6.生徒会は中二病の集まり
ガブちゃんが教室を出てから5分後、シグレが目覚めた直後に教室の扉が開いた。
「待たせたな」
「遅れてすまいなのだ!セレ…知り合いを見つけたのだが逃げられてしまい追いかけていたらこんな時間になっていた!面目ないのだ!」
4人目はちゃんと生きていた。まずそのことにほっと胸をなでおろす。
やはり4の呪いは迷信だったのだ。私達は死なないし、この学園では誰も死なない。死亡フラグは存在しません。
なぜか聞き覚えのある声と口調だが気づかないふりをして、ね~と同意を求めるように扉付近にいるガブちゃん&新入に笑いかけて、私の目玉は飛び出した。光の速さで飛んでいった。“不意打ちは卑怯”この言葉を脳に刻んで。
壁に跳ね返り再び私の眼窩に収まった眼球に映し出された彼はまさしく…
「エリックぅ!?」
「む?リディアではないか!久しぶりなのだ!」
ガブちゃんに首根っこを掴まれたいたずら子猫状態の彼は人懐こい笑顔で私に手を振る。
夕日色の髪に灰色の瞳の涙ぼくろの美青年は間違いなく精霊の国の王子様であるエリックだ。
オウマイガー。あんたのことをすっかり忘れてたよ、ラスボス攻略対象。
あんぐり口を開ける私を見てガブちゃんが納得したように頷いた。
「そうか、貴様の知り合いか。宙づりでフルートを奏でていたからどんな奇人変人かと思ったが、お前と同じ脳内構造ならば仕方が無いな」
「類は友を呼ぶといいますからね」
「先が思いやられる」
ガブちゃんとサラはため息をつくが、おい。それどういう意味だよ。言葉の通りなら私が奇人変人ってことになるのですが?喧嘩なら買いますよー?
私がピクピク顔を引き攣らせている隣でシグレは警戒の面持ちでエリックを睨んでいた。
「貴様、なぜそのような奇怪な行動をとった?」
「セ…知り合いはおれのフルートが好きなのだ。演奏していれば戻ってくれるかもしれないと思ったのだが、彼女は現われなかった。きっと急ぎの用事があったのだな!」
エリックは朗らかに笑う。あどけないその笑顔には負の感情を一切感じなくて、シグレが少し狼狽えたように後ずさった。
相変わらずのポジティブである。善と陽のオーラしか感じない。闇落ち要素が全く無い。あんた本当にラスボスか!
ちなみにガブちゃんとサラはエリックを見て、「リディアとは似ても似つかん」「類ではありませんでしたね」とか言っていた。類だろ。私は光の巫女だぞ。善と陽の塊だぞ!
「ていうかどうして宙づりになったのよ」
「恥ずかしながら彼女を追いかけるのに夢中で屋根を走っていたら足を滑らせ転げ落ち、気がついたら逆さまになっていたのだ」
エリックが照れくさそうに笑う。
なんてことなさげに言うから霞むけどエリックって結構脳筋タイプだよね。知り合い見つけて屋根走るって忍者かよ。そんなエリックを撒く知り合いもすごいけどさ。
「ところでお前達は何者なのだ?リディア、紹介して欲しいのだ」
エリックがにこにこと人懐こい笑みをガブちゃんたちに向ける。
私はこの場にいる全員と知り合いだから忘れていたけど、エリックたちは初対面だ。たしかにこの場では私が仲介役として間に立つのが妥当だろう。その役名拝命しました。
「ガブちゃん、シグレ、サラ。紹介するね、この子はエリック。え~っと私の友達。良い子だよ」
ガブちゃんが下手くそかって顔で私を見てくる。
否定はしない。私もそう思うからね、うん。ただ言い訳はさせてほしい。
エリックは精霊の国の王子様だ。身分を隠してこの学園に滞在している可能性がある。そうなってくると不用意な発言はできない。結果、紹介内容が激減する。私は最大限の努力をした!
