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2.自称神、怒りの沸点低すぎる


//////////☆


 てなわけで、仲間に見捨てられた哀れな天才美少女ヒロインは校門に向かって歩いていた。

 桜並木が美しい大通りの中央をヒロインらしく堂々と…歩いているわけではなく。こそこそと木の陰に隠れるように歩いていた。気分はさながら忍者だ。おいそこ!盗人とか言うな!


 …いや、だってさ。ここで主要キャラにあったら、ちょっとまずくない?

 「いつ君」と似て非なる世界とはいえ(この主張を何が何でも貫き通す!)、ゲームでいうところの本編がスタートしてしまったのだ。主要キャラに出会って強制力が働いて、攻略対象ヒロインに惚れました!悪役に落ちました!とかになったら大変だ。


 だから私はみんなと遭遇しないように、こそこそと隠れながら歩いていた。

 通学中の生徒達から怪訝な顔をされても、距離を取られても、先生を呼びに行かれても、私は折れない。みんなが死なない未来の為に、自ら進んで不審者の汚名を被る私は本当に自己犠牲の塊だ。


 「…リディア」


 それなのに見つかってしまった。泣いていい?

 背後から聞こえたのは無表情を彷彿とさせるテノールの声。おそるおそる振り返れば…


 「リ、リカー!?」


 そこには桃色髪の超絶美青年がいました、えぇ。ウェーブがかった髪がおしゃれですね。身長もかなり伸びて、相変わらずの無表情だけど女子が発狂するくらい格好いい~。

 とか言っている場合じゃない。リディアちゃん、冷や汗だらだらだ。


 「チッ」

 「しかも舌打ちされたー!?それが久しぶりに再会した友人に対する態度か!?」


 だがしかし、条件反射でキレてから気づいた。

 ここは他人のフリをするべきだったのでは…?


 魔法使い見習い時代、誰にも正体を見破られなかった(一部を除く)私の飛び抜けた演技力。騙される側が馬鹿だった感も否めないが、当時のリカも私をリディアだと認識していなかった。

 これは、いける。誤魔化せる。「…リディア」とか言われた気もするけど。えぇい、そんなの私の聞き間違いだっ。やるっきゃない!


 「久しぶり、リカ!私、ヒメだよ☆」

 「リディア、ふざけるな」

 「……。」

 

 きゅるんきゅるんの美少女笑顔を披露したが、リカの眼は冷たかった。アルトの氷点下攻撃並に冷たかった。こんなリカの顔、初めて見た。なんでそんなに機嫌悪いの!?


 「行くぞ」


 そしてリカは不機嫌な顔のまま私の手を掴み、校門を背に歩き始めてしまった。

 おいおい、急展開についていけないんですけど!?


 ていうかリカってば、やっぱり私のことをリディアだと認識してるよね。え、なんでバレた?急に頭よくなっちゃった?つーか再会したのに、リディア久しぶり~とかないんだな。まあリカはそういうこと言うキャラではないけど。


 「とまあ、現実逃避はここまでにして。どこに向かってるの!?」

 「ここを出る」


 今もなお歩き続け、みるみると学園が遠のいていく現在。質問したらさも当たり前のように回答された。はいはい、わかってましたよ。ここから脱出するのね…なんだってぇ!?

 もうさっきから私、一人で百面相しているんですけど。


 「え、待って。出られるの!?やったー!でもどうやって?」

 「飛び降りろ」

 「いや、死ぬわ!?」


 無表情になに言ってんだ、こいつ。

 本編開始前に死ぬ…じゃなかった、もう本編開始してるわけだから、早速死ぬわが正解だな、うん。とか冷静に解説している暇はない。


 いつのまにか私達はアリスと出会った崖に到着していた。そんな恐ろしい場所で、リカが私の背中を押す。

 おいおい、こいつ冗談とかじゃなくマジで私を突き落とすつもりだぜ。まさか攻略対象に殺されようとはね!


