94.ソラはかわいいなー
「それで?リディアはどうしてここにいるのだ?」
「ハハハ、私はリディアではありません」
「あはは。なにを言っているのだ?この独特の気配、リディア以外にあり得ぬのだ」
「そういえば精霊は感知能力に優れているとか言ってたなー。忘れてたー」
現在私はエリックに尋問されていた。
え?誤解を招くような言葉を選ぶなって?わかりました。では言い方を変えよう。
現在エリックに救出された私は、彼に手を取られるがまま庭へと連れていかれ、お茶会のテーブル席のようなところに座らされ、質問されていた。
「黙秘権を行使します」
「うむ。リディアの要望通り護衛は下がらせた。ここにはおれたちしかいないのだから、気にせず話すとよいのだ」
「ねえエリック君?私の話聞いてた?」
エリックの言う通り、今ここら一帯には護衛もメイドも誰一人としていない。実は木の陰に隠れていますとかもない。
人見知りだから知らない人がいる前ではしゃべれないって言ったら、エリックが「わかったのだ~」の一言で追い払ってしまったのだ。
暗に話したくありませんと伝えたつもりなのだが、エリックは言葉のまんま受け取ってしまったんですね、はい。
「ていうか護衛下げちゃって大丈夫なの?万が一敵に襲われても、私1人じゃ2人を守りきる自信ないわよ」
「馬鹿かお前は。エリック王子は精霊界で2番目に次ぐ結界魔法の使い手だ。護衛はただの飾りみたいなもんで、実際は必要ないんだよ」
つーかお前に守ってもらわなくても自分の身くらい自分で守れる、と呆れ交じりに私の問いに答えたのはソラだ。
彼はあの場から逃走するときにしれっと私についてきたのだよ。恐ろしい子だ。しかもなぜか私をリディアだと確信しているし。
「ソラも護衛さんたちと一緒に下げてくれたらよかったのに」
「ソラ王子はお客様だから、失礼にあたる態度を取ってしまえば外交問題につながるのだ」
「なら仕方ないか~」
「……お前、おれが王子だったってことに驚かないんだな」
「いや知ってたし」
「は!?知ってた!?」
あ、やべ。ついつい口が滑ってしまった。
ここは急いで話を変えよう。
「ところでエリックは知の遺跡を知ってる?私そこに行きたいんだよね」
「「知の遺跡?」」
キレイにハモッた2人に対しうなずく。
太陽神様が言うにはその知の遺跡とやらの地下に神器がねむっているそうなのだ。
実はエリックに無事救出されたときに太陽神様が、『リディア~、さっきは助けられなくてごめんのぉ?同居人の怒りを鎮めるのに手一杯でぇ』とか言いながら話しかけてきましてね。(同居人はおそらく銀髪のきれいなおねーさんのことだ。大変だったね。だが許さん。)
ま、そんな感じで太陽神様は神器の場所とか説明してきたんだけど、いかんせんこっちの虫の居所最悪なわけだから私太陽神様の話ガン無視しちゃったんだよね。つまり話を聞いていなかった。
なのでちょ~っと情報が不足しておりまして、へへへ。でも太陽神様に聞くなんて嫌だから、精霊界に詳しいであろうエリックに聞いたってわけよ。
「知の遺跡…それはかつて知の一族が治めていた図書館跡地のことか?」
「たぶんそれのこと」
うなずけば、エリック笑顔でうなずき返しました。嫌な予感がしてきたぞ~。
「ふむ。いいだろう。案内してやるのだ」
はい、的中。ゲッと顔が引き攣ったのは言わずもがな。
「いや、いいよ。場所だけ教えて」
「なぜなのだ?遠慮することはないのだ」
エリックは不思議そうに首をかしげる。リディアちゃんさらに顔が引き攣るよ~。
いやいや、遠慮とかじゃなくてですね。
「あんた精霊の国の王子様じゃん。精霊王誕生祭に自国の王子がいないのはやばいでしょ」
「問題ないのだ。なにせ俺は王位を継がないからな」
「え?」
「王位を継ぐのは兄様なのだ」
「え、は?」
驚いたのは私だけではない。声には出さないもののソラもポカンと口を開けて、かわいい間抜け面をさらしていた。そんな私たちがおもしろいのかエリックは楽しそうに笑っている。いやいや、笑えないよね。
というか…、エリックにお兄さんなんていたっけ?
ツーっと嫌な汗が背を伝う。
「いつ君」では、そんな描写なかったはずだ。兄なんていなかったはず、なのに。
なぜだろうか。
私の脳裏には誰かの姿が浮かび上がろうとしていて…
「ウァ熱ッ!」
「うおっ。大丈夫か?」
「大丈夫なのだ?」
熱いと飛び上がった私をソラとエリックが心配する。やさしいねー。
なんてことはない。いつものごとく急に守り石が熱くなっただけだ。守り石をつつきながら2人に大丈夫と伝えて、私はあ。と気が付いた。
守り石のせいでまたなにを考えていたか忘れちゃった。
まあ重要なことなら忘れてもまた思い出すだろう。気にしな~い。
「てなわけで、知の遺跡の行き方教えて」
「うむ!一緒に知の遺跡に行くのだ!」
「うん、わかった。もういいや。一緒に行こう!」
「いやよくねーからな!?」
エリックが「探検なのだ~」と歩き出してしまったから、なんかもうどうでもよくなってエリックの後を追おうとしたのだが、それを止めるのがソラだ。よ!さすがツッコミ役!
