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3.全員集合すると何が起きるか。体が千切れる


//////////☆


 現在、無事学園の敷地に入ることができた私は、相も変わらず木陰に隠れ移動を続けていた。


 再度言うが、ここは本編とは似て非なる世界だ。

 あくまでこれを通すよ、ええ。

 でも万が一もあるから、私は主要キャラたちとは再会しないように動くのだ。


 アルトとリカはもう出会ってしまったから仕方がない。リカは無口だから、言いふらさないでしょう。アルトはああ見えて友達独占したいタイプだから、ソラくらいにしか報告しない。アリスは言うまでもなく問題なし。


 てなわけで、みんなごめんね。私はみんなを避けるよ!


 目尻をハンカチで押さえながら、およよと私は木陰に隠れる。

 そんな私の耳を貫いたのは黄色い歓声。


 キャーッ


 思わず、ずっこけるよね。

 鼓膜が破れるかと思ったよ、おい。私の風情ある逃避を邪魔した輩はどこのどいつだ!

 おらおらと辺りを見まわせば、前方に人集りが出来ていた。遠目でもわかるほどのピンク色の熱気に包まれていて…なんか嫌な予感がしてきた。

 邪魔したことは許しましょう。人集りに背を向けて私は速やかにこの場を去る。が、一歩遅かった。


 「ジーク様、素敵ぃ」

 「私と結婚して~!」

 「今夜、お部屋で待ってまーす」


 なんだってぇ?

 耳を疑う言葉が聞こえたのに逃走するなんてできるはずもなく。

 私は慌てて振り返り、前方に広がる光景を見て、己の目を疑った。


 そこにはどや顔で美女を引き連れ歩く、赤髪の元俺様美青年(馬鹿)がいた。


 「……。」


 無言で頭を抱えたのは言わずもがな。

 右手に綺麗系美女、左手にかわいい系美女、右前に元気系美女、左前におっとり系美女、右後ろに凜々しい系美女、左後ろに委員長系美女を侍らせ歩いています。はあ?


 「ったく、かわいいやつらだな」


 言いながらやつは左手のかわいい系美女の額に顔を近づけたので、リディアちゃんはクラウチングスタート。


 「ぬぅあにやっとんじゃ、このド阿呆ー!」

 「ぐはーっ!?」


 私の跳び蹴りは見事、元俺様馬鹿(ジーク)の背中にクリーンヒットした。

 ジークは軽く吹っ飛び、顔面から転んだ。私に突き出すようにお尻を向けて、だいぶまぬけな姿である。その尻、蹴ってやる!


 「誰だ…は?リディア!?」

 「やべ」


 勢いよく振り返ったジークと目が合ったことで、ようやく私は我に返った。

 慌てて目をそらす。ついでに尻を蹴るつもりであげていた足も下ろした、おほほ。


 「ヒメだよ☆」

 「おい、リディア!いきなり何しやがる!?」

 「私はヒメだって言ってんでしょうがー!」

 「だぁああ、やめろ~!」


 ジークの胸ぐらを掴み揺さぶる私は一見元気いっぱいに見えるが、絶賛青ざめ中だ。


 くそ…、ジークがあまりにも馬鹿野郎すぎて、条件反射で飛び蹴りしてしまった。体に染みついたクセは簡単には抜けない。ジークの阿呆を前にして私が黙っていられるわけがないのだ。


 図体でかくなったくせに、どうして中身は成長してないのよ。またしても誤魔化せなかったし!


 「あんたのせいで計画台無し。ハッ。まさかそれが狙いかァ!」

 「お前、今までどこに…計画ってなんだ!?」

 「いや、ジークに限ってそれはないか。頭良いけどあと一歩が足りないタイプだし」

 「相変わらず失礼だな!?てことは、やっぱり本物のリディアか!」

 「どこで本人確認してんのよ!」

 「いだだ、叩くな!?」


 手をぐーにしてぐるぐる腕を振り回しジークをぶん殴る。

 バレたからにはいつも通りジークに八つ当たりしてやる。え?最初からいつも通りだって?何を言っているのか、リディア、わかんなぁい。

 とぼけていたら真横から目にもとまらぬ速さで赤い塊が衝突してきた。


 「ぐへぇっ」

 「うおっ」


 例えるなら突進してきた野生動物に跳ね飛ばされる感じ。

 軽く吹っ飛んだ私はジークが見事キャッチしてくれたので事なきを得た。が、休む暇なんてあるわけがなく、赤い塊は同じ勢いのまま私に抱きついてきた。素早すぎて残像しか見えないから、赤い塊としか言い様がないんだよ。

