エピローグ4
リカルド・アトラステヌ、クラウスの2名の足止めがこの世界におけるルルの最期の任務であった。
職務を全うしたルルは彼らの前から姿を消し、天界へと帰還した……
「はずだったんですけどねぇ~」
ルルは天界ではなく、懐かしい孤児院に来ていた。
自ら望んでここに来たわけではない。何者かに転移先を変更させられたのだ。
「誰ですかぁ。ルル、天界に帰らないとワレワレうるさい上司に怒られるんですけどぉ」
でてきてくださーい。とルルが苛立ちに魔力を練り始めたとき、その人物はルルの前に姿を現した。
「やっほー。やっほー。おっひさ~。ルルってば元気そうじゃね~」
「わぁ。今やっと気づきましたぁ。太陽神様ってばぁ、人間界ではその姿で行動していたんですねぇ~」
「こっちのほうがぁ、威厳感じなーい?」
「うふふ。感じなーい」
イェーイとルルとハイタッチをしたのは、●▲●だった。
ルルはため息を吐きながら知己の中である●▲●を見る。
「クソ上司、激おこですよぉ。太陽神が職務を放棄して逃げたーって。被害被るのは下っ端のルルなんですから、今すぐ天界に帰ってくださーい」
「えぇー。カイ君、怒なのぅ?こわ~い。ていうかぁ、わし、職務放り出したつもりはないのに~」
腰に手を当てルルが怒れば、●▲●――太陽神は自分の体を抱きしめ怯える。
太陽神とは6000年の付き合いになるが、このふざけた態度は何年たっても苛立つ。ルルは同族嫌悪するタイプなのだ。
にこにこ笑顔で太陽神を蹴る。
「思いっきり職務放棄してるじゃないですかぁ。2回目の世界の容認に、運命の改変の黙認、特に10年前死ぬはずではなかったセイラ・ノルディーの運命を修正しなかった件!で、うちの上司が太陽神様をぶん殴ろうと部屋に押し入ったら、そこはもぬけの殻ぁ~。そのせいでルルが下界に降りて、リディアちゃんを直接見張ることになったんですからねぇ!」
太陽神はルルの背に閻魔大王を見た。
これはかなり怒っているぞ☆
「で、でもぉ。ルルも人間界での生活それなりに楽しんでたからいいじゃーん。恋もしてたしぃ」
太陽神はリディアを見習って、話を逸らすの術を使った。
「恋ねぇ。そうですよ、ルルの恋愛観に文句ばかりつけるクソ上司、いつもルルの恋を妨害してくるんですよ!」
「やばー。わしってばふる話題を間違えちゃった~」
逆効果だった。
「今回ルルがこの世界の任務から外されたのだって、私がこの世界の人間に恋をしたからなんですよぉ!「ルル、君は恋愛禁止だと何度言えばわかるのですか。君の性癖は危険です。被害を受けるのは周りの者達、特に君の尻拭いをしなければいけない我です。これは嫌がらせではありません」だ、そうですよぉ」
「うわー。長文がわしを殴ってくるぅ。ていうかカイ君、ほんと素直じゃないんだからぁ。ルルのことが心配なんだって言えばいいのにぃ」
そうしたらピュアピュアな幼馴染系恋愛劇場を楽しめるのにぃと頬を膨らませる太陽神をルルは笑顔で殴る。右ストレートはきれいに決まった。
「うふふ。やめてください。その言い方じゃあ、まるでクソ上司がルルに気があるみたいじゃないですか。鳥肌です。吐きそうです。死んでください」
「こっわー!ルルさん、マジ怒じゃーん!」
「先程のカイ君素直じゃないんだからから始まる発言、一言一句違えずうちの上司に報告してもいいですかぁ?」
「殺害予告されたぁん!わし、カイ君に殺されちゃうぅ」
太陽神は手で顔を覆いブルブル身を震わせる。が、「茶番はここまでにしましょう」とルルが手を叩いたところで、動きを止めた。
「で、太陽神様、結局ご用件はなんですかぁ?ルルをここに呼び出したのは、呑気に語らうためではないですよねぇ」
「やれやれ、ルルには敵わんのぉ」