 「って私が大人しく殺されるとでも思ったかー!」


 落とされてなるものかと、私は必死にリカの腕に巻き付く。

 一方のリカは不可解そうに眉を顰めた。


 「なにを言ってる?殺すつもりはない」


 その言葉に口をあんぐりと開けてしまう。

 そっちこそ、なにを言ってるー!?


 「その手はなんだ!?現在進行形で私を殺そうとしているくせにー!それともなんだ、無自覚か!?強制力が狂って私を殺そうとしてるのか!?」

 「お前を殺す理由がない」

 「じゃあどうして私を突き落とそうとしてるのよー!?」

 「…埒があかないな」


 仕方がないとリカが私を横抱きにする。

 うーん、待ってリカ君。どうして私を抱っこしたの?リディアちゃん、嫌な予感しかしないぞ?

 まさかまさかと思っていたら、リカが崖から飛び降りた。つまりリカに抱えられている私も落下だー!


 「ぎゃー!無理心中バッドエンドだ!そこまでして私を殺したいか!?」

 「お前を生かすことしか考えてない」

 「なんだそれー!?」

 

 いつぞやの紐なしバンジージャンプぶりの恐怖落下である。景色が上へ上へと流れていくね。風圧がすごくて息が苦しいよ、ハハハ。全力でリカに抱きついた。

 首に手を回して、絶対に離してなるものかとしがみつく!


 「プフッ」

 「いや、この状況でよく笑えるな!?」


 苛立ちと驚きが半々。

 私は勢いよくリカを睨んだ。


 「ぐはぁっ」

 「…?」


 そして吐血した。

 い、今更だけど、成長したリカはすごく男前で、そんな笑顔を至近距離で見てドキドキしない人間はいないわけで…と思ったが、違うな。このドキドキは落下の恐怖による心拍数の上昇だな!?


 「兎にも角にも、私はまだ死にたくないんだよぉー!?」


 耳元で叫ぶなとリカに顔を顰められつつ、私は天に向かって叫んだ。


 そんな私の訴えが天に通じたのか、


 「え?」

 「は?」


 気がつけば、私達は先程までいた崖の上に座り込んでいた。

 リカが崖の上であぐらをかき、私はその膝の上に座っている。

 私もそうだけど、リカも唖然とする。

 互いに顔を見合わせて、リカは眉間に皺を寄せ、私の頬に手を伸ばし…


 「いひゃいんれすへと!?」

 「…現実か。どういうことだ?」


 私の頬で現実確認しました、ええ。許すまじ案件です、この野郎。

 こっちだって頬を抓ってやる!…躱すなァ!


 「まさか初日から学園の防犯魔法が発動するとは思いもしませんでした。驚きを禁じ得ませんね」


 何度も私はリカに手を伸ばすが、むかつくリカは無表情に躱し続ける。

 そんな私達の背後で聞こえたのは、全く聞き覚えのない麗しい男性の声。

 ったく、もう少しでリカの頬をつねれそうだったのに。邪魔するんじゃないわよ!


 リカはともかく私は半ギレ状態で振り返り、その人物を見て瞠目した。


 「15分の遅れが生じています。速やかに登校しなさい」


 美しい笑顔を私達に向けるのは、金髪金眼の中性的な美青年だった。

 が、私が彼の美貌に驚いたのは一瞬のこと。


 この人、上から目線すぎない?

