1.始まってしまった本編
チュンチュン
かわいらしい小鳥の囀りにつられて意識が浮上する。
うっすらと目を開ければ、カーテンの隙間からやさしい光が差し込んでいた。
なぜだろう、カーテンの色とか窓の位置がいつもと違う気がする。が、まあいいかとあくびをしながら起き上がる。
この外の明るさから察するに、もうそろそろエルが私をたたき起こしにくる。起きろ、豚!ってさ。ケッ。
今日こそ二度寝せずに、ほら起きてるでしょ~ってどや顔してやるんだから。
ふふんっと胸を張り、カーテンを開け、私は絶叫した。
「なんで目の前に学園があるわけー!?」
はーい、皆さんおはようございます。天才美少女ヒロインリディアだよ☆
リディア、窓の外を見てびっくり。なんと!青一色な快晴の空の下、遠すぎず近すぎずの距離に外観ほぼ城の学園があったのです!はわわ、あの学園すっごく見覚えがある~!一体全体どういうこと☆
とまあ、現実逃避はここまでにして。
「え、待って待って。は?学園?」
そうなんです。なぜか私の目の前には、「いつ君」本編で登場する学園がありました。
眠気なんて一気に吹っ飛ぶよね!?
もう頭大混乱。寝起きドッキリをされる人の気持ちがわかっちゃったよ、ハハハ。
「って笑い事じゃないから!?落ち着け、私」
どういうことだと辺りを見渡せば、私が現在いるこのお部屋なかなかに広かった。
今まさに仁王立ちしてるベッドはキングサイズで、落ち着いた内装の部屋には他にもソファ、タンス、キッチン、冷蔵庫に食卓テーブルまである。即生活可能ですね、ええ。
「…ん?」
そんな中、ふと枕元にあったうさぎの抱き枕が目に入った。
モチモチとしたうさぎの顔面の抱き枕。
それを見ていくうちに、徐々に記憶が思い起こされていき……
「ア、アルトの馬鹿ぁあああああ!!」
はい、リディアちゃん完璧思い出しました。
そう、攻略対象がヒロインを迎えに来る運命の日。なぜかアルトが私を迎えに来たのだ。私はアルトにレフェリー呼ぶ並の抱きしめ攻撃を受け、気絶した。
そうして目覚めたとき、私は学園の女子寮のベッドで寝ていた。で、そんな私をアルトがじっと見ていた。このうさぎの抱き枕を肘置きにして、私の隣に寝そべってじぃっと見ていたのだ。
絶叫した。マジで怖かった。だが、私としてはその後の方が怖かった。
「リディア、今までどこにいたの。本当に心配したんだよ」
「アルト、久しぶりに会えてうれしいよ。えぇっと家に帰して?」
「でも大丈夫。これからはずっと一緒だよ。逃げようだなんて思わないでね」
「ハハハ~、今春だよね。めっちゃ寒いんですけど?ていうか家に帰して」
「ああもうこんな時間。僕、行かなきゃ」
「行っちゃう前に私を家に帰そうか~」
「僕もリディアと離れるのは寂しいよ。でもクソ王の命令だから仕方がないんだ。いい子で待っててね」
話が通じない。
あれ?私の目の前にいるアルトはホログラム的なやつ?これは録音されたもので私の問いかけには一切答えませんってやつ?って思うくらいアルト私の話ガン無視だからね!?で、そのままやつは部屋から出て行った。馬鹿野郎!
まあ馬鹿野郎とは思いつつ、せっかくの好機を逃がすわけにはいかない。私はすぐさま部屋からの脱出を試みた。
だが!
内鍵を開けてもなぜか扉が開かなくて、窓もなぜだか開かなくて。
脱出方法を考えるのが面倒くさくなって二度寝した。
そうして今に至るわけだ。
ちなみに部屋のカレンダーを見て気づいたのだが、今日は始業式だった。本編が始まる日だよ。たまげちゃうね!
