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30.イベントは問答無用でやってくる。


 やっほー。

 みんなの美少女ヒロイン、リディアちゃんだよ。

 さっそくだけど報告があります。

 私、秋の攻略対象のルートを回避しました!悪役さよなら計画も成功です!誰も死なない未来に、また一歩近づきました!いぇーい!


 はい。ふざけたしゃべり方はこれくらいにして。

 秋の攻略対象が孤児院にやってきて早2週間と2日。

 まじめな話で、私は秋の攻略者のルートを回避したと、報告したいと思う。


 信じがたいし、まだ油断はできないけれど。

 ほぼ確実と言っていいほどに、私はフラグを折った!…と思う。


 さて時刻は朝食の時間。

 私はいつものようにアプローチ(エミリアへの)vsアプローチ(私への)の戦いを繰り広げるジークとエミリア(もちろんエミリアが優勢)の向こう側の席にいる、桃色の髪と黒髪の2人の男女を見た。


 2人はちょうど私に背を向ける形で席に着き、静かに朝食を食べていた。

 私と関わることなく、最初の自己紹介時の「よろしく」以外、何も話すことなく、朝ごはんを食べているのだ。

 ここ、ものすごく重要!


 なぜ私は未来の秋の国の攻略対象のルートをほぼ確実に除外できたと自負しているのか。

 ことのいきさつを説明するにはまず、秋の国の攻略対象と悪役について説明をしなければならない。


 まず秋の国の攻略対象について。

 私はこっそりと桃色の髪の人物を見て、思わず見とれる。

 だってだって、秋の攻略対象はとってもかわいいのだ。


 長い睫に隠れることなく主張する大きな牡丹色の瞳に、桃色の緩いウェーブのかかった腰まである長い髪、そしてなにより天使のように愛らしい美少女顔。

 彼こそが秋の王略対象、リカルド・アトラステヌであった。


 アルトと同い年の7歳であり、アトラステヌ王国――秋の国の王子だ。

 孤児院ではリカと名乗っている。


 今回の攻略対象は、寡黙ミステリアスな女装男子だ。

 まあ女装男子とはいっても、本編では普通に男の格好してるんだけどね。

 女装も別に趣味というわけではなく、王子だとバレないように変装しているだけだし。本人は女装嫌がってるけど。彼は自分の女顔がコンプレックスなのだ。

 

 本編では高身長の無表情美青年に成長するから、今はかわいい自分を楽しめばいいと思うけど、まあそう簡単に割り切れないのが男心ってやつなのだろう。


 とりあえず、彼は孤児院時代では女装の部分に注目が集まってしまうが、キャラ的は寡黙ミステリアスだ。


 彼は基本、自分から行動を起こすことはない。人に話しかけるなんてもってのほか。

 だからリカを攻略するにはヒロイン自らが動かなければならないのだ。

 ヒロインがしつこいくらいにリカに話しかけ、関わってく。そうして仲良くなっていくことで、リカルートの好感度はあがる。


 寡黙ということから、口数が少なくミステリアスな性格も相まって、何を考えているのかいっそう分からず攻略を苦戦しそうな彼だが、実は不思議なことにどんな行動をとっても、そこそこには好感度が上がる。

 どんな乙女ゲーム音痴であっても、確実に本編で迎えに来る候補にはなってくれる。ソラと同じくらいちょろいのがリカだ。


 余談なのだが、そんなミステリアスなキャラ設定なだけあって、なぜリカがヒロインに好意を持つのか、その理由は不明とされている。

 ハッピーエンドでもバッドエンドでも、リカが何を考えているのか結局わからない。

 さすがミステリアス。感情表現豊かなソラやジークとは大違い。


 でもね、一生わからないわけではないのだ。

 リカが何を考えて、なぜヒロインに好意を持ったのか。その理由については、攻略対象200%好感度を達成すれば判明する設定になっている。


 よくわからないけど、「いつ君」攻略対象には、好感度バロメーターの値が200まであって(もちろん200は特別設定で、通常は100だ)、100%でふつうにハッピーエンド、ヒロインがすべての行動において攻略対象が好ましく思う行動をとって初めて200%が解禁される設定になっている。


 200%になると、ウルトラハッピーエンドという通常のハッピーエンドよりもすごいエンディングを迎えられるらしい。

 それがリカの場合、何を考えているかわからない彼の本心がわかるエンディングというわけなのだ。


 ちなみに、リカの好感度200%はまだ誰も到達したことがないようで、攻略サイトにもネタバレサイトにも情報はなかった。公式サイトもなしだ!

