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96.セイラ・ノルディー(2)

誤字報告ありがとうございます!



 「…使用者の身を亡ぼす7つの装身具?」

 「ええ。これら7つの装身具は闇の化身を呼び起こすために必要とされる闇を貯蔵する、いわば容器のようなものよ」


 少し驚きつつも私は解説をした。

 …実はこの魔導書には魔法がかけられているのだ。それは読み手に恐怖や不安を与える魔法。

 これは禁忌の魔法が記された書物が悪しきものの手に渡ることを防ぐため、遠い昔に知の一族と古の魔法使いたちがかけた強力な魔法だ。

 

 驚いたわ。一般人にはとうてい打ち破ることのできない魔法がかけられているのに。なんでこいつは顔色一つかえないわけ?


 しかし疑問には思うが私もしょせんは7つの子供。

 聞き手が現れたことがうれしくて、疑念も忘れてついつい説明してしまう。


 「ちなみにこの7つの装身具を身につけて闇を回収するものを闇の使者と呼ぶわ」

 「この魔導書にはそんなこと書かれていないが?」

 「書いていなくても記憶を見ればわかるわ」


 エリアスが疑わし気な目で見てくるため私は魔法を使った。

 私が手を置いていた魔導書のページは菫色に輝き、私の脳内をこの紙に文字を綴った人間のそのときの感情、記憶がかけ巡る。


 「…なるほど、お前が例の知の一族の変人か」


 エリアスは納得したようだ。

 変人、ね。まあ別にどうでもいいわ。


 「そうよ。お前、私に出会えて幸運ね。だって今なら、この魔導書に記されている以上の話を知ることができるんだもの」


 言えば、エリアスは目を瞬いた後でニヤリと笑った。


 「ならば遠慮なくお前を利用させてもらう。闇の化身とはなんだ?」

 「破壊と絶望を司る神と融合した者を指す言葉とされているわ」


 破壊と絶望を司る神。その言葉を聞いた途端、エリアスの眉間にしわがよる。

 無理もない。この神が生きとし生けるものの営みを破壊し絶望に落とすという話は有名だ。だから人間

や精霊からこの神は忌み嫌われていて、禁忌の魔法に利用された。


 「恐ろしいな。今すぐにでも闇の装身具を破壊するべきだ」


 自分と同じ虚ろな瞳だったからもしかして、と思ったが。少しだけ落胆する。

 エリアスの思考はふつうの人間のそれと同じだったようだ。


 「かわいそうにね…」

 「なにか言ったか?」

 「いいえ、なにも」


 私がかわいそうと言ったのはエリアスではない。破壊と絶望の神のことだ。


 つくづく哀れな神だと思う。破壊されるからこそ、この世に生きる者達は停滞することはなく、進化し続ける。絶望に落とされたとして、そこから這い上がることができなければ、ただそれまでのこと。

 自身の身に良からぬことが引き起こされたとき、これも運命だったとわかったふうに受け入れるくせに、結局は感情のはけ口を求めてこの神のせいにする、そんな生き物の方が私は恐ろしいと感じる。


 「闇の装身具が今どこにあるか、お前は知っているか?」

 「書物には王位を継ぐものが守っていると書いてあったわ。精霊王様がどこに隠しているんじゃない?」

 「王、だと?」


 エリアスの顔つきが変わった。なんなのよ急に。


 「守る、だと?なぜ王は壊さない」

 「なんでもかんでも私に聞かないでお前も少しは考えなさいよ」

 「お前は知の一族だ。おれの問いに答える義務がある。だから答えろ」

 「はあ?」

 

 お前は何様だと思ったが、言い争っている時間がもったいない。今後会って話すことはほぼないだろうし生意気な態度には目を瞑ることにした。


 「闇の装身具は破壊されると中に貯め込まれていた闇が放出され、闇の化身の器となる者の体内へと吸収される。7つすべての闇が器の中に吸収されたときに、闇の化身が目覚める。だから壊すわけにはいかないのよ」