「てなわけで、逃げよう」
このまま部屋にいれば、アルトが戻ってきて始業式に参加させられ、本編スタート、リディア発狂の未来は確実だ。逃げるなら今しかない。
なぜか私は学園の制服に着替えていて、普段着がどこを探しても見当たらないが、ええ。着替えている時間はないので諦める。アルト君、まさか私を着替えさせた?友達大好きなのはわかるけど怒るよ?とか思ったりしないでもないけど、とりあえず後回しだ。
昨日は開かなかった扉だが、今なら開く気がする!
ドアノブを回し押せば、天は私に味方したようだ。扉はすんなりと開いた。
「ふはは!さよなら、本編!さよなら、みんな!私は学園を去る!」
そう思っていた時期もありました。
「なぜだー!?」
私は足元に広がる青い空を見て絶叫していた。
あっれれー?おかしいなぁ。私は誰にもバレないように部屋を出て、学園とは正反対の方向に歩いていたのだよ、ワトソラ君。そうしたらすぐに行き止まりに…というか崖に遭遇したのだ。
なんか既視感あるなと思いつつ崖の下を覗けば、眼下に広がるのは青い空。顔を上げても青い空。おまけにもう一度下を見れば、やっぱり青い空。
「ここは天空神殿です☆ってか!?」
「え、リディア。あなたどうしてここに」
そんなときに背後で聞こえた声は、まさに天からの救い。
クールビューティー、女の子発狂間違いなしの黒髪宝塚男役なこの声は!
「アリス~!!」
「大人しくリカ様の護衛をしていればよかった」
額に手を当て項垂れる友に私は抱きついた。
余談だが、アリスは学園の制服(男物)を着ていた。ひゅー、似合ってるね!麗し~い!
//////////☆
「なぜ学園が島ごと浮いているの?」
「え、これ私が質問される側!?知らないよ!」
現在、人目の少ない森の中に移動した私たち。早速アリスに質問しようとしたら、逆に質問されていた。なんでやねん!
ていうかやっぱり空に浮いてたんだ。こんなのほぼ天空神殿じゃん。リディアちゃん、遠い目をしちゃうよ。
「私が世俗と遮断されている間に、随分と教育方針・教育環境が変化したみたいだね」
「そんなわけないでしょう」
「わー。アリスのツッコミ懐かしいなぁ」
「私もリディアのボケが懐かしいわ」
ほのぼのと2人で笑う。
「って懐かしんでる暇はないんだよー!アリスぅ、どうにかして私を地上に降ろして~。地位と権力を振りかざして助けて~!このままじゃ本編始まっちゃうよ~!」
未来の猫型ロボットならぬ、由緒正しき騎士の家系のアリスちゃんに泣きつく。が、現実は無情だ。
「無理ね」
一刀両断。3文字で断られました。
「アリスもんの馬鹿ぁ~」
「さすがに上空は手の施しようがないわ」
アリスは申し訳なさそうに眉を下げて私を見る。が、私が気づいてないとでも思ったか!