 まあ私の場合は死亡フラグを回避するので精一杯で、リカ以前に他の攻略対象であっても好感度200%なんて目指せなかったんですけどねー。…言い訳じゃないけど、私、恋愛未経験者だもん。ハードルが高いよ!


 は、話を戻すけど、ようするにリカルートは簡単なのだ。

 200%を目指そうとしない限り、普通に攻略でき…る?

 いや、だってバッドエンドになること多かったから、ていうか運営側がとにかくバッドエンドを迎えさせようとしてくるんだから、疑問形でも仕方がないでしょ。

 まあ少なくとも、リカは他の攻略対象よりは、攻略しやすい。


 そんな彼とのフラグを折るのはとてもむずかしい。と、思うではないか。でもこれが意外と簡単。

 リカは寡黙ミステリアスだ。

 周りに興味がないのか、一人が好きなのかはわからないが、自分から他者に関わることはまずない。


 つまりヒロインから話しかけなければ、関わろうとしなければ、彼は私と関わらないのだ。

 リカと関わらなければ、リカルドルートは自然消滅。

 話したこともない人に好意は抱かないので、本編がはじまっても迎えに来ない。


 だから私は彼らが来てから2週間と2日。いまのいままで、しゃべったことがないのだ!

 そしてむこうも、私に話しかけてこない。

 リカの私への好感度はゼロだし、関りがなさ過ぎて、むしろ私の名前を知らないかもってくらい接点がない!


 ちなみにうちの孤児院の子たちは社交的だし気を遣えるし、なにより好奇心旺盛なので、よほどのこと(アルトのメロメロ攻撃や、ソラの人見知り、私の問題児っぷりなど)がない限り、新入りに積極的に話しかけに行くタイプだ。

 だから孤児院の中で、2人と話したことがないのは私、エミリア、ジークだけ。エミリアとジークも、私に遠慮しないで2人と仲良くなっていいのに。


 ともかくとして、私は思う。

 これ、完璧じゃない?

 ほぼ確実に本編でのリカルートは除外できたよね?


 まあ、ソラがヒロインに最初の出会いで惚れるのと同じように、リカもヒロインに惚れるイベントがあって、そのイベントはまだ発生していないから油断はできないのだけど。

 でもこれ、リカルートほぼ確実に回避できたよね?ね?ね?


 リカのイベントはヒロインへの好感度が上がってから発生する。なので、話したことがない私たちはイベントが発生しない可能性が高い!

 

 私は再度、静かに朝食を食べる2人を見て、よっしとガッツポーズをする。

 やっぱり彼らはいつも通り。私に話しかけようとする素振りもない。もちろん、私に興味を持っている様子もない!


 でも油断もできないので、先ほど話したイベントの説明をしたい。…のだが、先に秋の国の悪役についての説明をしておきたいと思う。


 実は私優秀なので、リカルート回避と同時に悪役さよなら計画もほぼ成功させているのだ。

 ふはは…いや、まあ(ヒロイン)がリカと関わらなければ、秋の国の悪役であるアリスも悪役堕ちしないので、成功もなにもないんだけどさ。

 とりあえずアリスについて説明しよう。

 

 悪役令嬢の名前は、アリス・クラヴィス。私と同い年の冷静沈着でちょっとやそっとのことでは動じない才女である。(恋愛は別)

 先祖代々続く由緒ある騎士の家系で、リカたちアトラステヌ王家に代々使える騎士の中で最も位も地位も高く、王家からの信頼も厚い、そんな家に生まれ育った女の子だ。


 なんでもリカとアリスの先祖が兄妹なのだとか。

 先祖の兄妹は騎士と王族で身分が違い、騎士である兄が王女となった妹を守ると誓い、今の秋の国の王族とアリスの騎士の家系の関係が築かれた。なので王位継承権はないがアリスにも古い王家の血が流れている。歴史ある家系だ。