 「闇の化身の器とは?」

 「その名の通り、闇の化身へと成り得る生き物のことよ」


 人間、精霊、動植物。器としての条件さえそろえば、種族に関係なく闇の化身の器となるだろう。


 「生き物か。それでは俺も闇の化身の器となり得るのか?」

 「闇の化身の器となる者は生まれながらに闇を纏ったものとされているわ。まあ具体的には呪われて生まれた子や、逆に呪いをかけた側から生まれた子が闇の化身の器となると言われている。お前が祝福されて生まれてきたのなら、闇の化身の器ではないわね」

 「……そうか」


 気付けば外はもう暗くなっていた。


 勉強になった。お前と過ごした時間は楽しかった。また近いうちに会おう。エリアスはそう言うと席を立ち図書館から出て行った。

 よくある社交辞令の一つだ。どうせもう会うことはないだろう。


 でも、と私は思う。

 私もエリアスと過ごした時間は苦ではなかった。だから、

 

 「気が向けばまた会ってあげてもいいわ」


 私は笑った。


 が、


 「エリアス。これはいったいどういうこと?」

 「どうもこうも。セイラ・ノルディーがエリアス王子と婚約した。ただそれだけだろう」

 「私も自分が当事者でなければ、ただそれだけのこととしてお前との再会を喜べたわ」


 翌日の王国主催のお茶会でさっそく私はエリアスと再会したどころか、婚約者に選ばれてしまった。


 会ってもいいかなと私は思ったのであって、婚約者になってもいいかなとは思っていない。というかエリアスが王子とか知らない。あと周りのやつらの視線が痛い。


 あの子誰?とか。なんであんな子が選ばれて、とか。聞こえてるのよ。うるさくてかなわない。これだから精霊は嫌いなの。

 私だってなぜ自分が選ばれてしまったのかわからないのに!


 心の声が顔に出ていたのだろうか。


 「おれの婚約者候補は100人を超えていた」


 虚ろな瞳でエリアスが語り始めた。

 100人超えてたから?だからなに?って感じなんだけど。


 「婚約者候補全員と会って話し、気に入った者を婚約者として選べとおれは王命を受けた。婚約者候補の中で最後に会いに行ったのがお前で、おれはお前を気に入った」


 チラリと背後にいる父を見れば、彼は今にも気絶しそうなくらい真っ青になっていた。

 大方、うちの一族から王家へ婚約者候補を選出することになり、どうせ選ばれないだろうと高を括って私を出したら選ばれてしまったというところだろう。


 「お前が人嫌い、精霊嫌いであることは知っている。有名だからな」

 「付け足しておきなさい。私は書物以外のものすべてが嫌いよ。特に私の意思を無視して勝手に婚約者にするようなやつとかね!」

 「セ、セイラ~」


 後ろで父の涙交じりの声が聞こえたが無視する。エリアスは相変わらず無表情だし、王と王妃は楽しそうに笑っているから一族が罰を受けることはないだろう。

 私としては。こんな無礼者、息子の婚約者として認めぬ!と言ってくれた方が助かったんだけどね。


 「私がお前を好きになることは一生ないわ。それでも私と婚約したいの?」


 私はエリアスをまっすぐに見つめる。


 これで少しでも表情を変えるようであれば、それまでだ。

 おれに惚れさせてやるよ、なんて寒い台詞を吐いてきたら殴るし。悲しそうな顔をするのもダメ。激昂するなんて論外。

 

 でも、もし。私が望む解答ができたなら。

 そのときは……


 「構わない。おれもこの世界が嫌いだ。もちろんお前のことも。おれが欲しいのはお前の知識だけ。だからおれと婚約してくれ」


 表情を変えることなく、虚ろな瞳で己の欲望を口にした男の子。

 彼の瞳には私は映っていない。

 私の口角が上がった。


 「私、お前が嫌いよ。でもお前と過ごした時間は嫌いではなかった。だから婚約してあげる」

 

 こうして私はエリアスの婚約者となった。




セイラさんがエリアスとの婚約を了承した理由には、一族への反抗もあります。

王子の婚約者になろうがなるまいがどうせ自分に自由はない。それなら王家を選んでやるよ!一族の思い通りにはなってやらねー!せっかくの先祖がえりを王家に奪われちゃって、かわいそー。プクク~。って感じですね。セイラさんは永遠の反抗期みたいな性格なので。


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