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31.後悔先に絶たず。


 突然イベントが始まり、私は混乱していた。


 どうしよう。なにこれ、え?

 とりあえず本能に身を任せ、回れ右をしてクラウチングスタート!……を、しようとしたのだが

  

 「リディアちゃんどうしたの?」


 ルルちゃんが腕をつかんで離さないっ。ようするに私はこの場から逃げられない!

 おそろしい。イベントが私を離そうとしないっ。


 「う、あ…トイレぇ…」


 苦し紛れに言えば、


 「トイレならさっき行ってたよね?」

 「うぐっ」


 ファナちゃんからの容赦のない迎撃。


 そうです。ファナちゃんの言う通りです。

 ルーに会いに行く前に私はトイレに行ったのだ。くそぅ、なんで知ってるの?


 その後もいろいろと言い訳をしてこの場を離れようとするのだが、ルルちゃんを筆頭にすべての言い訳を打ち返される。

 みんな私に恨みでもあるの?全然逃げられないんだけど!?

 この間2~3分にも及ばないけど、体感的には5時間くらい攻防戦をしている。


 そんな、疲弊しきったときだった。

 ルルちゃんがこそっと私の耳元に顔を近づけた。


 「わかってるよ、リディアちゃん。リカちゃんと仲良くしたいけど、かわいすぎて勇気が出ないんでしょ?私たちが手伝ってあげる~」


 驚いて周囲を見回せば、みんなルルちゃんと同じように優しい顔で頷いていた。

 

 「アリス君とも仲良くなりたいけど、格好いいから照れちゃってるんだよねぇ?リディアちゃん、アリス君みたいな子がタイプだったんだ~、うふふ。安心して、手伝ってあげるよぉ」


 ルルちゃんはにこっとウィンク。


 「み、みんなっ…」

 

 私はもう、言葉が出ない。

 だって…


 好意は嬉しいけど、ルルちゃんもみんなもわかってないんだもーーーん!?


 え、待って待って。私のなにを見てそんな勘違いをした!?

 驚きすぎてなにも言えない。そりゃあ、力を貸してあげようという好意はうれしいけどもさ!


 だが私の困惑の涙を感謝の涙と勘違いしたルルちゃんたちは、やっぱりーとリカの方へ私を引きずっていく。リカやアリスと仲良くなれるよう、まずは物理的に距離を近づけようという作戦らしい。や、やめてぇ!?


 「ちょ、ルルちゃん待っ…」

 「大丈夫、大丈夫。勢いで頑張って~。勢いはリディアちゃんの専売特許なんだから~☆」


 小さな声でヘルプを求めるが、だめだ。ルルちゃんは全く聞く耳を持ってくれない。

 というか、勢いが私の専売特許ってなんだ!?

 

 だが、そうこうしている間に、とうとう私はリカの目の前まで来ていた。

 リカと私の間には1センチほどの距離しか空いていないので、目の前までというより、ぶつかる寸前って表現のほうが正解な気がするが。


 うぅ。こうなったら仕方がない。

 今から逃げるにしたって、四方八方を女子に囲まれているので(私を安心させるためのやさしさなのだろうが、いじめとしか思えないぞ☆)、私は腹をくくるしかないのだ!

 

 「リカちゃんかわいいよね?」 


 相も変わらずリカは無表情でなにを考えているのかわからない。

 でもここで、リカちゃんかっこいいーが不正解なのは知ってるし、かわいいと言ってもリカが喜ばないのはわかっている。

 ならば私はどうするべきか。

 

 みんなが私を見守る中、

 

 「……リ、リカって…」

 

 ゴクリと生唾を飲み込み、

 

 「お、おもしろいよね~。アハハハー」

 「……。」


 思いっきり、バカをやらかした。


 その場がしーんと静まり返る。

 唯一この場で聞こえる音は、私の苦しい笑い声だけ。アハハー……はぁ。


 ルルちゃんたちの視線が痛い。え、どうしたの?ていう怪訝な視線を感じるよ~。

 私?私は、涙目で今も笑ってるに決まっているだろ。笑い終えるタイミングを逃したんだよ、コンチクショー!