 そんな彼女の見た目は、漆のように美しい漆黒の髪に、藍色の瞳。リカと同じくらいの背丈。だが、常に背筋が伸びているからか凛としていて、リカよりも少し大きく見える。かわいいよりも美しいや格好いいが似合う、そんな女の子だ。


 新しいタイプの美少年に登場に、女子たちの目が一気にハートになったのを、今も私は覚えている。

 ちなみにエミリアも少しアリスに見とれていて、ジークが焦っていた。ぷふふ。


 ……さて私は今、アリスを美少年だと言った。

 別に間違っていないよ。アリスは女の子だけれど、美少年なのだ……見た目がね。

 そう。アリスはリカとは逆に、男装女子として登場する。


 見た目もさることながら、本人も生まれたときから男の子として教育を受け、そのように振る舞っているので、全く違和感がないし周囲に性別を疑われる兆しもない。


 今回の秋の国の攻略対象と悪役は、女装男子と男装女子なのだ。「いつ君」ほんとぶちこんでくるよね~。

 ちなみにリカの女装が孤児院時代だけの限定なのに対し、アリスは本編でも男装である。


 アリスは騎士として主であるリカに仕えるため、女の子として生きることを禁じられているのだ。今までもクラヴィス家に女子が生まれることはあったが、皆、男子として育てられ主に仕えたらしい。

 え、なぜ私が知っているか?それはもちろん、本編でヒロインがアリスにいじめられるときに言われたからだよ。ハハハ…はぁ。


 この男子として育てられたという背景も原因で、アリスは悪役になり、ヒロインは本編で虐められるのだ。もーやめてくれ。


 彼女は幼いころから男子として騎士の訓練を父親から受けてきた。リカは男で、アリスは女。万が一のこともあるかもしれないと、お互いが異性として意識しないようにアリスの父親は徹底して彼女を男子として育てた。

 わかりづらい愛だよね。娘を愛するがゆえに、お父さんは厳しく彼女を男子として育てたのだ。


 でもお父さん、どんまいとは思わないし、思えない。だって大雑把に言えば、この教育のせいもあって、ヒロインはアリスに妬まれまくるのだから(アリス父、許さん!事情は分かるけど!)。


 そんなアリスを唯一女の子扱いしてくれるのが、リカであった。

 幼いころから2人は一緒に育ち、リカはアリスを妹のように思っていた。無口で表情がないながらも、アリスを可愛がっていた。

 一方でアリスは、唯一自分を女の子として扱ってくれるリカに、いつしか好意を寄せていた。アリス父の躾が裏目に出たよね、絶対。


 でもアリスは頭がいいので、幼いうちから自分の立場を理解し、そばで従者としてリカの一生を支えていければいいと思っていた。恋をあきらめていた。

 前文もアリスが本編でヒロインに対し言っていたのだ。ちなみにこのあと、「この想いは閉まっておこうと思っていました。それだというのに、お前があらわれてっ」って感じでヒロインはアリスに首絞められて、バッドエンド。ああ、胃が痛い。


 話を戻して。

 アリスが自分の想いを隠し仕舞い込んだ、そんなときに孤児院に行くことになる。

 

 リカはしつこく話しかけてくるヒロインを最初は疎ましがっていた。が、次第に無表情の顔に変化が現れはじめ、いつしかやわらかい優しい笑みを浮かべるようになるのだ。

 そんな彼の変化を間近で見ていたのは、リカの騎士としてずっとそばにいたアリスだ。


 いつもは無表情で何も興味を示さないリカが、ヒロインといると楽しそうに、自分が今まで見たことのない顔をする。

 アリスはショックを受ける。

 そして思うのだ。


 自分も女性として育てられていれば。主従という関係でなければ。

 リカに愛されていたかもしれないのにと。


 で、イベントが起きて、アリスの嫉妬や悲しみ、女性として生きることへの切望はピークに達し、悪役へと転落するわけなのだ。


 さて、このアリスの設定からわかるように、私ってばアリスの悪役さよなら計画も成功に終わらせたようなものだよね。私はふふんと心の中で笑う。


 ようするにだ。

 アリスの場合、私がリカに近づかないかぎり、彼女は悪役に落ちないのだ。


 私がリカとアリスに近づかなければ、女の子として堂々とリカに接近できる私を羨ましく思ったり、女の子らしい私の見た目と自分のカッコいい見た目を比較して落ち込まない。自分が普通の家に生まれて女の子として育てられていたら…とか思ったりもしない!

