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エピローグ3

ルルちゃんのクソ上司さんが登場します。

3人称です。


 天に浮かぶ小さな孤島。その地に住まう者たちの魔力を糧に浮遊する島には、つい先日4王国の王たちの指示によって建設された学園があった。

 白を基調としたゴシック様式の壮麗な学園。

 1回目の世界では陸にあったはずの学園がなぜ天にあるのか。

 そうなるように仕向けた者は学園の生徒会室にいた。


 ステンドグラスに囲まれたドーム状の天井。太陽の光はステンドグラスを介し七色の光となり生徒会室を照らす。生徒会室というよりも大聖堂や美術館のような部屋にいたのは学生服に身を包む2人の男であった。


 「この世界は、神、精霊、人の3種族によってつくられた。神は人と精霊に命を与え、人と精霊は神に祈りを与え、人と精霊は互いに仕事を与えた、これによりこの世界は誕生した」

 「カ、カイ君。ずいぶん懐かしいお話をしてるね…」


 生徒会長という札が立てかけられた席に座るのは、金髪金眼の中性的な顔立ちの青年だ。

 そんな彼の背後に立つのは左目に眼帯をつけた白髪の少年。落ち着かないのか不安そうに手遊びをしている。


 「はい、そうですね。最近は精霊も人間も神を敬いませんから、すっかり懐かしい話になってしまいました。特に、運命を変えようなどと言う不届き者もいますし」

 「…?カイ君、なにを見て。ああ、1回目の記憶持ちたちか」

 

 青年の視線の先には宙に浮かぶ水の塊があった。

 その水塊に映っているのは、黄緑色の髪と桃色の髪の青年。黄緑髪の青年がこちらを睨み付け、桃髪の青年は無表情ながらも驚きに瞳を丸くさせていた。生意気で愚かな人間たち。ため息がこぼれた。


 「これ以上1回目の世界の記憶を知る者…運命を変えようとするものが増えては困ります。あるべき運命へと修正しなければならないこちらの身にもなっていただきたいですね」

 「だから物理的に黙らせた、と。ルルさんもタイちゃんも、ここらへんは放置してたもんね…」

 「ええ、おかげで1回目の世界を知る者は記憶を思い出していない者も含めて10人です。さすがの我も怒ります」

 「カイ君はいつも怒ってると思うけど……ひぇっ」

 

 にっこりほほえむ青年の机にあった花瓶が割れた。

 

 「なにか言いましたか?」

 「い、いいい言ってないよぅ。あ!うそうそ!1回目の世界の記憶も消去できたらいいんだけどね!神様も過ぎ去ってしまった運命には干渉できないから、ふ、不便だよね!って言った!」


 少年はパーカーのフードをかぶり顔を隠す。怯えているのか体は尋常ではないほどに震えていた。気にする必要はない。よくあることだ。

 少年を無視し青年はにこやかに笑う。


 「全知全能と神は言われていますが、それはあくまで人間たちの尺度の話です。我らとてできないことはあるというのに、きっと彼らはそんなこと思ってもないのでしょうねぇ」


 青年が宙に浮く水塊をつつけば波紋が広がり映像が変わる。

 そこに映ったのはベッドの上で眠る光の巫女と、そんな彼女の頬をつつく春の国の第一王子。当初の運命と少し内容は異なるが、経緯はどうであれ学園に到着したのであればそれでよい。目を瞑ろう。


 次に水塊を突けば、そこに映ったのは4王国の和平調印式。こちらは運命通りだ。

 その後も水塊を突いて、突いて、突いて。映像を見て青年はうなずく。

 しかし最後の映像が砂嵐になったとき、青年はため息を吐いた。


 「…太陽神の居場所は未だにつかめないのですね」

 「タイちゃん、逃げるの上手だから……」

 「そうですね。彼が運命の変革を正すどころか見逃して、あげく仕事を放棄して逃げたせいで我は今この場にいるのですよねぇ。あぁ違いました。我がここにいるのは頭が花畑などこぞの天使のせいでもありましたね」


 己のことをクソ上司だの、大人げないだの、頭でっかちだの好き勝手言ってくれた生意気な部下に対して嫌味を言えば、青年をめがけて天井からたくさんの包丁が降ってきた。魔法である。

 そう来るだろうとは思っていた。口答えしかしない部下はこの場にこそいないが、どこかで今の会話を聞いていたのだろう。青年が指を鳴らせば包丁は消えた。術者の元へ戻ったのだ。


 「まったく。可愛げのない女…」


 肩を下げてため息をつく青年を見て、少年はにまにまと楽しそうに笑う。

 先に言うが、この少年は人の地雷を踏むのがとても得意だ。


 「とか言って~、カイ君が下界に降りたのは運命を正すためでもあるけど、一番の理由は闇深いこの世界にルルさんを長居させたくなかったからでしょ~。ルルさんを守るために下界に降りてきたのに。カイ君は素直じゃないなぁ」

 「…ええ、そうですね。()()()()()闇深くなったこの世界を彼女に任せていては一生収束しないと判断した為、我自らが下界に降り立ちました」

 「すみません、許してください」


 青年に笑顔でにらまれ、少年はパーカーのフードをさらに深くかぶった。こうなることは予想できたであろうになぜ感情のままに言葉を発してしまったのやら。


 「じゃ、じゃあ、ぼくはもう帰るね。ここここんな恐ろしい世界、もう1秒たりとも居たくはないから…」


 ぼくの仕事は終わった。さあ部屋に引きこもろう。言いながら彼は天界へと帰るべく魔力を練り始めた。


 少年は都合が悪くなるとすぐに逃げる。

 そのことを知っている青年は菩薩のような笑顔で帰ろうとする少年の腕を掴んだ。

 ぴしりと少年の体が硬直する。長い付き合いだからわかる。青年のこの笑顔を見た時点で、数秒後の自分が泣く姿が想像できてしまった。


 「ライ、君はなにを言っているのですか?」

 「すみません、許してください」

 「君も我と共にこの世界の運命を正すのですよ」


 思った通りだった。少年は年甲斐もなく号泣した。


 「カイくぅん。やめてぇえええ。ぼく、ぼぼぼぼくにはできないよぅ。だ、だってここには…ぎゃーっ」


 ガタガタ震えていた少年は頭から海水をかけられてさらに震えた。

 顔面は海水と涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

 そんな彼を見る青年は笑顔ではあるがその瞳はとても冷たい。


 「何度も言わせないでください。我はこの世界と無関係です。ですが世話の焼ける同僚2人の尻拭いをするために、わざわざ下界に降りたのですよ。なぜ世話の焼ける同僚1の君を天界に帰してあげなくてはならないのですか?」

 「カ、カイ君。ひひひひどいよぉ。ぼくが人間恐怖症だって、しし知ってるくせにぃ!」

 「ふふふ。知りません。それは自業自得です。それから今後我のことは生徒会長と呼ぶように。わかりましたね、副会長?」

 「うわぁ~ん。カイ君の鬼ぃ!」

 


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