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83.まず先にヒメを助けましょうね

長いです。



 ミルクが部屋を私の部屋を出てからきっかり10時間後のことだ。


 ドダバタンッ


 「うわわ!?なに!?」


 疲れて寝ていた私は勢いよく開けられた扉の音に驚きベッドから転げ落ちた。ええ、全身が痛いです。だけど私に自分の体を労わる時間はない。


 「おねーさん~おっはよ~!朗報だよ!もうすぐトラムさんたちと合流できるって~…あれ?なんで全身さすってるの?大丈夫?」


 私の部屋を訪ねたのはミルクだった。


 「だ、大丈夫」

 「えーほんとうに?いまからギルの部屋に行くんだけど、湿布もらってこようか?」

 「自前の薬があるから大丈夫だよ~」


 前触れのないミルクの来訪に心臓が飛び出そうなほどに驚いたものの、エルたちと合流できるのはうれしい。うれしいけれど、それよりも今私の心を占めるのは不安だ。

 だってこの気の抜けた寝起きの状態でいたら、ボロが出てリディアだってばれる可能性大じゃない!?


 「でもだいぶ痛そうな…」

 「ぜっんぜん痛くないよ!それよりも早くギルのところへ行ってあげて~。ばいば~い」


 私を心配そうに見るミルクを安心させるように笑いかけまくり、部屋から追い出すことに成功した私はほっと一息つく。


 「仮面取らずに寝てよかったー」


 そうなのです。寝起きの状態でヒメだってばれなかったのはひとえにヒメの仮面のおかげだろう。万が一に備えてヒメの恰好のままで寝ておいたのですよ。

 まさかミルクがノックもなしに部屋を開けるとは思いもよらなかった。よかった。仮面つけたまま寝て。

 

 「にしても、もうすぐエルたちと合流かぁ」


 う~んと苦笑いを浮かべながら私はベッドにダイブする。

 いや、ね。合流できるのはうれしいよ。うれしいけどさ、いざ合流するとなると、不安な気持ちが出てくるよね~。ハハハ。


 だって私、絶対に戻ってくるからね!私を信じて!とエルとアイに言ったにもかかわらず、2人の元へは戻らずで、今この状況なのだ。アイはともかくエルに怒られる気しかしない。


 頭を抱える私をふかふかのベッドが誘惑する。「リディアちゃん、夢の世界に逃げちゃおうよ~」「まだ体の疲れ取れてないでしょ~」っと。

 ……うん。二度寝しよう。

 私はにっこり笑顔で現実から逃げるべく夢の世界へと旅立った。


 さきに言っておこう、学習しない人間とは私のことを指す。

 数分後、ミルクが「合流したよ~」と私の部屋をドタバタンッと開けて、私は驚いて焦ってひぃひぃ言うことになるのであった。



///////☆



 「ッアハハ!クソッ、こっち見んな馬鹿リディア」

 「はい?」

 

 現在、ミルクのドタバタンッ攻撃と自業自得で死にかけた私は、なぜかエルに爆笑されていた。トラムも笑っている。

 私を迎えに海洋軍船へとやって来たエルとトラムだが、私の顔を見た途端吹き出したのだ。

 怒られると思っていたのに。なぜ?


 「ハハッ。まあダンデライオン号に来たら俺達が爆笑する理由も…ブフッ、わ、わかるぜ。殿下も一緒に来いよ」

 「「……。」」


 保護した私の受け渡しと今後の行動の計画を立てるためにギルとミルクもこの場にはいた。私はギルと顔を見合わせ、お互いに首を傾げる。


 ダンデライオン号に行きたくなくなったよね。ものすごくね。

 だけどこの私がなぞに笑われ続けるこの状況を我慢できるわけがない。

 私たちはトラムたちと一緒にダンデライオン号に向かうべく甲板に出た。

 そして、


 「な…なァ!?」


 ダンデライオン号の帆を見た瞬間私のあごは外れた。否、顎が外れんばかりに驚いた。

 私の隣のギルも目を瞠って驚いている。

 

 「な、なななななんで私の絵が帆に描いてあるのよ!?」


 そう。ヒメのコスプレをした私の似顔絵がダンデライオン号の帆に描かれていたのだ。ちょっとアニメ風な顔になっているが、まさしくあれは私の顔!私のドヤ顔だ!いやぁああ!はずかしい!やめて!?