顔を覆っていた手がとれた太陽神を見てルルは目を細める。思った通りだった。
この顔になったときの太陽神様って、自然災害化するんですよねー。ルルは内心でため息を吐く。まあようするに周囲を巻き込み大暴れするということだ。否、もうしているのか。
太陽神は右側の口角だけをあげ楽しそうに笑っていた。
「わしはのぉ、バドエン厨のライぴょんと違ってハッピーエンドが好きなんじゃよ」
「知ってますよぉ。ルルは恋愛に関してはバッドエンド派ですけどぉ、物語はハッピーエンドの方が好きですぅ」
ルルの茶色の瞳も楽しそうに弧を描く。
2人は似た者同士だ。それはもうルルの上司であり太陽神の同僚であり2人の幼馴染である海洋神がストレスで月に1度自宅を半壊させるほどに、似た者同士だ。だからルルは太陽神が言わんとしていることがわかっていた。
「ルル、わしと手を組め。そのほうがきっと面白いぞ☆」
「うふふ~。太陽神様ぁ、ルルになにをしてほしいんですかぁ?」
「わしは今とある人物と賭けをしていてのぉ。表立っては動けないのじゃ。できることと言えば、リディアに力を貸すことくらい。だからルルにはわしの手足となって動いてもらいたい」
「へ~。なるほどぉ」
姿を消した太陽神を上司が見つけ出すことができなかった理由が分かった。
原因はおそらく太陽神が言う賭け。あれだけ近くにいたのに、ルルは今日彼に話しかけられて初めて●▲●が太陽神であると気づいたのだ。強力な認識阻害の魔法がかけられていたに違いない。この分ではクソ上司も太陽神を見つけ出すことは不可能だろう。
「わしだってぇ。ただの趣味でこの世界の運命が変えられていく様を見ていたわけじゃないんじゃぞ~」
「……。」
嘘である。
太陽神はリディアのリアル乙女ゲーム転生物語を見たいがために、10年前禁術を利用してリディアの6歳以前の記憶を消したし前世の記憶の中に「いつ君」の存在をねじ込ませた。
ルルは太陽神が趣味や娯楽のためなら悪びれもなく周りの者を巻き込む超自己中心的な性格であることを知っているので無視して話を進める。
「…誰とどんな賭けをしているのか気になりますけど、聞かない方が身のためってやつですよねぇ」
「あれ、無視?ひどくなぁい?」
「いいですよ。手を組みましょう。このまま天界に帰るよりも太陽神様の手足となって働いた方が楽しそうですしぃ。その代わりクソ上司には太陽神様の方から話を通しておいてくださいね。ルル、一応あれの部下なので」
「えぇー。カイ君、絶対に怒るじゃーん。まあ1年以内に決着つくし、そのときに報告すればいいかのぉ」
「うふふ。太陽神様、うちのクソ上司は事後報告が一番嫌いですよぉ?」
「ルル、安心しろ。1年後にわしがカイ君に怒られることは確定している。今更説教の量が増えたところで怖くない」
「きゃー。ドヤ顔の太陽神様、全然かっこよくな~い」
こうして太陽神とルルは手を組んだ。
「そういえばずっと気になってたんじゃが、ルルってばどうしてそんなにボロボロなのじゃ?」
ボサボサの栗色の髪と白い羽、ところどころ破れた白いワンピース。それらを指摘されたルルは少し顔をしかめる。
普段身だしなみに気を遣っているルルとしてはこの姿はあまり人には見られたくなかった。だからすぐに天界の自室に戻ろうと思ったのに。ルルは頬を膨らませる。
「別に。リカちゃんとクラウス君の妨害をしたときに、ちょっと反撃されただけですよ」
「そうかそうか。カイ君に返り討ちにあったことを知られるよりかは、人間2人にしてやられたということにしたほうがルルのプライド的には傷つかなかったというわけじゃな」
「……。」
1秒後、しみじみとうなずく太陽神の尻にタイキックが決まったことは言わずもがな。