この宝塚男役、わずかに口角が上がっていた。頬はほんのりと桃色で、るんるんらんらんな効果音が聞こえる。
「乙女ゲームを間近で見れるかも。やったーとか思ってるんでしょ!」
「というか「いつ君」本編の学園は地上にあったわよね。なぜ空に浮いているのかしら?」
「話をそらすなー!まあ私も疑問には思ったけどー!」
そうなんです。本来であれば、本編の学園は地上にあるのだ。だから私は崖の下が青空で吃驚仰天したわけでして、ええ。
だいぶ話違くない?顔が引き攣るよね~。
ここは大人しく師匠が迎えに来てくれるのを待つべきか。だがしかし、ここは天空神殿にそっくりだ。お迎えの準備に時間がかかりそう。
どうしたものかと肩を下げたとき、リディアちゃん唐突に閃きました。
「…そうだ、天空神殿だよ!」
「それさっきも言ってたわね。すごく魅力的な言葉。詳しく聞かせて」
はいはい、アリスは「ヒメと不思議な世界」シリーズの作者さんだからね、おもしろそうなネタに瞳を輝かせていますね。
もちろん、話してさしあげますとも! (新作売り出す前に中身は検めるけどね)
だって私、「天空神殿」ってワードで、とっても素晴らしいことに気づきましたから。
だけどその前に、まず大前提から説明しましょう。
「アリス、実は私「いつ君」のヒロインだけど、この世界のヒロインでもあったんだよ。世界は私を中心に回っていたわけ」
「…頭大丈夫?いえ、あなたの頭は元からおかしかったわね」
「私の頭は今も昔も正常だわ!」
てなわけで、私はアリスにざっと天空神殿で知った衝撃事実を語った。
私は光の巫女であること。光の巫女は別名この世界のヒロインと呼ばれていて、私が運命通りに生きることで世界の平和が保たれること。
ついでにその運命は生まれる前に神様に見せられるけど、私は6歳以前の記憶がないから運命わかんないんだよね~アハハってことを話した。
「つまりここは乙女ゲーム「いつ君」とは似て非なる世界である可能性が高いの!現に学園が空に浮いてるっていう違いがあるでしょ。だからゲームみたいな展開にはならない!………気がする」
私は胸を張って解説した…けど、最後だけはちょっと声が小さくなった。
いや、うん。今回ばかりは楽観思考すぎるって、自分でもわかっているのでね。
10歳の時、天空神殿でこの話聞いたときは、「いつ君」に似てる世界だからこそ、本編開始したら死ぬ可能性大だなって思いましたから。なので本編開始を防ぐべく努力してきました。
でもさ、開始しちゃったんだよ。
私は頑張ったよ。幻覚とかヒメとか、誤魔化しまくった。ギルと再会したときはヒメのコスプレして社会的に死んだし、ソラには雷落とされた。とにかく頑張った。
なのに本編開始しちゃったの!
手のひら返して、僅かな希望に縋り付きたくなる気持ちがわかるでしょ!?
だから私は乙女ゲーム「いつ君」の世界に転生したわけじゃありません。ここは似て非なる世界なので、「いつ君」本編みたいな死亡フラグまみれの学園生活は送りません、はいこれ決定。
どうだ!とアリスを見れば、彼女はなにやら考え込むように顎に手を当てていた。
そうして少しの間を置いて、一言。
「色黒バイオレンス、真面目生意気、童顔年上優男…いいわね」
「真剣に聞けー!ネタは忘れろー!」
アリスの瞳はキラッキラに輝いていましたとさ、おしまい。
「って終われるかー!」
「はいはい、わかったから肩を揺さぶらないでちょうだい。話はきちんと聞いていたわ。あなたが相変わらず鈍感だということはわかったから」
「それならいいけどぉとでも言うと思ったか!そういう話じゃないよね!?つーか私の話のなにを聞いてその結論に至った!?」
「それじゃあ冗談はここまでにして…似て非なる世界、ね。あり得ない話ではないと思うけれど、それにしては共通点が多くないかしら」
最初から真面目に話してよと思わなくもないが、一応ちゃんと私の話を聞いてくれていたみたいなので許しましょう。
うん、許すよ。許すけどさぁ…アリスの言わんとしていることがわかるので、リディアちゃんの美少女フェイスは引き攣ります。
「き、共通点ねぇ、まあ多いよね~」