エリック、紹介をねだるなら事前に言って良いことと悪いことを教えなさいよ。私がお馬鹿みたいなこの空気どうにかしろ。
私の無言の訴えになにかを感じ取ったらしいエリックは頼もしい笑顔でうむ!と頷いた。不安しかないな。本当に大丈夫か。
「おれの名はエリック・シルヴァスタ。精霊の国の王子である。今年で16になる。見聞を広めるべくこの学園に入学した。よろしくなのだ!」
ずっこけた。
言っていいんかい。私の気遣いを返せ。
「そんでもってガブちゃんたちは案外驚いてないのね」
ずっこけたときに巻き込んでひっくり返した机達を直していれば、ガブちゃんが呆れた顔で私を見下ろした。
ちなみにシグレとサラとエリックは私と一緒に机を直してくれている。私の天使たち、大好き。
「無所属国の者が在籍するのが天組だ。これに該当する者は限られる。予想はしていた」
そもそも天組が無所属国の組ってことが初耳なんですけど。
そんな気持ちが顔に出ていたらしい。それくらい悟れとガブちゃんの顔に書いてあった。私の真似しやがって色黒バイオレンスめ。
「貴様、今なにか…」
「あーっと、それじゃあ今度はエリックに3人を紹介しようかな!うん、そうしよう!」
「リディア、上手く逃げたね」
「さすがリディア様です!」
おほほ、サラはお黙りなさい。シグレは許す。と笑いながらエリックに手のひらを向け、まずはこの方から紹介する。
「この人はガブちゃん、私の第二のお師匠様。色黒バイオレンスのスパルタ指導だけど、実は紳士だしやさしいし気遣い屋さんなんだよ。私はガブちゃんのことが大好きだし、ガブちゃんも私のことが大好きなの。あだーっ」
言わずともわかるだろうがあえて言おう。
ガブちゃんに殴られた。
頭をぱこんとね。腕ひねるまでもないってか!
「俺の名はガブナーだ」
「でもって訂正するのはそこだけなんだ!?」
驚きに顔を上げればガブちゃんは器用に片眉を上げて笑う。
「名以外は全て事実だからな」
「っ!」
それはつまり、ガブちゃんも私のことが大好きだということ。
口元がにやついてしかたがない。気を抜いたらでへでへ気持ち悪く笑い出してしまいそうで堪えるのが大変だ。
本当にガブちゃんは私を喜ばせるのが上手なんだから!
「俺の指導はスパルタらしいからな。ご期待に添えるよう努力する」
「オウ…」
ガブちゃんは私を絶望させるのも上手だった。
「なるほど、リディアとガブナーは仲良しなのだな!おれもガブナーと仲良くなりたいのだ!よろしくなのだ!」
「…俺は神に仕える神官だ。今はわけあってこの学園の教師を務めている。お前の担任だ。仲良くなれるかはお前次第だ」
ガブちゃんのスパルタ指導します宣言を聞いて即仲良くなりたいと言えるエリックはやはり大物だ。
そんなエリックに一切動じず淡々と自己紹介をするガブちゃんは、うん。いつも通りのガブちゃんだ。
握手を求めるエリックの手をガブちゃんが握ったことを一区切りと判断し、私は次にサラを紹介する。
「この子はサラ。私の第二の兄弟子。保有する魔力の量がすごく多くて外見年齢は17歳だけど、本当は23歳なの。やさしくて穏やかな安心安全お兄さんで勉強オタクだよ。私はサラのことが大好きだし、サラも私のことが大好きなんだ~」
サラはガブちゃんと違ってバイオレンスではないので、くすりと笑うと一歩踏み出しエリックに手を差し出した。
「よろしくね、エリック。俺も先生と同じ神に仕える神官なんだ。でも今は君の同級生だから仲良くしてくれるとうれしいな。年齢のことは他の人には秘密にしてね?」
「もちろんなのだ!おれもサラと仲良くなりたい。よろしくなのだ!」
笑顔でサラとエリックが握手を交わす。いいね、青春だね!
