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91.犠牲(猫視点)

遅くなりました!長いです!




 「猫、お前はことごとく俺の期待を裏切る」


 クツクツと笑う王の声。

 今回の作戦、失敗ばかりの私に弁明の余地はない。

 

 「申し訳ございません」

 

 王の座で足を組み私を見下ろす春の王。

 ひれ伏し、地に頭をつけることしかできない私を見て、彼はやれやれと首を横に振る。


 「お前の立てた作戦はこうだったか?まず夏の国にて光の巫女と闇の器のガキをおびき寄せるための餌を撒いておく。やつらは(不老不死の薬)につられて冬の国にくる。ブラッド海賊団を使って、光の巫女と闇の器のガキ以外の人間全員を殺し、闇の器のガキに絶望を与える。守る力を欲した闇の器のガキに闇の石を渡し、作戦成功~☆」

 「…申し訳ございません」


 光の巫女たちを冬の国のおびき寄せたところまではうまくいっていたのだ。

 彼女たちが冬の国の前王妃の駒たちと手を組んだことも計画の内だった。彼らを殺しエルト王子には絶望し、力を…闇の石を欲してもらう、その予定だった。まさか冬の国の王子たちとまで手を組むとは思わなかったが、それでも計画に差し障りはなかった。

 

 私の敗因はひとえに彼女たちの力量を見誤っていたこと。


 鳥の大魔法から守るために張っておいた結界を破られるとは思ってもみなかった。

 光の巫女が鳥の魔法を崩壊させるとは思ってみなかった。

 そして鳥が…鳥、もしくは彼のもう一つの人格が、光の巫女を見て動揺するとは思ってもみなかった。


 その翌日に奇襲され、エルト王子がようやく一人になったところを狙えば空から光の巫女が降ってきて、蛇が全く使い物にならなくなって撤退するしか方法が無くなって。

 そう。私は不測の事態に見舞われたのだ。


 しかしこんなものはいい訳でしかない。



 「お前も俺ももとより作戦通りに行くとは思っていなかった。だから俺はお前のためにわざわざ神の力を使って慣れない妨害もしてやったし、鳥も蛇も貸した。作戦通りにいかずとも、力業で乗り切れるように、な」

 「うっ…申し訳ございません。次は、次こそは成功させて見せます」

 

 ズンッと重い魔力が体にのしかかる。

 この魔力ははじめて春の王に出会ったときを思い起こさせる。血の気が引く。手が震える。脂汗が出る。


 が、次の瞬間には重たい魔力はなくなっていた。

 おそるおそる顔をあげれば、春の王は腹を抱えて笑っていた。


 「クハハッ。そんなに怯えるな。お前を殺すつもりはない。かつてセイラの懐刀であったお前を殺せば、俺はあいつに呪い殺されるだろう」

 「…ご、ご温情、ありがとうございます」

 「だがなぁ、猫」


 春の王の笑いがピタリと止まる。

 突き刺さるような冷たいアクアマリンの瞳。



 「次はない」

 「は、はいっ」


 