 美貌なんかより私は彼の態度の方が気になった。

 制服を着ているからこの人も学園の生徒だよね。私とそれほど年齢が離れているようにも見えない。それなのに態度…というか雰囲気がかなり尊大だ。

 言ってることも意味不明だし。15分の遅れってなんだ?まだ余裕で登校時間だけど。


 「神も暇ではないのです。我の手をあまり煩わせないでください」


 しかもこの人、自分を神様だと思っているようだ。

 こう見えて私、神様と知り合いだから、ちょっと反応に困る。引き攣り笑いを浮かべてしまうよ。

 …関わったらいけないタイプの人間だな。


 「ははは、どうも~。リカ行こ…」

 「防犯魔法とはどういうことだ?」


 それなのにリカは眉間に皺を寄せて、美青年をにらむ。

 おいおい、リカ君。なにしてくれてんだい? 私は慌ててリカの耳元に顔を近づける。


 「ダメでしょ、リカ!この人たぶん頭おかしいから、早く逃げようっ」

 「今世の光の巫女は想像以上に不敬ですね…」

 「しかも地獄耳だ!」


 頬に青筋を立てながら私に笑いかける自称神に震え上がってしまう。

 我が右手に宿りし神の力を食らえ!とか言われたらどうしよう。どんな反応をすればいいんだろう。やられたフリするのが優しさ?それとも無視した方がいい?うーんと悩んでいたら、自称神の怒りの色が濃くなった気がした。もしかして心読みました!?


 「…わかった。食らえ!って言われたら一緒にやられた~ってしてね、リカ」

 「本当に神の一撃を食らわせますよ」

 「ワ、ワー。タスケテー。…ほら、リカも!」

 「さっさと質問に答えろ」

 「馬鹿、リカ!刺激するようなこと言っちゃダメでしょ!」

 「不敬者しかいませんね…」


 こらー!とリカを揺さぶる私に自称神が手をかざした。そう来ると思ったよ!

 私はやられた~と体を仰け反り、そんな私をリカが守るように抱きしめる。


 そのときにはすでに私達は上空にいた。

 

 「え?」

 「チッ」


 上下左右が青い空、地に足つかない状況、再びである。

 空の青さにつられて私の顔も真っ青だっ。


 「ど、どういうこと~!?」

 「……。」


 重力に従い落下する中、私は慌ててリカに抱きついて、リカもさらに強い力で私を抱きしめる。


 だけど…瞬きをしたときには、また私達は崖の上にいた。

 もうなにがなんだか、わけがわからない。


 「防衛魔法とはなにか。これが質問に対する回答です」

 「は?え?」

 「……。」


 目を白黒させる私と、苛立ちを隠さず眉間に皺を寄せるリカ。そんな私達を自称神はにこやかに見下ろしていた。


 「この島には特殊な結界が張られています。万が一生徒が転落すれば、再びこの島に転送する仕組みになっているのです」


 そして…と自称神は私に笑いかける。


 「我を怒らせると、また落としますからね」

 「ひぇ~」


 落下してもこの島に戻ってこられることはわかったが、あんな恐怖体験は2度が限界だ。3度目は勘弁である。


 「…死ね」


 それなのにリカは、まぁた自称神を睨みつける。もうリディアちゃん、泣いちゃうよ!?


 「馬鹿、リカ!自称神を刺激したらダメでしょ!」

 「もう一度、落とされたいようですね」

 「うわわ。この人、怒りの沸点低すぎない!?死ねって言われただけでしょ!」

 「こうも虚仮にされては、自称神といえども黙ってはいられませんので」

 「もしかして自称神の方に怒ってる!?」


 自称神もとい美青年さんの笑顔(目の笑っていない)を見るに、落下まで秒読みだ。

 慌ててリカの腕を掴み、学園に向かって駆け出した。


 「そ、それじゃあ私達もう行くので、さようなら~」

 「……。」


 美青年さんはなぜか私達がまだ登校していないことにご立腹の様子だった。

 それじゃあご希望通りに登校すれば満足するでしょ。

 私はそう思ったのだが…


 「リカルド・アトラステヌは残りなさい」

 「え!」

 「…いいだろう」

 「えぇー!?」


 美青年さんは笑顔でリカを名指しし、リカも当然のようにそれを受け入れた。

 ごくりと生唾を呑み込む。私、頭良いから。この後何が起るか、わかっちゃったのだ。


 これは…決闘か告白の2択だ。


 「いだっ。ぶへぇゃぁ~!?」


 そしたらリカに額を小突かれ、頭上から大量の水をぶっかけられた。うべぺ、しょっぱい。これ海水!?