となると次に私が紹介するのはシグレだ。
興味なさげにエリックを見ているシグレの背中をずいずい押して前に出す。
「え、わ。リ、リディア様?」
「最後はこの子、シグレだよ!私の第二の兄弟子で私とエリックと同い年。やさしくて頭がよくて真面目で照れ屋さんな私の天使なの。私はシグレのことが大好きだし、シグレも私のことが大好きなんだ!」
「だ、大好き……」
ぽぽぽと頬を桃色に染めてもじもじにこにこうれしそうにはにかむシグレはやっぱり天使だ。
エリックも私と同じことを思ったのだろう。
にっこにこの眩しい笑顔でシグレに手を差し出す。
「シグレ、よろしくなのだ!おれとも仲良くしてほしい!友達になってくれなのだ!」
「私に友人など必要ない。仕事の邪魔だ」
はにかみ天使から一転、シグレはクールビューティーな無表情に変貌した。腕を組みエリックから顔を背ける。
あ、あちゃー。私とサラは静かに天を仰いだ。
そうだった。シグレはこういう子だった。
エリックを嫌悪しているわけじゃなく、本当に興味がなくて必要性も感じないからこその態度なのだ。
私達はそのことを知っているから驚いたりしないけど、何も知らないエリックは傷ついて…
「そうか!だがおれはお前と友達になりたい!仕事には息抜きも大切なのだ!休憩がてらおれとおしゃべりをしよう!」
「は?」
エリックの心は鋼だった。鋼というか前向きだった。
腕を組まれたら握手が出来ない。ならばハグをしようの欧米スタイルでエリックはシグレを抱きしめた。
さすがとしか言いようがない。
思い返せば私もエリックの鋼の心と粘り強さに負けて気がついたら友達になっていた。最強だなエリック。
予想外の出来事にシグレも固まっている。
「よろしくなのだ!」
「…なんだこいつ」
満足したのかポンポンとシグレの背中を叩いてエリックは友達(決定)を解放した。
こんなこと初めてだったのだろう。シグレは猫のような俊敏さでサラの背中に隠れた。戸惑いに眉を寄せてエリックを見ている。
でもエリックを嫌がっているようには見えないから、案外2人の相性は良いかもしれない。2人が友達になれたらいいな。もちろん無理強いはしないけどね。
「…入学式開始までまだ時間があるな。6年生に挨拶しにいく」
自己紹介が終了したと判断したのだろう。ガブちゃんが言いながら廊下に出た。
「入学式まだ始まらないの?」
まだアルト達とわーぎゃー騒いでいたときに現われたガブちゃんはあと20分で入学式が始まると言った。だけど20分なんてとっくに過ぎている。
階段に向かって歩くガブちゃんを追いかけながら問えば、彼の頬に青筋が浮かんだ。
「他の校舎で暴れている人間がいる。その対応に追われて開始が遅れている」
「……。」
「破壊行動等の暴走であれば制圧も容易いが、ゆっくりと静かに校舎を凍結させているそうだ。しかも本人は無自覚らしい」
「……。」
「体調不良を訴える者が続出し養護教諭が学園内を駆けずり回っている。笑っていたがあの顔はかなりキレていたな」
「……。」
全てノーコメントで乗り切った。
誰が暴れているのかは聞かないことにした。私は平和を愛する女なので。
ただ入学式が終わったらブラコンヤンデレ王子の頭を撫でてあげようとは思った。あと養護教諭さんになにか差し入れしよう。私のつくった痺れ薬を特別にあげるよ。次またアル…誰かが暴走したら投げたらいいんじゃないかな、うん。
こうして私が顔を引き攣らせているうちに6年生の教室…ではなく、同じ階にある生徒会室に私達はたどり着いた。
なぜに生徒会室?6年生に挨拶するんじゃないの?
