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プロローグ(???視点)


 木々の間から差し込むやさしい黄緑の光。

 陽光の中、やさしく佇むのは木造の図書館であった。

 厳粛な風貌の王立図書館と違い、王宮から最も離れた場所に位置するこの図書館に威圧感はない。来るものを拒まず、去る者を追わず。それが知の一族の治める図書館であった。


 そんな図書館の前に一人の少女が立っていた。


 懐かしいという感情が思い起こされたのは、この図書館が俺達が初めて出会った場所だったからなのか。それともお前が、はじめて出会ったときの姿をしているからなのか。

 

 失笑する。


 「全く…嫌な夢だ……」


 そう。これは夢である。

 俺の目の前にあるのは、今はもう亡き者。

 その真実が、俺…否、俺達がいまいるこの世界が夢であることを物語っていた。


 気が付けば、目の前にいた少女は、女性へと姿を変えていた。

 

 陽光は消え、彼女を照らすのは青白い月の光となっていた。

 すべてを飲み込むような暗い闇の中、彼女だけが輝いて見えた。


 届かない。


 目の前にいるのに手を伸ばしてもその女に触れることはできない。

 長い銀色の髪が風に舞い上げられ膨らむ。

 月の光に照らされた淡い紫色の瞳は日中よりも暗く美しく輝いていて、彼女の首元で光る瞳と同じ色の石も同様に輝く。



 「お前なんか大嫌いだ」



 彼女は美しいその顔を歪め言葉を吐き捨てた。


 ――知っている。


 口元がゆるむ。

 彼女が俺を嫌っていることは知っている。

 だが俺は、彼女が大嫌いな俺から逃れることができないということも知っている。


 俺という名の籠から逃げ出すことはできない。空へ羽ばたこうとする翼は折った。人質もいる。

 逃げられない。逃がさない。だから諦めて、俺のものになれ。


 

 こちらをにらんでいた女の体が傾き、その場に崩れ落ちたのは、俺の手がやっと彼女に届く、そう思ったときだった。



 「ッセイラ!?」



 場面は変わっていた。

 月明りは変わらない。だがそこは図書館ではなく、質素な部屋へと変わっていた。彼女を閉じ込めるやさしい檻。

 やっと届いた俺の腕の中で、彼女は眠っていた。永遠の眠りについていた。


 逃げられない。逃がさない。そのはずだったのに、


 お前は俺から逃れた。


 届かなかった。

 最後の最期まで、俺の手はお前に届かない。お前の心を手に入れられない。


 なぜだ。自ら死を選ぶほど、お前は俺のことが嫌いだったのか。逃げたかったのか。

 それとも…




/////////★



 「……嫌な夢を見た」


 日はまだ上がっていない。


 月の光が俺を照らす。

 バルコニーへ出れば、後宮の庭に紫色の薔薇が咲いているのが見えて、失ってしまった愛しい女の姿が脳裏に浮かんだ。


 「お前は俺が嫌いだった」


 嫌な夢を見たせいか、嫌なことまで思い出す。

 銀の髪の赤子を抱きしめる彼女の姿。


 「お前は自分を含めたすべての生き物が、この世界が嫌いだった」


 俺の手を取った彼女。


 「だがお前は変わった」


 意識を失った彼女を抱える俺の前に立ちふさがった金の髪の王。

 

 「あの男がお前を変えたのか?」

 

 彼女を返せと端正な顔を歪める男に抱いた感情は明確な殺意。



 「セイラ、お前にもう一度会いたい」



 だがそれは叶うことのない願いだ。わかっている。わかってはいる。

 だがこの感情を抑えることはできない。


 だから俺は憎いあの男の生きる世界を亡ぼす。

 人間は精霊に使役されるべきである。やつらは皆魔力を提供する家畜に過ぎない。そういった歪んだ思想を持つ者たちを突けば、ことは容易に運んだ。



 「これから起こることはすべてお前のせいだ、セイラ。お前が俺に愛されてしまったが故にお前の愛する世界は、愛する者たちは死にゆく」



 少し焦げた赤い皮の魔導書が俺の手元へと飛んでくる。

 なにをせずともページはめくられていき、そして止まった。

 

 闇の装身具。闇の使者。闇の化身。


 「こうなることは運命だったのだろう。お前と初めて出会い、そしてこの本のこのページを共に見たときから、こうなることは決められていたのだ」







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