顔を見た瞬間、嫌な予感がした、と。



//////☆


 「おい、ガキが逃げたぞ!」


 どこからともなく聞こえた仲間の声に反応し、トラックは急停車した。

 その直後にトラックの運転席と助手席から、人が下りる音がする。

 足音は少しずつ、トラックの荷台――私たちが現在いる場所へと近づく。

 ゴクリと、私は唾を飲み込んだ。

 失敗はできない。

 

 アリスに身をひそめるように指示し、私はそのときを待つ。

 そして時は来た。


 茶髪と灰色の頭がトラックの荷台を覗き込んだとき、


 「えいっ!」

 「うあぁぁ!」

 「目が、いてぇ!」


 私が投げた砂利は見事、男2人の顔面に命中。

 一瞬だが、隙ができた。それを見逃さず、私はトラックから飛び降りた。

 そして森の中へ入る。そこからは無我夢中で生い茂る木々の間を走り抜けた。


 その間に男たちの視界は元に戻ったようだ。

 逃げた私に気づいたらしい。後方から男の声がした。

 

 「ガキが逃げたぞ!男だ!王子が逃げたぞォ!」

 「叫ぶな、さっさと捕まえるぞ!」


 そうして声が聞こえなくなったら、今度は大きな足音が近づいてくる。

 ようするに彼ら2人は、私を追っているのだ。 

 ひっかかった。

 にやりと口角があがった。


 でもこんなことで喜んではいられない。気のゆるみは失敗の原因となる。

 自分を落ち着かせるため、走りながら、深く息を吸う。


 ……イメージって、すごい力になると私は思っている。

 まずは、どんなときに自分は、自分の最高を出せるのか。そのときの空気・背景を理解することが重要だ。

 晴れた日の朝、近所のランニングコースで走る時が一番自分の力を出せる…とかね。


 次に重要なのは、それを理解したうえで、イメージできるか。

 全国大会とか、いつもとは違う場所。そこで、晴れた日の朝の近所のランニングコースをイメージできるかが大切。


 そして最後は、それを実行できるか。

 どれだけ理解して、イメージできても、実行できなければ意味がない。


 だから私は、すぅと大きく息を吸い込んで、叫ぶ。

 

 「ぎゃぁぁあ、神父様から逃げろ~っ」

 「リディアぁぁぁああああ!」

 

 遠くから小さくだが、神父様の声がした。

 おそらく神父様の声帯を模写したアリスのアドリブだろう。

 ありがとうね、アリス。


 おかげで、逃げる速度がさらに上がった!

 私は王子(私)を追いかける男たちから、さらに距離を離し、走った。

 一番いいのは、このままあいつらを撒くことなんだけど…


 「さすがにそれは、無理があるか」



 さて、今回の作戦について説明をしたいと思う。

 

 私の作戦はいたってシンプル。

 私が敵をひきつけるから、その間にアリスは孤児院に走って助けを呼びに行く。で、助けが来るまで私は逃げる。アオ兄ちゃん(孤児院の中で敵をやっつけることができそうなのは、アオ兄ちゃんくらいだろう)が助けに来る。私、助かる。イベント終了だ。


 ちなみに、敵の一番の目的はリカだ。

 なんてったって王子様だからね。

 そもそも王子様を人質にとれなければ、秋の国は身代金を出してくれない。


 そのため女の子の私が逃げても、やつらが追ってくるとは限らない。

 なので、アリスに衣装チェンジをしてもらったわけだ。敵はアリスをリカと勘違いして攫ったと考えられるし、今私を王子だと思って追って来ていることから、私の推察は間違いないだろう。


 髪の毛を伸ばしてなくてよかった。これで伸ばしていたら、いくら男の子の服を着ていても、追いかけては来なかったかもしれない。まあ、マフィアたち髪の色で違いに気づけよって感じだけどさ。

 

 予想はついているかもしれないが、この作戦を説明したところ、当然のごとくアリスに猛反対された(だから策士な私は服を交換した後で説明した☆)。男のふりにしたって追手を引きつけて逃げるにしたって、自分以外に適任はいない、とね。

 

 でもね、私もアリスに危ない役目をやらせたくないっていう理由だけで、囮役に立候補したわけじゃない。

 男のふりも敵を引きつけるのも、アリスのほうが適任だということはわかっている。

 だがしかし、今この場面では、私以上に、この囮役に適任の人物はいないのだ。


 だから私は再度この計画と、囮役が私でなくてはならない理由をアリスに説明した。

 アリスなら、感情を優先させず、客観的に成功する可能性の高い作戦に賛同してくれると思ったからだ。

 悪役令嬢アリスというキャラだからではない。

 トラックの荷台の上で話をして、アリスという人柄に触れて、私はそう思った。


 さて、ではなぜ囮役が私でなくてはならないのか。

 その理由は3つある。


 まず、一番に体力だ。

 アリスが囮役をする場合、私が孤児院に戻ることになる。

 そうなった場合、孤児院に到着する時間が大幅に遅れる。


 だって私体力ないから。このトラックがどれだけの距離を走ってきたと思ってる?孤児院まで、けっこう距離があるぞ。

 その点で言えば、アリスは日々鍛錬しているから私より体力があるし走る速度も速い。

 私は体力こそはないものの、神父様からいつも逃げているおかげで、走る速度には自信がある。

 ほら、私が囮役になったほうがいい。


 そして、第二に地形だ。

 アリスは孤児院に来たばかりで、この森のことをよく知らない。

 でも私は知っている。

 もう5か月と1日、孤児院にいるのだ。加えて、私は最近ルーと一緒に森で遊んでいる。

 だから神父様たち大人を除けば、誰よりもこの森を熟知している。

 そんな私だから、森の中で迷うことなく、逆に追手を危険な場所へ誘導しながら逃げられる。

 ジークをはめる予定だった落とし穴等のトラップも、この森のいたるところに作ってあるからね。

 私が適任でしょ?


 そして、最後。

 これは単純に、追手がバカだから。これが理由。

 このイベント、さすがに大人(マフィア)が王子とはいえ子供と真剣バトルをしたらリカが不利なので、人攫いマフィアは2人だけで、しかもバカなのだ。

 私、バカに捕まるような女じゃない。

 よって、私が適任!

 

 最後の理由は無理やりだったとしても、アリスはちゃんとこの作戦に賛同してくれた。…かなり、不服そうな顔をしていたけれどね。


 作戦は私の予想通り、今のところは成功している。

 敵は、アリスの秘密の特技「声帯模写」で最初に翻弄されてから調子が出ないのか、私がジークのために作った森トラップに連続で引っかかっている!

 

 ちらりと振り返れば、茶髪が落とし穴にはまり、灰色髪が一生懸命引っ張り上げているところだった。

 にやり、口角があがる。

 

 「このまま逃げ切って、絶対に孤児院に帰るんだから」

 

 すっかり日の沈んだ夜空の下、私は走り続けた。




 ちなみに、「おいガキが逃げたぞ!」という最初の一声は、アリスの声帯模写の声です。アリスはそのとき、自分のお父さんの声を模写したらしいです。

 2人を攫った茶色頭と灰色頭は頭のねじが一本ないので、最初の一声が第三者の声だと気づいてはおらず(攫ったのは自分たち2人で、仲間も目の前のお互いしかいないはずなのに)、「大変だ~」「ガキが逃げたぞ~」という感じで、トラックの荷台を見にきました。

 そしてリディアにしてやられました。

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