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80.私は可能性を秘めた女。だがしかし泳げない。



 いや、出会ったという表現はおかしいのかもしれない。だって私が彼の姿を見たのは一瞬だったし。

 こんなときだというのに冷静に分析する私。

 そんな私を守るように抱きしめる人物がいた。


 「くっそ~。巻き込んで悪かったな、ヒメ。安心しろ。俺が守ってやるから」


 トラムだ。

 彼は初めて会ったときと変わらない顔で私に笑いかける。

 でも私は気づいている。

 彼の体がわずかに震えていることを。その顔が青ざめていることを。死にたくないって思っていることを。


 そして、



 私がこの絶体絶命の状況を打破できる可能性を秘めていることを。



 私はにかっとトラムに笑いかけると、思いっきりその脛を蹴り上げた。驚きか、はたまた痛みからか、私を抱きしめていた手がゆるんだのを見逃さず、私はトラムの腕の中から抜け出した。

 でもって見張り台を目指して梯子を登り始める。


 「い゛っ!?ヒ、ヒメ!?」


 トラムがなにか言っているが無視だ、無視!

 ですが無視できない声もあるというもので。


 『え~。リディアなにをするつもりぃ~?太陽神様気になるぅ~』

 「うっざー」

 『ひど~い』


 こんなときだっていうのに頭の中で太陽神様が煩いからしぶしぶ相手をする。


 「鳥仮…めんどうだからもう鳥でいいや!鳥が今作ってるバカでかい魔法を止める方法を思い出したの!それを成功させるためにはできるだけ高いところに行きたくて。だから見張り台を目指してるのよ!」

 『ほぉ~』


 ほんとうについ先ほど、トラムに抱きしめらていたときに思い出したのだ。

 3年くらい前の話なんだけど、エルがバカでかい魔法を創る練習をしていたことがあったのだ。そのときの私は機嫌が悪くてむしゃくしゃしていて、なんか八つ当たりしたくて、エルの魔法があともう少しで完成!ってところで耳元で「わ!」と大きな声を出したのだ。当然エルは驚いた。そんな彼の影響を受けてか魔法は霧散した。


 そう。もう少しで完成だった大きな魔法は跡形もなく消えたのだ!

 …ちなみにその後私はエルにこってり叱られた。悲しい思い出だ。


 「つまり!鳥を驚かせれば魔法を食い止められるかもしれないのよ!」

 『そんなにうまくいくかのぉ~』

 「うまくいくかな?じゃなくて、成功させなきゃやばいんだって!」


 太陽神様にキレたと同時に私は見張り台に到着した。


 鳥との距離はやはり遠い、縮まらない。こんなに高いところまで上がったっていうのに。感じるのはどこか冷たさを感じる熱気だけ。

 そのことに私はなぜか悲しみを覚えて……


 「うわぁああ!危ない!またマザーのときのやつに侵略されるところだった!」


 しっかりしろ自分!

 私は両手で頬を叩く。そして自分を鼓舞するように今着ているヒメの服を見る。

 っよし!

 今回ばかりはアイが作ってくれたこの服とアリスが作ってくれた光魔法に感謝だ。


 脳内で太陽神様の楽しそうな笑い声が聞こえてうざさ極まるが、無視!無視しますよ!


 さて。私が使える光魔法は全部で5つだ。

 その5つの中で、鳥がいる場所まで届いてなおかつ驚かすことができる。これに該当する魔法は1つしかない。



 私の脳内でアリスが言う。


 『まずはその場に立ち止まって、敵と向かい合って!』

 私は体を鳥の方へと向ける。 


 『手は拳銃のポーズ!』

 自分の手を拳銃のポーズの形にして、


 『その手のまま腕を上まで持ち上げて!』

 腕を上まで持ち上げる。


 『二の腕が耳にくっつくくらい上げて!』

 二の腕が耳にくっつくくらいまであげて、


 『決め言葉よ!』

 決め台詞を言う!




 『みーんなヒメの虜になぁれ!

 浄化せよ(ピュリフィケーション)光の蝶(・マリポッサ)!』




 そして鳥に向かって銃を撃つ!

 

 瞬間、


 

 バーンッッッ


 

 どでかい発砲音と、これまでのものとは比べ物にならないくらいの金色の光を纏った光の蝶が、鳥に向かって一直線に飛んでいった。これは、私だけの力ではない。

 

 『リディアがかっこよかったからちょっとだけサービスじゃぞ☆』


 脳内で太陽神様への好感度がわずかに上がる言葉が聞こえたのは気のせいではないだろう。

 

 光の速さは音をも超える。

 光の蝶は鳥に向かって一瞬で飛んで行き、そして私の狙い通り、突然現れた光の蝶に鳥は動揺し、それを放ったのがか弱い美少女であること気が付いた鳥はさらに動揺したのか体が揺れた。

 と同時に、空を覆っていた恐ろしい太陽もかき消えた。


 明るかった空が真っ暗な闇色に戻る。


 下からトラムの歓声が聞こえる。無事でよかった。私は胸をなでおろす。

 が、ほっとしたのもつかの間だった。

 今更ながら大きな魔法を使った反動が来たようだ。


 銃は撃ったときの反動がすごいという話を私は前世で聞いたことがあった。

 それを今まさに私は体感している。

 

 何の前触れもなく体が後方へと吹っ飛んだのだ。


 「~~~っ!」


 首がもげそうなほどの風圧を感じるが、それよりも距離だ。吹っ飛ぶ距離の長いことといったらもう半端ない。ダンデライオン号の上を悠々に通過してブラッド海賊団の海賊船も超えて、だけど海洋軍船までは越えられなくて。

 

 結果私は海賊船と海洋軍船の間の海へと真っ逆さまに墜落。


 「~っもう!くそぉぉおお!」


 本能だったに違いない。

 私はとっさにポシェットから豚のお守り人形を取り出し海賊船に投げ入れた。

 

 あとはもうなにもしない。ていうかできることない。体が動かない。

 ああ、待ってできることはあったわ。海に落ちたときの泳ぐシュミレーションをしておこう。だけどそこで私は自分が泳げないことを思い出して絶望。


 そのときだ。

 なぜか私の視界に入った人物がいた。

 それは黒衣のマントに身を包んだ猫の仮面の少女だった。


 その少女はブラッド海賊団の見張り台に立っていた。

 マントのフードを目深くかぶっているし猫の仮面をつけているため顔は見えない。が、耳と腕で輝く黒い石は見えた。ピアスとネックレス。



 『結界を張っておいたのにどうして外にっ。破られたことに気づかなか……ッ鳥!?ちょ、あなた、なんで急降下してっ!?』



 なぜかはわからないが猫の仮面の少女は私を見て動揺して、空を見てさらに動揺して……



 ドボォンッ



 気が付いたら私は海の中に落ちていた。


 冷たい海水が体温を奪う。それはまるで鋭い針が体を突き刺すようで。体を蝕む冷たさに指一本すら動かせない。

 息が、苦しい。

 口から出る泡は上へ上へと上がっていくのに、私の体は沈む一方だ。


 やばい。もしかして私、ここで死ぬのか……?
































 ドボォンッ



 海に落ちる直前に「リディアッ!」と私を呼ぶアルトの声が聞こえた気がした。でもアルトがここにいるわけがないから、うん。きっとこれは私が作り出した幻聴だ。




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