 私の顔と帆に描かれた私の顔を交互に見てエルとトラムがゲラゲラ笑う。


 「おいコラ、そこの馬鹿野郎2人、なんでこんなことになってんのよ。笑ってないで答えろや!」

 「アハハ!こっち見んな、馬鹿豚!」

 「ハハッ!ヒメさ~ん、怒った顔はやめてドヤ顔してぇ~ん」

 「コルァアア!」


 ちなみにギルは目を見開いたまま帆を見て、「え。あれってリディアじゃ…でもあれがヒメの似顔絵って…え?ヒメはリディアじゃないのに。でも…」と、恐ろしいことを言っている。スルーしましょう。

 ちなみにちなみに、「え!王子様!?どうして!!!」とミルクもツインテールをくるくる回しながら興奮しています。スルーしましょう。

 ちなみにちなみにちなみに、ギルとミルクの探るような視線が痛いです。私に突き刺さっています!グサグサです!スルーしましょうッ!


 「そしてあんたたちいつまで笑っているつもりだ!これはいったいどういうことなの!」


 2人の視線から逃げるように私はエルとトラムに詰め寄る。当然だ。

 しかし、そのときだった。


 「ヒ、ヒメぇええええ!」

 「え?ア…ごはぁっ」


 遠くから涙混ざったよく知る声が聞こえたかと思うとその声はどんどんと近づいていき、その正体に気づいたときにはもう私の顔面が固い胸板に直撃していた。

 現在私は胸板固くて痛いんじゃボケ眼鏡ことアイに痛いくらいに抱きしめられている。ぐるじい。なんだこの状況は。


 「ほーら。ヒメさんが知りたがっていたこうなった原因が次々とやってくるぞ~」

 「…は?」

 

 同情半分楽し気半分のトラムの言葉に、私は嫌な予感しか感じない。

 次々とやってくるぞ、だと?

 抱きしめるアイの腕からなんとか顔だけ逃れて、トラムが指さす方向を見て見ると


 「ひぃっ。天才美少女ヒロイン様ぁああ!」

 「ヒメさぁあああん!」

 「ダンデライオンの守りの女神が帰ってきたぞぉおおお!」

 「「「「うおぉおおおおお」」」」

 

 なんということでしょう。ノットカタギな面々がものすごい勢いで私の元へと走ってくるではありませんか。

 彼らはわーいと手を広げながら走ってきます。怖いですね。現在のアイと同じように私を抱きしめようとしているのかな?全員?全員がそのバカ力でリディアちゃんをぎゅっとするの?リディアちゃん死ぬよ?

 私の顔は青ざめる。


 「ちょ、やばい。逃げる」

 「うわーん。ヒメが無事でよかった。俺…うぅっ。俺……」

 「こらメガネェ!離せぇ!」

 「っおいこのクソ眼鏡!てめぇ、いつのまにリディアに抱き付いてんだよ!」

 「エル君!?私結構前から抱き付かれてますからね!?あんたが爆笑して気づかなかっただけでね!」

 「…待ってください。今、リディアと言いましたか?」

 「この垂れ目チビ!なに余計な面倒ごと増やしちゃってくれてんのよ!ギル、違うから。エルはりだゃぁーって言ったの」

 「あぁ?ふざけんなよ豚リディア!おれはこれから成長期が来るんだよッ!つーかりだゃぁーってなんだよ!?それでもって、こいつからいい加減離れろ眼鏡!」

 「ギル!この人絶対に今リディアって言った!」

 「ちがうよミルク。エルは、りだゃぁーって言ったんだよ~。そうだよね~。ほら見て。エルがうなずいているよ~」

 「うなずいてねーわ」

 

 わいわいと言い合いをする私とエル。そんな私に抱き付くアイ。エルにリディアについて聞こうとするギルとミルク。エルはりだゃぁーって言ったのに!どうして信じてくれないの!?

 そんな私たちを見てトラムはにっこり笑顔で言いました。


 「楽しそうなのはいいけどよ、いい加減あいつらここに到着するぞ?」


 振り向けばすぐ目の前にはダンデライオン号のみんなの笑顔と、今から抱きしめるぜ!な腕×100ほど。

 私の顔がサァーと青ざめたのは言わずもがな。

 

 ぎゃぁあああ、レフェリー助けてぇええええ!

 リディアちゃんはたくさんの腕に抱きしめられて泡を吹いて気絶しましたとさ。めでたしめでたし……なわけがあるかァ!