首を傾げつつもガブちゃんが重厚な扉を開け入室したので私たちもその後に続く。
「なんじゃこりゃぁ…」
そこは生徒会室というよりも大聖堂や美術館のような部屋だった。
白と金を基調とした落ち着いた内装で、壁には神様が描かれた絵画や彫刻が数多く展示されている。
全体的に洗練された美しさがある。が、私はちょっと苦手だ。妙に威圧感を感じて息が詰まる。
唯一この部屋で好きだと思えるのは、ステンドグラスに囲まれたドーム状の天井のみ。ステンドグラスが綺麗だし、太陽の光がステンドグラスを介し七色の光となってこの部屋を照らす光景が幻想的で素敵だ。
そんな光が一番よくあたる祭壇(としか言い様がない)を机にして、なにやら事務仕事をこなしているのが自称神だった。
大事なことだからもう一度言うよ。
祭壇を苛立たしげにコツコツ指で叩きながら神経質そうな笑顔を私達に向ける金髪金眼美青年は自称神だった。
彼、私のことを散々不敬だなんだと言っていたが、あなたの方がよほど不敬じゃありませんか?
さすがの私も祭壇を机にして自分は神です、崇めなさいみたいな顔は出来ない。
「っほんとうに今世の光の巫女は不敬ですねぇ。…我、堪えるのです。今月のノルマは全て達成してしまいました。やり過ぎは禁物です。私情で力を使うなど神として未熟であるという証…」
「なんかブツブツ呟いてる。怖…」
「はぁ。口を慎め。この方は……生徒会長だ」
「天組6年生で俺たちの先輩でもあるよ」
「はぁー!?」
驚きのあまり自称神を見れば彼は努力して笑顔を作っていますという顔で立ち上がり私達に向かって歩き出していた。怖いなぁ。
そんな自称神の行動にシグレが真っ青な顔で慌てる。
「お座りください!私達が向かいますっ!」
「いえ、君たちはそこにいてください。我が向かいます。ライ、隠れてないで出てきなさい」
なーんだって?シグレの発言に私は開いた口が塞がらない。
ガブちゃんはおろか神官長にすら敬意を示さないシグレが生徒会長に対して敬うような態度を取った。さらに言えば畏怖の念を抱いているご様子。
え、本気でなぜ?自称神より断然ガブちゃんの方が尊敬できるし怖いが?( 神官長は全然尊敬できないけど)
「…はぁ~。ライ、出てきなさい」
「カイ君、勘弁してぇ~」
私が首を傾げる中、自称神が来た道を戻って祭壇の後ろで屈んだと思ったら情けない男の子の声が聞こえ始めた。
どうやら祭壇の下に人が隠れていて、その子を自称神が引きずりだそうとしているようだ。…祭壇に隠れて大丈夫?天罰下るんじゃない?
「君も挨拶をしないとあの不敬者を追い出せないでしょう」
「で、でででででもぉ~」
「わかりました。ならば後ほど、一人で4年生の教室に赴きなさい」
「カ、カイ君の鬼ぃ~」
わーぎゃー言い合いをする自称神と謎の人物。
「手伝うのだ~」
「動くな。私達は待機を命じられた」
「わかったのだ!」
善意の塊であるエリックが自称神たちを手伝いに行こうとするがシグレがそれを止める。
でも自称神は結構苦戦しているようだし手伝った方がいいのでは?そう思ったとき、ちょうど祭壇の下から人が出てきた。
「うぅ…ぐすっ。カイ君ひどいよぅ」
現われたのは左目に眼帯をつけた中二病みたいな風貌の美少年。
金色の右目からは涙が止めどなく流れ続け、ぐすぐす鼻をすすっている。
私の視線に気づいたのかびくっと飛び上がったその子は制服の下に着込んでいるパーカーのフードを慌てて被ると、おどおどと自称神の背中に隠れるようにしてこちらへやってきた。