 でもこの子が誰かなんて、見なくてもわかる。


 「おねえさまっ」

 「エミリア~!」


 はらはらと涙を流すかわいい女の子はエミリアだ。

 4年前に遠目で見たときよりもさらに美しく女性らしくなったエミリアは、ぎゅうぎゅうに私に抱きついて離れない。

 眉毛よりも上の前髪は今も変わらず健在であり、緑色と金色の大きな瞳からは絶えず涙がこぼれ落ちる。

 ぎゅぅっと胸が締め付けられた。うれしさと罪悪感で胸がいっぱいになる。


 「よくご無事で、またお会いできてうれしいです。私…うぅっ」

 「…ごめんね」


 私はこの10年間元気いっぱいだったけど、エミリアはそんなこと知らない。不安な気持ちで私を探し続けていたのだ。…すごく心配をかけたな。

 つられて泣きそうになるのを堪えて私もエミリアを抱きしめ返せば、彼女はさらに泣きじゃくって私の制服をきゅっと握りしめた。うぅ、私の天使かわいい。


 「…おれも。またお前に会えて、うれしい」

 「ジーク…」


 頭上で聞こえた穏やかな声に顔を上げれば、ジークが照れくさそうに笑っていた。そんな彼の目尻はほんのり赤くなっていて…くぅ~っ、あんたまで私を泣かせようとしないでよ!

 私は大好きな友達との再会に涙を浮かべながら笑った。


 拝啓 アルト様。リカ様。

 これが理想の友達との再会です。アルトは再会できてうれしいからって攫うな、閉じ込めるな、服着替えさせるな。リカは2人を見習って少しは泣いて喜べ、殺そうとするな。

 

 こうして私達は穏やかに再会を喜び、学園に向かった。というのは私の願望で、向かえるわけがなかった。えぇ、人生そんな上手くいきません。


 「おねえさま、すみません。私の力ではジーク様を教育することは出来ませんでした。私が不甲斐ないばかりに…、本当にお恥ずかしい限りです」


 エミリアが落ち着いてきた現在。

 エミリアが通常運転に戻るということは、それすなわち、ジークが叱られるというわけでして……ようするにジークは地べたに正座していた。

 あんた、夏の国の王子だよね?威厳全然ないけど、大丈夫?


 「えーっと、私がいない間、なにがあったの?」


 未だにこの場にいるジーク侍らせ美女軍団をチラチラ見ながら問いかければ、エミリアが慌てた様子で美女軍団さんを見た。


 「す、すみません、皆様。どうぞ解散してください。本日の業務は以上となります」

 「「「「「「お疲れ様でした~」」」」」」

 「え、えぇー!?」


 エミリアのかけ声と共に、わらわらとジークに侍っていた美女たちが去って行く。

 「殿下、どんまぁい」「私達、応援してますから~」と口々にジークを励まし、それぞれどこかへ散っていく。


 一方の励まされたジークは肩を落としてしょんぼりしていた。

 本当にどういうことだ。さっきのジークにメロメロ雰囲気とは大違いすぎるぞ。


 「彼女達はジーク様直属の女騎士の方々です」

 「え!そうだったんだ、格好いい~」

 「今日のようにジーク様に色目を使う演技をなさることがあるのです」

 「え!そうだったんだ、だからあんなにジークにメロメロ…はあ!?」


 色目を使う演技だってぇ?

 私の顔は現在進行形で引き攣りまくっている。口元なんて電流流されたみたいにピクピク痙攣し続けているぞ。


 「しかもジーク様が彼女達に頼んでいるみたいで…はぁ。本当に頭が痛いです」


 エミリアは疲れ切ったように項垂れた。


 理由は不明だが、ジークは4年前「おれに好意のあるフリをしてくれ!」と女騎士さんたちに頼んだそうだ。女騎士さんたちはそんなとち狂ったお願いを快く了承してくれた。

 彼女たちが嫌がっていないからいいものの、主君にお願い(命令)されて断れる部下なんてほとんどいない。一歩間違えればセクハラである。

 だからエミリアはジークにメロメロ演技を業務内容の一部として組み込み、さらに口止めと迷惑料込みで女騎士さんたちに別途報酬を渡しているのだとか。


 頬に青筋浮かべるエミリアに対し、ジークは違う違うと涙目で首を横に振る。

 そんなジークを見る私の頬にも、当然のごとく青筋は浮かんでいる。ぬぅあにが違うって言うのよ、この阿呆助!