 


///////☆


 「ヒメさんは俺達の守り神だぜ!」

 「だから帆に絵を描いたんだ!」

 「ひぃっ」

 

 現在私はダンデライオン号の中で頭を抱えていた。

 ええ、みんなが私を見てにかにかに笑うからです。


 みんな操縦室から私が魔法を放って鳥の魔法を崩壊させたのを見ていたそうだ。ヒメは俺達の守りの女神様だァ!と盛り上がったそうです。それでもって私の石像を創るか、私の顔の入れ墨を掘るか、私の顔のついた帆を創るか、どれにしようかという話になって、結果私の似顔絵の帆になったそうだ。

 その3択だったら帆が一番マシだけれど、入れ墨とかじゃなくて本当によかったけども、そもそも私のオブジェ的なやつを創らないという選択肢はなかったのかと問いたい。だって私魔法を崩壊なんてさせていないんだよ。ただ鳥をびっくり驚かせただけなんだよ!?そんなにあがめないで!?


 「ヒメ!帆の絵は俺が描いたのですよ!ヒメにそっくりでしょう!」

 「……。」


 褒めてください、自信作です、撫でてください、俺が提案したんですよと頭を突き出すアイ。

 お前が立案者かい!

 私はアイの頭を私の持てる力の限りで殴った。殴られたアイは笑顔だ。すばらしい笑顔だ。無視しよう。


 「今は我慢するけどあの帆処分してね。で、トラムたちはあのあと大丈夫だったの?」


 疲れ切った顔でトラムに問えば、彼はひーひーお腹を抱えて笑っていながらうなずく。ハハハ。楽しそうですねー。あなたも某神官長を笑い狂わせた笑い薬の餌食にかかりたいようですねー。


 「ちょ、ヒメさんの顔が怖いんですけどぉ?」

 「怖い?ああ、近いうちに笑い殺されることを感じ取っちゃったわけか。で?あのあと大丈夫だったわけ?」

 「笑い殺すっていうのはあとで詳しく聞くとして、まあヒメさんが体を張って俺達を守ってくれたおかげで死者はゼロだぜ」

 「よかったぁ」


 笑い殺す件は置いておき、私はほっと胸をなでおろす。

 が、


 「あーでも、俺は死にかけたな。このガキに殺されそうになった」

 「え゛」

 

 ギギと油さし必須な首を無理矢理曲げて、トラムが指を指さす人物を見れば、ええ思った通りです。トラムが指さすその人は365日ほぼ眉間にしわを寄せて過ごしているエルだった。今日も今日とてすばらしい仏頂面です。

 リディアちゃん頭を抱えますよね。

 笑い薬の件は流しましょう。


 「うちの過保護な兄弟子がほんとご迷惑をおかけしました。エルはいったいなにをしでかしたのでしょうか…」

 「別に俺はなにもやっていない。操縦室に帰ってきたのがこいつだけだったからキレただけだ」

 「そうかそうか、キレただけかぁ~。ヒメさんは海洋軍船に保護されたから大丈夫だって言ってんのに暴れまくって、あやうく死にかけたけど、そうかキレただけだったんだなぁ~。へ~」

 「ヒメ!俺も暴れたかったのですが、我慢してエルを止めたんですよ!褒めてください!」

 

 うわー。全部目に浮かぶわー。

 私の顔が引き攣りまくることといったら、もう、ね。


 なんでもエル君は私が海に落ちたと聞いて癇癪起こしまくって、操縦室半壊させたそうです。ダンデライオン号のみんなの体の傷が増えているなと思ったら、エルを止めるときにできた傷だそうでして。でもみんないい人たちだから、いい訓練になったぜと笑って許してくれました。ありがとうございます。


 私がギルの想い人の話で盛り上がっているとき、ダンデライオン号はなかなか大変な目にあっていたようだ。

 私はアイの頭をなでながら、トラムたちに頭を下げた。


 「トラム、ダンデライオン号のみんな。ほんとご迷惑をおかけしました」

 「ヒメさんの似顔絵の帆を使わせてくれるんなら許してやるぜ!」

 「おのれトラム!これが狙いでこの話をふってきたなァ!使えやこの野郎!」


 私は仕方なくトラムに肖像権を売った。

 エルめ!全部お前のせいだぞ!にらめば逆ににらみかえされた。なんで!?私再会してから理不尽な目に遭ってばかりじゃない!?