 「なにするのよ!」

 「お前の考えることは手に取るようにわかる。気色の悪い想像をするな」

 「ふふふ、少しは頭が冷えましたか?」

 「海水は自称神の仕業か、このヤロー!」

 「はい、服は乾かして差し上げました。早く我の視界から消えなさい」

 「やられっぱなしでさよならできるわけないだろー!」

 「空の旅を楽しみつつ海水に浸からせてあげてもいいのですよ?」

 「さようならー!」


 私は回れ右をして、即行でその場から逃走した。

 尻尾を巻いて逃げる?いいえ、違います。これは逃げるが勝ちってやつです。私は大局を見極めることができる人間なので、えぇ。


 「あとで覚えてろ、自称神!」

 「…で?なぜおれの手を掴んでいる」

 「む?」

 

 リカが無表情に私を見下ろしながら併走していた。

 なぜかというと、私がリカの腕を掴んで走っているからだ。


 「いろんな意味でやばいやつとリカを2人きりにさせられるわけがないじゃない!」


 なにを当たり前のことを聞いてくるのやら。

 私は胸を張って答えた。


 先程の2人の反応からして決闘も告白も違うのだろう。そうなってくると私は2人がなにをするのか見当もつかない。安全の保証が出来ないわけだから、リカを連れて逃げるよね!

 

 「友達を守るのは当然のことよ!」

 「プフッ」


 そしたら笑われた。

 リカって昔から失礼だよね。リディアちゃん、青筋ピキピキなんですけど。


 「リカ…うぎゃあっ」

 「……。」


 それでもってリカが急に立ち止まるから、つんのめって転びそうになった。

 ほんとなんなの。再会してからこいつに振り回されてばかりなんだけど。

 どうせ小馬鹿にするように笑いながら私を見下ろしてるんだろ!こっちだって、あんたの考えてることくらいわかるんだからな!

 顔を上げて睨んで、後悔した。


 「っくぅ。フェロモン~!」


 だってそこには、成長して色気が倍増した麗しい笑顔があったのだ。

 ほんとなんなの、こいつ!

 私はその場で地団駄を踏んだ。それを見たリカがさらに笑う。は、腹立つ~。

 だけど私の苛立ちは次の言葉で霧散した。


 「おれは戻る」

 「え!」


 咄嗟にリカの手を掴んでいた。

 だって…心配だ。あの美青年は私的な理由で私とリカを突き落とした。自分のことを神だと思っているし、プライドも高そう。なにを考えているのかわからない。だからなにをしてくるかわからない。

 リカはこれでも王子様だから、私よりも対人スキルは高いと思う。でもそれを理由に、リカをやばいやつと2人きりにはさせたくない。


 「お前が不安に思うようなことは起らない」

 「ぬわわ」


 だけど聞き分けのない子供をあやすように、大きな手が私の頭を撫でる。

 …子供の頃とは違い、その手は私の頭を覆えるほど大きかった。

 リカは相変わらず無表情だ。でもその瞳は、とても穏やかで……私はリカを掴んでいた手をそっと離した。


 「大丈夫だ。すぐに追いかける。お前は先に行け」

 

 そうしてリカは私に背を向けて来た道を戻ってしまった。

 残された私はその背中を見つめるのみ。

 リカを一人で行かせてしまってよかったのか。不安な気持ちになる。呼び止めてしまいそうになる。


 ……でも、こんなの私らしくないから~っ、

 ぱんっと頬を叩いて自分に活を入れる。

 

 「ちゃんと無事に戻ってきなさいよねー!」


 リカに向かって怒声を浴びせて(声援を送って)、私も彼に背を向けた。

 やっぱり少し心配だけど、リカは大丈夫だと言ったのだ。私はそれを信じる。

 それにリカが言うと不思議と本当に大丈夫だと思えるから、うん。私は元気に登校してやるわよ!


 鼻息荒く、私は学園に向かって一歩を踏み出した。



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