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81.彼は知らない。自分の首を絞めていることを。



 私はふわふわあたたかな空間にいた。

 暖房の効いたあったかい部屋で、ふわふわのタオルに包まれている。そんな空間。


 懐かしいかわいい声が聞こえた。


 「ミルク、その人の服早く脱がせて」

 「今やってるじゃん!」

 「今じゃなくてずっとやってるの間違いだろ。どれだけ時間をかけて脱がせるつもりだよ」

 「だ、だってこの服の構造全然わかんないんだもん!私こんな服着たことないし!文句言うならギルが脱がせてよ!」

 「やだ。リディア以外の女性の服は脱がさないって決めてるから」

 「…まるで脱がせたことがあるような言い方。だけどギルは王子様の服を脱がせたことなんてただの一度だってないのであーる。ぷーっ。ギルってばかっわいそ~。私は王子様と一緒にお風呂に入ったときに服を脱がせたことあるもんねーっだ」

 「はあ!?そんなの聞いてないよ!」

 「だって言ってないもーん」


 ……かわいい声達は、なにやら物騒な会話をしているけれど。どうせ私には関係ないことだと判断させていただきまして、はい。スルーします。

 

 「ていうかミルク、さっさとその人の服脱がせてよ。ただでさえリディアに似てるっていうのに、そんないかにもリディアの短慮な行動を具現化しましたみたいな服を着られたら…おれ、ほんと困る」

 「ギル…。王子様以外に欲情するなんて、ギルが王子様に向ける愛はその程度だったのね。ぷふふーっ」

 「はあ!?違うから。この人、ものっすごくリディアに似てるけど、別人だっておれちゃんとわかってるから!違うからな!」

 「そんな必死になっちゃってますます怪しい~」

 「ミルク邪魔。おれがこの人の服脱がせるから着替え持ってきて」

 「襲ったらだめだよ~?」

 「リディア以外の人をおれが襲うわけないだろ!」

 

 かわいい声たちが物騒なことを言いまくっている。

 あの…リディアって人逃げてください。あなたの貞操狙われてますよ。

 

 あたたかくてふわふわとした空間なのになぜか冷や汗が出てくる。

 ぶるりと体を震わせたとき、扉が閉まる音と誰かが私に近づく音が聞こえた。


 「ていうかミルクはなんでこの人の仮面を先に外さないんだよ。綺麗な顔だろうに霜焼けになって痕でも残ったらかわいそうじゃん」


 そして近づいたその気配は私の目元に一点集中し……。

 そのときにカッと私は覚醒した。

 仮面を取られる。つまり、バレる!?


 「どわわわ!ちょ、ストップ!」

 「わっ!」

 

 本能で目覚めた私が急いで後退れば、さきほどまで目の前にあった顔は驚きにその琥珀色の瞳を丸くする。

 ええ、ギル君です。ギル君が私の目の前にいました。え、今どういう状況?


 「その様子だと体に異常はなさそうですね。よかったです」

 「は、はぃ。元気有り余ってますぅ」


 ギルが私に微笑むので私もつられて笑う。が、

 あれー?なんか物騒な夢を見ていた気がするんだけど肝心の内容が思い出せないぞ~?

 私の笑顔はひきつる。なんか私の貞操に関わる夢を見ていた気がしたのだが……うん。思い出せないのならば仕方がない。あきらめよう。

 ていうかほんとなんで目の前にギルがいるわけ?ここどこ?


 気持ちを切り替え辺りを見回せば私が現在いるこの場は書斎のようだった。

 たくさんの本の入った本棚と書類が積み重ねられた机。見るからに高級そうな椅子。小さなテーブル。暖炉とふかふかのカーペット。落ち着いた茶色の空間だ。


 「なんで私こんなところに…」

 

 私の身を包むふかふかの白いタオルをぎゅっと抱きしめながらつぶやけば、ギルが目を瞬かせた。


 「覚えていらっしゃらないのですか?ヒメさんは私たちを救うべくブラッド海賊団の魔法使いに魔法を放ち、その反動で海へと転落。救出されて今私たちの船にいるのですよ」

 

 言われて思い出した。

 そうだ。太陽神様がサービスなんかするから魔法に勢いが付きすぎて、反動で私は海に落ちたのだ。

 …まあ太陽神様のサービスがなかったら鳥を驚かせるのが失敗していた可能性もあるわけだから海に落ちたことは許すけど。私もみんなも生きているし。


 「って、ギル!?頭下げてなにしてるの!?」

 

 考えていたらギルが私に対して膝をつき頭を下げていたのでリディアちゃんびっくりだ!