「お待たせ致しました。我は天組6年のカイです。天空学園の生徒会長を務めています。以後よろしくお願いします」
「ぼ、ぼくは…副会長の、ライです。天組6年生です。生きててすみませんっ」
そうして目の前までやってきた彼を見て、私は……
「はあ?」
めっっっっっっちゃ殴りたい衝動に駆られた。
全身の血が沸騰するような怒りが体に満ちる。見ているだけですごく苛々する。
我ながらドスのきいた声がでたと思うし、ガブちゃん達も驚いた顔で私を見ている。私自身もこの感情にすごく戸惑ってる。
だけど、それでも、この怒りを抑えることは出来ない。
「ギャー!怖いよぅ!カイ君ー!!」
「自業自得でしょう」
「そんなぁああああっ」
初対面で理由もなく腹が立ったのは初めてだ。
自称神…もう生徒会長でいいか。生徒会長の背中に隠れてぷるぷる震えるその姿を見るだけで、ぼっこぼこにぶん殴ってやりたくなる。
なんでだろう。おどおどして私に怯えているのが腹立つ?でも違う気がする。ダンデライオン号のユーガも「ひぃっ」って言ってたけど、それほどむかつかなかった。
「とりあえず一発殴っていい?」
胸の位置まで拳を持ち上げ問えば、腹立つそいつは真っ青な顔で飛び跳ねた。殴りたいな。
「せ、性格までそっくりだよぅ。遺伝子怖いぃ!カイ君、助けて~!」
「どうぞ気が済むまで殴ってください」
生徒会長がにっこり笑顔で副会長の背中を押し出した。
なにが起ったのかわからないと言わんばかりの唖然呆然半泣き顔が私の前に現われる。
気が利くじゃない。ちょっと生徒会長のことが好きになった。
「カイくぅぅんっ!?」
「歯食いしばりなさいよ」
「ギィヤアアアアア!」
私はゆっくりと腕を引いて、ぎゃーぎゃー騒ぐそいつの顔面に拳を打ち込む。…はずだったのだが、シグレとエリックにそれぞれ手を掴まれて止められた。
「え、え~!?なんで止めるの!?」
「リ、リディア様、後生ですからお止めください!」
「暴力はよくないのだ!」
「うちのリディアがすみません」
「はぁ」
サラが生徒会長と副会長に謝罪をして、ガブちゃんがため息をつく。
なぜか私が悪いみたいな雰囲気になっている。
さっきまでみんな見守ってくれてたのに!私はちゃんと生徒会長の了承得たのに!どうして!?
やだやだ殴る~と暴れる私を見て、おや?と目を瞬いたのは生徒会長だ。
「蓋が溶接されていますね」
そう呟いたかと思うと、いつかのようにシグレとエリックが私から弾き飛ばされ、私は頭から海水を被っていた。
「ぶへぇぇぇぇ」
「さっきタイちゃんの気配がしたもんね」
「気配はするのに姿は見せないのですから。ほんとう困ってしまいますね」
私が海水を浴び続けている中、生徒会長は副会長と呑気におしゃべりしている。おい、私の顔を見ろ。顔面ピキりまくってるぞ。そんな気持ちが伝わったのか副会長が私を見て泡を吹いて痙攣した。お前は見るな。なんで見た。私の顔を見れば自分がどうなるか想像つくだろ。馬鹿なのか。
だがしかしこれではっきりした。海水は生徒会長の仕業だったのだ。勘違いしてごめんね、太陽神様。こればっかりは本気でごめん。
「リディア様、おそらく生徒会長にはなにかお考えがあるのです」
シグレは眉を下げて泣きそうな顔で私に訴える。
でもね、シグレ。たぶんこれ嫌がらせ以外のなにものでもないよ。
「この自称神は私をいじめて楽しむことしか考えてないのよ」
「ライ、君も放電しておきなさい」
「ほら見ろ!」
ていうか放電って何!?めっちゃ怖いんだけどっ。絶対に痛いやつじゃん!