 短い。だけれどもそれは絶対の言葉であった。

 萎縮する私を見てか、春の王の顔には笑みがもどっていた。


 「お前の計画はいつも詰めが甘い。だから失敗する」

 「申し訳ございません」

 「まあいいだろう。お前が鈍くさい運のない猫であればあるほど、そんなお前に騙されている精霊王が愉快でたまらなくなる。だから気にするな」

 「……はい」

 「精霊王もバカなものだ。俺を手の上で転がしていると思いきや逆に転がされていることに気づかないとは」

 「……。」


 クツクツと笑う春の王はとても楽しそうだ。

 だが私は知っている。

 精霊王の話をするとき、彼の目が全く笑っていないことを。


 掌でクロユリが闇色に輝く。


 8年前。

 あの日から私は精霊王を裏切り続けている。

 すべては強欲な私の願いのために。



//////★



 「俺に嘘は通用しない」



 あの日、あの時の絶望を、私は今も覚えている。


 新たな主となった精霊王の命令に従い私は人間界の春の王の元へと向かった。

 精霊王の言葉通り、セイラ様が死んだと伝えると私はすぐに王の間へと連れていかれた。春の王との面談が許された。


 王の座にいたのは14歳の金の髪の少年だった。

 苛立っているのだろう。重苦しい魔力が彼を取り巻き渦巻いているのがわかった。


 彼が…かつてセイラ様を精霊界から連れ出した人。

 セイラ様のもう一つの宝物の父親。



 「どうせ精霊王から言伝があるのだろう。言え」

 「は、はい」



 私は精霊王の命令通り、春の王に闇の化身の復活に必要な闇を回収してもらえるよう、真実と嘘を混じり合わせて話をした。


 この世界は2回目の世界であること。セイラ様が時の魔法で1回目の世界の記憶を見たこと。闇の化身となったエリック王子を春の王が操り、人間界と精霊界を火の海にしたこと。私がセイラ様の懐刀であり、死の間際セイラ様が私に闇の力を使って精霊界に復讐するように頼んだこと。そのときに春の王を頼るように言われたこと。


 すべて説明し終えたところで、春の王は晴れやかな顔で笑った。


 

 「俺に嘘は通用しない」



 瞬間、私の体は地にひれ伏した。

 どこからともなく現れた紺色の髪の少年が、私の腕をひねりあげそのまま床に押し付けたのだ。


 「…っ!」

 「クハハ。イル、お前は力加減を知らないのか?おれは彼女と話がしたいのに、これでは会話ができないではないか」

 「俺をその名で呼ぶな、クソが。…なにかあってからでは遅いだろう」

 「俺がこれに害される前に動きを封じた、か。俺を守るのに必死だなぁ、アオ」


 目を細める春の王に、アオと呼ばれた少年は苛立たし気に舌打ちをする。


 「気色の悪い勘違いはやめろ。お前に死なれたら困るから動いただけだ」

 「そうかそうか。欲に忠実なお前は嫌いではない。だが少しは俺を信用しろ。俺はそう簡単には殺されない。だからその精霊の拘束を解いてやれ」

 「チッ」

 「っげほ、ごほごほ」


 拘束が解かれ自由に息ができるようになった私は咳き込む。

 腕を見れば捕まれていた跡がくっきりと残っている。

 チラリと横目にさきほどの少年を見れば、彼は悪びれもせず不愉快そうに私を見て顔をゆがませていた。

 嫌な人間だ。


 「アオをにらむとは余裕だな、精霊」

 「っい、いえ。すみません」


 春の王の言葉に我に返り、慌てて頭を下げればクツクツと頭上からは笑う声が聞こえる。


 「まあいい。さきほど言ったように俺に嘘は通用しない。お前の話には嘘と真実が混ざっていた。まあ()で大方目星はついているが。さて精霊、真実をすべて話すかここで死ぬかどちらを選ぶ?」

 「っ!」


 春の王の言う色というのはよくわからない。

 だが嘘と真実が混ざった話というのは真実であった。


 脳裏に浮かんだのはエリック様の笑顔。

 ……私は、まだ死ぬわけにはいかない。



 「すべて。真実を、話します」



 2回目の世界、精霊王の計画、セイラ様の安否、すべて話を終えれば、春の王は疲れ切ったように頬杖をつき息を吐いていた。

 …いや疲れているのではない。これは静かに怒っているのか。


 「まあ予想通りだな。それにしても腹立たしい。セイレが死んだ、か。あのクソガキが…」

 「変な気は起こすなよ」


 警戒するように紺の髪の少年が春の王をにらむ。

 それを見て春の王は目を細めた。


 「ほぅ。変な気とはなんだ?」

 「セイラを奪われたときみたく、精霊界に戦争ふっかけるとかアホなこと言いだすなって言ってんだよ。…彼女はまだ死んでないだろ」

 「……ああ。セイラは死んではいない。だが囚われることを嫌うあいつのことだから時期に自ら死を選ぶことになるだろう。クハハ。忌々しい」

 