 「お前の言うことはもう今後信用しない」


 理不尽ではなかったですね。これに関しては私が悪いですね、ええ。

 リディアちゃんすぐにわかりましたよ。エル君は私が「帰ってくるぜ!」と言ったのに帰ってこなかったと怒っているのだ。

 そこは私も少し悪かったなぁと思っているので、私をにらむエルに文句を言えない。


 「うっ。無事だったからいいじゃない~」

 「それとこれとは話が…はぁ、もういい。お前を叱ろうと思ってたのに、こいつらがバカな絵を描くから笑いすぎてもう怒る気力もない」


 悲しいかな。私はこのアイ作「ダンデライオン号の守りの女神、天才美少女ヒロインヒメ」の絵にまた救われたらしい。複雑な気持ち。だけど感謝はしておこう…と思ったがやめた。

 感謝はしない。だってこの絵のせいでギルとミルクからの視線がものすごく痛いんだもの。2人のことは全力で避けましょう。

 

 「これからどうするの?ギルから聞いたよ。取引場所に行ってもブラッド海賊団のやつらはいなかったんでしょ」

 「ああ。ブラッド海賊団のお得意様はいたけど、肝心のご本人様方はいなかったぜ~」


 現在時刻は正午過ぎ。

 私たちと合流する前にトラムたちは、当初の予定であったブラッド海賊団がお得意様と取引をする現場に行ったのだそうだ。

 だけど結果はさきほどトラムが言った通り。


 海賊団のお得意様はいたけれど、ブラッド海賊団はその場には現れなかった。しかたがないのでトラムたちはお得意さまだけを捕縛した。

 ちなみにお得意様は現在進行形でギルたち海洋軍船の牢屋の中で「こんなはずじゃなかったのにぃ。出してくれ~」と檻をガタガタ揺らしているそうだ。


 「今日の取引は偽の情報だったというわけですね。我々は偽の情報に踊らされ、油断して、そこをブラッド海賊団に突かれた」


 私をずーっとガン見していたギルであったが王子&仕事モードに切り替わったようで、わかりやすい状況説明と共に舌打ちをする。ほっ。


 「ハハッ。ほんと向こうさんの考えることはわかんねーなぁ。奇襲を成功させるためだけに、大事なお得意様を囮として利用するとは。そこまでして俺達を殺しておきたかったのかね~。謎だわ~」

 「……。」


 トラムが笑って、だけどその笑い声もすぐに消えてなくなって、その場はシーンと静まり返る。


 ほんとうに。ブラッド海賊団の目的がさっぱりわからない。

 トラムが言うようにあの場にいた私たちを殺すことが目的だったのだろうか。ギルは王族だ。王子の命を狙う理由はいくらでもあげられる。


 だけど、たぶん違う。思い出してほしい。

 きのうのブラッド海賊団による襲撃の時、私たちの部屋に結界が張られていたのと同様にギルの書斎にも結界が張られていたのだ。

 きのうはあの結界が私たちの動きを封じるためのものだとしか考えられなかった。しかし彼らの狙いが大魔法による私たちの殲滅だと知った今は、違う考え方もできる。

 

 あの結界は大魔法から対象の人物を守るためのものだったのではないか、と。


 猫の仮面の少女は私たちが結界を破ったことではなく、外に出ていることに動揺していた。そこを踏まえて考えると、やはりあの結界は私たちを守るためのものだった可能性が高い。

 でも新たな、それも有力な可能性がでてきたところで結局やつらの狙いがなんなのかはわからない。むしろ余計にわからなくなった。


 ギルと私たちを守って…だから?ギルを守るのはこの国の王子だからだと考えて、じゃあ私たちはなぜ結界を張られ守られていたのか。私…私が光の巫女だからだろうか。仮に私が光の巫女だから守ったのだとして、ならばなぜブラッド海賊団のやつらは私が光の巫女であることを知っているのかという話になる。謎が深まるばかりだ。


 こんがらがって唸る私の頭に誰かの手がのせられた。


 「まあぐるぐる考えたって仕方がねー。あいつらを捕まえれば全部わかることだ」

 「トラム…」

 

 トラムは私の頭をそのままわしゃわしゃとなでる。

 ……トラムはリーダーに向いている。しみじみと思うよ。

 だってトラムの言葉で空気が変わったんだもの。


 ぐるぐる悩んでいた皆の顔がさっぱりとしたものになっている。

 ギルもため息交じりだけど肩の力を抜いて苦笑している。


 「そうですね。彼らを捕まえてすべて吐かせればいいだけのこと。ですがどうやって捕まえましょうか」

 「それが問題なんだよな~。取引は嘘の情報だった今、もう他にブラッド海賊団の手がかりはもってねーからなぁ。殿下はなんか情報持ってるか?」

 「いいえ、持っていません。困りましたね。やつらの居場所がわからないことには捕まえることは不可能です」


 みんな頭を悩ませる中、私一人だけがひらめていていた。

 やばい。私、ほんと天才だ。

 にっこり笑顔で挙手をする。


 「私ブラッド海賊団の場所はわからないけど、そこに一瞬で移動することはできるよ」

 「「「え!?」」」


 この場にいる全員の顔が私に集中する。

 リディアちゃんドヤ顔です。


 みんなは覚えているだろうか?