「あんた、放電したら許さないわよ!」
副会長を睨めば、そいつは大げさなまでに飛び上がり生徒会長の背中に隠れた。猫とネズミが出てくる海外アニメと同じくらい大げさだった。腹立つわ~。
「カ、カカカカカイ君、勘弁してぇえええ。あの目を見て!血に飢えた獣みたいな目をしてるよっ!ぼ、ぼぼぼく、目玉を抉られちゃうよっ!」
震える手で副会長が指さすのは私だ。
血に飢えた獣とはもしかしなくても私のことを示しているらしい。
その喧嘩、買います。
「こっち来なさい。お望み通り目玉抉ってやるわよ」
「~っ!?」
音もなく絶叫するそいつは千切れんばかりに首を横に振る。
ガブちゃん達も口喧嘩ならいいかと判断したのか今度は止められなかった。
ありがとうございます。それでは徹底的に痛めつけて、この鬱憤晴らさせていただきましょう。
「さっきのフリでしょ。私に目玉抉られたいっていうフリでしょ。そうでしょ、ねえ。こっち来いや」
「ひぃぃぃいいいい!」
もちろん本気で目玉を抉るつもりはない。
どれだけ腹立つ相手だとしても人様の視力を奪うのはよくないし、私は自分がされて嫌なことは相手にしない主義だ。なので絶対に目玉は抉らない。痛いし、失明したくないから。
それなのに私が本気だと思っているのか副会長は怯えるように左目の眼帯を手で押さえる。
「なに?その左目は誰かに抉られたっていう設定?」
「ひぇぇえええん。生きててすみません。許してくださぁいっ!」
ずいぶんと凝った設定だ。見た目を裏切らない彼の中二病っぷりに脱帽する。
顔面を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして許しを請う姿は哀愁を誘い、まるで私が悪者のようだ。悪者上等。
「たしかに片方だけじゃバランスが悪いものね。右目も抉ってやるから、こっち来い」
「うわぁあああん。勘弁してくださぁいぃいっ!」
抉ると見せかけてデコピンしてやる。
すごく腹立つし怒りが収まらないけど、私は弱い者いじめをして快感を得るような変態ではない。
おでこにデコピン。これでこの場を納めてあげよう。
しかし副会長はいつまで経ってもこちらに来ない。どうやら私自ら出向くしかないようだ。
やれやれ首を振りつつも優しさに満ちあふれている私は暗黒微笑を浮かべて一歩足を踏み出す。…が、
「ぼ、ぼくっ、反省してるのにぃぃいいいい!」
「は!?」
副会長が今までで一番大きな声を上げて泣き叫んだとき、
ゴロゴロガシャーンッッッ
天から金色に輝く雷が落ちて、私を貫いた。
「あがががががが」
い、痛い。全身くまなく尋常じゃないほどに痛い。
例えるなら熱した針で体中を刺されている感じ。チクチクじゃないよ、ミシンのダダダダの速さで刺されてるんだよ。な、泣きそう。
普通だったら全身黒焦げだ。が、どういうわけか体は無傷だった。でも黒い煙は出ている。どういうことよ。そして雷攻撃が一向に収まらない。永遠と続く。勘弁して。
「リ、リディア様っ!」
「なぜこんなことをっ!おやめください!」
「なぜだ、結界を貫通するのだ!?リディア、しっかりするのだ!」
「その攻撃を今すぐやめろ!…チッ。失礼しました。光の巫女が死にます。おやめください」
「ライ、やりすぎです」
「うわぁあああん。無理だよぅ、制御できないっ。ぼくは悪くないもん、人間風情が…っ!う、うそうそ。嘘です!ぼくが悪いんです、許してくださいぃぃいい」
「はぁ。世話のやける…」
周囲がなにやら騒がしい。
シグレが涙目でエリックが青ざめて、2人とも私に手を伸ばすけど雷に阻まれてその手は届かなくて、ガブちゃんとサラが副会長に詰め寄っている。
みんな私のために、なんか…うん、なんかしてくれてるんだね。でも私の体はビリビリと痺れて、頭も回らなくなってきて……
「も…無理……」
みんなが血相を変えて私に手を伸ばす姿を最後に、私の意識は途絶えた。
次話でプロローグ終了。8話目から次章にいける予定です。