 なにがおかしいのか、ひとしきり笑い終えた後で春の王はじっと私を見た。


 「お前、自分がこのまま生きて精霊界へ戻れると思っているのか?」

 「…っ!?」

 「ああすまない。語弊があったな。仮に俺がお前を精霊界へと返してやったとして、計画が俺にばれたと精霊王が知ればお前やお前の守りたい者は、はたして無事だと思うか?」

 「あ……」

  

 鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。

 体が震える。

 エリック様のためにも、今は死ぬわけにはいかない。そのことばかりに頭がいって、後のことを考えていなかった。浅はかな考えだった。


 精霊王の計画を敵にばらして、無事なわけがない。私はどうなってもいい。だけどエリック様はダメだ。彼の身が危ない。

 どうしよう、どうしようどうしよう。


 目に見えて焦りだした私を見て春の王は愉快気に笑い、それを見た紺の髪の少年は「悪趣味だ」と眉を顰める。


 「クハハっ。気にいった。キョロキョロとお前はまるで親とはぐれた子猫だな。言え。お前の望みはなんだ?」

 「私の…望み?」


 唐突な春の王の問いかけ。

 いつの日か、セイラ様が私に言った言葉を思い出した。




 「私は私の願いのためにエリックを巻き込んだから。そう考えると正妃とやっていることは何一つ変わらないのかもしれない」

 「セイラ様…?」

 「セレシア。あんたも自分の願いを優先していいんだからね。自分の願いのせいで、不幸になる人間がいたとしても、気にしなくていい。私が私の願いを優先したように、あんたもあんたの願いを優先しなさい。私はあんたを責めたりはしない」


 陽だまりの中。

 セイラ様は苦しそうに笑って私の頭を乱暴に撫でた。




 私の望み。私の願い……?


 血の気が引いて。

 バクバクと心臓が震えて暴れる。

 いつまでたっても答えることのできない私を見て、春の王はため息交じりに口を開いた。


 「まあお前の望みくらい予想はつく。エリック王子とやらを闇の化身にしたくないのだろう」

 「っ!」


 反射的に顔をあげた私を見て、紺の髪の少年がバカにするように「わかりやす…」とつぶやく。

 一方で春の王はエリックという名を口にするたびにお前の色が桃色になったからな、とまたしても意味の分からないことを言っている。

 

 肌がざわつく。

 春の王の考えが読めなくて焦る。


 「…お前は顔に出やすいな。あとで仮面を用意してやろう。ああ、拗ねるなアオ。お前にも仮面を用意してやる」

 「拗ねてない。殺すぞ」

 「クハハ。さて、精霊。黙りこくって、一国の王の前でいつまでもそうしていられるとは思ってないだろうな」

 「っすみません」


 青ざめる私を見て春の王は愉快そうに笑う。

 そして言った。


 「闇の化身は、はたしてお前の愛しいエリック王子でなければならないのだろうか」


 またしても唐突な問い。

 だけどその言葉は私に希望を与えた。

 エリック王子が闇の化身にならずに済む…?


 「まあ調べてみないことにはわからんが、仮に闇の化身となる者の条件が精霊の王族の血を引く者だとするならば、それに当てはまる者はもう1人いるのではないか?」


 脳裏に浮かんだのは、セイラ様のもう一つの宝。


 「エルト王子…」


 仮定の話だ。まだ、たしかなことはわからない。

 だけどもし、もし彼が闇の化身となればエリック王子は死なずに済む。



 「俺はかつて運命を変えた」



 しかしエリック王子を救う道を選べば、セイラ様が守ろうとしたもの…セイラ様の想いを願いを踏みにじることになる。


 セイラ様は私の恩人だ。

 彼女のおかげで私は幸せを知った。

 エリック王子に出会えた。

 だから彼女を裏切りたくはない。


 でも……


 『私が私の願いを優先したように、あんたもあんたの願いを優先しなさい。私はあんたを責めたりはしない』


 ふと私に呼びかけるように思い起こされたのはセイラ様の言葉。

 私の願いを優先していいの…?ほんとうに?

