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82.彼は知らない。自分の首が絞められていることを。

今回の話では3章スタートしたときにギルが泣くフラグが立ちます。

ついでにアルトたち王子にも風評被害を受けるフラグが立ちます。



 ただいま私の脳内ではやばいよ警報&サイレンが鳴り響いています。

 なぜって?今しがたギルが私に服を脱げと申してきたからです。

 まさかギルが私の12歳にしては育っている胸を筆頭とした身体を狙っていただなんて。


 「……ギルが変態に。精神的ダメージがすごい」

 「あ、勘違いしないでください。別にあなたの裸が見たいわけではないですから」


 ギルのあっけからんとした声に私はずっこけた。


 「じゃあどうして服を脱げだなんて言うのよ!?」

 「ヒメのふりをするかわいい馬鹿は1人で十分なんです。それにあなたは…彼女と言動が似ているので、錯覚しそうになります。今おれと対面して話しているのはあの人なんじゃないかって」


 話していくうちにギルの頬はどんどん桃色になっていく。目も口調もとてもやさしくなっている。さきほどまでの私に対する態度とは大違い。悲しくなるくらいに違いますよ!

 ですがリディアちゃん、怒りません。だって悟っちゃいましたから。


 「むふ。ギルってば恋をしているのね。私に似ているその人のことが好きなんだね~!」


 友達同士でする話と言えば恋バナ!

 私は恋愛したことないので話を提供することはできない!だからギルの恋愛話を聞いて友人として距離を縮めて行こう。

 ギルはきっと頬を桃色にして「ち、違いますよぅ!」とか言うに違いない!そして次第に「ヒメおねえちゃん」と私を慕い恋愛相談に乗ってほしいと言い始めるに違いない!ギルなら大歓迎だ!なんならジークは破門にしよう!


 だが私の予想は外れる。


 「不愉快です。馴れ馴れしく話しかけないでください」

 「ぐはっ。え、私たち、友達だよね?馴れ馴れしく話しかけてもいいよね?」

 「友人だからこそ気を遣ってください」


 桃色どころじゃないよ。私を殺さんばかりの眼差しだよ。

 冷たい目が容赦なく心に突き刺さる。


 おかしいな。友人という言葉をダシにどんどん心の距離を遠ざけられている気がする。これが俗に言う反抗期というやつなのか。こんな目で見られないために友達になったのに。あれ?むしろ友達になってからの方が精神的ダメージを負っている…?


 気が付きたくはなかった事実に私は吐血する。ぐはぁっ。


 「いやなんですかその口から血が出ているよポーズ。出てませんから。よだれしか出てませんからね。ていうか早く服を脱いでください」

 「あのぉ服を脱ぐのはちょっとダメでしてぇ」

 「なぜですか?」


 い、言えない。

 ヒメの服を脱いだらリディアだってばれるからとは言えないっ。


 「うーあー、えーっと」

 「わかりました」

 「ギル~ただいま~」

 「ミルク。この人の服を脱がせて。もうお前の怪力で服を破いちゃっていいから」

 「りょうかーい」

 「ギ、ギルぅぅぅ!?」


 ミルクが部屋に入ってきた途端、おっそろしいこと言いましたよギル君!


 「はいはい、破くにははさみが必要だからねぇ~。私は怪力を無駄には使わないの~。だからおねーさんは私と一緒にはさみを取りに行きましょうね~」

 

 私はミルクに引きずられてギルの部屋を出た。


 服を破かれる=リディアだとバレる可能性大!なので私は逃げようとするが…くっ。逃げられない。

 ミルクが私を痛めつけない程度に、だがしかし振り切れない力で腕を掴むので、私は逃げることができないのだ。ミルクが怪力をコントロールしているということに感動だけれども、それとこれとは話が違うんだよ!


 どうしようぅぅ。



/////////☆


 「さてと、ここまで来たら大丈夫だよ」

 「えっとミルク?」


 ミルクに引きずられて数分後。

 私はギルの書斎と反対側に位置する部屋の中にいた。

 状況がつかめない私を見てミルクはにこ~っと笑う。


 「安心していいよー。私、おねーさんの服脱がせたりしないから」

 「ミ、ミルク!」


 あの甘えん坊の自分第一優先だったミルクが人を気遣えるようになっているっ!

 リディアちゃん、感動で泣きそうです。

 私をこの部屋に連れてきたのも、私の服を脱がそうとするギルから私を遠ざけるためだったのだそうだ。ミ、ミルクぅ。


 「ギルがピリピリしちゃってごめんね~。ちょっと今ギルにとって大変な時期でさぁ…って、え、え?おねーさん泣いてる?」

 「うん、ごめん。ちょっと涙腺がもろくなっちゃって」

 「ギルが怖かったんだね。おねーさんもその服を脱げない事情があっただろうに。ギルがわからずやでごめんね~。ダンデライオン号と合流するまでの間、ギルとおねーさんが鉢合わせないように私が全力でサポートするから安心して。だから、さ。私に免じてギルのこと許してくれない?」


 ミルク、またしても気を遣うっ!