 だって現段階において、比べる相手(私)が近づいてこないのだから!


 まあ正確に言えば、私がリカに近づかない限り…というよりも、私がリカに惚れられ、恋に落ちたリカの様子を見てアリスがショックを受ける、という展開にならない限りは、悪役化しないのだが。


 うん、とりあえず。今回の悪役さよなら計画においての私の行動は正しいでしょう!

 私ってば本当に天才!



 さてそれでは今回の攻略対象と悪役の解説を無事終えたところで、念のためのイベントの説明をしようと思う。


 イベントが発生するのは、リカとアリスが女子たちと仲良く会話をしているときのこと。

 女子の一人が言うのだ。


 「リカちゃんってかわいいよね!」


 それを皮切りに、続々と他の女子たちもかわいいとリカをほめたたえる。

 だけれどもリカは男の子だ。かわいいと言われてもうれしくない。むしろ、悲しい。寡黙で何を考えているかわからないリカだが、根本的なところは一般男子と同じ考えである。男の子が可愛いと言われて、喜ぶわけがないのだ。


 そんなときヒロインだけがリカに言う。


 「私は、リカはかわいいよりもかっこいいだと思うな」


 これでリカはヒロインに、恋をするらしい。ソラほどまでではないが、ちょろすぎだろリカ。

 わからない。彼がミステリアス設定である以上、真意も好きな女性のタイプもわからない。だけどさ、もし本当にこのセリフだけで惚れたのだとすれば、やっぱり「いつ君」の攻略対象ちょろすぎだろう。

 

 でもって、リカがヒロインに惚れるだけならいいのだが、このイベントではアリスも完全に悪役へ転落するのだ。

 ゲーム上においてのアルトやエミリアのときと大体同じだね。


 それまでのアリスのヒロインに対する嫉妬なんてかわいいもの。アリスが悪役に完全に落ちるのは、ヒロインのいらない一言と、リカのこれまた真意の分からない何気ない一言が原因だ。

 リカにかっこいいと言った後でヒロインは続けざまに言う。


 「アリスもとってもかっこいいよね!」


 アリスにしてみれば、ゴロゴロピッシャーンだよね。

 リカがヒロインにかっこいいと言われ、無表情ながらも頬を染めはにかんでいるという今まで見たことのない顔を見てダメージを受けたというのに。

 追撃で、女である自分をかっこいいとヒロインが言う。


 これがまだ孤児院に来る前の、自分の気持ちを仕舞い男の子として生きていくと決めていたころに言われたのなら、まだよかった。

 だが、普通の女の子ならリカの隣に立てたかもしれないのに…と、思い悩み苦しんでいたそんな時に、かわいいではなくかっこいいよね、とアリスは言われる。よりにもよって恋敵に。


 アリス的にはヒロインから悪意しか感じられないだろうね。

 そしてさらに、


 「たしかに。アリスはおれよりもかっこいい…」


 と追い打ちのように、リカにボソっと言われるという、まさに地獄。


 好きな人から――唯一、女の子として扱ってくれたリカから、かっこいいと言われたことにショックを受けたアリスは、全部ヒロインのせいだ!と、悪役へと転落するのだ。


 ヒロインって攻略対象の地雷は真綿でくるむのに、なんで悪役の場合は地雷の上でタップダンスをするんだろうね。


 まあイベントの説明はここまでとして、私はちゃんとイベントの解決方法も考えついているから安心していただきたい。

 解決方法は簡単だ。

 仮にイベントが発生したとしても、「リカorアリスは、かっこいいよ」と言わなければいい。たったこれだけ!

