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102.セイラ・ノルディー(7)




 「うふふ~。かわいいでちゅね~。ママでちゅよ~」

 「うー。あー」


 季節は7月。

 アルトが生まれてから早いことで3か月が経った。

 

 「アルト~。かわいいね~」

 「う~」


 もちもちの桃色ほっぺに頬を摺り寄せればアルトはじたばたと暴れる。嫌なのかもしれない。でも嫌がる姿もかわいいからやめない。


 「うぁぁああああんんん」

 「ア、アルトっ!ごめんなさい。嫌だったのよね~」


 泣き出してしまったアルトをあやしながらも私は幸せを感じていた。


 4月。アルトは元気な産声を上げて生まれてきた。

 自分と同じ銀色の髪、私の指をぎゅっと握りしめて離さない小さな手に、涙が零れ落ちた。絶対にこの子を幸せにする。そう決めた。


 「そうだわ、アルト!あなたにこれをあげる!」


 私は身につけていた守り石のネックレスを外し、泣き止んだアルトの首にかけた。


 「うー?」

 「ぶかぶかね。かわいい~」


 赤ん坊の首にはネックレスは大きすぎて笑ってしまう。アルトは守り石を興味深そうに観察して満足したのか今度はべしべし叩きまくる。かわいい。


 「この石があなたを守ってくれるからね~…ちょ、アルト食べちゃダメ!ぺっして!」

 「うぁー」


 アルトがいつのまにやらしゃぶっていた守り石を口から取り出し、ほっと安心したらアルトが泣きだしたので乳をのませ、おしめを変えて寝かしつけ、泣いたらあやして1日が終わる。

 大変だけれど私はこの生活に幸せを感じていた。

 

 「ただいま。さあセイラ、愛する夫におかえりのキスはないのか?」

 「ないわ。帰れ」


 ええ、お前さえ帰ってこなければ、ほんとうに幸せだわ。


 アルトがやっと寝たので1階で一息ついていたら、これだ。アルトと一緒に眠っておけばよかった。

 玄関口でキスとやらを待っていた春の王だけど、私がいつまでたっても来ないのを諦めたのかクツクツ笑いながら私の元へとやってきた。

 

 「つれないなぁ、セイラ。俺はこんなにもお前を愛しているというのに」

 「私はお前が嫌いよ。大嫌い。離せ」

 「クハハッ。俺が離すと思うか?」

 「チッ」


 べたべたと了承もなく背中から抱きしめてくる春の王から逃れようともがくが、男の力に女の力が敵うわけもなく。私は舌打ちをする。

 

 「すごい鳥肌だな。子作りしたときは抱きしめてもなんともなかったのに」

 「お前が私を愛したせいだ」

 「ほう?」


 後ろから私の顔を覗き込む春の王の瞳には、じりじりと私の身を焦がすような熱がこもっていた。エリアスと同じ、気持ち悪い、おぞましい瞳。

 

 アルトの出産は助産婦と春の王、2名の立ち合いの元で行われた。

 緊張感と想像を絶する痛みで出産中の記憶はあまりないのだが、助産婦が言うには出産中に私は一度命を落としかけたらしい。

 生まれたばかりのアルトを抱いていた私に体当たりする勢いで春の王が抱き付いてきたのはそういうわけかと、その話を聞いた私は納得をした。納得したと同時に嫌な予感がした。

 そうして私の予感は的中する。

 アルトを出産した翌日から、春の王がエリアスと同じ瞳で、エリアスと同じように、私に愛を囁くようになったのだ。

 

 「私を愛することはないと、お前は言ったのに」

 「人の心は変わるものだ」

 「黙れ。裏切者」


 後頭部にキスをおとしてくる春の王の顔を殴る。が、私の拳はお前の顔に当たることはなく。むしろ捕まりぐるりと体を回されて、気付けば私は春の王の胸の中にいた。

 離せ、離せともがいても逃れることはできない。むしろ離さないとばかりに強く抱きしめられる。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 

 「っこんなことに、なんの意味がある!?私は絶対にお前らを、お前を好きにはならない。むしろどんどん嫌いになっていく。以前よりも関係を悪化させて…、お前はなにがしたい?」

 

 これはエリアスにもずっと聞きたかったことだった。

 私はお前が嫌い。お前も私が嫌い。でもお前と過ごす時間は嫌いではなかった。エリアスも。春の王も。一緒にいて苦は感じなかった。

 だけどお前たちが私に向ける感情が変わった途端、すべてが変わってしまう。色を孕んだ熱のこもった瞳に私の体はすくみあがる。怖い。気持ち悪い。理解できない。


 「なるほど。俺の気持ちには応えられないから、元の関係に戻りましょう。そのほうがお互いのためです、お前はそう言うのか?」


 静かなテノールの声にうなずく。


 「クハハッ。お前は若いな。若くて、純粋で、残酷だ」

 

 いつものようにお前は笑っていたから。つい顔をあげて、春の王の顔を見てしまって、私は後悔した。

 ああ。ダメだ。やはり私には理解できない。

 私に縋るような苦しそうなお前のその顔を見ても、私の中には嫌悪感しか生まれない。


 「なにがしたい?とお前は俺に聞いたな。俺はお前の心が欲しい」


 涙がにじむ。

 この男も私を縛り付ける。

 私は誰のものにもなりたくない。何者にも囚われたくない。


 「私はお前が大嫌いだ」

 「そうか。だが構わない。俺はお前が好きだ」


 クツクツ笑う春の王がだんだんと近づいてくる。どれだけ暴れても逃げることはできない。唇になにかが触れようとして…いやだっ。恐怖に目を瞑ったときだった。



 「うぁああああん!!」



 アルトが私を救ってくれた。

 動きを止めた春の王の顔を急いで押し返し元の位置に戻す。


 「……いいところだったというのに。ガキめ、殺してしまおうか」

 「アルトを殺せば、私がお前を殺すわ。というかアルトが泣いてるのよ!離せ!」


 2階で寝ているアルトの声が1階にまで聞こえてくるなんて、なにかあったに違いない。


 「仕方がない。俺は城に戻る。まだ仕事が残っているのでな。なにかあれば呼べ。…ああ、先ほどの続きは明日の夜にでも」

 「さようなら。過労で死ね」

 「クハハハッ」


 春の王が出て行ったのを確認したところで、私は急いで階段を上がりアルトが眠る自室の扉を開けた。

 

 「アルトぉ。待たせてごめんね~。ママでちゅ…よ……」


 そして動けなくなった。


 生暖かい風が頬を撫でる。部屋の窓が全開だからだ。窓を開けたのは誰?ええ、そうね。わかっているわ。

 窓の真ん前で私のかわいいアルトを、泣き疲れて寝てしまったアルトを抱いているお前が、犯人ね。


 「こんばんは、セイラ」

 「…エリアス」

 







 活動報告にかなり短いのですが、102話のおまけみたいなものを書きました。よろしければ、見てください(〃´ω`〃)

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