 涙が止まりません!


 「うぅぅ。よかった。うれしい」

 「もーギルってば、おねーさんをこんなに泣かせて。王子様以外の女性の扱いがひどいっていっつも言ってるのにぃ」


 私はミルクの成長に感動して泣いているのだが、ミルクはギルが怖くて私が泣いていると思っているようだ。勘違いを正した方がいいような気もするが、まあいいだろう。


 「そういえばさっき今ギルが大変な時期だって言ってたけど、そんなときに海賊を追ってていて大丈夫なの?」


 涙もおさまったところで疑問に思ったことを聞けば、ミルクがあちゃーと自分の額を手で押さえた。


 「おねーさんその話聞かなかったことにしてくれなぁい?」


 どうやら言ってはいけないことだったらしい。

 

 「それは別にいいんだけど。ほんとにギルは大丈夫なの?」


 思い返せばギルの顔色は再会したときからずっと悪かったように思う。

 ちゃんと眠れているのだろうか。おねえちゃん心配です。

 私の眠り薬をプレゼントしようか?いやそれよりも回復薬?ギルの体調を考え悩む私を見てミルクは心の底から嬉しそうに笑った。


 「…おねーさんは本当にギルのことを心配してくれてるんだね。そういうの久しぶりに見た。やっぱりおねーさんは王子様に似てるなぁ」

 「え?」

 「私たちが生きる世界は、打算とか足の引っ張り合いの世界だからさ。…うん、ギルは大丈夫だよ。ギルはちょっとした目的のためにお父さんに自分の実力を認めてもらわなくちゃいけなくて、だから忙しくて大変なの」

 「お父さんに認めて…もらう?」


 その言葉に不安を抱くのは私がギルとギルのお父さんの関係がよくないことを知っているからだ。


 「いつ君」において、ギルルートのハッピーエンドを迎えても、お父さんとの仲は修復しない。2人の間には溝があり続ける。ギルの父はギルを憎み続ける。

 だというのにそんな父親に認めてもらおうとギルは動いている。なんの目的のために動いているのか気になる。


 「興味津々って顔だね」

 「そ、そりゃあ。まあ気になるよ」


 かわいい弟みたいに思っている子のことですからね。

 ミルクは思案するように私をじぃっと見て、にかっと笑った。


 「おねーさんは王子様に似てるし、うん。いいよ。特別に教えてあげる~」


 ギルの護衛としてそれでいいのか!とリディアちゃんは思いますが、それはそれ、これはこれ。ギルの目的を知りたかった私は普通に喜ぶよね!


 「わーい!ミルク大好き~」

 「えへへ~。私もおねーさんのこと好き~。てなわけで、ギルの目的なんだけど…」


 小さくなるミルクの声にごくりと生唾を飲み込む。


 「ギルはね好きな人との結婚をお父さん…というか王様に認めてもらうために、今頑張っているの」

 「え!好きな人!」


 小声で私たちは「きゃー!」と盛り上がる。

 好きな人!ギルに好きな人だって!!その人ってさ、ギルがさっき言っていた私に似ているらしい「あの人」なんじゃないの~!?

 すごいわくわくしてきた!


 「ギルの好きな人って誰~っ!?やっぱり他国のお姫様?それとも貴族のお嬢さん?」

 

 問えばミルクは少し困り顔。

 あ、やば。盛り上がりすぎてミルクの立場を考えていなかった。さすがにギルの好きな人をばらすのは友人としても護衛としてもアウトだよね。


 「ミルク、今のは聞かなかったことにしてください」

 「ごめんね、おねーさん。気遣ってくれてありがとぉ。ほんとおねーさんに見せてあげたいくらい素敵な人なんだよ、ギルの好きな人は。まあ今その人は行方不明なんだけどね」

 「そりゃあギルの選んだ人ですもの素敵な人に決まって…て、ええぇ。ギルの好きな人行方不明なの?ギル、かわいそう」


 行方不明ってことは安否もわからないということではないか。

 あのギルにせっかく好きな人ができたのに。…もしかしてギルが言っていた「私も探している人がいるんですよ」ってその好きな人のことだったのではないだろうか。そういえば声が少し寂しそうだった。