 「あんたは一途が売りでしょうが。なにをどうしたらハーレム形成に至るのよ!女騎士さんたちを巻き込むんじゃないわよ!そしてエミリアを困らせるな!」

 「なっ。4年前にお前にそっくりなやつにアドバイスを貰ったんだよ!押してだめなら、引いてみろって!」

 「なによその阿呆みたいなアドバイス。言ったやつの顔が見てみた…い、わ…?」


 ハンッと鼻で笑っていた私だが、語彙はだんだんと弱まり、最終的に疑問符で終わった。


 ……すごくおかしな話なのだが、身に覚えがあったんだよねぇ、ハハハ。

 思い出すな、思い出すなと念じる。が、私は割と物覚えが良い方なので。悲しきかな、思い出してしまった。



 『あーっとね、そう!押してダメならひいてみろ、だよ。猛アタックしてきたやつが急になにもしなくなると違和感を覚えるんですって。それで気になっていって恋に発展することがあるそうよ』

 『押してダメなら引く。なるほど…』



 ……はい。

 4年前、夏の国の孤児院で、ジークがあまりにもうざくて適当にアドバイスをした。私だな、私が犯人だな、これ。

 私はジークの隣に正座した。


 「ごめんとは思うけど、それでエミリアを嫉妬させようとしてハーレムつくるとか、あんたやっぱり馬鹿だよね?限度があるでしょ」

 「う、うるせーっ!おれなりに頑張ったんだよ!?」


 わーぎゃーと私とジークが言い合いするのを見て、エミリアは目に涙を浮かべて笑った。


 「…懐かしい光景。もう一度見れるなんて、幸せですわ」

 「「エミリア…」」

 「この光景を永遠に見るためにも、実力行使に出るしかありませんね」

 「「エミリア!?」」


 私とジークは一気に青ざめ、ひしっと身を寄せ合ったのは言わずもがな。

 エミリアがかわいい笑顔でとんでもないこと言い出すの忘れてた。感動の雰囲気はいずこへ!?


 「ていうか実力行使っていったいなにをするつもり!?」

 「おねえさま、ジーク様と今すぐ結婚してください」

 「嫌に決まってるだろ!?」

 「ちょっと馬鹿ジーク!私の台詞を奪うんじゃないわよ!」


 ジークは勢いよく立ち上がり首を横に振るから、リディアちゃん激おこだよね~。


 「全部あんたのせいでしょ!さっさとエミリアに告白しろ!」

 「だぁ~!馬鹿、やめろ!」


 私を黙らせようとジークが真っ赤な顔で私の口めがけて手を伸ばす。

 だから私は華麗なステップでジークの手を躱す。


 「お~ほほ!私に刃向かおうだなんて百年早いの…ぐぇっふ」

 

 何が起ったのかというと、ジークの手を躱し高笑いした私は格好よく決め台詞を言おうとして、前方からすっ飛んできた水色と茶色の塊に腹を直撃された。

 内臓が口から飛び出すかと思ったよ。衝撃が強すぎて、体がくの字になったからね。


 「リディアおねえちゃん!」

 「王子様!」


 私の腹に体当たりという名の抱きつき攻撃をしてきたその人物、もちろん顔なんか見なくても誰かわかる。


 「ギル!ミルク!」


 口から胃液を垂れ流しながら笑いかければ、

 2人は顔を上げ、目に涙を浮かべてうれしそうに笑い、ぎゅうっと私に抱きついた。


 かわいい弟と妹に再会できたのだ。当然私も抱きしめ返す。…口から胃液を垂れ流しながら。

 安心して、頑張ってすすって飲み込んだ。心配かけるわけにはいかないのでね、ハハハ。

 そんな私達をジークは唖然とした顔で見ていた。


 「胃液をドン引きされなくて良かったよ」

 「まあ慣れてるからな。それよりもお前、冬の国の王子と知り合いなのか?」

 「うん、私の弟と妹」

 「はあ?」


 聞けばジークはギルたちと面識があるらしい。ギルとは4王国の和平協定で出会い、ミルクとは学園で知り合ったとのこと。他の面々とも再会したそうだ。

 なるほどと頷く私を見て、ジークは不思議そうに首を傾げる。


 「…4王国の和平協定は一部例外を除き王族しか参加できないんだが。お前、おれが王子だって知っても驚かないんだな」

 「……。」


 あと一歩が足りないだけで結構頭がいいジーク君。

 鋭いことを言ってきたので、私は笑って誤魔化した。ハハハハー。


 さて私とジークが和やかに会話をする一方で、エミリアは警戒の眼差しでギルとミルクを見ていた。うん、なぜに?


