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29.労わりのない手紙(ソラ視点)

ソラ視点です。閑話に近い感じです。


 午前中の鍛錬を終え、部屋に戻れば机の上に2通の手紙があった。

 その手紙の送り主の名を見て思わず顔がほころぶ。おそらく、いや絶対に今頃、兄様もおれ以上に破顔しているに違いない。

 真っ白な何の変哲もない味気ないとさえいえる手紙。

 だが見た目は関係ない。おれたち兄弟は、毎日のようにこの手紙を待っている。

 

 封を開ければ、不思議といつもおひさまのにおいがするからおもしろい。

 おれはさっそく手紙に目を通した。



 『拝啓ソラ様

 お久しぶりです。リディアだよ。元気にしていましたか。

 ちょっといろいろあって、手紙を出すのがおくれました。ごめんね~。その分話したい内容がいっぱいあるんだ。


 まずね、新しい友達ができました。

 その名もルーです!真っ赤な瞳がとてもカッコいい、イケメンな男の子なんだよ。仏頂面で愛想がないツンが9割の子だけど、ある日を境にそれはもうっ私に懐いてくれて!

 いつもはムスッとして、突いてくるんだけど、私を心配してる時はかわいらしく頬ずりしてくるのよ。かわいいでしょ?私なしでは生きていけないって感じでぇ~。あ、嫉妬しないでね。むふふ~。


 他のみんなには嫌われちゃうけど、ルーだけは私を好いてくれるの。なんかもう、運命感じちゃう!

 アルトとソラにも、ルーを紹介したいです。でもそれを言ったら、エミリアもジークもアオ兄ちゃんも絶対にやめておけって言います。アルトはルーのことを絶対に焼き鳥にするからダメだって。なんでアルトがルーを焼き鳥にするんだか。アルト焼き鳥好きなの?


 まあそんなこんなで私はルーと仲良くなるにあたって大冒険をしたわけよ。

 なかなか一生のうちにしないであろう体験をしたけど。この大冒険の中でね、私はわかったことがあります。知りたい?知りたいでしょ。

 あのね、アオ兄ちゃんがどうしてかっこいいのかわかったよ。大人の色気って言うのかな?あといつもは余裕そうに笑っているのに、焦ったときに必死になる、このギャップがかっこよかった。これがモテる男の秘訣ってやつだね!特別に教えてあげるからぜひとも生かしてください。

 ちなみにアオ兄ちゃんは筋肉ムキムキだったよ。着痩せするタイプだね!

 

 あ、あと。これ書くべきかわからないけど、とりあえず報告として孤児院に新しい子が2人来ました。美少年と美少女です。女の子のほうはかなりかわいいけど、うん。惚れない方がいいよ。言っても…ていうか、書いても新しく来た子を見れないソラには関係ないことなんだけどさ、ソラは純粋だからね、うん。とりあえず惚れない方がいいよ。


 さてさて、ソラのツッコミがさみしいですが、最近はジークがツッコミに目覚めましたのですよ~。先輩として彼の成長を楽しみにしていてください。

 あら。もう手紙も行数が足りないので終わりごろですね~。


 じゃあ最後は労わりの言葉?で終わっちゃおうかな。

 なんか私が思うに、ソラってば私と同じくらい周囲に翻弄されてるよね~。お母さんは心配です。ソラがツッコミのしすぎで息絶えないか、考えすぎで禿げないか、アルトの愛に押しつぶされないか…と、まあ私が心配しても仕方がないんだけど。

 まあとにかく、ほどほどに頑張ってください。でもアルトのことは全力で頑張ってください。


 マイエンジェル・ソラの母、リディアより』



 「……ルーって誰だ?え、新しい男の友達?しかも普段突いてくるのに、心配して頬ずりって…、絶対そいつリディアに気があるだろ。やばくない?」


 なんで焼き鳥?とは思うが、エミリアやジーク、アオ兄ちゃんが、兄様とルーってやつを会わせるのを反対する理由はよくわかった。

 ていうかあいつ、他のみんなには嫌われちゃうけど…って、いつのまに嫌われたんだ?そもそも他のみんなって誰?孤児院のやつらか?

 もうリディアの手紙からは疑問符しか浮かばない。


 「ていうかなんで最後に兄様のこと全力で頑張れなんだよ。リディア、もしかして兄様の気持ちを知ってる?…いや、ないな」


 頭が痛い。手紙を読むまでは幸せな気持ちだったのに。

 いや、リディアの手紙を読んだ後は毎回頭痛がするからいつも通りだな。


 おれはため息交じりに頷き、うなだれた。

 手紙見て頭痛くなるのが常ってなんなんだよ。


 しかも自分で自分にツッコミを入れて、リディアの手紙の通りにというか、ノリツッコミまでしちゃったし。

 自分の言動にショックを受ける。が、まあいい。まあいいんだ!気にしないから!もう、考えないから!


 今日はめずらしく手紙が2通来ているのだ。気を取り直そう。リディアの手紙はいったん、考えない。うん、考えない。

 おれはまだ読んでいない手紙の差出人を見た。そして、驚いた。

 それは意外な人物から当てられたものだったのだ。



 『拝啓ソラ様。

 ルルです。ソラ君はこの手紙を見て、目を丸くしているでしょうね。ソラ君の驚く顔がありありと目に浮かびます。うふふ。

 いろいろ伝えたいことがあるのですが、とりあえず今一番伝えたいことを書きますね。


 なんとリディアちゃんとアオ兄ちゃんが一夜を共にしました!