 反省だ。

 私自分のことでいっぱいいっぱいでギルの悲しい気持ちに気づけなかった。あのときもう少し話を聞いてあげればよかった。


 しょんぼりと暗い顔で落ち込む私を見てミルクは慌てた。


 「だ、大丈夫だよ!おねーさん、顔をあげて!王子さ…ギルの好きな人はね、そのなんていうか、ものすごく頑丈だし格好良いし強いの!だから絶対に生きてる!ギルと王子様は絶対に再会できるの!」

 「ミルク…」


 ミルクの力説に私の瞳は潤む。

 だけどこれは感動の潤みではない。困惑の潤みだ。



 どうしよう。ギルにホモ疑惑が浮上し始めたぞ。



 ツーっと嫌な汗が頬を伝う。

 だって頑丈で格好良くて強いんでしょ。歴戦の筋骨隆々な戦士の姿しか思い浮かばない。

 ああでもミルクさっきから「王子様」を連呼しているから、筋骨隆々武闘派な王子様だろうか。

 加えて現在行方不明の情報とお父さんに認めてもらう等の情報だ。

 うん、ギルの好きな人、戦争で消息不明の筋骨隆々武闘派王子しか思い浮かばない。


 「ギ、ギルとその人は両想いなんだよね?それなら…」

 「うぅん。ギルの片思いだよ~。告白すらしていないよ~」

 「え。片思いなのに王様に結婚認めてもらおうとしているの?」

 「うん!」


 リディアちゃん顔がひきつります。そうか。片思いか。片思いだけど結婚する気なのか、ギル。いやたぶんこれはあれだ。想いは伝え合っていないけど両想い確定的なやつなのだろう。


 「王子様がギルと結婚してくれたらいいのになぁ。ギルのお嫁さんになってくれたら、私毎日王子様に会えるのに~」

 「ミルクは王子様のこと大好きなんだね」

 「うん!大好きぃ~!」


 ミルクの笑顔を見ていたらなんだかほほえましい気持ちになる。ミルクは恋愛的な意味ではなくギルの想い人である王子様のことを好きなのだなとわかるから……あれ?

 そこで私はある可能性に気が付いた。


 今まで失念していたが、王子様って…王子様のことだよね。えーっと、リディアちゃんはね、王子様と言われて脳裏に浮かぶ顔があるのですよ。アルト、ソラ、ジーク、リカ、ついでにエリック……。

 まさか5人のうちの誰かが好きとか言わないよね!?

 

 リディアちゃん青ざめます。

 いや、ないない。だってみんなが戦争で行方不明だなんて話聞いてないし。いつ君にもそんなストーリーなかったし。いやだけど…


 「お、教えてくれてありがとう、ミルク。私もギルが好きな人と再会して結婚できるように願っているね」

 「ありがとうおねーさん!」


 ミルクは笑顔で手を振りながら部屋を出て行った。

 扉が閉まったところで私はふらふらと揺れながらバルコニーに出た。そして明るくなりかけている夜空を眺める。

 ちょっと、いやかなり精神的に疲れたが、空に浮かぶ月はきれいだ。



 「……ギル、リディアおねえちゃんさ、ちょっとびっくりしちゃったけど。でも好きになった相手に男も女も関係ないと思うからさ、あなたの恋を全力で応援します」



 輝く月を見上げうなずく。

 そう。たとえそれが私の知り合いの王子だとしても、お、応援します。


 私はまた一つ、かわいい弟の成長に感動の涙を浮かべたのであった。


 「っていうか寒い!薄着で外出るもんじゃないわね、こりゃ」


 でもってすぐに部屋に戻った。

 だってめっちゃ寒いんだもん!凍死するよ!凍え死ぬよ!

 まあ凍死するような服を着ている私が悪いんですけどね!?







~リディアが勘違いをしたミルクの言葉の補足説明~


「だ、大丈夫だよ!おねーさん、顔をあげて!王子さ…ギルの好きな人はね、そのなんていうか、【ものすごく頑丈】だし【格好良い】し【強い】の!だから絶対に生きてる!ギルと王子様は絶対に再会できるの!」



 ・ものすごく頑丈

→ドッチボールのボールを顔面で受けてもへっちゃら。階段から落ちても無傷(無傷なのはアオ兄ちゃんがキャッチしたからだけど、そのことをミルクは忘れている)


 ・恰好いいし

→ミルクの大好きな絵本の王子様にそっくり。

 

 ・強い

→ギルとミルクに襲い掛かった蛇(動物の方の蛇です)から2人を守るべくその身を盾にした。(蛇の攻撃が当たる前にルーが蛇を食べたから実質リディアはなにもしていないけど、ミルクはそれを知らない)



 本人の知らぬところで疑惑が積み重ねられていく、そしてリディアに「もしかしてギルの好きな人って、私!?」とか「ギルに好きな人が…。なんか胸がもやもやする」とか微塵にも思われないという、そんなかわいそうなギルでした。

 


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