 「ギル王子、おねえさまから離れてください。彼女は夏の国の未来の王妃ですよ」

 「「ちがうよ/ぞ!?」」


 そしたらとんでもないこと言い出したよ、この子。

 いえ、違いましたね。これがエミリアの通常運転でしたね!?

 とにかく私とジークは全力で首を横に振る。


 ギルは私に抱きついたまま、器用にその様子を見ていたようで、冷ややかな眼差しをエミリアに向けた。


 「当の本人達は否定しているようですが?」

 「えー!無理強いってこと!?」


 ギルは大人びた口調で、ミルクは非難するようにエミリアを見る。そんな2人を私は穏やかな顔で見つめる。

 だって2人とも私に抱きついたままだから、あんまり貫禄がないんだ。かわいいね。

 エミリアを見てごらん、私と同じように微笑ましそうに笑っている。


 「ちがいますわ。お2人とも照れているだけです。素直じゃないので」


 違った。目の笑っていない笑顔だった。


 「私とジーク以上に素直な人間ってそういないと思うよ!?」

 「その通りだ!全力で嫌がってる!」

 「嫌がるんじゃないわよ!私は天才美少女ヒロインよ、ありがたく思え!」

 「怪獣暴力ヒロインだろうが…いだだ、叩くな!」


 私に叩かれるジークと、そんな私達を見てうれしそうに微笑み「やはりおねえさましか考えられません」と恐ろしいことを言うエミリア。

 2人を交互に見ていたミルクは不思議そうに首を傾げた。


 「うーん?おねーさんはジーク王子の婚約者さんじゃなかったっけ~?」


 なーんだってぇ?

 ミルクが言うおねーさんとは、もちろんエミリアのことだ。


 叩くのを止めてチラリとジークを見る。

 そしたらまあ、彼はなんともだらしのない顔で笑っていた。告白は出来ていないが婚約は出来たらしい。


 「いつ君」でも2人は婚約関係にあった。そうなるだろうなとは思ってたけれど、実際に話を聞くとにやにやと顔が綻ぶというものだ。ふっふ~ん、よかったじゃない。


 オラオラとジークを肘で小突けば、ジークはデレデレ笑いながらやめろよぉと私の背中を叩いた。


 「ごっふ」


 その威力の半端なさといったら、もう。顔が引き攣るよね…。

 超痛いのだが?心臓が物理的に飛び出るかと思ったが?ジークの遠慮のない馬鹿力は健在ってか?

 相手が男ならともかく、私は女だぞ。睨めばジークは首を傾げた。男友達みたいなものだからいいだろ?そうかそうか、思いっきり叩き返してやったよ、この野郎。

 

 「私はおねえさまがジーク様と結婚するまでの壁役です。お2人が結婚するのであれば、今すぐにでも婚約を破棄いたしますわ」


 そしたらエミリアがえっへんと胸を張って答えていました。

 …あ、ジークが泣いちゃった。なになに?叩かれたから泣いてるわけじゃない、うん。知ってる。

 私もギルもミルクも同情の眼差しでジークを見た。


 「くそっ。おれを見るなァ!」


 優しさが辛いときもあるよね。

 私は気が利くから話を変えてあげた。


 「と、ところでぇ、ギルもミルクもいつまで私に抱きついているのかな~?」


 そうなんです。実は私、ギルとミルクに再会してからずっと抱きつかれたままなんです。ちょっと離れて欲しいかな~と2人の肩を押すが、あはは。びくともしない。

 するとギルとミルクの瞳がどんよりと暗くなる。嫌な予感…。


 「だってリディアおねえちゃん、逃げるから…」

 「また会えなくなったら嫌だもん」


 うっと顔が引き攣る。や、やはりそう来たか。

 4年前にギルとミルクに再会したとき、なぜか私の正体はばれてしまった。ミルクはともかくギルは確信していた。私に出会えて大喜びしていた。

 そんな彼らをしびれ薬で行動不能にさせて、師匠の空間転移で逃走した非情な女はこの私です。


 過去の自分の罪が、現在の自分を苦しめる。いや、だって、あのときは本編開始を防ぐのに必死で……ごめんね!?