 そう!私は海に落ちる直前に、ブラッド海賊団の海賊船の中に豚のお守り人形を投げ入れたのだ!つまり瞬間移動が使える!


 「それはほんとうかヒメ!」


 ええ、もちろんですとも。私はうなずく。


 「私は自分の魔力を目印に瞬間移動することができるの。でもって私の魔力を込められた人形がブラッド海賊団の船の中にあるわ。…捨てられてさえいなければ、ある!つまりブラッド海賊団の元に瞬間移動できるの!」

 「最大で何人くらい移動できる?」

 「う、うーん。6人くらい?頑張れば8人いけるかも」

 「じゃあそれでいきましょう」

 「え!?」

 

 ギルが速攻で決めたのでリディアちゃんちょっと戸惑います。


 「提案した私が言うのもなんだけど即決しちゃって大丈夫?もっといい案が出るかもしれないし、それに…出会ったばかりの私のこと信用できなくない?もしかしたら私、ブラッド海賊団の手先で、嘘言ってるかもしれないよ?」


 簡単に人を信用するな。これは私がいつもエルに言われている言葉だ。私の場合は信用して裏切られても助けてくれる兄弟子やら師匠やらがいるから大丈夫だけど、王子であるギルでは話が別だ。

 もちろん私のことは信用してほしいけれど、少し心配だったからギルに言った。

 だけどギルはそんな私を見て、プッと吹き出したのだ。なぜに?


 「リディアにそっくりな馬鹿がブラッド海賊団の仲間になれるわけがないじゃないですか。疑うだけ時間の無駄です」

 「ば、馬鹿?」


 複雑な心境だね、うん。

 信用してくれるのはうれしいけどリディアにそっくりな馬鹿ってさ。ギル君、それってリディアのこと馬鹿だって思ってるってことだよね。え?君、リディアおねえちゃん大好きだよね?大好きだけど、認識は馬鹿なの?泣くよ?

 そんでもってみんな私=馬鹿って言われてるのに、だれも否定してくれないしさ。え?なんなの?号泣するよ!?


 頬に青筋立てまくりの私。

 しかし次の言葉で留飲は下がった。


 「おれたちを命がけで守ってくれたあなたを信用しない人間はここには誰一人としていません」

 「ギル…」


 やさしいギルの琥珀色の瞳が私を映し、やわらかく細められる。


 「ひぃっ」

 「すみません。1人いたようですけど?」

 「……とにかく、冬の国の第一王子である私はあなたを信用しています。だからいいんです。それにあなたはおれの友達でしょう、ヒメ。はい、さあ計画を立てましょう!」


 せっかく友情育まれたいい雰囲気だったのに邪魔しやがってとユーガの耳を引っ張りながら目の笑っていない笑顔を披露すれば、ギルは私から目をそらし話を変えた。

 友達って言えば私が許すと思ってるんでしょ!私はそんな単純な女…だから許すけど!


 「ユーガは許さないよ!」

 「ひぃっ」


 ひぃってなんだよ、ひぃっって。私は信用ならんのか、ええ? 

 ギロリとユーガをにらんで、ユーガが怯えて、トラムが苦笑する。


 「ヒメさん、そこらへんにしてやって…」


 そう、言いかけたときだった。


 それはほんとうに前触れのない。唐突なことだった。

 

 掌がチリッと痛み嫌な予感に顔をあげれば、私の頭上にはぽわ~んとした異空間的な穴!

 そしてその穴から落ちてきた引き締まった男の尻!

 それを避ける時間を与えられなかった哀れな私!



 ドスッ



 「ぐへぇあっ」

 「いたた。クラウスさん、成功しましたよ~」


 はい。もうお判りいただけたでしょうね。現在リディアちゃんの背中の上には突然降ってきたなにか…おそらく人がのっています。


 顔面を床にぶつけるよね。身動き取れないよね。なんで急に土下座の最上級的なやつをやるはめになったんだよって感じだよね!?

 つーか重い!そして痛い!


 「ヒメ、大丈夫か!」

 「何奴!」

 「うちのヒメさんになにしてくれとんじゃぁ!」

 「包囲しろ!」

 「迎えがおせーんだよ」

 「探しましたよ、エル、アイ。…あれ?また神の力とやらの妨害ですかね。クラウスさんと連絡がつかない。まあ空間移動が成功しただけよしとしますか。リディア、どこですか?」

 「お前の尻の下だよ」


 ガヤガヤわいわいとうるさい。みんなそれぞれ思い思いにしゃべってるから誰が何を言っているか聞こえないのだ。

 が、とりあえず!

 


 「誰か私を助けろや!?」






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