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22.その瞳は宝石のよう(2)

 


 素顔が私にばれたあの日から、エミリアは少し明るくなった気がする。

 ほんの少しだけど自分に自信を持ってくれたみたいで、今まではジークの陰に隠れて全く発言しなかっのに、自分の意見を言うようになった。

 今も。


 「ジーク様は動物が好きなんです。でも猫だけはどうしても苦手で。というのも、昔引っ掻かれてしまったことがありまして…」


 と、女の子たちと一緒に楽しそうに会話をしていた。ホロリと涙が出そうです。

 前までは私とジーク以外の人にはまったく話しかけられなかったのに。うれしいけどさみしい。ちなみに今は男子禁制の女子会中だ。


 「や~ん、ギャップ萌え~」

 「でも私はやっぱりアルト君が一番かなぁ」

 「私はソラ君!」

 「ルルはぁ、リディアちゃん!」

 「はいはい、ありがとねー」

 「リディアちゃんは?」

 「あー…神父様?」

 「もうっ、真剣に答えて!」


 女子全員からにらまれてしまった。

 女子怖いぃ。私好きな人いないんだからしょうがないじゃないか。

 涙目の私を庇うようにエミリアはまた語りだす。


 「あっあと、ジーク様は幼いころ、りんごを食べたことがないといった私の話を聞き、りんごをとってきてくれたのです。しかも木からです。アルト君に負けないくらい男らしい方なのですよっ」

 「「「「きゃ~。すてきぃ~」」」」


 女子たちはエミリアの話にうっとりとする。リディアはげっそり。

 女子は恋バナ好きだからね。何時間話していても飽きないらしい。私はかなり飽きたけど。

 だけどエミリアがキラキラとした目で私のことを見てくるんだよ。そんな目で見られたら元気が出てくるじゃないか。


 「どうですか?おねえさまの中でのジーク様の株は少しでも上がりましたか?」

 「……。あーうんうん、あがったよー」


 嘘です。ジークの話で一気にテンション下がりました。元気?なにそれ、食べれるの?

 しかしエミリアはいい子なので私の言葉を素直に受け止めてしまう。


 「うれしいですっ」


 自分の大好きな人だから私にも好きになってもらいたいのだろう。そんなまぶしい笑顔を向けられたら、また元気になってしまうじゃないか~。だって私は単純なんだもん。

 まあこのようにエミリアは他の女子とも仲良くなり、順調に悪役からさよならをしていた。

 順風満帆。

 だがしかし、うまくいっているエミリアに比べて、実はうまくいっていない、むしろ以前より後退している人間もいるわけで……


 「おい!お前らここにいたのか!」


 勢いよく開かれた扉。扉を開けたその人物はジークだった。

 噂をすればってやつだ。

 彼は不機嫌そうに頬を膨らませている。


 勝手に部屋に入ってきておいてなんだその顔は。むすっとしたいのはこちらのほうだ。女子たちなんか突然噂の彼が現われて「きゃー」って叫んじゃってるじゃない。うれしそうなピンク色の叫び声だけどさ。


 「ていうか部屋の前に男子入るべからずって書いた紙貼っておいたでしょ。見なかったの?」

 「あ?」


 恋バナをする場所は男子禁制の魅惑の花園と決まっている。

 しかし孤児院にそんな場所はない。なので代用として私とエミリアの部屋に集まり、男子入るべからずの紙を貼っておいたのだが…、ジーク君は堂々と入ってきちゃいましたー。


 「紙?たしかにあったかも。でもそんなの知るかよ。おれは入りたいときに入る」


 ほら、やっぱり。

 きゃーって言ってた女子たちも冷めた顔だよ。


 「ジーク君、減点だね」

 「うん、減点」

 「えー、私は加点しちゃう~」

 「あ。私減点しすぎて、マイナスになっちゃったぁ。てへー」

 「やーん。さすがルルのリディアちゃん~」

 「な、なんの話をしてるんだよ?」


 むすっとしていたジークだが、さすがに減点やら加点やら女子に評価され混乱している。

 混乱したまま部屋を去ってくれるとありがたいんですけどねー。


 「って、流されるところだった!おい、リディア、遊ぶぞ!エミリアも来い」


 当然そういうわけにもいかず。ジークは私とエミリアの腕をつかんだ。


 「ちょっとジーク、離してよー」

 「ジ、ジーク様っ」

 「うるさい。おれに指図するな。特に、エミリア!お前、おれがいないと何もできないんだから、さっさと来い。こんなところにいてもお前はなんの役にも立たないんだぞ」


 最近のジークは我儘というか、横暴が増している。

 どうしてだろう。私がエミリアをジークから引き離したからかな?