 みんなの反応を見て、ですよね、だろうねと思うよ。

 でもかわいいもかっこいいもだめ。そしたら残ってるのは「おもしろい」しかないだろ!私はよく頑張ったよ!誰か褒めて!

 あーうそうそ。褒めなくていいから、「かっこいいって言わなければ大丈夫!」とかほざいていた過去の私を殴ってください。


 ……はぁ。


 私は心の中でうなだれる。

 絶対リカに変な奴だと思われた。

 でも、いい。これでリカルートは完璧除外。アリスの悪役さよなら計画も成功だ。ハハハ。未来でみんなが死なずに生きる未来を思えば、変な奴認定されるくらい、どうってことない。

 まあできることなら、そんな認定されたくなかったけど。

 

 あー…空が青いなぁ。

 こういうときは現実逃避に限るよ。私は雲一つない青空を眺めた。

 のだが…

 

 「ぷふっ」

 

 かわいらしく吹きだす音が私を現実に引き戻した。

 何事かと笑い声のしたほうを見て、驚いた。

 

 「プフッ…アハハ」


 リカがおなかを抱えて笑っていたのだ。

 …寡黙無表情のリカが、堪えられないといった様子で笑っている。


 私もルルちゃんをはじめとした女の子たちも、アリスだって唖然茫然。

 そんな状態からいち早く解放されたのはルルちゃんだった。

 はっとして、急いで私に話を振る。


 「リ、リディアちゃん。リカちゃんはかわいいよ~。どうしておもしろいって……」

 「リディアのほうがかわいいし、おもしろい」


 私へ問いかけにかぶせるように発言したのはリカだった。

 驚きリカを凝視すると、彼の牡丹色の瞳もじぃっと私を見て、ふっとやわらかくほどける。その笑顔は、性別なんて関係ないほどに、美しくて。あっというまに私たちの足腰を砕いた。


 か、かわいすぎて。心臓が痛い。足が震える。

 思わずぎゅっと心臓を抑えたら、ルルちゃんたちも心臓を抑えていた。なかには座り込んでいる子もいる。よかった、仲間はいた。

 

 「…ていうか、リカ。私の名前知ってたんだ」

 

 思わずつぶやくと、リカは何も言わず、子細的に笑った。

 そのちょっと小悪魔っぽい笑顔も、さっきのやわらかい笑顔と同じくらい、美しかった。


 今まで近くにいなかったタイプなので、なんだかどぎまぎしてしまう。

 私の周りの人間は、ツッコミ、ブラコンヤンデレ、俺様、Sっ気のあるお兄ちゃんと、かなりレパートリーにとんでいたはずなのに、こういうタイプはいなかった。

 これが寡黙ミステリアスキャラの魅力ってやつなのか!?

 私はぴゅうっと汗をぬぐった。


 ……で?

 このあとどうすれば?


 私はリカに話しかけたぞ!勢いで頑張ったぞ!?これからどうするの、ヘルプ!と、ルルちゃんを見る。

 すると彼女は力強く頷いてくれた。

 なんとかしてくれるらしい。

 よかった。ようやく私はイベントから解放され、ルーの元へ行け……


 「じゃあアリス君はどう?かっこいいよね!」

 「……。」


 第二ラウンドの鐘を鳴らされた。

 ぎやぁあああ。やめて~!!


 うん、忘れてた。ルルちゃんが物事を悪い方向に(主に私にとって)持っていく天才だということを、私は忘れていたよ!!


 私が心の中で号泣している中、ルルちゃんの機転?に他の女の子たちは気づいてしまったようで


 「そうだよね!アリス君かっこいいよね!」

 「かっこいい騎士様みたい!」


 先ほどと同じように悪い方向に応援してくるの~。ガチ泣きしてもいいですか?

 私がアリスかっこいーと言いやすいように場を作ってくれているのだろうが、みんな、一生のお願いだからやめて。

 みんなのやさしさが、私を死の未来へと追いやっているんだよ~!