 「意味のわからないことを言わないでくださいっ。おねえさまが困っています!見てわからないのですか!」


 エミリアはそんなこと知らないから必死に私からギルとミルクを引き剥がそうとする。

 エミリア、優しい子。だけどギルはともかくミルクは超怪力だから、全く動かなくて困ってる。


 「つーかお前、いつ冬の国の王子と知り合ったんだよ」

 「まあ孤児院で、2人と同じように?」

 「神父様、他国の王子受け入れすぎだろ」

 「それな」


 とか言ってたら、めっちゃ寒くなってきた。私、エミリア、ジークは勘づくよね。ギルとミルクは怪訝な顔して寒さに震えている。大丈夫、すぐに原因がわかるから。


 「へぇ、リディア。早速浮気?」


 ほらね。私の肩に指が食い込むくらい掴んでくる彼が犯人ですよ。

 振り返れば思った通り、銀髪王子が目の笑っていない笑顔で私達を見ていたよ。元祖目が笑っていない笑顔は、やはり格が違うね。超怖いぞ☆


 「そして寒い!ソラ、ヘルプ!!」

 

 アルトの隣で私を睨むソラに助けを求めれば、べーっと舌を出された。私の天使が反抗期なんですけど!?


 「2年前、大人しくおれと一緒に春の国に帰ってればよかったんだよ。自業自得だ、ばーか」

 「ぐふぅっ」


 違った。2年前に再会したときに、ソラを置いて師匠の元へ帰ったことを怒っていた。


 「う、うわーん。だって仕方がないじゃない!みんなが死なない未来の為だったんだからぁ。ねぇ、アルト!」

 「そうだね、もう離さないよ。これからはずっと一緒だからね」

 「くっそぉ、話が通じねー!」


 アルトはにこにこ笑顔で私の脇の下に手を入れると、軽々と私を持ち上げ、ギルとミルクから私を引き剥がした。で、ぎゅっと幸せそうに私を抱きしめる。

 つーか怪力ミルクを引き剥がすとか、アルトどんだけ馬鹿力なんだよ。

 ちなみにソラはため息をついている。

 そんな私達を見つめる4つの視線。


 「お久しぶりですわ」

 「お前ら変わんねーな」

 「…春の国の王子」

 「王子様、人脈広すぎよ~!」

 

 エミリアは毛を逆立てて、ジークは呆れた顔で、ギルはアルトを睨んで、ミルクはツインテールをくるくる回しながら慌てていた。


 最初に動いたのはギルだった。

 うるうると瞳を潤ませて、私に手を伸ばす。


 「リディアおねえちゃん、おれ寂しい。ぎゅってして?」

 「は?近づかないで。なに抱きつこうとしてるの?この子、僕のだから触らないで」


 そんなギルの手をアルトが不愉快そうに振り払う。

 2人の間に紫電が走った。


 「リディアお姉ちゃんは誰のものでもありませんよね~?」

 「君、言葉理解できないの?僕のだって言ってるよね?」


 アルトの友達大好きは健在だ。おかげで私は今、極寒。

 おねえちゃん大好きな弟と、友達独占したい系男の戦いは熾烈だ。気温的な意味で。

 両方に寂しい思いをさせてきただけあって、私は2人の目に見えない争いを止めることが出来ない。

 ヘルプ…と眼で訴える私をソラが呆れた顔で見る。

 

 「お前はどうしてまた厄介そうなやつに好かれてんだよ」

 「いだだ。そんなことより、私を助けて!?」


 どういうわけか、私は今背後からアルトに抱きしめられ、右手をギルに、左手をミルクに引っ張られていた。

 悪化しちゃったよ。ミルクまで参戦しちゃったよ。体がちぎれちゃいそうなんだよ!?ただでさえ寒いのにっ!


 「…なにをしている」

 「供給ありがとうございます(リディア、お久しぶりです)」

 「ちょ、ちょうどいいところにっ。2人とも助けてぇ~!」


 そこに現われたのはリカとアリス!

 まさに天からの救いに私は号泣である。


 ってスルーしそうになったけど、現実と心の声が反対になってるぞ、アリスー!



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