 実は勉強時間にポンコツと言われエミリアが落ち込んだことから、私は彼女をジークのそばに置くのを止めたのだ。だってジーク、いつもエミリアを貶すんだもん。そんなやつのそばに友達を置いておきたくない。最近のエミリアはほぼ私と共に行動している。


 あ。ちなみに私の独断じゃないからね。ジークから距離を置くという案はエミリアにちゃんと話した。彼女は了承してさらに賛同もしてくれた。「私はジーク様に執着してばかり。いい加減自分の足で立たなければなりません。私もおねえさまのようになりたいんです」とのこと。

 おねえさまのようになったら問題児になっちゃうけど、エミリアそれでいいのかな?

 

 まあそんなわけで。

 いつも隣にいたはずなのに、エミリアがいない。その反動のせいなのか。今のようにジークがエミリアにひどい言葉を投げつけることが多々あるのだ。これじゃあエミリアをジークから引き離した意味がない。

 エミリアはジークに暴言吐かれるたびに、おっしゃる通りですとその言葉を受け止め悲しそうに目を伏せていた。


 しかし今日は違った。


 「あぅ…うぅ…、ジ、ジーク様っ……私…」


 エミリアは一生懸命なにか言おうと頑張っていた。

 私もジークも驚き、目を瞬く。


 だがそれはほんとうに一瞬のことだった。

 なぜならエミリアが発言をするよりも先に、驚いていたジークがいつもの調子に戻ったからだ。


 「なんだよ?どうせお前はなにも言えないんだから、行くぞっ!」

 「あっ」

 「ちょっと、ジーク!」


 ジークはよほど苛立っているようで、私やエミリアの言葉に耳を傾けず問答無用で部屋から連れ出そうとする。男の子の力に女の子は敵わない。

 私とエミリアはジークに引きずられるように部屋を出る…が、ジークの足は突如止まった。


 「ダメだよ、ジークくん。2人とも私たちと恋バナしてたんだから連れていっちゃだぁめ」

 「あ?」

 「え!ルルちゃん!?」


 ルルちゃんがジークが部屋から出られないように出口をふさいでいたのだ。うわっはー、ルルちゃんカッコイイ~。惚れる~。

 ルルちゃんはぷく~と頬を膨らませてジークをにらむ。


 「ルルは今怒ってるんだからね~。ジーク君さぁ。さっきエミリアちゃんのこと役に立たないって言ったけど、そんなことないからね~?お勉強教えてくれたり、恋バナの話題を提供してくれたり、エミリアちゃんがいてくれて私たちすごく助かってるんだからぁ。ノリが悪いリディアちゃんとは大違い」


 メっとルルちゃんは怒る。


 「そ、そうだよ。リディアちゃんより役に立ってるよ!」

 「リディアちゃんは連れていってもいいけど、エミリアちゃんはダメー!」


 ルルちゃんに続いて、他の女の子たちもジークに意見する。

 かっこいい。一致団結って感じ。


 「み、みなさんっ」


 エミリアは感動して震えている。

 私も震えた。

 私の扱いひどすぎない?って。

 感動的な場面。そこでただ一人、私だけが涙を堪え震えていた。感動の涙じゃないからな?


 わ、わかってるよ。エミリアがどれだけみんなから頼りにされているか説明するために、比較対象として私を使っているだけで、ほんとうはそんなこと思ってないもんね。リディアちゃんも役に立つって思ってるもんね。ただ、比較対象が私以外にはいなくって。悪いなと思いながら、生贄にしたんだよね?ね!?

 私は期待を込めて女の子たちを見るが、彼女たちは私と目を合わせない。おい!


 「くそっ。エミリアっ。こいつらに見放されても、おれは助けてやらないからな!ブース!」

 「あっ。ジーク様!」


 ジークは吐き捨てるように叫ぶと、ダッシュでどこかへ走って行ってしまった。

 エミリアは小さくなっていくジークの背中を、ただただ見ていた。

 生贄である私もジークに置いていかれて、しょんぼりとその背中を見ていた。どうせならつれてけよ。


 「きゃー。青春って感じぃ」

 「私はアルト君に無理やりつれていかれたいぃ」

 「ソラ君ならきっと、真っ赤になりながら部屋に来てくれるよねぇ」


 そして話題をすぐに恋愛の妄想に結び付ける女子たち。

 怖いなぁ。

 そしてみなさん、私を生贄にしたことはなかったことにしている。

 怖いなぁ。


 「私、ちょっと外の空気すってきまーす」

 「いってらっしゃーい」


 部屋を出まして、さあとんずらしよう。私はすみやかにその場を離れ、なおかつジークには会わないように適当に走った。どこで暇をつぶそうか。キョロキョロ辺りを見回していて目の前を見ていなかったのが、いけなかったのかな?