 だがそんな私の想いとは裏腹に、女の子たちは場は温めたよとウインクをする。

 やさしさがこんなにも辛いと思ったのは初めてかもしれない。

 ルルちゃんにも、「勢いだよ!」とまた応援される。

 そうだ。もう、ここは勢いで乗り切るしかないっ。私は腹をくくった。

 

 「リディアちゃん、アリス君かっこいいよね!」

 「う、うぅ~ん。私は、アリスも、お、おもしろいと思うなぁぁ」

 

 そしてまた周囲はしんと静まりかえるのだ。

 うわーん。


 しかし言った後で、私は己が失態の大きさに気が付く。これ、リカのときよりもまずくない?かっこいいよりおもしろいの方が、ダメな気がする。


 慌ててアリスを見れば、現在の彼女は驚きのあまり目を瞬かせているだけ。

 が、きっと我に返ったら、普通の女の子になりたかったのに…あの女私をおもしろいだなんて!バカにしてる!と、本編始まる前に殺されるだろう。

 

 あわわわ。想像したら、恐怖で体が震えてきた。


 「うわぁぁん!私、まだ、死にたくないよぉ!」

 「リディアちゃんどこに行くの~?」


 私は今度こそ回れ右して森に向かって逃亡した。

 みんなが静止する声にも気づかず、桃色の髪の彼が私を追いかけてきたことにも気づかず。

 

 今の私はただひたすらに、この場を去りたかった。だから体がその願いを叶え、足を動かしたのだ。

 逃げてもどうしようもないのにぃぃ。



//////☆


 「ルー!ど、どうしよう!」

 『ルー!?ルールー!』


 ルーとの待ち合わせ場所である、くるみの木の下にたどり着いた私は、勢いよく彼に抱き付いた。

 待ち合わせに少し遅れた私に対し仏頂面だったルーだが、顔面蒼白の私を見たからか、慌てて私の顔を覗き込む。たぶん心配してくれてる。


 抱きしめる私の腕から逃れると、ぱさぱさと翼をはばたかせ、心配そうに私の周辺と飛ぶのだ。なんてやさしい子なのっ。

 

 「ご、ごめんね。ルーまで混乱させてっ。でもありがとっ」

 『ルーっ』


 手を伸ばすとルーがそこにすっと座る。

 私は心を落ち着かせるようにルーの頭をなでた。え?誰の心を落ち着かせるか?もちろん私の心に決まってるだろ。

 うわばば。私、これからどうしよう。

 

 「あのね、ルー、私の相談にのってくれる?」

 『ルー!』


 一人悩んでいたら悪い方向にばっかり考えてしまう。

 元気な返事ももらえたし、こういうときは相談するに限るよね!


 「実は大変なことが起きてね。ざっくり言うと、私死ぬかも」

 『ル、ルー!?』


 心配そうにはばたくルーを落ち着かせながら、死亡フラグについてははぶき、新しくやってきた子に粗相をし、そのせいで今日、もしくは10年後に死ぬかもしれないと話した。

 しだいにルーの顔が心配から、くだらない心配して損したって顔に変わっていった気がしたけど、うん。気のせいでしょう!

 

 『ルー。ルールー…』


 うーん、ルーがなにを言っているのか全く分からない。けどたぶん、大丈夫だろう的なことを言ってるとみた。

 

 「…そ、そうだよね!面白いって言ったから、好感度はあがらないよね!アリスも怒り狂わないよね!」

 『ルー!』


 すると、背後でプフッと笑い声。

 嫌な予感がして振り返ると、そこにはやわらかい笑みを浮かべる桃色の髪の天使がいた。

 ええ、ようするにリカがいたんですよ。

 

 「どうしてここに!?」

 「ついてきたから」

 「は、はあ!?」


 ちょっと待ってどこまで聞かれた。

 警戒していると、リカが微笑を浮かべながら私の方へと近づいてくる。無表情キャラのくせに、この笑みは反則だと思う。

 

 「死ぬかもしれない…か。アリスに嫌われたと思ってるのか?」

 「もしかして、ルーへの相談を最初っから聞いてたりぃ…?」

 「ああ」


 愉快そうにリカは笑った。

 なんか私の慌てっぷりを笑われている気がして嫌なんだけど。腹立つんですけど。

 

 「安心しろ。あいつは怒っていない。むしろ、喜んでいる」

 「そんなバカな…」

 「おれはあいつと付き合いが長い。喜んでいる」

 「えぇー」


 今更ながらリカって一人称おれなんだね。

 本人としては女装をしているだけで、性別とか口調とかおそらく隠す気はないのだろう。


 「おれが言いたかったのはそれだけだ」

 