 これで回避できるし、私はリカに惚れられない!アリスも悪役に落ちない!ふはは。


 そもそもこの好感度0の状態で、イベントがはじまるわけないし、うん。

 秋の国はちょろかったな~。私はにんまりと笑った。



 さてそうこう考えているうちに、朝食を無事に食べ終えた。

 今日はルーに会いに行く日である。一昨日からルーと遊ぼうねと約束していたんだ~。

 ルーってばめんどうくさそうに顔を顰めていたけど、絶対に照れ隠しだよね!


 「じゃあ私、ルーに会いにいくね~。2人も一緒に行く?」


 私が考え込んでいたのと同じように、エミリアとジークは話し込んでいたようで、私の問いかけにハッとした様子でこちらを見た。


 ジークのアプローチをエミリアがホームランみたいな会話をしていたわけではなく、割と重要な話をしていたようだ。私の問いかけに少し反応が遅れている。

 少しの間の後で、まずジークが首を横にふった。


 「いや、いかない。ルーのやつ、おれたちに対しては相変わらずだからな」


 そういえばルーは私を突くのはやめたが、ジークやアオ兄ちゃんには相変わらず攻撃的だった。(エミリアのことは警戒してる)うーん、たしかに突かれるのは嫌だよね。仕方がない。

 

 「エミリアは?」


 問えば、申し訳なさそうにエミリアもジークと同じように首を横に降った。


 「せっかくのお誘いですが、私もご遠慮させていただきます。今日はジーク様と用事があるので…」

 「え!おれに用事?」


 とたん、ジークの顔がパッと明るくなる。

 私もエミリアもため息だ。


 「ジーク、ソワソワしないの。ジーク様に、じゃなくて、ジーク様と!って言ってたから、ジークと一緒の用事があるってことでしょ。ったく、都合のいい耳してんだから」

 「おねえさまの言う通りです。しっかりしてください。用事について先ほど説明したのに、もう忘れたのですか?」

 「…あぁ、うん。すみません」

 

 エミリアに叱られ落ち込むジークはいつものことなのでほっといて、朝食の皿を下げた私は2人と別れ、森に行く。

 …と向かっている途中で、花壇のそばで女の子たちが楽しそうにしゃべっているのが見えた。

 その輪の中にはリカやアリスもいる。


 2人とも誘われたら断るタイプではないので、誰かと一緒にいることは珍しくもなんともないのだが。一匹狼タイプの2人だからか、なんとなく女の子のキャピキャピした空間にいることに違和感を感じる。

 

 「あ、リディアちゃん!」

 

 じっと見ていたらしい私は、輪の中にいたルルちゃんに気づかれた。

 今日もかわいらしく笑っているルルちゃんは、にこにこと手を振りながら私に駆け寄ってくる。つられて私もにこにこする…


 のだが、なぜだろう。

 体中に鳥肌が立った。

 ひさしぶりに嫌な予感がする。


 即刻この場を去れ。早く逃げなきゃやばい気がするぞ。

 そう私の嫌な予感センサーは訴えてくるのだけど、ルルちゃんが私めがけて走ってくる手前、回れ右の全力疾走で逃げるなんて、できるわけもなく。相手がジークなら気にせず逃げるのに~!!


 もたもた迷っている間にルルちゃんが到着してしまった。

 こうなったら仕方がない。とりあえずルルちゃんと一言二言しゃべって退散しよう。


 「楽しそうだね。なにしゃべってるの?」 

 「リカちゃんのことについてお話していたの~」

 「…へ、へー」


 前言撤回。今すぐ退散しなければいけない気がする。

 言い訳は後でするとして、今は早く逃げないと!

 私は野生の勘で回れ右をしてクラウチングスタートをした。が、一歩遅かったー!私こればっかり~!


 しかもよりにもよってルルちゃんは、私が最も恐れていた一言を発したのだ。

 

 「リカちゃんかわいいよね!」

 「……は!?」

 

 花壇付近にいた女の子たちがいつのまにか近くにいて、その女の子たちの中にはもちろんリカやアリスもいて、うん。

 気が付けば私は女の子たちに囲まれていた。


 えー…さきほどのイベントの解説を覚えているでしょうか?

 リカのイベントは孤児院の女の子の一言から始まるのだ。

 『リカちゃんかわいいよね!』

 …フッと微笑を浮かべ、項垂れる。


 関わり全く持ってなくても、強制的にイベントが発生しやがったー!

 


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