 風を切るような音が聞こえた直後。

 前方から何かが突進してきた。腹部に強い衝撃ですッ。ぐっふ。

 なにごとかと思い急いで自分の腹を見ると、そこには銀色頭が。


 「アルト、どうした!?」


 腹に抱き付いていたアルトは私の言葉に反応し、一度離れて、また改めて私に抱き付いた。現在の私はちょうど彼の肩に鼻を押し当ててているような状態。アルトは私より背が高いからね。きっと態勢がきつかったんだと思う。


 「なるほど、なるほど。じゃないよ!どうしたの?」

 「もう無理限界、癒して」

 「うん、なにそれ?」

 「兄様~。急に走り出してどうし…あ、リディア!」


 甘えん坊のアルトの後ろからは、かわいらしい金色頭の天使がやってきた。

 なんか2人に会うの久しぶりな感じがする。


 「ちょっと大丈夫?癒してってどういうこと?」


 私が近づけば顔を真っ赤にするアルトだが、現在の彼はただただ疲れ切った顔をしていた。


 「あいつのわがまま、半端ないんだよ。最近急にひどくなった」


 同じく憔悴しきった様子のソラがようやく私たちのもとに到着した。

 あまりに憐れなほどにげっそりしているので、私は空いている手で彼の頭をなでる。いつもなら青ざめて手を払ってくるところだが、そうしないあたりソラもだいぶ疲れているようだ。

 2人が言うあいつとは言わずもがな、ジークのことである。


 「ほんと最悪。あいつほんとうにうるさい。リディアの部屋がいい、リディアだったら…って、リディア、リディアリディアばっかり!僕だってあんなバカと一緒の部屋は嫌だ。リディアと同じ部屋がいいのに」

 「え。ジーク私の名前、そんなに連呼してるの?」


 ぎょっとするが、ソラがまじめな顔で訂正を入れた。


 「いや、兄様の発言はちょっと偏りがある。リディアの名前も口に出すけど、エミリアのほうが多い。エミリアだったらこうしたとか、なんでおれの考えていることが分からないんだ、エミリアならわかるのに、とか。その過程でリディアの部屋にいきたいって言ってる」


 なんだよ。全然違うじゃん。エミリアを連呼じゃないか。

 そういえばさきほども私と遊びたいというのは建前で、ジークはエミリアに執着していたような気がした。


 「つまりジークはエミリアロスってこと?会えばいっつもエミリアに、邪魔だのブスだのポンコツだの言ってるのに?」

 「無意識だろうな。でも確実にエミリアロス」

 「部屋替えしてからの最初の2、3日は静かだったのに。ほんと、最悪」


 周囲に人がいることを確認せず、かぶっていた猫を投げ捨てアルトは悪態をつく。つまりかなりイラついているということ。

 なんかすごい罪悪感だ。私の我儘に2人をつきあわせてもらっている状態だし。

 ジークのラストイベントをのりきったら、エミリアには悪いけど同じ部屋に戻してもらおう。


 「それで2人はなにしてたの?廊下で会うってことは2人ともなにか目的があって動いてたってことだよね?」


 この時間、私はたまたま女子会に参加することになったが、いつもであれば昼寝をしている時間なのだ。アルトは寝ないとしてソラは昼寝をしているはずだ。なのに今、彼らは廊下を歩いている。


 「あー、ジークを探してたんだよ。あいつ目を離すとすぐにいなくなるから」

 「へー意外。2人とも面倒見よかったんだね」


 こんなに憔悴しているのに、ジークがバカをしないように見張ってあげているというわけだ。

 だが違ったらしい。

 だってアルトが鼻で笑っている。恐怖の笑顔だよ。


 「面倒見がいい?まさか。神父様にあのバカを頼まれたから探してるだけだよ。ほんと、最悪。僕がソラ以外で面倒をみたいのは、リディアだけなのに」

 「え。それって私がジークと同じくらい問題児ってこと?」


 ソラについてはアルトの重すぎる愛が理由なので面倒を見たいというのはわかるのだが。ちょっとショック。


 「お前、問題児としての自覚を持ってなかったのかよ。いや、まあ、兄様が言っている面倒をみたいっていうのはそういうことじゃないんだけど…あぁぁ!もう、疲れた!?おれ、いい加減休みたい!」


 アルトもそうだが、ソラのほうもだいぶ参ってる。

 こんなに目を血走らせて頭をかきむしるソラなんてはじめて見た。


 「アルトー、ソラー、ジークがやらかしたよー」


 遠くから聞こえるのはアオ兄ちゃんの声だ。


 「あんのぉ、バカぁぁぁぁ!」

 「……チッ。殺す」


 2人はブチギレながら声のした方向へと走っていった。

 リディアちゃん思いました。エミリアとジークの件が終わり次第、本気でいたわってあげようって。


 でもさぁ。できればまだ、ラストイベントは起こってほしくないよね。

 だって私、夏休みの宿題は最終日にやるタイプだからさっ。てへぺろ。





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