 満足したのか、リカは私に背を向ける。

 マイペースな男だな。

 ていうかリカはどこに行くつもりなの?私の視線に気づいたのか、ちらりと振り返った彼はフッと口の端をあげた。

 

 「孤児院に帰る。動物に相談をするほど心配なら、アリスに怒ったかどうか聞けばいい。あれはお前が想像するようなことは言わないだろう」

 

 そうしてリカは私に背を向け歩き始めた。

 えっ、ちょ。


 「待って!」

 「……?」

 

 彼は無表情に振り返った。だけどその顔は訝し気に見えて、ちょっと萎縮する。

 けど私は、どうしてもリカに言いたいことがあるのだ。

 ルーをぎゅっと抱きしめて勇気をもらう。

 

 「リカ…あのね」

 「なんだ」

 「そっち孤児院と真逆だよ」

 「……。」

 「……。」

 

 その場がシーンと静まり返る。今日、静まり返りすぎじゃない?


 いやでも、私間違ったことは言ってないよ。リカは孤児院に帰るといいながら、孤児院と正反対の森の深淵のほうへと足を進めていたんだもの。

 しばらくの間の後で、彼は無表情に道を引き返し、今度は左側の方へと歩き始める。

 いや、そっち川のある方向なんですけどぉー!

 

 「ちょ、待って、リカ!ちがう、そっちじゃないから!」

 「……知ってた」


 いや、嘘でしょ。知ってたらそんな堂々と別方向に進まないだろ。

 ルーも呆れた顔をしてるよ。

 私はやれやれと首を横に振る。

 「いつ君」では、そういう設定はなかったけどさ、これは確実に…

 

 「方向音痴でしょ」

 「……ちがう。この森が、おかしいんだ」

 

 リカは無表情のまま顔をそらす。

 こ、こいつ。

 

 「ちがうなら、なんで少し間を開けて答えたのよ」

 「……気分」


 私ははぁぁと頭を抱える。 


 「いや、絶対に方向音痴だから。よく私のもとにたどりつけたわね」

 「方向音痴でも人を追いかけることはできる。でもおれは方向音痴じゃない」

 

 ツーンと無表情のままリカは私から顔をそむける。

 なんかリカの知られざる一面を見た。

 なに?自分の欠点をなにがなんでも隠したいタイプなの?

 

 「わかったよ。私も一緒に孤児院に帰るから」

 「別に一人で帰れる」

 「私を心配してきてくれたんでしょ。それなのに一人で帰らせて道に迷ったら目覚めが悪いの」

 「わかった」

 

 うなずくとリカは私の手を取り、きゅっと握った。

 うん。なぜ?

 ルーが怒ってるよ。『ルッ!?ルールーッ!』って。

 ていうかなんでルーが、怒ってるんだ?


 疑問に思うところはたくさんあるが、とりあえず一番疑問に思うことを口にする。


 「あのぉ、なぜに手をつなぐの?」 

 「フッ。間抜けな顔だな」

 「おい」

 

 また笑われてるんですけど。

 リカは美しい笑顔で言った。

 

 「お前が道に迷わないように手を握ってやる」

 「私は別に迷ってもいいから、手を握らなくてもいいよ」

 「ハハッ。お前はほんとうにおもしろいな」

 「で、結局手は離してくれないのね」

 「ああ」

 

 しかたがない。結局私が折れた。ルーとはさよならをして、リカと手をつないだまま孤児院に帰る。

 これにて一件落着。私が人生終わったと森で野宿をすることもなく、リカが道に迷って森をさまよい続けることもなく、めでたしめでたしで孤児院に帰ってこれた。


 ならよかったんんだけど、

 

 なんとリカは孤児院についても私の手を離さず、そのままアリスのもとに向かったのだ。当然、その間私は言葉にならない叫びを発する。


 でもって、


 「こいつがお前に話があるそうだ」


 彼はアリスの前に私を押し出したのだ。

 うん、超絶いらないお世話!?