 涙が零れ落ちる。


 皮肉にもセイラ様が、これからセイラ様を裏切る私の背中を押した。



 「俺の手を取れ」



 私はその手を取った。

 その日から私は精霊王に仕えていると見せかけて、春の国の闇の組織の幹部『猫』として生きることになった。



//////★



 春の王からようやく解放され王の間から出れば、


 「遅い」


 蛇がいた。


 とは言っても今の彼は蛇の仮面は外しており、黒衣をまとったただの騎士だ。紺色の瞳が不愉快そうに私をにらんでくる。

 初めて出会ったときから変わらず彼はふてぶてしくてかわいくない。

 

 「なに?さっきのことについて謝罪するために私を待っていたの?」

 「さっき?」

 「あなたのせいで、エルト王子に闇の石を渡しそびれたついさきほどのことよ。あなたのせいでね」


 蝶の模様の入った黒曜石――闇の石を蛇に見せれば、彼は片方の眉を上げ「ああ」とうなずく。

 

 「ルーを捕える必要のなくなった魔石様か」

 「そうよ」


 私たちがエルト王子を捕まえようと彼を追っていたのは、エリック様に代わって彼を闇の化身とするため。彼が闇の化身となったとき、春の王の意のままに操れるよう魔法をかけるために捕まえようとしていた。


 だけど闇の石のおかげで話が変わった。


 この石は別名、隷属の石とも呼ばれており、主の石と奴隷の石2つで1つとなっている。奴隷の石を身につけているものは、主の石を身につけている者の命令に逆らえない。

 エルト王子を捕えるのではなく、この隷属の石を渡す、もしくは体内に埋め込む。そうすれば主の石を持つ春の王の意のままに彼を操ることができる。捕らえる必要はない。


 わざわざ精霊王から盗んだこの石を今使わずしていつ使うのか。

 私はエルト王子にこの石を渡すべく今回の計画を立てた。


 だがしかし計画は失敗に終わった。


 今私の目の前にいるロリコンの蛇のせいで。

 ギッとにらめば、蛇に鼻で笑われた。


 「残念ながら用があるのはお前ではなく馬鹿王の方だ。そして謝るつもりは一切ない。なぜ手を貸してやった俺がお前に謝らなければならない」

 

 今度はこちらが鼻で笑う番だった。

 手を貸してくれたのは最初だけで、後半は全く使い物にならなかったくせに、手を貸してやったとはよく言えたものだ。


 「あなたの手なんて二度と借りないわ」

 「俺としては一度だって借りてほしくなかった」

 「うるさいわね。当初は鳥に手伝ってもらう予定だったのよ。だけど彼、真冬の海に飛び込んだせいで風邪ひいて今寝込んでいるのよ?さすがにあの状態の鳥は使えないじゃない」


 そうしたら春の王が蛇を使えとこちらによこしてきたのだ。

 あのときは本気で春の王に苛立った。彼は私と蛇がお互いに嫌悪しあっているというのを知っていて、蛇を寄こしてきた。春の王の暇つぶしにされたのだ。

 私が眉間にしわを寄せる一方で、蛇はおえっと手で口元を抑えていた。


 「お前が人を気遣うとは。気持ちが悪いな。吐きそうだ」

 「私もあなたがエルト王子の前でやさしいアオ兄ちゃんを演じていた時は、気持ちが悪くて吐きそうになったわ。あと私が鳥を気遣うのは、彼の母親には恩があるからよ。あなたが風邪をひいても心配しないしむしろ喜ぶわね」