 急いで顔をあげさせようと手を伸ばすがギルに拒否される。


 「感謝を申し上げます、ヒメ。我々はあなたの勇気ある行動のおかげで今こうして生きています。感謝してもしきれません。あなたの願いをお聞かせください。感謝の印にあなたの願いを叶えます。あ、申し訳ないのですが私を夫に望むという願いだけは叶えられなくて…」


 急な展開にリディアちゃん、ガチで困ります。

 ちなみに何を警戒しているのか知りませんけど、ギルを夫に望むなんてことは絶対にありえませんから。どうして自ら死亡フラグに飛び込まなければならないんだ。


 「別にお礼とかいらないから!お礼を言われるようなことは…したけど!したけども、別に気にしないでほしいというか。ギルだって海に落ちた私を助けてくれたわけだし。おあいこということで、ね?」

 

 はいこれで話しおしまーい!と私は切り上げたつもりだったのだが、ギルは首を横に振る。縦に振ってほしかった。


 「あなたを救ったのは私ではありません。もちろん私の部下も違います」

 「へ?」

 「あなたは我々の船の甲板に倒れていたのです。極寒の中真っ青な顔で体を震えさせていたので急いで一番温かい私の部屋へと運んだしだいです」

 「…私を助けてくれた人は?」

 「わかりません。なにせ甲板にはあなた1人しかいませんでしたから」

 

 え、えぇー。こわー。いや助けてくれてありがとうって感じだけどさ。

 乙女ゲームの世界で人魚姫の王子様的体験をしてしまった。私の顔はひきつる。

 

 …そういえば、海に落ちる直前に誰かの声が聞こえた気がしたのだった。


 「誰だっけ?」

 「誰か探し人でもいるのですか?助けてくれたお礼に我々が見つけますよ」

 「え、いやいや、これは違うのでございます~。ほほほ~」


 無意識のうちにつぶやいていたのに、これを聞き逃さないとは。ギルめ恐ろしい子。

 私が内心冷や汗をかいていることを知ってか知らずかギルはにこりと笑う。

 

 「おれもずっと探している人がいるんです。どこに隠れているのやら隠されているのやら、全く見つからないんですよ。だから探し人が見つからなくて焦るヒメさんの気持ちはものすごくわかります」

 「いや~ハハハ。ギル君勘違いしているよ。私誰のことも探してないからね?」

 「いいえ。あなたは誰かを探しています。もうそういうことにしてください。我々にあなたの願いを叶えさせてください。借りをつくりっぱなしは立場的に嫌なんです」

 

 笑うギルの目は笑っていない。

 最近みんな笑顔がアルト化している気がする~なんて冗談は言えない雰囲気だ。だってギル君超ドストレートに切り込んできましたからね。

 なにがなんでも私の願いを叶えさせて貸し借りを無しにしたいんですね!


 「じゃ、じゃあ。エルたちに会いたいんですけど」

 「無理です。あなたの助言通り我々は退却しました。一方でダンデライオン号は我々とは反対方向に退却しました。合流するには早くてもあと10時間はかかります。違う願いをお願いします」

 「ぐ、ぐふっ」


 やっぱり目の笑っていない笑顔にリディアちゃん吐血します。

 今まで「リディアおねえちゃ~ん」とギルがかわいらしく甘えてきてくれたものだからダメージが半端ない。この目の笑っていない笑顔、殺傷力がでかいよ。

 アルトだったら慣れてるから平気なのにっ。


 ギルから目には見えない壁を感じ……

 そこで私はひらめいた。


 「え、えーっとじゃあ。ギル、私の友達になってください!これが私の願いごと!」

 「……はぁ?」


 ギルの反応に私のガラスのハートはごりごりとのこぎりで削られていくけれど、が、頑張れ私!

 私の作戦はこうだ。ギルの目の笑っていない笑顔に心が傷つく。ならば友達になってしまおう!友達になれば目も笑ってくれるに違いない。壁が取り払われるに違いない!リディアおねえちゃんならぬ、ヒメおねえちゃんと甘えてくれるかもしれない!リディアちゃんはかわいい弟に飢えている!

 そう考えた私は浅はかでした。


 「わかりました。おれたちは今日から友達です。ヒメ」

 「ギ、ギル!」


 友達になったはずなのにやっぱり目の笑っていない笑顔のギルは続けて言いました。


 「友達ならおれのお願い聞いてくれますよね」

 「もちろん!」

 「その服脱いでください」

 「……。」

 

 あー…メーデーメーデー……あ~っと、アオ兄ちゃん!報告です。

 私のかわいいギルが変態になりました。





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