孤児院時代なんて乙女ゲームの「いつ君」とほぼ同じ展開だった。もちろん相違点はあったが、それは私が悪役さよなら計画とかで物語をかき回したから変化しただけかもしれないし。
「だから学園生活も、本編と同じような展開になる気がするわ。その天空神殿で、降神術を会得したのよね?」
「うっ…」
アリスの冷静な問いかけに、涙を浮かべて首肯する。
そうなんですよぉ。本編で闇の組織と戦うときに必要な降神術、使えるんです。今も蜂蜜色の石が7つついたブレスレットが私の左手首で揺れています。
「…ねぇ、リディア。あなた本編のストーリーをどれくらい覚えてる?」
「ほ、ほぼ覚えていませ~ん」
アリスの質問に私は半泣きで答える。
私が覚えている内容は、物語の流れ程度で詳細はほとんどわからない。
本編では、ヒロインと攻略対象が闇の組織と戦う。
簡単に説明すると、学園生活の中で謎の事件(黒幕:闇の組織)が勃発して、それを攻略対象と共に解決していく。光の魔法で闇を浄化したり、降神術やら神器を使用してね。(私の神器は体に埋没中の拡声器ですね、ええ。太陽神様殺)
謎解き・戦闘アクションがメインで、恋愛はそっと添えてって感じ。乙女ゲーム要素どこいった。
イベントは最終決戦を含めて合計8回あり、
闇の力でパワーアップした悪役(ルートに入った攻略対象担当の悪役1人)と闇の幹部(3人)と闇に囚われた一般人枠(3人)の、総勢7名+ラスボス(=エリック)と戦う。
そのラスボス戦を終え、闇の組織の正体を暴き、ヒロインを貶めた悪役を断罪して、オールクリアでエンディングというのが流れだ。
ここまでは一応、覚えてるのよ。
ただそのイベントの内容だったり、闇の組織の幹部含めた正体がさぁ、靄がかかったみたいに思い出せないのだ。
ソラルートで花子ちゃんの世界に行く~とか、中途バッドエンドとか最終的な結末は覚えてるんだけど、そこに至るまでの肝心な内容が思い出せない。
「…実は、私も思い出せないの」
「え!アリスも!?」
「しかも今までそのことをあまり疑問に思っていなくて。不思議よね…」
「うーん、確かに。私もどうせ本編開始しないし、まあいっかって思ってたかも」
2人で首を傾げる。
「まあでも仮に乙女ゲームと同じように本編が開始しても大丈夫だよ!」
「さっきとは打って変わって前向きね」
「ふっふーん。まあね!」
目を瞬くアリスに私はどや顔を披露する。
だってよく考えたら本編開始しても、それほど問題はなかったのだ。
私は孤児院時代に悪役さよなら計画を成功させ、さらに攻略対象の誰からも好意を向けられていない。アルトが迎えに来たのがその証拠だ。…いや、ほんとなんでアルトが迎えにきた?って感じだけど。
「つまり!本編が開始しても、私は悪役から攻撃されない。攻略対象と恋愛関係にないからイベントも発生しない。心穏やかな学園生活を送れるってわけ!」
なーんだ、心配して損した。
すっごく心が軽くなったよ。
強制力的なものが働かない限りは、私は安全安心なわけだ。…お願いだから働かないでね、強制力。
しかしアリスは同情の眼差しで私を見る。
「本編で敵対する闇の組織は7人中6人が孤児院時代と無関係な人間だから、フラグを折ったとしても学園で事件は起きるんじゃないかしら。…そもそも攻略対象から好意向けられているし」
「うっ…」
最後だけは大きな風が吹いて聞き取れなかったが、前半はしっかり聞き取れましたよ、ええ。全くもってその通りですね、ハハハ。リディアちゃん、泣いていいっすか?
「わ、わかった。わかりました!本編通りに闇の組織とのバトルが始まったら、腹をくくって戦うわよ!」
もうなるように、なれだ!
学園で事件が勃発するということは、アルトたちみんなが事件に巻き込まれる可能性があるということだ。そんなの私、黙ってなんかいられない。
闇の組織に対抗できる降神術も神器も持ってんだから、ヒロインらしく闇を浄化してみんなを守ってみせるよ!ふんっだ。もう開き直りました。
そもそも学園が空に浮いている以上、脱出方法はないしね!
でもリディアちゃん、穏やかな学園生活が送れる可能性を捨ててはいませんからね。それに賭けてますからね!似て非なる世界であれ!
