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33.攫われた転生者たち

 

 「いつ君」の孤児院編、リカには好感度大UPイベントというものがある。

 成功すればヒロインへのリカの好感度は急上昇。

 失敗すれば死ぬ。

 そんなイベントだ。

 

 ……ええ、死ぬんですよこれが。

 孤児院編で唯一死ぬ可能性があるイベントが、今回の攫われ人質イベント。


 本編に行く前に死んだらたまったもんじゃないので、このイベントは、『参加しますか?しませんか?』の選択制イベントだったはずなのだが……勝手に参加することになったらしい。この野郎っ。


 イベントはマフィアたちが情報屋と取引をしている場面から始まる。

 いかにも裏稼業な顔つきの人たちが集まる酒場で、マフィアは秋の国の王子が孤児院に身を潜めているという情報を手に入れるのだ。


 なんで情報漏れてるんだよ。秋の王国もうちょっと気を付けてよ。等の文句はたくさん言いたいが、ともかくとして、彼らは秋の国の王子を人質にして、王家に身代金を要求しようと考える。

 そして孤児院へ続く森へと忍び込み(神様の加護!ゲームの都合に負けるなよっ)、仲良く森の中を歩いていたヒロインとリカを攫うのだ。

 

 しかしこれはリカの好感度UPイベントだ。

 攫われても、秋の国に連れて行かれることはない。

 リカが人攫い――マフィアに反抗し、ヒロインを守りながら戦い勝つからね。

 そして2人は互いの絆を確かめ合い、好感度が上がるのだ。……まあ、成功すればの話だけど。


 さきほども言ったようにこのイベント、失敗すれば死ぬ可能性がある。

 「いつ君」にはミニバトルがある。


 『リディア、どうする!(リカ)』

 『A 逃げましょう  B 戦いましょう  C 話しましょう(ヒロイン)』どれを選択しますか?

 

 こんな感じで、攻略対象の行動をヒロインが決めて戦うのだ。


 当たり前だがここで選択を間違えると、孤児院編でヒロインとリカが死ぬ。

 余談だが、ここで死んだら孤児院を去る時に攻略対象が言う「いつか君を迎えに行くよ」のセリフを、死の間際で『いつか君を迎えに行く…天国で、待っていろ』とリカが言うのでなんか腹立つ。


 この台詞見たさにわざとバッドエンドに進む人もいるけど、このイベントでは死ぬ方が難しいので、ほとんどの人は成功してリカの好感度を上げまくる。

 主に好感度200%を目指す人は、このイベントには必ず参加していたね。

 孤児院での好感度は本編に入ったら一度リセットされ、また100%から始まるのだが、1割くらいは本編開始時の好感度として反映されるそうなのだ。

 だからリカ200%を目指す人は、孤児院編でのこのイベントを頑張る。


 しかし安未果は当然のことながら、好感度200%は目指していなかった。

 普通にリカルートのクリアを目指し、奮闘していたので…ようするに、このイベントはいつも参加しませんを選択していた。

 

 だからやばいのだ。

 対処法が考えつかな…



 ゴンッ

 

 「いったぁぁぁ!」


 突如頭に激痛を覚え目を開けると、目の前にはアリスがいた。

 え。なに?なぜ、目の前にアリス!?

 私は当然混乱する。ついでに頭が痛くて涙目。

 そんな私を見て、彼女は申し訳なさそうに眉を下げた。

 

 「すみません。手荒な真似をしました。ですが急ぎ目覚めさせる必要があったので…」


 どうやらアリスが頭突きをして起こしてくれたらしい。

 彼女の額が赤いから、たぶんそれで正解。

 にしても、どうしてアリスが目の前に?

 頭がぼやっとする。


 なぜかわからないが、現在、私は両手両足を縄で縛られ、トラックの荷台?らしきところに転がされていた。

 前から後ろへと流れていく景色は、緑豊かな木々。ここは森の中だ。


 なにこれ?と、思ったとき、先ほどの出来事がパッとフラッシュバックのように呼び起こされる。

 アリスに呼び出されて、青ざめて、ハンカチで口元塞がれて、イベントのことを思い出して、意識が……


 「そうだよっ。私、突然っ…」 

 「静かに。彼らに気づかれます」


 アリスはしっと私の口に人差し指を当てた。

 ああ、ありがとう。ごめんなさい。

 …女の子ってわけっているけど、ちょっとドキドキするなぁ。

 

 「って待って!どうして縛られてな…もごご」

 

 気づいた私はまた声を荒げかけ、アリスに口をふさがれた。

 だけど私が驚くのも無理ないよ。

 現在、アリスは片膝をつき、右手で私の口をふさいでいるのだ。

 つまり、両手両足が自由!縛られていない!