 「あはは。それを聞いて安心したよ。君が俺の心配なんてしたら風邪が悪化しそうだからね」


 やさしいアオ兄ちゃんの顔で蛇は爽やかに笑った。

 彼は春の王が14歳の子供ぶった演技をすると、キモイと眉間にしわを寄せる。…その言葉がそっくりそのまま自分に帰ってきていることにどうして気が付かないのだろうか。

 まあ仕方がないのかもしれない。冬の国の王族は演技をすることが血に刻み込まれているのだろう。

 ああ、気持ち悪い。こんなのに好意を寄せられている光の巫女に同情する。


 「ちなみに鳥が海に飛び込んだのは、光の巫女を助けるためよ」


 光の巫女で思い出し、口から出た言葉。

 それを聞いて蛇の顔が変わった。

 失敗した。絶対に言及される。口なんて滑らせなければよかった。

 

 「リディアが海に落ちたのか?」


 案の定蛇は私に問いかけてきた。

 うんざりとした感情は隠さずにうなずく。


 「ええ。彼女泳げないのね。綺麗に海の底へと沈んでいっていたわ」


 投げやり気味に言えば蛇の眉間にしわが寄る。


 「……待て。聞き流してしまっていたが、鳥がリディアを()()()()()()海に飛び込んだのか?あの人格はリディアのことを知らないはずだ。まさか…」

 「安心しなさい。なぜ彼女を助けたのか本人もわかっていないようだった。だから()はまだ気づいていない。いまだってなぜ自分が風邪をひいているのか疑問に思いながら寝こんでいるでしょうね」

 「そうか…」

 「で?あなたはいったい王に何の用があるの?」

 「…2年後の精霊王誕生祭。それに俺達の王様も行くそうだ」

 「……。」


 皆まで言わずともわかる。

 春の王が精霊王に会いに行くなど言語道断。厄介なことになるにきまっている。

 全力で止めなければならない。


 「手伝いたいところだけど私は無理ね。先ほどお叱りを受けたばかりだし」

 「だろうな」

 「不服だけど頼んだわよ。王に意見を言えるのはあなたぐらいだもの」

 「ああ」





 蛇と別れ、自室へ向かって歩きながら考える。


 今度は失敗しない。

 春の王の言う通り私はいつも詰めが甘い。



 エルト王子が孤児院で黒いヒヨコの姿で暮らしているとき、捕まえるチャンスは何度もあった。だけど私は彼を捕まえなかった。


 赤ん坊のころに母と引き離され、精霊王の元で愛されることなく育てられたエルト王子。そんな彼がやっと手に入れた幸せ。安息の場所。

 10年後には失ってしまうそれを、セイラ様の忘れ形見から奪うことができなくて、私は、あと少しだけあと少しだけと、彼を捕えるのを遅らせてしまった。


 そして光の巫女が運命通りに魔法使いに攫われたあの日。


 エルト王子が黒いヒヨコの姿で彼女を追ったときもそうだ。

 私は彼が魔法使いに返り討ちにあうと思った。ボロボロで動けなくなったところを捕えよう、そう思っていたのに、彼は魔法使いの弟子になってしまった。

 容易に手を出せなくなってしまい、そして見失った。


 そうして年月が流れ、やっと消息を掴み、そして今回のことに及んだけれど、失敗。

 つくづく思う。私はいつも詰めが甘い。


 でも…


 黒曜石を握り締める。

 この石を彼に渡せさえすれば、いい。無理やり体内に埋め込んでしまえばいい。

 ハードルは前よりも下がった。わざわざ彼を捕える必要などない。

 それに、


 「学園生活はじまれば彼女は窮地に立たされる。あなたが彼女のそばにいる限り、あなたは必ず力を求める」


 たとえそれが、闇の力であったとしても。



 脳裏に浮かぶのはセイラ様とエリック様の顔。

 …ごめんなさい、セイラ様。

 私は私の願いのために数多くの人を不幸にするでしょう。恨まれたってかまわない。

 

 私は、エリック様に生きてもらいたいから。

 だから、


 「あなたには犠牲になってもらうわ。エルト王子」




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