「てなわけで、アリス!闇の組織と戦うときは力貸してよね!」
「それはもちろんだけど、ここはゲーム通りに攻略対象の誰かに力を借りるべきじゃないかしら」
アリスよ、私あんたの目が輝いているの気づいてるからね。。
乙女ゲーム間近で見たいなぁって心の声、聞こえてるからね~。
「絶対借りない!強制力働いて悪役組が本当の悪役になっちゃったらどうするの!リカに力借りたら、アリス強制的に悪役になっちゃうかもしれないよ!」
「……くっ。命は、さすがに惜しいわ」
そんな苦渋の決断みたいな顔する?どんだけ見たかったのよ。
「そういえば、誰があなたを迎えに来たの?」
「あれ?言ってなかったっけ。アルトだよ」
「あぁ、なるほど」
アリスはポーカーフェイスで頷くのみだった。
え。普通、驚くよね?
「悪役が迎えに来たんだよ?どうしてそんな冷静なの!?」
「想定の範囲内だもの」
「想定の範囲内!?」
リディアちゃんは全く想定の範囲内じゃありませんでしたけど!?
え、私がおかしいの?アリスに首をかしげて見せるが、にこりと微笑まれた。おいおい、不覚にも照れてしまったぜ。アリスはちょっと会わないうちに成長してさらに麗しくなった、中世的な美貌に男も女メロメロだ。
「…あれ?何考えてたか忘れた。ハッ。さてはこれが狙いで私に微笑んだな!」
「どうでもいいけど、闇の組織と戦う時はアルト様に力を借りたらいいんじゃない?」
「え、アルト?まあ友達想いだから力は貸してくれるだろうけど。ソラとの貴重な時間を奪いやがって~とかなんとか文句言いそうだからなぁ」
力を借りるとしても1,2回かな~?
むむむ~と唸れば、アリスが肩を下げてため息をつく。
なんだその呆れてものが言えないって目は。
「まあそれがリディアよね。学園生活でその考えが変わることを祈っているわ」
「よくわからないけど馬鹿にされてることはわかったよ、この野郎」
「とりあえず、私はもう行くわ。また後で話しましょう」
さようなら。アリスは軽やかな足取りでこの場を去る。
「……リディア、手を離して頂戴」
もちろん逃がすわけないよね~。
リディアちゃん、きゅるきゅる上目遣いでアリスに腕に巻き付くよ。
「ねーねーアリス?」
「嫌な予感しかしないわ」
「一緒に学校行こ?」
「お断りします」
「……。」
「……。」
アリスの麗しい笑みと、私の愛らしい笑みがぶつかり合う。
私がアリスに巻き付く力を強めたのは言わずもがな。
「ちょっとなに逃げようとしてんのよ!私と一緒に校門をくぐれー!」
「嫌よ。門は一番好感度が高かった攻略対象と一緒にくぐるって決まっているの。私はそれをこっそり眺めたいの」
「やっぱりそれが目的か!やだやだ、絶対にやだ~!本編通りに物事進むかもしれないのに、そんなハイリスクなことしたくない~!」
「この世界は、「いつ君」と似て非なる世界でしょ?大丈夫よ」
「本編と同じような展開になる気がするわ。キリッって言ったくせにー!」
「それならアルト様と一緒に門をくぐりなさい」
「ぬぅあに馬鹿なこと言ってんのよ!アルトはソラと一緒にくぐりたいに決まってるじゃん!私がお願いしても、絶対鼻で笑って断るから!」
「アルト様が不憫でならないわ……あ、リカ様」
「え!?」
抱きつく私とそんな私を引き剥がそうとするアリスの攻防戦。
そんな中で、アリスがハッとした様子で後ろを振り返ったから、私もつられて振り返ってしまった。が、そこにリカはおらず。あるのは生い茂る木々たち。
おいおい、全くびびらせてくれるぜ。
「ちょっとアリスぅ…」
頬を膨らませ横を見れば、そこに宝塚男役はいなかった。
私が巻き付いていたはずの腕は、木の丸太に変わっていた。
忍法変わり身の術☆私の脳内でアリスがウインクをしましたとさ、ちゃんちゃん。
「アリスの馬鹿ぁーーーー!」