 え。マフィアの方々、私だけ縛ったの?

 なんで?アリスのほうがタイプだったの!?ひどいっ。

 むかついてトラックを運転しているであろうマフィアの人たちをにらも…うとしたところで、「身を乗り出したら気づかれます!やめてください!」と慌てた様子のアリスに止められる。

 先ほどから止められてばかりだな。ごめんね。


 「誤解しているようなので説明しますが、私も縛られていました」

 「え、そうなの?」

 「縄抜けが得意なんです。今、あなたの縄も解きますから」

 「あ、そうだったの。ありがと」

 

 言いながらアリスは私の手脚の縄をあっというまに解いてくれた。

 すごーい。

 喜ぶ私。反対に、彼女は少し疲れた様子だ。


 「縄抜けって意外と疲れるんだね」

 「……ええ」


 おかしいな。なぜか、縄抜けには疲れてねーよって感じの目で見られた気がする。

 私の気のせいか?首を傾げていると、アリスが声を潜めて私に近づいた。


 「これからどうするか。何か考えはありますか?」

 「そ、そうだね」

 

 本来なら、私とリカが攫われても、リカが敵を倒してくれる。ところなのだが…なぜかわからないけど、実際攫われたのは私とアリス。ほんとなんでだよって感じだ。

 けれど、どんなに文句を言ったって現実は変えられない。

 今はどうにかして私たち2人でこの窮地を脱しなければならないのだ。


 「私が、敵を一掃……」


 言いかけるアリスに私は急いで首をふる。


 「だめだよ!今、鞭もってないじゃん!危険だよ!」

 「…え?」

 

 アリスは通常、一本鞭を使用した戦闘をする。

 身の安全のために孤児院にも彼女専用の鞭を持ってきてはいるのだが、あいにくそれは部屋の中だ。

 つまり、彼女は現在武器を持っていない。


 アリスは騎士として父親に訓練されてきたので強い。だが所詮は6歳の女の子。瞬発力や技術はあっても、力の面ではどうしても男性に劣ってしまう。

 だからアリス一人で敵を一掃することは不可能なのだ。


 「万が一戦うとしても、一人はダメだよ!私も一緒に戦うからね」

 「は…?」

 「さーてと、選択肢は戦う、逃げる、話すの3つだったから…」


 話すは絶対にありえない。だから、戦うか逃げるの2択だ。


 「うん、まずはこのトラックを降りよう!アリス、気をつけてね。あいつらは秋の国のマフィアで、王家に身代金を要求するつもりなの!たぶん、アリスをリカと勘違いして攫ったんだろうね。だからこのままトラックに乗っているのは危険…いだだ!?」

 

 解説していたら、アリスが険しい顔で私の肩を掴んできた。

 え。なになに?はっきり言って、とてつもなく怖い。

  

 「あ、あのぉ…痛いんだけどー?」

 「あなた、なぜそこまで詳しく知っているの?」

 「……あちゃー」


 言われて気付いた。

 切羽詰った状況だったからついつい、私たちを攫ったやつらの正体や目的を話してしまった。けど、ふつうそんなこと知らない。

 突然攫われた被害者が、この真実を知っているはずがないのだ。

 サァーと全身から血の気が引いてくる。


 も、もしかして私、秋の国のマフィアの仲間だって疑われている!?


 「違うよ!私、あいつらの仲間じゃない!信じてもらえないかもだけど、私がこのこと知ってた理由は後で話すからっ…」

 「あなたに、質問があります」

 

 信じてぇと半泣きの私にかぶせるように発せられた威圧感のある声。…死んだかも。

 チーンと真っ白になった私を彼女はじっと見て、眉間にしわを寄せたまま口を開いた。



 「…魔法使い見習いと5人の王子様~いつか君を迎えに行く~通称「いつ君」を知っていますか?」

 「……知ってる」

 


 先ほどまで騒がしかったトラックの荷台は、嘘のように静かになったという。

 まあ静かだったのは3秒間だけで。

 その後驚きのあまり発狂しかける金髪少女の口を、黒髪男装少女が塞いだりなんだりで、また騒がしくなったんだけどさ。



リディア以外にも転生者がいました。


活動報告に、SSを書きました。

SSはジークが頑張る話です。

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