 アリスが驚いたように瞠目する。が、それは一瞬のこと。

 すぐに冷静になり私を見つめる。

 

 「私になにか?」

 「う…えぇ…っと……」

 「プフッ」


 あたふたしていたらまたリカに笑われた。アリスがそんなリカを見て目を丸くするが、そんなことよりも、今はリカにイライラなんですけど。人の不幸を笑いやがって~。

 もう仕方ない!ここまできたらやけだ。


 「し、質問!さっきおもしろいって言って、アリスの心は傷ついた!?」

 「……は?」

 

 アリスは目をぱちくりとする。

 え。そんなに私の質問が意外だった?

 でも間違ったことは聞いてない…はずだ!


 「いつ君」のゲーム内では、ヒロインにかっこいいねと言われてアリスの心は傷ついたのだ。

 だから、面白いって言って心傷つきましたか?という質問は、うん。間違っていない。

 私、リカがアリスは怒ってないっていうから頑張って聞いたんだからね?これで怒ってますけどとか言われたら、リカのこと恨むからね?

 

 「アリス。答えてやれ」


 私の呪ってやるぞの視線が痛かったのか、彼はアリスに返答を促してくれた。

 ちょっと顔が笑ってたけど、特別に許してあげるよ。ふん!


 一方のアリスは、リカに促されたことで我に返ったようだ。

 ハッとした顔で私を見る。

 ていうか、我に返るほどに、私の質問に驚いていたのかよ。そんなに意外な質問だったのだろうか。


 「…あぁ。すみません。いえ、傷つきませんでした」


 困惑はしているようだが嘘を言っているようには見えない。

 私はほっと胸をなで下ろした。


 「よかったぁ。あのね、さっきは咄嗟におもしろいって言っちゃっただけで、ほんとうは思ってないからね!美人さんだと思ってるから!」


 怒ってないことは確認できたので、急いで訂正をしておく。

 ここでかわいいと言わないことが私なりのポイント。アリスはかわいいと思われたいのかもしれないけど、どうしたって彼女は美しいが似合う少女なのだ。嘘はつけない。


 「…そうですか?」


 眼を瞬かせつつも、アリスはほんのり頬を染めた。怒られなくてよかった。

 

 ほっとしたところで、私は少し心の余裕ができたらしい。

 人って気分がいいと、ノリで後々後悔することをやってしまう生き物だ。

 それは私も同じ。

 やめておけばいいのに、私はリカにあっかんべーをした。


 「ちなみにリカも、おもしろいじゃなくて、方向音痴の性格悪い無表情バカって思ってるからー」


 笑われたり、アリスのところへ無理やり連れてこられたり、そんな恨みを込めて言えば、リカは無表情な顔で口の端だけあげていた。


 「……フッ。お前はほんとうにおもしろい」


 なんかやっぱりバカにされている気がする。

 ちなみにそのときのアリスはぎょっとした顔で、しかし何かを探るように、じっと私を見ていた。もちろん、アリスの視線に私は気づいていなかったけれど。



 そんな私がようやく自身の失態に気づいたのは、その日の夜。


 寝る時間。

 このときの私はまだ自分の失態に気づいてなくて、布団の中でむふふとにやけているだけだった。


 なぜにやけているか?

 そんなの今日初めて、リカとアリスと話ができて楽しかったからに決まってるじゃないか。

 最初こそ困ったけど、話す機会をくれたルルちゃんたちに感謝だ。


 無表情の無口だけれど、ゲームでの印象よりも2人は話しやすかった。アリスは礼儀正しく紳士的で話していると落ち着く。同い年だけど、年上のお姉さんができた気分だ。リカは私をバカにしてきて超腹立ったけどね!


 どうしてすぐに話さなかったのかなー。

 あぁ、そうだ。イベントを回避するためだった~。

 のんきにそんなことを思って、青ざめた。


 イベント…?


 なぜ突然思い出したのか、なぜ今まで忘れていたのかはわからないが、とにかく思い出した。

 もう一気に全身から血の気が引いていくよね。


 え。どうしよう。私ふつうにリカやアリスとしゃべっちゃったし、リカに方向音痴の性格悪い無表情とか言っちゃった。アリス、ポーカーフェイスだったけど…怒ってんじゃない!?

 あわばばば。

 

 「だぁぁ、どうしようぅぅ!」

 「いや、リディアうるっせー!夜中だぞ!」

 

 


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