 うふふ。今頃、これを見てソラ君は盛大に吹き出していることでしょう。実際に見ることができなくてとても残念です。コーヒーなんか飲みながら見てないですよね?吹き出したらこの真っ白な手紙が茶色になっちゃって、せっかくの手紙が読めなくなってしまいますよぅ?ふふ。


 ああ、ちなみに一夜を共にするというのは、言葉の通りです。

 この前、ものすごい嵐があったのですが、その際にリディアちゃんとアオ兄ちゃんが遭難してしまったのです。夜、ルルたちが寝ているときに起きた出来事で、すぐに捜索に向かおうとしたけれど、嵐が全く収まらなくて、結局探しに行けたのは昼頃。

 ほら?一夜を共にしたでしょ?あ、2人とも無事だったので安心してください。氾濫する川で溺れたり、リディアちゃんは3回ほど気絶したり、いろいろありましたが、今は元気ですからね~。

 さてさて、ソラ君は一夜を共にするという言葉を見て、何を想像したのでしょうか。破廉恥ですね。うふふ。うーん、でも意外とこの意味わからなかったりするのでしょうか?アルト君ならわかるでしょうけど、ソラ君は……ふふ。

 

 話は変わりますが、孤児院に新しい子が2人やってきました。

 ソラ君とアルト君、ジーク君とエミリアちゃんのように、最近は2人セットで来るのが当たり前のようになっていますね。なにかの法則性を感じてしまいます。にっこり。

 今回やってきたのは、お決まりの美少年と美少女です。2人とも無口で自分からは動かないので、いつも私たちから話しかけます。


 ソラ君も最初はアルト君以外の子とは話しませんでしたが、ソラ君のようにはずかしがっているから話せないというわけではなく、新しく来たあの2人は元々無口な子なのでしょう。

 彼女たちは話しかけたらちゃんと答えてくれるので、ソラ君がいかにはずかしがりやだったのかを今女の子たちと語り悶えているところです。


 それにしても今回驚きなのは、なにかしらの行動で、初対面の子をすぐに虜にしてしまうリディアちゃんがなんのアクションも起こしていないことですね。

 ソラ君もアルト君も、ジーク君もエミリアちゃんも、アオ兄ちゃんも?でしょうか。濃いメンバーがいろんな意味で、リディアちゃんに初対面早々、ずきゅんとハートを撃ち抜かれたのに。逆におもしろいですよね~。


 2人が来てから2週間は経つのですが、いまだにリディアちゃんと彼らは会話をしたことがありません。ジーク君とエミリアちゃんがいつもリディアちゃんの両脇をキープしているから話す隙がないとはいえ、ここまで関わることがないなんて。偶然を通り越してなんだか不自然に感じてしまいますね。うふふ。…とまあ、私の感想ばっかりなのですが、もう少し付き合ってください。私おしゃべりするの大好きなんです。


 新しく来た2人がリディアちゃんに全く興味がない。というわけではなさそうなんですよ。(リディアちゃんのほうはよくわからないけど。うふふ)

 特に男の子のほうは、周囲に気づかれない程度に…でも、高い頻度――毎日といっても過言ではないほどに、じっとリディアちゃんを見つめているんです。で、誰かがそのことに気づく前に視線を外す。

 ……これを聞いたら、アルト君ってばどんな反応をするのでしょうか。うふふ~。

 あ。もしかして、周囲に気づかれない程度にって書いてあるくせに、どうしてルルは気づいているんだって疑問に思いました?ふふ、そんなのルルの方が一枚上手だからに決まっているじゃないですか~。


 まあともかく、今はリディアちゃんと関りのない2人ですが、あと2~3日もすればソラ君たちと同じようにリディアちゃんにメロメロになっているかもしれませんね。この手紙がいつ届くのか…を考えたら、もしかしたら、ソラ君がこれを読んでいるころにはもうリディアちゃんはあの2人を懐柔してしまっているのかも。うふふ。

 私からは以上です。

 この手紙、ぜひとも役立ててくださいね。


 PS.これと同じ内容の手紙(リディアちゃんの近状についてもうちょっとくわしく書いた内容。うふふ)をアルト君にも出してあります。

 なので、ソラ君はリディアちゃんの近状をアルト君に内緒にするよりも!アルト君が孤児院に行こうとするのを止めたほうがいいと思いま~す。

 ソラ君ってば、苦労人だからルル心配してるんだよ~。大変だろうけど、無理せず頑張ってください。

 恋に生きるエンジェル・ルルより~』



 手紙を読む中、飲んでいた水を吹き出したり、リディアはなにをやっているんだと青ざめたり、赤面したり、頭を抱えたり忙しかったが、最後の追伸で今までの慌ただしさ全てを忘れてしまった。もちろん悪い意味で。

 この手紙と同じ内容を兄様にも送っただと?


 サァーと血の気が引いたのと同時だった。

 ドガシャンと、遠くで大きな音がする。本棚が人為的に倒されたようなそんな音だった。


 まさかなと思うよりも先に、


 「アルト様!物を壊さないでくださっ…きゃあっ!」

 「な、なぜ荷造りを!?」

 「ア、アルト様!どこに行かれっ…うあぁ!」

 「お、おおおまちください!アルト様ぁぁぁ!」


 騒がしい声に頭を抱える。

 

 「あぁ~っ!なんであいつらはおれに厄介ごとしか持ってこないんだぁぁぁぁ!兄様、待って!落ち着いてぇぇぇえええ!」

 

 そうしておれはいつものように、いつも以上に、いますぐにでも孤児院に行こうとする兄を止めるべく、部屋を飛び出したのであった。


 追伸。おれを労わる気持ちがあるのなら、嘘でもいいから手紙の内容を改良してくれ。



次から秋の国チームの登場です。

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