ふざけてウインクしたらソラに手を掴まれてしまった。動けない。もうソラぁ、ノリが悪いぞぉ。ツンツ~ン。
「頬をつつくな馬鹿リディア!エリック王子、戻ってきてください!!」
「む?2人ともなんで付いて来ないのだ~?」
「いいから戻ってこいッ!」
「エリック~。ソラが激おこだから戻ってきて~」
ソラは頭が痛いとブツブツ言いながら、ギッと私と戻ってきたエリックをにらむ。
「まずエリック王子、あなたはこの国の王位継承者であることを自覚してください。たとえ王位を継がないのだとしても、あなたの御身に傷がつけば消し飛ぶ命があるのですよ」
「安心するのだ。おれは傷一つつかない。ついても治す」
「そういうことを言っているのではなくてっ!!」
わ~、ソラがめっちゃ怒ってる~。
他人事だと笑っていたからだろうか、エリックを説教していたソラが今度は私をにらむ。
「リディア、お前は今すぐおれと一緒に春の国へ帰るぞ」
そして全く予想もしていなかったパンチがきたぞ~!?
「なんで!?」
「なんで、だと!?」
ピキッ
かわいい音だが、これはソラの血管がブチ切れた音だ。
慌てたリディアちゃん、急いでソラから逃げようとするが、いかんせん腕を捕まれているから逃げられないっ。こらエリック!おもしろいのだ~とか言ってないで私を助けろ!?
そうこうしているうちにソラが爆発した。
「おれと兄様を、こっんなにも心配させておいて、な・ん・で・だ・とォ!?」
「うひゃぁい。ソラ、ほっへ、つねらないてー」
「うるせっバーカ!お前は今の今までほんとに、どこでなにをしていたんだよ!おれたち、ほんとうに心配して…くそっ、なのにこんなにピンピンしてて、元気で……よかった」
「ソラ…」
ソラの目からぽろぽろこぼれる涙。
泣いてしまったのが悔しいのか。ソラは服の袖で目元をこする。
私はそれを見て思った。
え、かわゆ。って。
いや今このタイミングで思うべきことではないと私もわかっているよ。でもさ!私、孤児院時代からソラは天使だなぁ、癒しだなぁって思ってたんだよ。今のソラ、長く伸びた髪を後ろで三つ編みしてるんだけど、ほどいたら絶対女の子に見えるって。めちゃかわだよ。アルトが鼻血だすよ。
実はソラが真の「いつ君」のヒロインなのでは?
そんな私の煩悩がばれてしまったようだ。ソラが泣き晴らした顔で私をにらみつける。
「お前、今絶対おれが怒るようなこと思ってるだろ」
「オモッテナイヨ」
「嘘つくな!今のおれは、色でわかるんだよ!色で!」
私は平気で嘘をつく女だ。
だがしかしソラは嘘を見破る男だった。
「ごめんなさいっ!」
煩悩は捨てた。
そ、そうだよね。ソラもアルトも私を心配して探してくれたんだよね。それなのに私はソラから逃げて、悪いことをしたなと思うよ。
まあ思うだけで、わかった~一緒に春の国には行くよ~とはならないけどね。なにせこっちはみんなの死なない未来を背負ってるんで。
「まあとりあえずリディアが無事で本当によかった。これで兄様が世界を亡ぼさずに済む」
「うん?なんだ、そりゃ?」
「よくわからないが、めでたしということなのだな!さあ神器を探しに行くのだ~!」
「そうだね~。ソラもいこ~」
「お前ら、ほんっとに空気読め!?特にリディア!切り替えが早すぎるだろ!」
「すみません、先ほどから私のことをリディアと言っていますが、それ誰ですか?」
「お前のことに決まってんだろ!?なんで今更ごまかせると思った?無理があるだろ!?つーかおれの涙を見た後でよくごまかそうと思えたな!?」
チッ。やはり無理があったか。
こんなに泣かれちゃ一緒に春の国には行きませんとは言いづらいから、人違い作戦でごまかそうとしたのに。さすがツッコミ担当、手強いぜ。
「わかった、神器を見つけたら私がソラと一緒に帰れない理由を話すよ」
「いいだろう。神器を見つけたら一緒に帰るからな」
「2人とも話がかみ合ってないがいいのか?」
「「いい。こういうのはお互い都合のいいように解釈しておくもんなんだよ」」
「息ぴったりなのだ~」
こうして私たち3人は、神器を探すべく知の遺跡へと向かったのであった。
「というかどうしてリディアはここにいるのだ?」
「今なら怒らないから、言え。どうやって入り込んだんだ?」
「ソラ、私を何だと思ってるの?そしてエリック、納得しないで。私不法侵入してないから。賓客として招かれたんだから」
「「賓客?」」
「今世の光の巫女宛てに招待状が届いたの」
「そうか。リディアは光の巫女だったのか。おれは精霊戦隊のオレンジなのだ」
「まあリディアが中二病拗らせてても、兄様は変わらずにお前のこと好きだろうから…安心しろよ」
「憐れむような目で見るな。私は真実しか言ってない。くそっ、2人とも嫌い!」




